リレー小説5
<Rel5.マチルダ・レム・ホワイトローズ2>

 

 

 

「……どういう……事?」

マチルダは目を丸くして問い返す。
英国の一件が一段落した直後、彼女はカリプソに連絡を取ろうとしていた。
だが端末はコール音を延々と鳴らし続けるだけ。
直接出向いても其の影さえ踏めず、
遂に痺れと思いを切ってゴトリン博士に直接カリプソの所在を尋ねたのだが……

「だから、ワシのトコにはカリプソ某とかいう奴はおらん。
 オルトノアのトコじゃないのか?」


……


「カリプソぉ?
 いたかしら……そんな人?」

ンな筈ぁねーだろーがと叫びたくなる気持ちを抑え、
マチルダは深呼吸して、今にも何かの間違いで暴発してしまいそうな胸を擦る。

「なぁにしてるのマチルダぁ?
 遂に自分の頭でも弄った? おっかしぃ、クスクス」

そう言って笑うオルトノアの態度はペパーミントアイスに似る。
子供のような甘ったるさの中にも刺激を効かせ、
背中を撫ぜ擦られたような感覚に陥る程、言葉の中に冷徹さを秘めている。
口は笑っているが目が笑っておらず、
マチルダの次の行動を注意深く観察している。

「(こんガキャァア……しらばっくれてやがんの?
  ……其れとも本当に?
  うぅ、こいつの事はどうも読めないのよね……)」

「で、其のカリプソっていう男がどうしたのぉ?
 何か良い雰囲気になっちゃってたりするの? クスクス」

「ふっ……ふざけないで!
 何でこの私が男なんていう下等動物に……!」

ツンデレではない。心の奥底から男の事は蔑んでいる。
カリプソは無論の事、バルハトロスもヴァンフレムも宗太郎もリヴァンケでさえも、
マチルダは結局のところ、自分がその気になれば容易く籠絡できる低脳だと思っている。
だから、そんな低脳のカリプソが裏切るなど……あって良い事ではない。
裏切り者か、ミスを恐れて逃げた無能か、
いずれにせよ『言う事をきかないクズ』であり、
下手に動かれる前に始末しなければならない。

「(……いや、もう先手を打っている?
  ゴトリンかオルトノアか……もうカリプソから事情を聴いて、カリプソを庇っている?
  じゃあ、もう手遅れ? わ、私の……私の未来が……??)」

マチルダの預かり知れない所で話が進んでアデル達に到着……そのまま制裁されてしまう。
そんな妄想を抱き、内心で怯えながらも、
マチルダはS-TA内の研究員や機関員達を籠絡して情報収集を続けた。
執筆者…is-lies

  XX月 XX日


カリプソの手掛かりは無し。

アデルから来客の紹介があった。
ユズノハとかいうフザケタ格好の女達だ。
頭に変な猫耳みたいな飾りなんか付けている。
こんな男に媚びたような格好をして平然としているなんて、
女の風上にもおけないし、お近付きにもなりたくない。
でも火星の遺産に重要な役割を果たすとかで、
アデルは南極遺跡の中枢に住み着かせると頭のおかしい事をホザく。
あんな脳味噌に行く栄養を乳に吸い取られてるようなアホっぽい女を、
S-TAの機密に触れさせるとか訳が解らない。
新しい奴隷にJHNの詳細な情報を喋らせたが、
カリプソは『JHNの機能』については嘘をついていなかったようだ。

非能力者のメディアはほぼ前支配者の脅威一色だ。
1時間もしない内に英国壊滅は流石に刺激が強過ぎたらしい。

アメリカのDNN(デウス・ニュース・ネットワーク)が前支配者とは異なる放送。
ハボローネ条約機構のオムロギ共和国で完成した軌道エレベーターが火星との運航を開始。
ソマリアの暴徒やイスラム過激派、S-TAによる攻撃を警戒すべきとアメリカが軍事支援を提案。
前支配者に関する言及は無し。

EUがイギリスことベルトンに人道的支援を行う用意があると発表。

ALG保護領ハボローネ条約機構がS-TAに和平の提案。
領土がS-TAに近いだけあって、前支配者投下の結果に怯えているのだろう。
だがアデルが和平など飲む訳ない。

宗太郎が韓国から玲佳を連れて戻って来た。
不在中、本田グループ乗っ取りの為に誑かした娘との間に子供が出来ていたというのに、
知らせてやっても実に淡白な反応しか返さなかった。
玲佳などに心酔する気が知れない。

法王庁がS-TAに停戦勧告。
ラ・ルー・ヌース法王自らが声明を発表し、S-TA内部でも動揺が広がっている。
だが解釈次第ではS-TAを鼓舞するものになるとしてアデルが演説を予定。
ミラルカの部下のグレナレフがアデルに何か口添えしてたみたいだけど。
超韓民国の臨時政府が発足。
宗太郎が言うには、既にS-TAの傀儡との事。
ソウル大学の地下研究所調査と、転送基地の設置も宗太郎が担当する。
不確かな情報だが、火星開拓団のロシア代表レオナルドが、S-TAを称賛。
地球の諸国家など見捨てて火星と国交を樹立しようと提案しているとか。
アデルも満更ではなさそうだし、もし本当ならS-TA最初の友好国は火星になりそうだ。
まぁ、火星が独立できるかどうかは別としてね。
細川財団ドイツ祖国遺産協会(アーネンエルベ)に、火星から発掘された遺産30点を寄贈。
エンパイアの遺産だとは思うが所詮、非エンパイリアン人類には遺産の使い方など解らないだろう。
だが捨て置くのも難だ。回収を進言してみよう。

 




  XX月 XX日


カリプソの手掛かりは無し。

アデルとオルトノアが密談。
何を話しているかは大体予想がつく。
あの我が物顔でS-TAに居座っているユズノハの事に違いない。
『レイジアの間』と名付けられた部屋からは出てこないが、
私は非能力者側のスパイを疑っている。何をしているか解ったものではない。
奴隷の男達を使って探りを入れてみよう。

アデルが法王の声明を、能力者を激励し非能力者による弾圧行為を非難するものだとする見解を発表。
そして法王庁を能力者の同士として尊重し友好使節団を派遣するとか言い出した。
どういう訳か演壇に子供を大量に並ばせたけど、何の意味があったのかしら?

ベルトンがEUの支援を拒否。
私財で全ての国民を救えると豪語。
思っていたよりもディノラシオール家というのは蓄財に精を出していたらしい。
折を見てオーディア家同様、こいつらも手札に加えてやろう。

アメリカ合衆国が対S-TAの精鋭部隊『フィアサムクリッター』について言及。
ベルトンへの攻撃から転送施設について見破っている節があるような発言もしていた。
大々的に発表する辺り、囮か何かだろうと宗太郎は分析していた。
宗太郎は多少なりとも使えそうだし、其の内に私の下僕にしてやっても良い。

旧イギリスの皇族2人が存命を確認される。
オーストラリアにいたレオポルド・ウー・ブリタニアと、
カナダにいたシュナイダー・エル・ブリタニアの2人だ。

霊魂研究部の連中がこそこそとゴミ捨てしているとかで、
バルハトロスが霊魂学部のゴミ漁りを密かに提案して来た。
馬鹿馬鹿しい。この私の研究にオルトノアなんかのゴミなど必要ない。
やっぱりバルハトロスというのは馬鹿な男だ。
私が誘惑してやる程の価値は今のところ見出せない。
細川財団の細川春栄会長と、魔法学院のグレイス・ゲットリック学院長が会談。
S-TAが古代火星文明の遺産を使っている事を見抜いているような発言あり。
「S-TAの用いる未知の兵器群を解析し対策を講じる」とした。
非エンパイリアン人類が、エンパイリアンに……この白薔薇の女王に歯向かおうというのか?
身の程知らずめ。思い知らせてやる。
フランスの能力者部隊が中々に厄介な連中らしい。
S-TAの西欧方面基地と化したギリシャを手古摺らせていると聞く。
宗太郎の言っていたヴァルカレスタとかいうヤツか。
だが素行はかなり問題があるようで、長続きはしないだろうとの事だ。
ヴァンフレムが前支配者暴走事件の責任を取って日本で謹慎。
私の奴隷を同行させてヴァンフレムの動向も探っておくとしよう。
霊魂研究所はオルトノアと、新しく副所長になったゼペートレイネという奴が仕切るらしい。
だがコイツ、何かイルフィーダのトンマと同じタイプのスメルがぷんぷんするわね。
調べてみたらオムマアー機関でクローン研究をやっていたらしく、霊魂学者ではない。
韓国の時みたいに、霊魂研究の被験者をクローンで創ろうという事か?
バルハトロスは私をハブって自分達だけで霊魂学部のゴミを調べに行ったらしい。
そして何の成果も得られずに帰って来て憤慨してる。だせぇ。
リゼルハンクグループ会長カノンラッグが、
オルトノアと連絡を取っていると奴隷から報告あり。
リゼルハンクの高津という科学者は中々使えそうだと目を付けていたのに、
オルトノアのヤツ、手を出しに来るんじゃないでしょうね。

 




  XX月 XX日


カリプソの手掛かりは無し。

ユズノハを探らせた奴隷がとっ掴まって私の事をゲロった臭い。いずれ始末しておこう。
アデルが動く前に急いで証拠を捏造してイルフィーダのせいにしておく。
あいつは軽く脅せばハイハイ言う事を聞くから便利だ。

火星の法王庁が非能力者陣営に対して停戦とS-TAとの和平を呼びかける。
多分、アデル辺りが流した非能力者による私刑の写真を大量に提示して、
非能力者側の非を最大限に強調した感じの構成になっていた。
トードストール王国アリシア女王も法王庁と同様の声明を発表。
この国は『Hope』到来直後から能力者に親身だったとして人気が高く、
S-TA内でもトードストールは特別視する者が多い。アデルも軽々と攻撃は出来ないだろう。
ドルヴァーンが離反した。
やはりトードストールの影響力か?

クリス欧州委員長の罷免は当面保留。
イギリス壊滅の混乱を回避するためとかで首が繋がったらしい。
何でだかアデルが悔しそうな顔してやがった。
ヴァンフレムと一緒に日本に送った奴隷から報告あり。
『炎を使う黒い狼の子供』に襲われてるので助けて下さい……だと。
まぬけ、死ね。予めJHNで記憶を操作してやったので、脳味噌見られても私に繋がる情報は出ないはず。
アデルが最優先暗殺対象として、
新生国連軍の白水東雲とかいう男を名指しした。
何でもフリーの能力者達を纏めて神出鬼没な遊撃隊みたいなものを組織したそうだ。
ディレイト桐真、S-TA最強の暗殺者と呼ばれる2人が刺客として放たれた。

アデルがALG保護領とハボローネ条約機構に対して攻撃を指示。
まぁ、こうなると思った。

ALGには私のウムデレベを使用する計画となった。
どうもオーディアの奴等がプレゼンしていたらしい。余計な真似を。
併し、私の天才ぶりをボンクラ共に見せ付けてやるのも一興か。

リヴァンケがハボローネ攻撃を買って出た。
南アフリカの転送基地を使って侵入し、現地の能力者を扇動するのだという。
既に準備は整っているとかで明日にも出発する。
これから私とボンクラ共の格の違いを見せてやろうというのに、間の悪い事。
だが、直接アフリカまで向かうような事か?
リヴァンケを下僕にする程度は容易だろうが、どうにも動きが読めない。
ギリシャを制圧しているS-TA軍が非能力者軍の侵攻に苦戦を強いられている。
ニコライというロシア人が指揮する能力者部隊が合流してから流れが変わったとして、
S-TA右将軍にして西ヨーロッパ方面軍総司令官のゼノキラが直々に出向く事になった。
ロシアの更なる援軍を阻止すべくウムデレベの御鉢が回って来た。
……ロシア北西部周辺を私が攻撃する……やっとロヴァニエミの本家を私の手で潰せそうだ。
ただ、ミラルカの奴が気掛かりだ。アイツは私の事をどうにも好いていない。
自分も東欧を見捨ててS-TAに来たクセに、私やオルトノアがちょっと遊び始めると直ぐに小言を言い出す。
アイツの部下のグレナレフも、私を探っている節がある。面倒な連中だ。
前支配者についてヴェインスニーク家から質問状が届いた。
珍しい。目的意識がない豚だと思ってたんだけれど。
……もしかして、こいつらトルじゃなくて前支配者を求めてる一族なのか?
前支配者についてはS-TAのヘプドマスとオグドアス以上にしか知られてないし、
はぐらかしておいた方が無難か。

 




  XX月 XX日


カリプソという男が霊魂研究部の極秘プロジェクトに参加しているという報告が来る。
あのクソガキ、やっぱり知ってやがった。
極秘プロジェクトというと件のARとかいうやつだろうか。道理で謎だらけだった訳だ。
このまま霊魂研究部に殴り込みしに行きたくなるが、
どうせもうカリプソがいたという痕跡も残してはいないだろう。
其れに問題は一層厄介なものになった。
オルトノアが私の暗躍をカリプソから聞いているかも知れない。
カリプソ程度の末端なら密かに消すのも楽だったろうが、
流石にオルトノアを暗殺するのは難しい。
オルトノアは何処まで知っているのか。此処を見極めねばならない。

この前べしゃった奴隷を処分した。
オーディアの武器である『世界樹の種』を使ったが、存外便利だ。
これがマヌケのオーディア共の玩具だなんて勿体ない。
私が真に素晴らしい生体兵器として完成させてやろう。

イルフィーダはS-TAの客人を徒に刺激した角で、こってりと油を搾られた。
アデルもオルトノアも厳重にユズノハを扱っている。私を蚊帳の外にして……気に入らない。
日本国総理大臣かつらい良明が、
S-TA難民を日本で救済し無条件無制限の生活保護を約束し、職業訓練を受けさせると発表。
……S-TA難民って何? 職業訓練? どゆ事? 何かアデルがブチキレてる。
アデルが日本国に宣戦布告した。相当キツい表現で皆殺しを宣告。
手始めにオルトノアの新兵器が秋葉原に投下された。かつらいの発表から2時間も経ってないんですけど。
秋葉原といえば確か魔法学院が近くにあったはず。くそ、先を越されたわ。
グレイスとかいうアホ助はもう死んだのだろうか。
秋葉原の現状は実に興味深い。
オルトノアが用いたのは特殊なウイルスだったのか、秋葉原の市民を無差別かつ瞬く間にエネミーにしていった。
前支配者のアウェルヌスがエネミーを一瞬で創ったと言っていたが、このウイルスも相当なものだ。
もしかしたら前支配者の力を再現したものかもしれない。
日本国の総理大臣かつらい良明を含む連立与党の大半が行方不明で、
国政がパニック状態との報道あり。幾らなんでも脆過ぎ。
リヴァンケが南アフリカ転送基地へ出発。
どうにも読めないヤツだが、奴隷達に調査させた結果、
あいつは密かに『ルーラー』とかいうものと『レシュイル』という男を探しているそうだ。
いずれも憶えがない。何かの符丁のようなものかも知れない。
もしこれがトル・フュールや其れに関わるものだとしたら、リヴァンケは始末しなければならない。
日本国の総理大臣御一行様が国防機密書類を持ってS-TAとの接触を図った角で緊急逮捕。
一体、何がどうなってるの?
日本国の連立与党の残りが臨時内閣を名乗って秋葉原を隔離封鎖する事を決定。
まだ生き残りが大勢いるだろうに、思い切った事を。
アデルは非能力者達の醜い本性が現れているとして喜んでいる。
日本国で能力者が秋葉原の住人を次々救出したという報道あり。
一般人と思しき2人の能力者という話だが映像は出回っていない。
アデルは憤慨して、非能力者に与する能力者は特に惨たらしく殺せと指示を出した。
何だかんだでオルトノアの日本攻撃は大した戦果も無し。ざまぁ。
オーストラリア東部、ロシア北西部周辺、南米にウムデレベを投下。
攻撃目標は、ケアンズ、モスクワ、ロヴァニエミ、プンタアレーナス。
私の人生を操ろうとしたレム家の低能共め。自分の罪深さを思い知ってから地獄に堕ちろ。
ロヴァニエミに攻撃成功。
流石に此処を攻撃してくるとは誰も思っていなかったでしょうね。
笑いが止まらない。さようなら、私の悪しき汚物の過去レム家。
レム家といえば最近『青い薔薇を使う天才』なんてのが取り沙汰されてたっけ。
天才は私だけで充分だったわね。
青薔薇だか何だか知らないけどさっさとウムデレベの養分になって頂戴。
有り得ない。
ロシアの転送基地が潰された。ウムデレベでモスクワを攻撃出来ない。
ドルヴァーンディレイト……あの裏切り者共、男の分際で私を邪魔するなんて絶対に許さないわ。
男の無様さと惨めさを骨髄にまで思い知らせてから凄惨、身の毛も弥立つ最期をくれてやる。
執筆者…is-lies
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