リレー小説5
<Rel5.第三次世界大戦2>

 

 

  S-TA、セントラル州、
  首都エルダーシング・シティー、大統領府

 

南極大陸を横断する狂気山脈の頂上、
遺跡都市を再利用したS-TA首都の大統領府にS-TAの首脳が集結していた。
特別な位を示す右側8つの席に着席しているのは5人。空席3つ。
左側の7つの席に着席しているのは4人。空席3つ。
出席者の背後にそれぞれ護衛のように付き添う男女が数名、
そして中央…左右全ての席を眺められる所に座するは、
身長4m程の赤い髪の巨漢…てゆーかバケモン、
S-TA首相、覇王『アデル』。

「ゼノキラ将軍、報告を。
 …どうやらこれが最後の会議になりそうだな」

右席に座する軍服の少女が畏まったように起立する。
S-TA右将軍、『ゼノキラ』。

「本日19:00、プラスロウザ将軍の戦死とほぼ同時にインゼル・ゼクスハウザー基地が消失し、
 非能力者軍に地下施設を制圧されるに至りました。
 転送リングは此方からも転送許可を出さなければ使えず、大結界の部分解除も必要となるので、
 直ちにS-TAへ非能力者軍が攻め込んで来る心配はありませんが、
 貴重な攻撃拠点を奪われてしまったのは非常に大きな痛手と言わざるを得ません」

ゼノキラの言葉に続き、彼女の席の後ろに控えた老婆が口を開く。
ゼノキラの腹心、『九十九神ヨネ子』。

「プラスロウザ様は新たな八姉妹になられたばかりとはいえ卓越した力を持つ御方、
 此度の件は、敵英雄…ゼロめらの力を素直に認めるべきかと」

老婆の言葉に異論を挟む者は居ない。
9年程続いているこの戦争に於いてゼロ達、英雄の活躍が占める箇所は非常に大きい。
戦争の流れを変えた獣人の投入に次ぐ程の戦果を数人で出し、
遂にはS-TAの剣である猛将プラスロウザを討ち取ってしまった。

ゼノキラの隣の席に座るツインテールの女は、
対する左席の中年男に軽く睨みながら言う。
S-TA研究所主任、白薔薇の女王『マチルダ・レム・ホワイトローズ』。

「バルハトロス、アンタ達マハコラの失敗のツケがこっちに来たのよ。
 幾ら英国を葬ったとはいえ、犠牲があまりにも多過ぎたわー」

左席の、眼の下にクマを作っている中年男が忌々しそうに顔を歪めた。
マハコラ・バイオ研究所長、『バルハトロス・レスター』

「ちっ、前支配者の制御さえ巧くいっていれば…」

バルハトロスの所属するS-TA最大の後援組織マハコラは、
S-TAに対する支援の一環と称して非能力者側である英国への攻撃を展開していた。
超古代の魔王『前支配者』を不完全ながらも復活させ、其の恐るべき力で英国を一蹴した。
だが前支配者はバルハトロスらの意思に反し、エネルギーが尽きるまで暴走を続け、
結局全ての力を使い切って再び眠りにつくまでS-TA側の勢力も巻き添えにして屍の山を作り上げ、
英国其の物も壊滅に追いやってしまったのだ。
英国壊滅は、やり過ぎだった。
力を見せつけ威圧する目的だったというのに、
中枢を潰した為、末端の混乱と暴走を招き、降伏すら得られない状態となった。
ならばと前支配者を恐怖のシンボルとして他国の威圧に利用しようとする間も無く、
前支配者はエネルギーを使いきって消え去ってしまった。
そして恐怖に駆られた新生国連軍は再度の前支配者投下を危惧し攻勢を強め、
其れに合わせて非能力者側も過激派のプラスロウザが力を増し、戦争を苛烈なものとしていった。

「やはりワシのJHN作戦を待つべきだった。
 本田グループが手中に落ちるのも時間の問題だというのに先走るから…」

左席の大将格である軍服の男、S-TA左将軍『宗太郎』の発言に、
今度は右席の赤い瞳をした金髪の少女、S-TA将軍『ミラルカ』が反論する。

「其れでメトディオス如きが流れを乗っ取るのを黙って見てるべきだったとでも?
 人類混乱期で出遅れた結果が、カルナヴァルのあのザマだろうが!
 貴様は経験に学んでろ!私は歴史に学ぶ!」

…まだ組織マハコラが、カルナヴァルと名乗っていた頃、
世界規模の社会不安を一人の男が利用して戦乱の世界を作り上げた。
カルナヴァルは先を越され、乱世の主導権を握るまでに相当手間取り、
結果、大した成果を残せぬままに壊滅の憂き目を見る破目になってしまった。

今回の第三次世界大戦も同じ構図から始まった。

能力者という世界規模の社会不安を、
一人の男メトディオス修道院長が利用して戦乱の世界を作り上げようとした。
このままでは人類混乱期と同じ過ちを犯してしまうと、
彼等…カルナヴァルの後継組織マハコラは急いで舞台へと上がり、
マハコラの理想郷S-TAを建国させ支援、能力者による世界を築くべく動き出した。

「小娘、ワシは開戦の時期については問題視しておらん。
 ワシの作戦が整うまで戦争を激化させず、可能な限り長引かせるべきだったと言っておる。
 長引かせれば長引かせるほどJHNは広まり、我々に有利な状況となっていたのだ」

「生前のプラスロウザも指摘していたが、
 宗太郎さんの作戦はあまりにも気が長過ぎるぞ」

ミラルカの背後に立つ金髪の青年『グレナレフ・オールブラン』の言に、
今度は左席の科学者…S-TA結晶研究所長、マッドサイエンティスト『ゴトリン』が反論する。

「だが急進派に任せた結果が、御覧の有様だよ!」

宗太郎のグループが開発したウイルスJHNを使用した計画は、
ウイルスが敵中枢にまで広がるのを待たねばならず、
プラスロウザら過激派が戦争を加速させた今となっては全く役に立たない。
そして新生国連軍はS-TAの基地を次々と抑えて回り、
S-TAは大結界に篭ったまま兵糧攻めにされる事となる。

「詰んじまいましたな。
 プラスロウザとはいえ所詮一人の能力者。
 戦争全体の趨勢を左右するような存在ではない。前々から言ってた事でしょ?
 どうします?もうS-TAの勝ちはありゃしません」

左席の端に座る、ポンチョを纏った少年『ユニバース』は、覇王アデル相手にドヤ顔で言ってみせる。
右席で気まずそうに縮こまっている女『セシリア』『玲佳』、左席で押し黙っている『ガウィー』と、
全ての出席者を一通り眺めた後、覇王アデルはユニバースの問いに答えた。

「そうだ。
 戦争全体を左右は出来ない。
 だからこそ進退窮まった今、本当に全体の流れを引っ繰り返す力が必要とされる。という事だ」

ユニバースも…他の出席者達もアゼルの言葉の意味が解らなかった。
無知な者は、まだ起死回生の一手が残っているのかと希望を持つが、
知る者は違った。あまりにも恐ろしい地獄絵図を想像して全身を強張らせる。

「非能力者側はまだ『結晶の共鳴現象』を知らないそうではないか。
 …システム・セイフォートを起動させる。
 地下の『アレ』から魔力は補えるし、漏れ出たお零れだけでも充分過ぎる程あろう」

「アデル、何をする気ですか?」

「結晶制御の宇宙ステーション、コロニーを幾つか落下させる。
 ああ、アルファベット兵器を乗っ取ってやるのも良いか」

「其れで脅すとでも?
 そいつは幾らなんでも非能力者達を軽く見過ぎていやしないか?」

「脅す?…見くびって貰っては困るよミラルカ。
 私は開戦時の発言を撤回する積りなど毛頭無い。
 『どちらかが消え去る他に道など無い』という発言はな!」

「無差別攻撃する積もりか!?」
「成程、思い切ったな」
「馬鹿な!有り得んッ!」

戦争は政治が生み出すものだ。
其の目的は常に政治であり、戦争は手段でしかなく決して逆であってはならない。
故に戦争…軍事は常に政治的な見地に従属しなくてはならない。
宇宙ステーションを落とすだの、アルファベット兵器を使うだの、
其れはもはや戦争ではない。ただの大量殺戮に過ぎない。詰まり有り得ない。

「いいや、有り得なくなどない。
 これは人種戦争…否、ミッシングリンクの速やかな体現を履行する為の聖戦だ」

…S-TAも一枚岩ではなく、
非能力者との徹底抗戦を唱えていたプラスロウザ、ミラルカら過激派も居れば、
大結界展開の時点で即刻降伏すべきとした玲佳、セシリア、ガウィーら穏健派、
敗戦後を視野に入れて再起を狙う宗太郎、ユニバースら面従腹背派も居る。

プラスロウザが討ち取られた事で過激派は消滅して穏健派と面従腹背派が残った。
どちらにしても一先ずは新生国連軍に降伏し、可能な限り能力者の為となる交渉を行う事になる。
彼等は正直なところ、良い頃合だと思っていた。
非能力者が能力者に慣れ、其の力を利用しようと思う程度にはアレルギーも無くなった事や、
獣人という使い捨てが出来た事で能力者への風当たりも弱くなった事を確認しているのだ。
プラスロウザにしても半ば見殺しにしたようなもので、
非能力者達を倒せれば其れでよし、倒されてしまったとしても、
戦後に過激派が短気を起さないよう、一足先の処置が出来る…という訳だ。

だが覇王アデルの考えは穏健派でも面従腹背派でも過激派でも無い。
能力者の種さえS-TAで保全でき、新人類として旧人類を駆逐出来るならば、
外部の同胞まで皆殺しにしてしまおうが問題無いという思考…
狂信的なまでのホモ・タレントゥス派だったのだ。

「ダメだ、仲間を犠牲にするなど以ての外だ!!

席から飛び出してアデルに詰め寄ろうとするユニバースの前に、
白衣の中年バルハトロスが立ち塞がる。

「ユニバース君…これは君如きが口出しするような事ではない」

「ワシは原初の能力者ユニバースだ!
 S-TAのプランに関して八姉妹に準ずる発言権がある!
 マハコラだか何だか知らんがアンタこそ引っ込んでろ!
 非能力者なら兎も角、能力者の同胞を巻き添えにしてどうするって言うんだ!?」

「だから君は若いのだ。
 原初の能力者といってもガウィー君同様、成り立てではないか。
 其れに、我々に必要なのは同胞意識などではない。
 目的を可及的速やかに果たす為の効率の良さなのだ。
 既に韓国で短期間に大量のクローンを創る実験にも成功しているし、
 たとえ世界人口が…」

「バルハトロスっ、ワシらS-TAも能力者も…マハコラの道具とは違う!」

「所詮、我々マハコラの下部組織ではないか。
 我々がいたからこそS-TAは建国されたのだ。人材も我々が集めた。
 八姉妹や原初の能力者にしてやったのも我々マハコラだ。
 思い上がるなモルモット風情の分際が。
 お前等が湯水の様に使っている金を誰が用意したか思い出してから物を言え」

バルハトロスは所詮、外様だ。
彼は能力者ではないし非能力者の側でもなく、
この大戦の首謀者でも何でもなく、ただの研究者でしかない。
にも関わらずS-TAの後援者であるマハコラの一員というだけで、
こんな場違いな所で威張るまでになっていた。

「(この、くそがァ…っ!!
  今度はしくじらん…金なんぞ二の次三の次の組織をワシ自身が一から作ったる)」

既にS-TAを諦め、再起に掛けるユニバースは固くそう誓った。

「アデル、もう諦めましょう!降伏する他にありません!」
「宗太郎らのように…再戦を目指しても良い!今は兎に角、降伏を…!」

「降伏ゥ?してどうする?
 お前達だって知らない訳ではないだろう。
 戦争とは継続の意志こそが最重要だというのに、
 降伏して連中の微温湯に頭まで浸かってふやけて…意志は何処に行くというのだ?
 非能力者を内から変えるなどと言っていたクリスやディレイトやドルヴァーンがどうなった?
 私の意志は決して変わらぬ!
 本日をもってS-TA領のみが世界となる」
執筆者…is-lies

  アメリカ合衆国、ワシントンDC、ホワイトハウス

 

《…と、私の子飼いから連絡がありましてな》

緊急用のホットラインを通じて来た男の報告に対し、
アメリカ合衆国大統領シュネイケ・ナクラトは顔面蒼白になって執務机に突っ伏す。
全身が小刻みに震えており、息は荒く動悸も激しい。
この世の終わりが来たかのような表情で絶望の有様を呈していた。

「S-TAの暴走…か。
 英雄達は待機命令を無視してS-TAへと乗り込んだそうだが…」

《指令所でクリス殿が非能力者側に反旗を翻しましたからね。
 命令系統の混乱する中、勇敢な判断をしたと思いますが、其れが何か?》
 
「解りきった事を聞くな。
 彼等に…たったの7人(+お荷物のリノーア)にアデルらを止められると思うか?」

《こればかりは博打…しかも相当に分が悪い。
 …どうします?結果が出るのをのんびりと待ってみますか?
 まぁ、残された時間もあまりありませんが》

暫く押し黙っていたナクラト大統領だが、
決断を下せる時間も有限である事を度外視はせず、
半ば涙目になって搾り出すような声で選択肢を決定した。

「………
 アデル…いや、S-TAに私が終止符を打つ」

《ほぅ、ビフレストを盗まれた今どうやって?》

「…そうだな。ビフレストさえあったのならばまだスマートに事を進められたというのに。
 誰だかは知らんが…賊共め!
 賊共の所為で……こんな手を取らざるを得ないじゃないかッ!!
 どうせ使うのならば最初に使っておくべきだった…くそっ」

《やっと、大結界にもプラスロウザにも出し惜しみしていた保険を使いますか。
 ですが間に合うのですか?起動には丸一日掛かるはず》

「既に待機状態を維持させている。
 …使わずに済めば其れに越した事は無かった。
 だが…不確定要素に頼って世界の破局を見届けるくらいならば、
 『アレ』を使って私が蛇蝎となった方が人類の為になる。
 流れを…閉ざす。
 其れがマイケル・ウィルソン時代より続く米国大統領の使命だ。
 決してレイジア種が関わる状況を作ってはならない」

《アレを使うリスクは御理解の上ですかな?
 決して秘密裏に進められはしませんぞ》

「当たり前だ。
 あんなもの動かして隠し通せるなどと思うバカではない。
 全人類に怨まれても当然とすら思う!
 …可能な限り各国の首脳と話をつける…
 弁明、ビフレスト級の情報開示と先行きすら見えない搾取に譲歩…!隷属ッ!!
 祖国を売ったと見なされても申し開きの余地すら無くなるかも知れない。
 だが其れでも背に腹は変えられんッ!
 …これから春英殿にも色々と協力して貰う事になるので其の積りでいてくれ」

そう言うとナクラト大統領は通信を切って、目の前に集結している長官達へと指示を下す。

「連邦議会議長にしてアメリカ合衆国大統領シュネイケ・ナクラトの名に於いて、
 『ハーグウェイディユ』の出撃を承認する…!
 各国首脳のホットラインに繋げ。情報統制には彼等の理解と協力が不可欠だ」
執筆者…is-lies

  ドイツ連邦、細川結晶技術研究所

 

細川財団代表・細川春英は、
アメリカが最後の手段を用いるという旨と、其れに係る協力の要請を受け、
財団にとって相当の計画変更を余儀なくされているというのに、淡白な表情のまま呟いてみせる。

「やはり…人間は愚かだ。
 レイジア共の意識に触れ、この世の真実を知って尚、己に抗う力があるなどと錯覚している。
 そんなもの人間共には勿論、エンパイリアンにもトル・フュールにもレイジア種にも…
 そして、私にもありはしないというのに」

流れに抗う事など出来ない。
流れを止めようとする行い其のものが流れであるが故に。
劇の人形達が如何に暴れ回ろうとも劇を壊す事など出来ない。
其れ其のものが劇であり、劇場は殻を破り広さを増すばかり。

「まぁ…精々、無駄に手勢を使い潰して滅び去ってくれ。
 私には幾らでも時間がある。
 有限の者と違って、時は私に味方してくれる」
執筆者…is-lies

  S-TA、セントラル州、
  首都エルダーシング・シティー、
  S-TA領内マハコラ・エーテル研究学府最高機関、最重要区画

 

辺り一面が闇に包まれた其の場所をアデルは突き進む。
歩む度に高い靴音と共に水面の波紋のようなものが床から広がり、
其の場全体へと伝播して広い部屋の輪郭を一瞬だけ浮かび上がらせていく。
マハコラのS-TA領内エーテル研究学府最高機関最重要区画の最深部に其れはあった。
エーテル測定器を始めとする器具に囲まれた宝玉の様な物と一人の影。
来訪者を認め、しゃがみ込んでいた影がゆっくりと立ち上がってアデルと対峙する。
白いローブと羽衣に身を包んだ女性には、狐の耳と尻尾があり、
一見すれば獣人の試作品といった感じの姿をしていた。
だがアデルは彼女が人知を遥かに超えた種である事を理解しており、
目的を告げる前にまず一礼してから敬意を示す。

「客人、遂に我々が其れを利用する時が来た」

「あらあら、アデルさん…
 これが一体何なのか良く解っていないようですけれど」

「…大いなる力だろう。
 火星神話に記されたレイジア種の封印の一。
 其の力を少しばかり借りたい」

「ごめんなさいね。出来ない相談ですわ。
 私達『封印の一族』の沽券に関わる話ですし、
 万が一、レイジア種を刺激するような事になっては」

ウェーブが掛かった金髪を掻き揚げた女の指先に魔力の光が宿る。
アデルが退かないならば実力で以って排除するという意思表示であった。

「解せんな。ユズノハ君、世捨て人も同然の君達が今更何を恐れるというのだ」

「…貴方々は超古代火星文明の遺産までも復活させ、
 遂にレイジア種の封印にまで至ってしまいましたわ。
 其処は素直に感服しますけれど…
 でも…レイジア種は訳が違う」

「ふむ、成程。君らが言っていた話に誇張など無いという事か。
 だが私にもホモ・タレントゥスの世界を築くという崇高な使命があってな…
 子供の遣いではないのだよ。どうあってもレイジア種の力が必要なのだ」

アデル自身、相当に高等な能力者であり、
余程の事がなければ此処まで力には拘らない事を知っているユズノハは、
彼を取り巻く状況がどういう変化を遂げたのか僅かに興味を持った。
封印を荒らされたくないが故、他の手段を講じてやった方が良いだろうという思惑もある。

「一体どうしたというのですか?」

「S-TAを新たなノアの方舟とする。
 このS-TAの地にいない地球上の生物は全て死に絶える事となる。
 旧世代種と新世代種の交代の瞬間、進化の瞬間、
 謎に包まれて来たミッシングリンクの目撃者と我々はなる…
 ……ふっ、そんな大層なものではなかったな。新世代種による旧世代種の駆逐など…」
執筆者…is-lies

  S-TA、セントラル州、
  首都エルダーシング・シティー、大統領府

 

《インターフェース・エンブリオを再起動します。
 アカシックレコードコピーへのリンクの確認。
 権利者アデルによる要求『結晶の共鳴現象』の提出を認め、
 オグドアス(8者)、ヘプドマス(7者)による票決に移ります。
 賛
 ルチナハト  リヴァンケ
 プラスロウザ シュテルテベーカー
 オルトノア  ヴァンフレム
 マチルダ
 …のコードを確認。
 反
 ゼノキラ ツクモガミ
 レイカ  ソウタロウ
 セシリア
 ミラルカ ユニバース
 …のコードを確認。
 オグドアス賛成4反対4。
 ヘプドマス賛成3反対3》

ホログラムのディスプレイに羅列されるのは、アデルを除くS-TA重鎮達の名前だ。
其れが2つの陣営に分かれて拮抗している様子を表している。
組織マハコラが管理している機密システム『システムセイフォート』をアデルが起動させてから然程時間は経っていないが、
S-TA重鎮達の慌て振りはこれまでの比ではない。

「くそっ!こんなもの無効に決まっているだろうがッ!
 何で死んだプラスロウザ達のコードがまだ生きてる!?」

「そりゃルチナハトとかいう奴のがまだ残ってる以上そうなるわ!
 セシリアさぁん、この仕様はどうにもならないんですかねぇ?!」

「無理よ。設計者のオルトノアですらアカシックレコードの完全解読には至っていない。
 不完全なシステムのまま使ったツケが来たって事だわ」

ひとたび発動されれば世界規模で戦況を引っ繰り返す事も可能であろう切り札はS-TAに2つある。
その1つが超古代文明の遺産『セイフォート』なのだが、都合良く使うにはあまりにも不安定…危険過ぎる代物だったのだ。
セイフォート研究の第一人者であるオルトノア曰く『其処に全てがあり全てを成せる力』『神にもなれる力』。
其の言葉通り、セイフォートは全能と思しき力だったが、其れ故に人間が扱える力ではなかった。
感応を試みた人間は確かに人間の枠を超えられた。
人間の器を壊す事も無く全知全能の存在となれた。
ただ…全知全能であるが故に何も行わない廃人同然の存在と成り果てただけだった。
何も行わず何も行えない。研究材料にすらならない。
そんな廃人ならぬ廃神を何人も作り上げた果てにオルトノアは一つのシステムを拵えた。

直接感応するから全てを得て廃神となってしまう。
ならば欲張りなどせず、既知の事象現象のみを抽出して使えはしないかという発想は、
超古代火星文明の時代から既に生まれており、
乱用を避ける為、慎重を期す為、其の使用に重鎮の決議を必要とするシステムもあった。
当時は『七つ首の前支配者』だの『八皇女』だのと呼ばれていた其れを再現したのが、
オルトノアのシステム・セイフォート。
だが此処にいる重鎮達ですらセイフォートに関する理解は全くない。
マハコラが何時の間にか持って来た危険なシステム…程度の認識しかない。
そもそも不安定なシステム故にと、今の今まで使われる事もなかったのだから知りたいとも思わなかった。
併しアデルは遂に旧人類抹消の為にセイフォートを使い出したのだ。
慌てて付け焼刃の知識でシステム使用に必要な決議でアデルに対抗しようとはしたが、
ものの見事に先手を取られてしまっていたらしい。
気が付いた時には全てが手遅れ。
不安定なセイフォートを用意しようとした者が悪い。
不安定なセイフォートを受け入れた者が悪い。
不安定なセイフォート抜きで立ち行かない状況にした者が悪い。
不安定なセイフォート以外の選択肢を示せなかった者が悪い。
不安定なセイフォートに対し無知であった者が悪い。
不安定なセイフォートすらも使った者が悪い。
詰まり全員のツケが此処に来たのだ。

「ルチナハト、プラスロウザ達はくたばってるとして、
 リヴァンケ、オルトノア、ヴァンフレムはどういう積りだ!?
 まだ見付からないのか!?」

基本的にセイフォートと積極的な関わりを持っていたのはオルトノアのみ。
オルトノア以外は誰も関わり合いになろうとしなかった程に…其の力は恐れられていた。
アデルでさえもセイフォートに関しては素人の筈。単独では扱えない。
そして評決に於いてアデル側にある名の中にオルトノアがある事を考えれば、
彼女がアデルに加担しているのは明白と言えた。
…何しろ、このような事態が起こってしまっているのだから。

「マチルダ、本当に何も知らないのか?」

「当たり前でしょ…っ!こっちが聞きたいくらいだわ!
 何で私のコードが勝手に使われているのよ?
 誰が、この八姉妹マチルダを差し置いてコードを使ってんのよ!?」

マチルダ名義のコードが本人の意思と無関係に使われているという事実は、
ただでさえ慌しくしているS-TA重鎮達をより一層に混乱させる。
あり得ない事が堂々と起こってしまっている。
システム管理者のオルトノアがアデル側である以上、何をも疑える。何も信じられない。
評決そのものは拮抗している。
にも拘わらず彼等が慌てふためいているのは、そういう事だ。

「ガウィーのコードさえ用意できてれば、まだ何とかなっていたかも知れないというのに!」

「ユニバースよりも遅い参入だったからな。
 だがオルトノアもグルってんならコードなんざ幾ら揃えようともクソの役にも…」

ガウィーが言い終えるのを待たずして、銃声が部屋中に響き渡った。

「動くな!
 今すぐシステムを停止させろ!」

天井に向けた威嚇射撃と共に叫んだのは非能力者側の英雄エンド…即ちデリングだ。
この場にいる全員が、英雄の活躍について熟知していた為、状況を瞬時に理解する事が出来た。
降伏を表明する間も無く負けてしまった事、
インゼルゼクスハウザーの転送装置が使用されてしまった事、
転送装置はS-TA側の手引きが居なければ使えない為、内通者の存在にも至った。
其れが誰なのか特定は出来ないが、
システム・セイフォート及び、つい先程アデルが発表したばかりの計画すらも知っているらしい様子から、
最高幹部か其れに近い人間であるのは間違いないだろう。

「非能力者側の英雄エンドか…」

「そうだ。私だけじゃない…あのゼロ達も此処に来ている。 
 無駄な抵抗はやめて大人しく降伏するんだ」

この状況は決して悪いものではない。
既に降伏を希望していたS-TA重鎮の大半にとっては天からの救いとすら言える。
非能力者達の最大戦力である英雄が此処に来ている。しかも現状について多少なりとも理解している。
彼等は其処に人類の命運を賭けた。

「…其処まで知っているなら話は早い。
 頼む、貴方々の力を貸して貰いたい。
 アデルを止めてくれっ!」
執筆者…is-lies

 

  S-TA、セントラル州、
  首都エルダーシング・シティー、
  S-TA領内マハコラ・エーテル研究学府最高機関、最重要区画

 

(ああ、尋常ではない魔力を感じてな。一足先に向かわせて貰った。
  …ぼやくな、エンドは重鎮達からシステムの詳しい説明を受けてくれ。
  私とリン、ボリは目の前の…元凶に説得を試みる。まぁ無駄だろうがな)」

零土は頭の中での会話を終える。
S-TA内では非能力者側の通信機が役に立たなくなっているのだが、
零土のテレパシーはそんなもの最初から必要にしない。
新生国連本部内での造反で情報が錯綜し、
そんな中で内通者リヴァンケが齎したS-TA首相アデル暴走とシステム・セイフォートの情報…
英雄達に躊躇いはなかった。
すぐさまリヴァンケの協力の下、S-TA中枢へと侵入を果たしたのだ。
豪、ミリア、ヴェジータはS-TA各所で応戦中、デリングはS-TA重鎮を拘束する積りがアデル制止を求められ、
リヴァンケが言っていたようにS-TAの現状も相当に混乱していると見て取れる。
因みにリノーアは足手纏いにならないようインゼル・ゼクスハウザー基地に置いて来た。
常駐していたS-TA兵は壊滅しているし、基地側から許可しない限りはS-TAから増援も来ないし、
すぐに新生国連軍の増援が来る事になっているので、重石を捨てるには良い頃合という判断である。

「お前が噂の英雄ゼロだな。
 あの腰抜け共が呼び寄せたにしては御早い到着だな」

零土、小泉、ボリの前に威風堂々と立ちはだかるのはS-TA首相…覇王アデル。
零土達は強大な魔力を辿って逸早くアデルとの対面を果たしていたのだ。
…すごく…おおきいです…
何これ人間?と彼等が思うのも無理はない。
アデルの外見とくれば身長4m程のマッチョメン。
着ているスーツも筋肉ではち切れんばかりになっているっていうか普通にキモい。

「ようこそ、非能力者が存在していた証拠となる者達よ。歓迎しよう」

「アデル首相、悪足掻きはよせ。もう戦争は終ったのだ」

「腰抜け共の妄言だ。これから覆る、私が覆す。誰にも止められはしない。
 特に君等は私には勝てない」

零土と小泉…2人の英雄を前にしてもアデルは全く怯んでいない。
彼等の活躍を知らない訳ではないし、何か奥の手があると零土は直感した。
アデルの後ろに白いローブを纏った女の姿があるものの、
加勢するような気配どころか敵意すら感じない。では一体…
…などと考える前にアデルは自ら其れを晒しに掛かった。

「可哀想になぁ、今から其の訳を教えてやろう。
 さぁさぁ、これを見るが良いッ!!」

そう言ってアデルがスーツを勢い良く脱ぎ去る。
零土達の視界からアデルの姿が一瞬だけスーツによって隠れた次の瞬間、
いつ間にかアデルの前に海老反りした姿で手足を手錠で拘束されたリノーアが姿を現す。

「り…リノーア…」

「我が居城で『ぼっち』になっていた所を私の私兵が捕らえたのだ」

そう。リノーアは零土達の言い付けを無視し、
其の後を追って無謀にも単騎でS-TAに突撃…ソッコーで捕虜になってしまったのだ。

「今度は人質かよ…」

前々からリノーアには足を引っ張られてばかりだったが、
どうやら最後の最後ですらも最凶の敵はアデルなどではなく彼女になるようだ。
無能な味方は敵より怖いとは正にこの事かと頭痛を起す小泉。併し…

「人質ィ〜?失敬な!
 覇王が人質などという卑怯な真似をするとでも思っているのか?
 この娘は『八姉妹』の素材に過ぎん」

「…実態はシステム・セイフォートの使用にかかる決議に参加する資格を持つ者…だったな?」

「はっ、裏切り者共が。どれだけ非能力者共に機密をバラしたというのだ。
 まぁこの際どうでも良いか…
 其の通り、アレの使用には重鎮として登録されている人間が必要でな。
 権限の強い八姉妹には登録条件も思想やら性別やらと融通が利かず困っていたところだ。
 私など性別以外の全ての登録条件を満たしているというのにな」

「戦前には非能力者と能力者の融和の象徴として、戦時には能力者軍の神輿として、
 戦後は神に選ばれた超人類の支配者として…か。
 彼女達の意思が其れを望んでいたのか」

「まさか。
 出来る事なら平和を望んでいたとも。
 ただ彼女等の理想よりも非能力者が残忍で排他的だったというだけだ。
 だが併し…そんな旧人類に愛想を尽かせていた連中が今更日和るとは…
 私はブレない。この娘を新たな八姉妹の素材とし、システム・セイフォートの採決を強行する」

詰まりアデルは、リノーアを新たな八姉妹にした上で脅迫し、
非能力者皆殺しのスイッチを押させようとしている。
そう解釈した小泉は、状況を把握しているのかいないのか目を白黒させているリノーアに注意を促す。

「リノーア!絶対にアデルの言う事を聞くな!」

「む、無理だってぇ!こいつ怖いもん!ってゆーか催眠術とか使ってくるし抗えないってJK!」

泣き言を言うリノーアではあるが、小泉の読みもリノーアの心配もハズレだった。
覇王アデルは、おもむろに小さなカードの束を取り出す。

「これはエジプトで発見されたアーティファクトを復元したものだ。
 種類は幾つもあるが、今回はこれを使わせて貰おうか。
 魔法カード発動!『融合』!!」

カードの束から一枚を引いて高々と掲げると、偉大な古代の魔法が発動し、
リノーアが為す術も無くアデルの胸部へと牽引され其処に取り込まれて行く。

ちょ…何これパネぇ!?
哀れリノーアはアデルの胸部に両腕下半身を融合させられてしまった。

あはんv
 どうんv?これでもアタシを攻撃で、き、るんv?
ついでに性別も融合していた。

《権利者アデルによる新規オグドアス・メンバーの申請を受理。
 新規オグドアス・メンバー『アーデルハイト』登録中。オーダーコンプリートまで残り2分》

アラーム音に乗じて流れるアナウンスを聞き、
零土達は「まさか」とアデル…だったゲテモノを見遣る。

「うふんv
 ゼノキラ達が敵に回ってるみたいだけどんv
 アタシ自身が新たな八姉妹になって人数を満たしてやるとは思わなかったでしょんv斜め上過ぎて読めるかンなもん。
登録完了までの間、旧人類の無力さというものをたっぷり思い知らせてあ・げ・るんv
 さぁ、いらっしゃいんv
 坊や達に本当の美とは何かを教えてあげるわんv」

ゲテモノが両腕を広げ、熱い抱擁をかますかのように突進して来る。

「きめぇ!一刀両断っ!」

問答無用でボリがゲテモノ…即ちアデル及びリノーアへガンブレードにて斬りかかる。
ズバッと景気良くゲテモノの右肩右腕がすっ飛ばされた。

「ちょ、何すんだキサマラー!?仲間がどーなってもいーのかァ!?」
「何やってんのぉおお!?私まで殺す気!?てか痛ぇえ!!
余裕のオカマ口調をソッコーかなぐり捨てて抗議の声を上げるゲテモノとリノーア。
だがボリも小泉も零土すらリノーアを気遣う様子は全く無い。
躊躇していれば人類が絶滅してしまうかも知れないという瀬戸際に於いて、
彼等の判断は迅速かつ冷徹だった。
彼等は理想主義者でもなければ人道主義者でも夢想家でもなかったのだ。

「待って待って待って!
 えーっと……私のことが……好きにな〜る、好きにな〜る……ダメ?」

腕が動かせない為、頭をグルグル回して催眠術を掛けるような仕草をしてみせるリノーア。
だが傍目から見てすっげぇ不気味であり、小泉などは自棄になったリノーアによる攻撃とすら看做していた。

「魔女に屈してはいけない!」

小泉のガンブレードが火を噴き、ゲテモノの左腕も胴よりオサラバする。

「全然躊躇してねェし!何この愛も友情もファンタジーも無いリアル?」
ギエエェェェエエ!!?何すんのよ、ゲームオーバーにすっぞ!?」

遂にブチキレたリノーアは小泉らを攻撃すべく魔法の詠唱に掛かる。
リノーアとて英雄達に同行する程度には才覚のある逸材ではあるのだが、
肝心な時に役に立たず寧ろ周囲の足を引っ張ってしまう結果を招く間の悪さ故、活躍出来た例が無い。
…其れが今遂に活躍しようとしている。
例によって例の如く零土達の敵対者として。

「そ、そうよんv
 融合でアタシのパゥワァは倍増しているわんv
 本気を出せば勝てない訳が…」

「!」

だがゲテモノに降伏の様子が無い事、リノーアが攻撃を仕掛けて来ようとしている事、
ゲテモノが八姉妹と化す残り時間が限界に達しようとしている事から、
零土は一切の容赦を捨てて己の力を解き放った。

みゃじピャねぇええぇぇぇええっ!?
零土の放った転移魔法はゲテモノの心臓部…及びリノーアを瞬時に宇宙空間へと転移させたのである。
執筆者…is-lies

「RRRRRYYYEEEEE!
 宇宙空間だしぃーーーー!?」

暗闇の宇宙空間に浮かび、頭上より遠ざかっていく地球を見遣るゲテモ=リノーア。
主人格たるアデル=アーデルハイトは死亡したものの、リノーアはしぶとく生き残っていた。
アデルの無駄に強靭な人外肉体のお陰で宇宙空間でも生存可能となった彼女は、
最初こそ面食らったものの、この状況でも己が新たな肉体は無事と悟るや否や、
即・自分を見殺しにしたゼロ達への復讐の炎を燃やし、
彼等を血祭りに上げるべく地球に舞い戻ろうと試みる。

「フンッ!
 魔力で空気を噴出させて!
 其の圧力抵抗で軌道を変え!
 地球に戻ってやるっちゅーの!」

バリッ!
ゲテモノボディーの背中から数本の管が現れ、
リノーアの魔力で生成されし空気をブボボボボッと噴射し出したものの、
次の瞬間、リノーアの顔は驚愕と苦痛に彩られた。

「ぎぃゃぁぁあああ!だ…駄目かぁ!
 こ…!凍るッ!く…空気が凍っちゃう!外に出ると凍っちゃうッ!
 き…軌道を変えられない、も…戻れないぃいいッ!」

 

 

 

 

 

 

リノーアは2度と地球へは戻れなかった…

 

鉱物と生物の中間の生命体となり永遠に宇宙を彷徨うのだ。

 

そして死にたいと思っても死ねないので、

 

其の内リノーアは、考えるのを止めた。

 

 

 

 

 

リノーアは永遠に宇宙の放浪者となった…。

 

 

 

 

…が其れは本編と何ら関係のない、どーでもいー話であった。
執筆者…is-lies

 

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