リレー小説5
<Rel5.ユリアン1>

 

 

  ネオス日本共和国、秋葉原隔離区

 

「何が楽しかったって、頗る楽しかったさ。
 あの変態ショタコン師匠の日常を蹂躙してオリュンポスから追い出してやった…
 …って思ってたのに何これ?」

三々五々の塊となって行き交う隔離区住人達の中、
髪を紫に染めた美青年が一人ガードレールに腰掛け、
右手に持った携帯端末相手に声を荒げていた。
黒いサングラスに双眸こそ遮られているものの、整った鼻立ちは隠しようもなく、
アイドルグループでも通用する甘いマスクを見る者達に想像させる…
そんな美青年ことユリアン・シュヴァルツフェーゲル…通称『八咫烏』の通話相手は、
白き翼『七大罪』の主席にして総帥補佐官室長リツィエルだ。
≪秋葉原隔離区…住人は解放区と呼んでいるがな。
 『八咫烏』、お前から得た仙人カイト・シルヴィスのデータを分析して行動予想した結果、
 其処に潜伏している可能性が高いとされてな、
 周辺調査でも足取りが確認された為、徒労になる心配だけは無いぞ。喜べ≫

「喜べるか!
 俺がアイツの下でどんな生活してたと…!」

カイト・シルヴィスの嗜好から予測する行き先。
欲望を満たせそうなものがあり、平和ボケしていて、身を守るに適した場所…
=ネオス日本共和国の秋葉原隔離区。
こんな因果を含められても困るのだが、其れで足取りを確認されてるのだから仕様もない。

「あンの野郎、全然変わってねぇ!?
 ってか趣味優先し過ぎだろ!」

しかも妙に客層が偏っているように見えた。
男が多く、内大半がコスプレ中…其れだけなら秋葉原隔離区の日常風景なのだが、
…少年キャラだの女装者の割合が異常だ。

P-RANE社という『そっち系』の会社が影響力を強めていてな。
 今、ちょっとした流行だそうだ≫

「ぽらね?
 ……其の会社、倒産に追い込もうぜ」

≪冗談は兎も角として、
 其処にカイト・シルヴィスが潜伏しているのは間違いない。
 お前、確か『俺が直々に苦しめてやる』とか息巻いてたよな?
 目立たない範囲で自由にして良いが、
 近い内に『討伐隊』が編成されるから、そいつらの到着まで待つんだ。
 ターゲットを発見しても先走った真似だけはするなよ≫

「そんな考え無しだったら、
 わざわざアンタらに取り入ったりはしねぇさ」
堂々と姿を現し「俺の新たな力を見せてやる!」などとドヤ顔キメてる間に、
脳天から股間を走る正中線が矢状(サジタル)面切断ンン〜…となるに決まっている。
徒手空拳では、気付かれずに近寄る事さえ至難の業。
其の気になれば隔離区中の人間を瞬時に把握できるのかも知れないという底知れぬ相手だ。
ユリアンがカイトの弟子であった頃に習った技術の中に、対読心や気配を消す技術もある事はあるが、
相手が相手だ。通用しないものと考えた方が寧ろ逆に安心できる。
白き翼が用意したミスリルコートは、ユリアンの魔力を極限まで隠蔽するが、
さすがに気配だの殺気だのを消せるような代物ではない。この辺りは我慢が必要だ。
「…」
つくづく恐ろしい巨人に宣戦布告などしたものだと考えるが、
ユリアンに後悔の色などはなく、恐怖以上の期待に打ち震えており、
一筋の汗を伝う顔に不敵な笑みが張り付いていた。
…背景が百貫デブの女装ならぬ汚装集団という、シリアスな空気を激しく損なうものだという事は、背を向けたユリアンが知る由もなし。
執筆者…is-lies
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