リレー小説5
<Rel5.第三次世界大戦1>

 

 

  日本国、伊豆諸島最北端


「駄目です!もう戦線を維持出来ません!」
「お…おのれ……プラスロウザめ!」

聳え立つ黒色の巨獣は、太古の肉食恐竜を思わせる風貌と巨体でもって自衛隊を威圧していた。
三原山の伝説にある眠れる神獣を、S-TA陣営が蘇らせ操ったものではあるが、
伝説は所詮伝説…其の力は看板倒れも良い所で体躯の大きさと其れに似合わぬ素早さしか見る所がなく、
単にデカいトカゲ程度の存在だった。口から何か吐く訳でも空を飛ぶ訳でもない。
決して自衛隊が遅れを取るような相手ではない。
だが…

「あまりにも不甲斐無いから態々出張って来てやったわ。
 やっぱり『Hope』の効果って随分と不公平なのね。
 神話のシヴァとかいう破壊神が顕現する事があれば、伝説の神獣がこの有様だったり」

片手に持った旧世紀の骨董品ウィンチェスターライフルでとんとんと肩を叩きながら、
自衛隊からの畏怖の視線を一身に浴びるのは、狼の耳と尻尾を有するかのような井出達の女…
S-TA東アジア方面軍総司令官プラスロウザである。
其の戦闘力はS-TAでも屈指…アデルを凌駕して有り余るとまで噂されている程だった。
彼女は大トカゲの頭の上に陣取って、自衛隊からの攻撃を指一本動かさずに防いでいるのだ。

「このままで済ますとでも…!」

自衛隊の一人がトカゲの眼球へと銃口を向けるが、
弾丸が放たれるよりも先に、プラスロウザがウィンクをバチコーン☆とキメていた。

自衛隊の布陣が一斉に消し飛ぶ。
プラスロウザの『デスウィンク』は其の一撃だけで10億の損害を確約すると恐れられているのだ。
其れすらも彼女にとっては、どうしようもなく手を抜いた瑣末な攻撃に過ぎない。

「大人しく東京への道を開けなさい。
 五英雄だか六英雄だかっていう連中が張り切っちゃってるみたいだけど、
 どうせ、あんた達に勝ち目なんてないんだから……さ…?」

空間が震えた。
瞬間移動能力者が其の力を行使する際に観測出来る現象だが、
能力者サイドの人間はプラスロウザの超絶を極める破壊力を良く知っている為、
其の影響力内に態々入って来たりはしないはず。

「あれは……」

満身創痍で魔女に平伏した自衛隊員の一人が、其の乱入者の姿を捉える。
絶望に満ちた表情は、見る見る希望と安堵に彩られ生気を取り戻していく。

「もう大丈夫だ」

能力者でありながら非能力者の陣営にて戦う者…
30代程だろうが其の髪は白く、纏った白いトーガは神話から抜け出た軍神のよう。
非能力者を勝利に導かんとする英雄…『高宮零土』コードネーム・ゼロであった。
執筆者…is-lies

  日本国、伊豆諸島南部、インゼル・ゼクスハウザー基地

 

S-TA東アジア方面前線基地の庭園で、
サングラスを掛けた中年と銀髪の女が東屋の椅子に座って優雅にティータイムと洒落込んでいた。

「やれやれ、プラスロウザも詰めが甘い。あれでは二度手間だよ」

「でも御蔭で私達にも武勲を立てるチャンスが来たわ。
 そろそろ時間じゃないかしら」

プラスロウザ近衛隊のシュテルテベーカーエレイソン、2人は敵襲を今か今かと待ち侘びていた。
少数精鋭で構成されたドイツの強襲部隊が動き出したとの情報を彼等は掴んでる。
新国連軍が迫ってきた際、能力者国家S-TAの発動したD兵器『S-TAの大結界』は、
S-TAのある南極大陸を覆い、完全に外部と遮断してしまった。
其処で国連軍が目を付けたのが、S-TAと転送リングで繋がっていると思しき基地だった。
基地を占領して其れを使う事が出来れば、直接S-TAへと攻め入れるのではないかという考えだ。
このインゼル・ゼクスハウザー基地も、そんな転送基地の一つであり、
最大戦力のプラスロウザ不在の隙を付いてドイツが動き出したと…そういう次第だった。

「敵も能力者を動員しているそうではないか。
 非能力者に与する愚か者め、此処で全員始末してやろう」

強襲部隊だけあって其の行動は極めて迅速で、基地はプラスロウザを呼び戻す時間も無かった。
果たして、空より雲を裂いて現れたのは真っ赤に燃える2つの球体…高速移動用ポッドである。
其れは轟音と共に中庭へと衝突して2つのクレーターを作り上げた。
シュテルテベーカーとエレイソンは粉塵で台無しとなった紅茶をカップごと捨て、
腕組をしつつポッドを注視し、其処から現れて自分達と死闘を演じる事となる猛者の姿を其の眼に焼き付けんとする。
ポッドがそれぞれ開き、中から男が1人ずつ這い出てきた。

く…くそったれ
欠陥ポッドに詰め込まれて送り込まれた結果、全身粉砕骨折となってしまった、
ドイツ結晶能力機関『祖国遺産協会(アーネンエルベ)』特務将校ヴェジータ・ディートリッヒと、其の部下ナッパ・タカマチは、
無責任な設計者、怠慢な整備士、舐めてるとしか思えない運命への呪詛を吐いて力尽きた。
「…あ、また来た」

目の前で勝手にくたばった2人の他にもまだ戦力があったらしく、
5人分のポッドが新たに迫って来ていた。
直撃コースである事を確認しシュテルテベーカーとエレイソンは大きく跳んで距離をおく。
先程と同様に5つのクレーターが出来たものの今度は…

「!シュテルテベーカーさん!」

エレイソンの叫びと時同じく、大剣の一撃がシュテルテベーカーへと振り下ろされた。
ポッドの乗員は直前で逸早く脱出していたのだ。
驚くべき胆力と正確さに賞賛を送る近衛隊達だが、だからといって素直に攻撃を食らってやる所以は無い。
シュテルテベーカーが軽く避けようとした其の時、
爆発音と共に大剣が一気に加速してシュテルテベーカーの眼前まで迫る。
流石に驚いたシュテルテベーカーは表情から余裕の色を消して回避を断念、大剣を拳にてはじき返す。
ガンブレード…剣に銃のメカニズムを加え、
斬撃の瞬間にトリガーを引く事にて破壊力を倍増させるというヘルウェティア傭兵集団SEEDの武器である。

「これはこれは…!
 ヘルウェティア誓約者同盟の傭兵まで参戦かね。
 対ガンブレード戦を経験しておきたかったところだ、歓迎しよう!」

シュテルテベーカーの前に着地したのはガンブレードを装備した2人の男。
コードネーム『リン』…後のネオス日本共和国第10代内閣総理大臣・小泉純一郎と、
コードネーム『リボ』…後のネオス日本共和国第8代内閣総理大臣・ボリであった。
ファーの付いた黒い革ジャン姿のリンと、メタボ体型に合わせた白コートのリボは、
油断無くシュテルテベーカーを挟んで向かい合い、常に片方が敵の背後を取れる位置に立つ。


「あの男…まさか英雄のリンかしら。
 くすくす、面白い。
 シュテルテベーカーさんに気を取られている隙に…って思ったんだけれど、
 そんな余裕はくれそうにないわね?」

基地の屋根に立ってエレイソンの側頭部へ銃口を向けようとしていたのは、
コードネーム『エンド』…後のアメリカ合衆国大統領ビンザー・デリングだ。
バレていては仕様が無いと即座に撃ち殺そうとするものの、
エレイソンの反応速度は人間の其れを遥かに上回っており、銃弾を軽く避けてみせたのだ。

「(こいつ…気配人か!?)」

「安心して。部下には手を出させない。
 有象無象なら兎も角、折角の少数精鋭なのだから存分に楽しませて貰うわ」

コートの中に隠し持った機関銃を構え、エレイソンが冷酷な笑みを浮かべた。
《リン、そっちはシュテルテベーカー中佐か。こっちはエレイソン少佐だ。
 思った以上に手間取りそうだし、出来れば早く支援に来て欲しいところだ》
《…やはりリノーアには荷が重かったか》
《あいつポッドから出て来ないし、役に立たねぇ。連絡を取ったら『腰が抜けた』とさ。
 新生国連軍大佐の娘だか何だか知らないが、役立たずの分際でしゃしゃり出ようとするからこんな…》
《ボヤくな。タカマチが倒れたとはいえ、ミリアの魔力でも充分に標的は一掃出来る。
 作戦に何ら変更も支障も無い。魔法が完成する僅かな時間を稼ぐだけだ。
 あんな世間知らずのスイーツ放っておけ》
《だな。後はゼロとゴウがプラスロウザを仕留め損なわない事を祈るばかりだ》

「ああ済まない。
 3分間待ってやるから、其処のゴミをさっさと片付けて欲しいのだが」

エンドとリンの通信を遮り、シュテルテベーカーが先の2人…ヴェジータとタカマチを指差して言う。

「ちょ…調子に乗ってんじゃねぇええ!!!なの!」

シュテルテベーカーにゴミ呼ばわりされ、
瀕死のタカマチが逆上のあまり肉体の限界を超えた生命力を奮って立ち上がった。
ほぅと其のタフさに驚嘆するシュテルテベーカーを無視し、
タカマチは人差し指と中指に力を込め、くんっと上方に突き出す。
瞬間、タカマチを中心に爆発音が響き砂埃が巻き上がる。

「はっはー!!挨拶程度の攻撃だが、こんなんで終わっちまったかぁなの?
 この『アーネンエルベの白い魔王』ナッパ・タカマチを舐めんじゃねぇなの!」

《タカマチ!島ごと壊す気か!?
 我々の目的は地下の転送リングなn》
《わぁってるっつーのなの!手加減はしてらぁ……あ?》

「そうだろうね。この程度では挨拶だけで終わりそうだ。君が…だがね」

砂埃が晴れた其処に居たのはシュテルテベーカー。
傷一つ付いていない。彼の後ろにあった基地の壁も窓も全くの無傷。
格が違った事を遅まきながら理解し混乱を来たしたタカマチは、
恐怖の形相を浮かべて作戦も何も無視して最大最強の技を放たんとする。
魔力を極限まで集中した両腕がシュテルテベーカーに向かって突き出され…


虫の息のヴェジータが叫ぶ。

「タカマチ、よけろーっ!!!」

放たれた一撃必殺の魔力の柱は…虚しく空を焼く。
腕が突き出される瞬間にシュテルテベーカーの拳がタカマチの顔面を叩き潰していた。
3倍近い戦闘力の差は夢も希望も一切を許さず、残酷な現実のみを見せ付ける。

「ちぃ…役立たずめ」

タカマチが無駄に範囲攻撃かました結果、
リンとリボは一旦シュテルテベーカーから距離を取らざるを得なくなっていた。
其れが無ければタカマチが殺される際、シュテルテベーカーに同時攻撃を仕掛ける事も出来ただろうに。

「ヴェジータ特務将校、アンタは黙って其処で寝てろ。
 さっきのバカは兎も角、アンタにはアンタにしか出来ない仕事があるらしいからな」

其れだけ言うとリボ、リンはガンブレード片手にシュテルテベーカーとの死闘を始める。
だがリン達は此処でプラスロウザ近衛隊を真正面から倒すなどとは考えていない。
実力的には其れも可能なのだが相当の被害を覚悟しなければならず、
新生国連も英雄を此処で使い潰す気など毛頭無い。
全ては敵を一掃する為の時間稼ぎでしかないのだ。

魔術師ミリアはポッドの影に隠れて魔法の詠唱を只管続けていた。
すぐ側で行われている両陣営準最強級の激闘に気を取られ精神集中を欠かすまいと平静を装っている。
高名な術士でもあるイギリス出のEU外交安全保障上級代表クリス欧州委員長からの推薦で大戦に参加し、
其の資質も充分、数々の戦果を上げて遂には英雄と呼ばれるまでに至ったが、
彼女は所詮15歳の少女…

「(……タカマチさん、死んだ……
  あんなに強い人だったのに…あっさり……
  うぅ、来るんじゃなかった!師匠に無理行って参加させて貰うんじゃなかった!)」

精神の乱れは魔力の収斂を大幅に遅れさせ、術の完成を遠退かせる。
其れでも自分がやらねばリン達も無事では済まなくなってしまう。
途中で味方を見捨てる程に弱くは無いが、乱れた精神はそう容易く立て直せない。
《ミリア、ダメなのか?》
《師匠ぉ…》
《己の力に絶対の自信を持って参戦したお前の事だ。
 更なる破壊の力を目の当たりにしてそうなってしまう事は目に見えていた。
 だが、これで分かっただろう?…非能力者側の能力者運営など所詮この程度だ。
 能力者を便利な道具として利用はするが、決して其の命を尊重しようなどとは考えていない。
 あのプラスロウザの基地に10人足らずで強襲?馬鹿げている。
 しかも非能力者はエンド1人だけと来た。
 お前が其の力を本当に有効に使いたいというのならば…どちらにつくかは明白だろう?》
《…師匠、まさか……》
《本当のところを言うとな…私も非能力者と能力者の融和を強く信じていた。
 非能力者の陣営に入ったのも決してお遊び気分でなく、過激な能力者から非能力者を守ろうと思ったからだ。
 だが現実はこれだ。非能力者は能力者を対等な仲間と看做さずに未だ道具扱い。
 今でこそ英雄だの何だのと口先で持ち上げはするが其の扱いは全く変わらない。
 戦時ですらそうなんだ。戦争が終わったら一体どうなるのか…考えるまでもないぞ。
 アメリカのような大国が余計な事をしなければどうにかなるなんて考えていたが、
 結局どこも同じだ。何処の為政者であろうとも損得でしか物を見ない!為政者故に!そして為政者として正しい!
 数字の上でしか兵の死を認識せず、数字で容易く切り捨てもする!為政者故に!そして為政者として正しい!
 もう嫌だ。私はあまりにも無力だった。こんな事ならマハコラに初めから賛同していれば良かった…
 いや、今からでも遅くない。S-TAに合流するんだ。
 S-TAには皆がいる。マチルダ様だっているんだ…
 ……もう非能力者の陣営になんていられない。もう非能力者を信じられない。私は此処を見限る。
 ミリア、お前もS-TAに来るんだ。プラスロウザの隊と戦う必要など無い。投降するんだ。
 お前の力ではプラスロウザの近衛隊には勝てない》
《ミリア!まだ呪文は完成しないのか…ぐっ!エレイソン少佐がお前の存在に気付いた…逃げろっ!》
国連の基地にいる師匠クリス欧州委員長の離反勧告で真っ白になったミリアへ、
今度はエンドの通信が入って来る。
直後…ミリアは後頭部に冷たく硬い感触を覚えた。
「残念だったわね、お嬢ちゃん。さぁ…其の詠唱を止めなさい。
 貴女まだ子供だし、さっきのバカな能力者みたいに殺しちゃうのは気が引けるの。
 だから大人しく言う事を聞いてくれれば手荒な真似はしないわ。でも…聞かなきゃ容赦なく殺スから」
穏やかな口調だがエレイソンもまた冷酷なS-TA軍の少佐だ。決して脅しではない。
ミリアは選択を強いられる。
自らの力を信じ、非能力者と共に戦う道を貫き、師匠とも敵対するか、
師匠に従い能力者と共に戦う道を選び、戦友と敵対するか。
「なぁんてね、甘くみないで」
ミリアの魔力は鋭い炎の槍と化して四方八方よりエレイソン、シュテルテベーカー、基地の全体へと迫り行く。
目にも留まらぬ速度で間隙を縫って脱するエレイソンだが、手数の多さからミリアへの反撃も行えずに距離をとるのみとなる。
シュテルテベーカーも剛腕で以て防ごうとするが、其れに加えてリン&リボのガンブレードにも対応するのは無理があり…
「「エンドオブハートォオオオ!!!」」
2人のヘルウェティア傭兵の奥義を一身に食らって吹き飛ばされる。
あまりの威力にシュテルテベーカーの姿はあっという間に視界から消え、遥か彼方の海面に大きな水柱が上がった。
「師匠…得体の知れないあたしを育ててくれた恩はあるし、今でも師匠として尊敬しているよ。
 そして師匠が取った選択も理解出来るし其処に文句を付けようって気も無い。
 でも、あたしは自分の力を信じて非能力者側に参戦したんだ。
 力不足と知ったからって、はいそうですかと裏切れる訳無いよ。
 そうしたら本当にあたしは無力になっちゃう。
 無力を知って尚、無力でない事を信じる…其れが本当に自らの力を信じるって事だと思う。
 戦うよ、最後まで。誰一人として見捨てるもんか!」
執筆者…is-lies

  日本国、伊豆諸島最北端

 

Ouch! Oh Shit!
 Goddamn! Help! Help Me!
 Aghhhhhhhh!!!!!

一風変わった鳴き声と共に大きな地響きが起きる。
超人2人の戦いは尚も続いていた。
看板倒れな三原山の神獣は超人達の戦いの余波のみで脆くも倒れ、
巨大な屍を大地へ横たわらせ、高宮零土とプラスロウザの足場と成り果てたのだ。
「伊達に一人で前線に立ってはいないようだな、無双の魔女」

「こっちの科白だわ、白い悪魔。
 私と此処までやり合えたのは貴方が初めてよ」

プラスロウザの指が宙をなぞると、
十数メートルもある巨大な黄金の鉄槌が零土の頭上に構築され、間髪置かずに振り下ろされる。
零土は瞬間移動でもって難無く回避するが、
直撃を受けた巨獣の骸は原子レベルで粉砕され、鉄槌の形に刳り貫かれていた。
高レベル能力者の力をも超えた一撃である。
普通ならば渾身の大技直後は隙を狙えるとされるが、
零土は追撃などせず瞬間移動と空中浮遊で絶え間なく移動を行う。
何故ならプラスロウザが指を滑らせる度に黄金の鉄槌が次々に現れては零土を砕くべく振るわれ、
黄金の台風となって周辺一帯を包み込んでいたのだから。
プラスロウザにとっては黄金の鉄槌など、体を動かせば自然に出て来る程度の小手先技でしかなかった。

「ああ楽しい、楽しいわね悪魔」

視界に入るものを悉く消し飛ばす『デスウィンク』も攻撃に混ぜ入れ、
両手十指を複雑に動かし、10本の鉄槌を同時に操りながらプラスロウザが笑う。

「生憎だが魔女よ、あまり長々と付き合ってやる事は出来なくてな」

大地も雲も海も山も建物も人も悉く分解されて行く黄金の台風の中で、
零土は絶え間ない回避と同時に攻撃も行っていた。
プラスロウザ自身に対して瞬間移動を仕掛け、生存不可能な領域に放り込もうと試みていたのだ。
だが魔女は瞬間移動の際の魔力を見極めており、
零土と同じく移動を繰り返し、決して自身を零土の制御空間に留まらせない。
超人の戦闘は膠着状態に陥っていた。

「そうね。私も早く基地に戻らないといけないし、
 其れじゃあ…ちゃちゃっと死んでくれるかしら?」

「御免蒙る」

零土が、トーガに突き入れたままにしていた右腕を出す。
プラスロウザがウィンチェスターライフルを構える。
お互い、勝負を決める一撃を放たんとしていた…かに見えた。

《ゴウ、今だ》
《了解した》

衝撃。
自らの起きた其れにプラスロウザの思考が一瞬空白に包まれる。
即座に追撃が来ると思って体勢を整え直そうと…其処まで思考を走らせてから彼女は気付く。

「……何ィ?」

「魔女よ、私も一人の戦士としてお前と戦いたかった。
 だが、
 …済まない…これが戦争なのだ…」

プラスロウザの両肩が裂けていた。

新生国連軍のインゼル・ゼクスハウザー基地攻略作戦は、
東京に向けて進撃するプラスロウザ(と、オマケの三原山神獣)の撃破と、
島に残る少数の近衛部隊を奇襲にて殲滅し、地下施設を制圧する事を目的としている。

奇襲部隊は、
英雄リン(小泉純一郎)、其の相棒リボ(ボリ)、英雄エンド(デリング)、英雄ミリア、
特務将校ヴェジータ・ディートリッヒ、其の護衛ナッパ・タカマチ、オマケのリノーアの7名。
基地を守るシュテルテベーカーとエレイソンの力は事前に把握していた為、真っ向からはぶつからずに、
リンらで動きを止めた後、ミリアの魔法で島の地表部ごと敵を一掃し、地下施設を押さえる。
地下にある転送リングの位置も『内通者』から聞き及んでいる為、多少手荒になろうとも目的は達成出来る。

基地攻略以上の難関とされたのがプラスロウザの撃破。
あまりの破壊力から近寄れる人間がそもそも限られる。
英雄達の中でも抜きん出た力を持つ英雄ゼロ(高宮零土)でなければプラスロウザの前に立つ事すら適わなかった。
だが零土ですら単体では決定打にはならない。
其の為、拮抗状態を崩す伏兵として英雄ゴウ(灰谷豪)が選ばれた。
プラスロウザのスペックを計る為、零土は率先して囮となり、
豪は只管に身を隠し、確実な一撃を放つ準備に努めた。
甲斐あり、プラスロウザが魔力に敏感で、能力による不意打ちが通用しないであろう事を確認。
魔法戦士である豪は直ちに能力の使用を断念、肉弾戦を選択し、
プラスロウザが必殺の一撃を放たんとした其の瞬間に手刀による攻撃を仕掛け…魔女の両肩を奪う事に成功した。

「貴様ぁああ!!」

併しプラスロウザの闘志はゴウの予想を遥かに超えていた。
彼女は胸ポケットに入れていた万年筆を口に咥え、
先程に貯めた魔力を込めた即席のレーザーブレードを作り上げたのだ。
いや、其の長さからレーザー砲といった方が良いだろう。

「リンの必殺技と同じ技か…!」
まさか不意打ち直後…しかも両腕を奪った相手が、
こんな反撃をして来るとは思ってもいなかった豪が全力で回避に努めるものの、
流石に至近距離過ぎて脇腹を大きく焼き切られてしまう。

「私はこんなところで負ける訳にはいかないっ!
 私を生み出した日本を断罪するまで私は…負けないぃいい!!」

数kmに及ぶ光の剣を口で振り回し、島と海を切り刻みながらプラスロウザが叫ぶものの、
手負いの上に逆上した彼女に零土の転移魔法を回避するだけの余裕は無かった。
プラスロウザの姿は忽然と消え去る。
深海か火山の火口か、宇宙空間か…とても人間が耐えられない場所へと転移させられたのだ。

「…やった…か」
零土の転移技が成功した事を悟って豪は其の場にどっかりと腰を下ろす。
S-TAの主力であったプラスロウザを倒せたのは大きい。
だが基地攻略部隊の戦況が芳しくない様子で、
大した休憩も取れないままインゼル・ゼクスハウザー基地へと向かわなければならない。
やれやれと溜め息をつく豪に、零土は呟く。
「奴は…プラスロウザは獣人だったのか」

「ん?…獣人ってのはもっと獣っぽい連中だったろ。
 …あぁ、でも初期の試作品とかは結構姿形もバラバラと聞いたな。
 プラスロウザみたいに部分が獣の其れっていうのもあるか」
三次大戦中に日本の研究所が生み出した超人兵器『獣人』は、
一種の改造人間であり、国際法で禁止されているクローンを素材として作られている。
この戦争に於いて非能力者陣営に対し多大な貢献をしている獣人だが、
そもそも人権すら認められていない存在であり、消耗品同然に使われているのが現状だった。

「豪よ、私達は戦を終わらせた後…どうなると思う?」
「…まぁ…得る物なんて高が知れてるか。静かに埃を被らせて貰えれば重畳だ」
豪の予想は後に的中する。
非能力者の戦勝と共に彼等は能力者の利便性を再確認し、共存の道を選ぶ事となるが、
英雄達については、まるで腫れ物に触れるように存在が忘れ去られていった。
…これから共存するというのだから、戦争の英雄、兵器などに目立って貰っても困る…という事だ。
そして、この第三次世界大戦終結から13年後に勃発した第四次世界大戦…
通称・大名古屋国大戦の英雄達も概ね同じような道を強いられる事となる。
「これでも、ちょいと昔よりは随分と優遇されるようになったっていうんだからなぁ。
 戦争初期の頃なんて能力者=使い捨ての奴隷だったろ。
 非能力者が能力者を支配して其の力を使う側になって初めて魅力的に思ったっていうのと、
 獣人って便利な使い捨て要員が作り出されたっていうのが重なった結果だろう」
今の獣人の立場は、以前の能力者の立場だった。
獣人が生み出されたからこそ能力者は其の立場から迅速に抜け出せた。
戦が終われば能力者と非能力者は多少の軋轢こそあれ、
互いに新たな世界の仲間として共に進む事になる。
…獣人という新たな火種を生み出して残したまま。
「…終わらないな」
容易に想像できる未来の光景を想い、
零土達は俯きながら転移魔法で次の目的地へと向かった。
執筆者…is-lies

  日本国、伊豆諸島南部、インゼル・ゼクスハウザー基地

 

「はぁ…はぁ………何とか成功したな」

満身創痍の英雄達が其の場に倒れ込む。
超反応力を持ったエレイソンとの戦いは決して楽なものではなかった上に、
英雄ゼロ、ゴウの到着と共にS-TA側も増援部隊が到着してしまい混戦になろうとしていた。
そうなればミリアの魔法で敵を一掃という訳にもいかなくなる。
プラスロウザがそうであったよう破壊力が大きい力を持つ能力者は、
周囲を巻き込み、味方を全滅に追いやってしまいかねない事もある。
ミリアの魔法も同様、強力だが味方も危険に晒してしまう類のもので、
敵と味方の位置を確認し、安全と判断されない限りは到底使えない。
混戦にしてなるかと必死でエレイソンらS-TA部隊を押し留める英雄達の奮闘の甲斐あり、
遂にミリアの魔法が完成…
巨大な爆発は、運悪くS-TA部隊の近くにいたヴェジータ特務将校を半殺しに追いやったものの、
エレイソン含むS-TA部隊を一掃する事に成功していた。

「き…さ…まら……後で覚えていろよ…」

豪に簡単な回復魔法を掛けて貰って何とか喋れる程度になったヴェジータが悪態をつく。
ってゆーか欠陥ポッド然り巻き添え然り、悪態をつくだけで済ます辺り何だかんだで寛容である。

「リノーアは?」
「まだカプセルの中で震えてる。
 あのさ、これ置いてっても罪に問われないよな?」
「バカ。気持は解るが自重しとけ」

小泉とデリングは「いっそ爆発に巻き込まれてりゃ…」と考えてから、不謹慎さに己を恥じる。
だが歴戦の勇者である2人が其処まで邪険にしてしまう程、
リノーアの足手纏い振りは前々から度重なる問題を発生させて来たのも事実だった。

「ゼロ、ごめん…お師匠様が…」
「ああ、通信を聞いていた。
 寧ろ良く動揺を抑えて此処まで持ち堪えてくれたな、感謝する」

ミリアの魔術の師…EU外相クリスがS-TAに合流してしまった事は正直なところ苦しい。
抜きん出た力を持っているから…というのも理由の一つだが、
其れ以上に、能力者と非能力者の融和を唱えたのが、そもそも彼だったからというのが大きい。
甲斐あって非能力者側の能力者も(たとえ道具扱いだったとしても)認められるまでに至った。
今あるゼロの部隊が作られ、英雄と呼ばれる程になったのも、彼の尽力あってのものだ。
併し、彼は非能力者に失望した。
戦争で多大な活躍をし、注目と尊敬を集め其の名誉はピークに達しているにも関わらず、
其の高い能力故に危険任務を少数でこなす事を要求される。効率的であるが故に。
前々から戦争を嫌っていたEU外相的には、そういった物事を冷めた眼で見る事が出来なかった。
そういう事なのだろう。
一足先に戦争が終わってさえいれば、非能力者能力者融和の象徴ともなれたであろう人物…
其れが失望からS-TA側に回ったという事実が味方陣営に与える衝撃は計り知れない。

厄介な事になったと頭を抱える零土。
戦場では冷徹である事を心掛けてはいるものの、零土の生来の性格とは相容れないものだ。
後一息で終わる大戦を、これ以上に長引かせてはならないと決意を新たにし、
零土は基地…ミリアの魔法で崩壊した瓦礫の山の前まで行く。
魔力を込めた腕の一振りで瓦礫は押し退けられ、地下施設の入口が姿を現した。

 

 

其れほど規模の大きい施設ではなかった為、
零土達は直ぐに最深部にある目的…S-TA直通の転送リングを発見する。

「あれが…S-TA内部に繋がっている転送リングか」

結晶Hope到来後の火星開発で、輸送コスト問題を解決に導いたのが転送技術である。
瞬間移動能力者の力を解析して確立したこの技術を使った転送リングは、
転送元・転送先双方の合意の下に一瞬で大量の輸送が可能とした。

「S-TA側のリングは内通者が抑えるって話だし、
 これで南極を包んでいるS-TAの大結界の内部に入り込めるってわけ?」

「本来なら出来ない。S-TAの大結界に阻まれてしまうからな。
 S-TAの内通者が一時的に侵入用の穴を作ってくれるそうだ」

「…内通者様々だね」
この島の情報をリークしたのも、其の内通者だ。
攻めあぐねていた新生国連軍にとって決め手となる程の情報を出したのだから、
恐らく幹部級…S-TAを見限った上層部なのだろうと思われた。

「ええ、もう今すぐにでもS-TA首脳部を攻めれますよ」

其の場にいる誰の声でもなかった。
同時に妨害電波か、通信機が使用不能となった事に気付き、
敵襲かと身構える英雄達だったが、特務将校ヴェジータの反応は違った。

「おい、何をビビっている。
 俺達を此処まで導いた内通者様の御出座しだぞ?」

注目されて気を良くするヴェジータの言葉に、
満を持したように暗がりより現れたのは…
ドミノマスクのような仮面を付けた男だった。

「お初に…御目にかかります。
 まずは作戦の成功を心より御祝い申し上げます。
 あのプラスロウザを破り、インゼル・ゼクスハウザー基地を制圧した力、真に素晴らしい限りで、
 本日はそんな非能力者側の英雄の皆様に、
 緊急かつ切実なお願いがあり馳せ参じた次第です。
 私、リヴァンケと申します。
 S-TAの崩壊を望む者です」
執筆者…is-lies

 

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