リレー小説5
<Rel5.聖ント1>

 

 

 ある町で大虐殺が起きた。
 能力者反応が陽性だと診断されたものは片っ端から容赦なく拷問の末に殺され、
 ギリシャの精鋭能力者部隊である聖ントがこの町の制圧に来た頃には、「その町にいる能力者」は聖ントの三人…

 あらゆる生命を問答無用であの世送りにするという触れ込みの男、ヤッPマスク、
 拷問の専門家で、どんな相手だろうと15回も苦痛を与えて殺すサド、コッチヲミロォォォォ、
 美女とも思える美貌を持つ男、極度のナルシスト、アフロ、

 この三人しかいなかった。
 広場は死臭と蝿に溢れ、砕けた骨や汚物で地面すら見えない。一歩足を踏みつけるたびに溢れる蛆に、アフロが顔をしかめる。

「ひどいな、これは。……ええい! うっとおしいウジどもめ! 気色悪くてかなわん!」
「まったくだぜっP。ったく、殺すんだったらせめて燃やせよっP……うわっ、なんか踏んだ」

 ヤッPマスクが同意する。コッチヲミロォォォォもこの状況には辟易していた。
 広場の腐乱の山を踏みつける三人を囲うように、非能力者たちが能力者たる自分たちを睨みつけている。
 その眼には恐怖が明らかに見えており、そんな弱者どもをいたぶるのが大好きなコッチヲミロォォォォからすれば、
 それはもう今すぐにでもこの町のBGMを住民全員による悲鳴の大合唱にしたくなるというのに、
 ギリシャ政府からは「非能力者の殺害の禁止命令」を下されているのだ。
 政府としてはこれ以上の非能力者側との対立を深めたくないのだろうが、今さらである。
 能力者を戦力としている政府と非能力者側はもうとっくに関係修繕不可能になっているというのに、
 政府はいまだに淡い期待を抱いているらしい。いや、現実逃避か。
 ともかくギリシャ国の一般人を殺してはならないということであり、そのことがコッチヲミロォォォォのフラストレーションを溜めに溜めまくっていた。

「あぁまったく! つまらん任務だ!
 なんだってこんな田舎まで来てこんな臭いところにいなきゃならないんだ!?」

 非能力者の民衆たちは、好き放題言い合う聖ントに文句一つ言わない。
 代わりに眼で訴えてるのだろうが、彼らはそんなものに見向きなどしない。
 彼らはこの町を制圧する際、死人を一人も出していない。そして彼らは一切の傷を受けていない。
 殺傷率の高い凶悪な能力を持つ三人が、何百もの人間と戦って、一切の死人を出していないのだ。
 その異常さは、既に全員が眼に焼き付けている。

 彼らに石を投げつけた若者が、コッチヲミロォォォォの指一本で絶叫をあげ、意識を失った。
 ある男がアフロに血と泥と糞尿の塊を投げようとした途端、薔薇の蔓が彼を地面に縛り付けた。
 斧や鍬を振り下ろそうとした大男は、ヤッPマスクのみぞおちへの一撃で悶絶した。

 能力者どもを悪魔と罵った民衆は思い知った。本当の悪魔はこの三人だ。
 この三人は、その気になれば自分たちを一瞬で惨殺しつくすだろう。誰もがそんな奇妙な確信を持っていた。

「もうさっさと責任者呼ぼうぜ……早く帰りたいっP……」
「そうだな。この程度の町、下級聖ントだけでもどうにかなるだろう」

 そんな怖ろしい三人組は、心底ウンザリさせられるといったような顔で、はやく帰りたいと何度も呟いていた。
執筆者…夜空屋様

  ギリシャ、ある田舎町の町長宅

 

「というわけでこの町は我々政府の管理下に置かれる。
 何か質問があるならばこの書類を読め。
 そこに貴様の質問とその答えの大半は載っているはずだ。もし載っていない質問をしたいならば今ここで言え。
 ただし質問一つにつきスカーレットニードル一回だ。で、質問は?」

 コッチヲミロォォォォが、
 聖ントによって制圧された市町村に対しての取り扱いを無駄に細かく記した分厚い書類を、町長の目の前に叩きつける。
 実質的に質問することを許さないその傲岸な態度は、
 能力者を憎む非能力者たる町長の逆鱗に触れるには充分すぎるのだが、
 いくら町長が激怒したところで、この三人はため息を吐くよりも簡単に町長を屍に変えてしまうのだろう。
 実際に屍を作ったわけではないが、そうさせると確信させるほどの凄みを放っていた。

「質問は無い……っぎぃがっっ!?」

 恨みがましくコッチヲミロォォォォをにらんでいた町長に、不意を突くようにスカーレットニードルを叩き込む。

「違うだろう町長? 『質問はございません』だろうが。なんだ、敬語も使えないのか。無能め」

 やれやれ、とため息を吐く。激痛に悶え苦しむ町長を見下しながら、コッチヲミロォォォォは蔑むように続ける。

「そんな無能だから床の上で転げまわっているんだ。
 貴様は無能で無力だ。そのうえ俺に対して敬語も使えんとは。もう本当に生きてる価値が無いな、クズが」

 好き放題罵るコッチヲミロォォォォに、町長は何も言えない。
 何か少しでも口を開けば、その瞬間にでもあの激痛が飛んでくるのだろう。
 これが、本当の能力者だというのだろうか。
 ならば自分が今まで粛清した悪魔どもはなんだったのかと町長は一瞬考えたが、
 その答えが出る前にコッチヲミロォォォォが町長を足蹴にしていた。

「町長殿は質問が無いようだな。ではさっさと帰らせて…
 …どうした、蟹?」

 それまで暇そうに室内をふらふらと歩き回っていたヤッPマスクが、あらぬ方向を見ながら変な表情をしていることに気がつく。
 呼ばれたことに気付き、ヤッPマスクは怪訝な顔をした。

「蟹言うな。……いや、この家、死に掛けの奴がいるっP」
「なんだって?」

 ヤッPマスクの言葉を聞いて、町長の顔を見る。
 うろたえている、そして何かを隠しているように、視線を泳がせている。

「どういうことだ!」

 二発目のスカーレットニードル。絶叫をあげる町長。
 ヤッPマスクは残忍な男だが嘘は吐かない。
 彼の能力は他者の生命エネルギーのようなものを知覚し意のままに出来るというもので、
 それを利用しての一撃必殺が彼の特技だが、それよりも彼の持つ地味ながらも重宝される技が、今の生命探知である。
 どんな場所に隠れようが、生きている以上は彼に見つからない者はいない。

「し、しらな……うばらっ!」

 三発目。痙攣する町長。

「この期に及んでシラを切るのか? これだから無能は!
 まぁいい、死に掛けというなら恐らくは能力者だろう。非能力者ならば貴様らが手厚く看護してるんだろう?」
「探すのかい?」

 醜いものは一切視界に入れたくないとばかりに、
 手鏡に自分の顔を写し出してそれを眺めていたアフロが、視線を鏡に向けたまま言う。

「能力者は保護しろ、が上からの命令だからな。……まぁ、アフロはそこにいろ」
「当然そうさせてもらうよ。これ以上醜いものは見たくないのでね」

 薔薇を口にくわえて、鏡を手にベストアングルを模索しているアフロはほうって、
 コッチヲミロォォォォはヤッPマスクに訊ねた。

「場所はどのあたりだ?」
「地下室っぽいP。……んだけど、なーんか変な感じだっP」
「変? 何がだ?」

 部屋の中に地下への階段が無いことを確認し、家の外に出る。
 恐らく、地下へは外から入るようになっているのだろう。

「いや、死に掛けたと思ったら少しだけ戻って、
 それからまた死に掛けるの繰り返しというか……正直、こんな反応は初めてだぜ。……っP」
「わざわざ言い直さなくても別にいいだろ。……ここだな」

 町長の家の裏側にある木製のドアを蹴り壊す。
 そこは物置のようで、さらに奥には地下への階段が見えた。
 地下の階段からは光が漏れ、微かに声が聞こえてくる。複数名で、どうやら全員男のようだ。

「……何やってるのか想像ついちまうぜっP」
「そうだな」

 階段を下りる。そこはどうやら小さな牢屋のようで、そこから光が漏れていた。

 そこにいたのは、錠に繋がれた女と、その女に劣情と暴力をぶつける三人の男。

「『カタケオ』!」

 男たちが二人の存在に気付くと同時に、コッチヲミロォォォォが三人の男に技を放つ。
 途端に男たちはまるで火の海にいるかのように苦しみだした。
 自分の魔力を相手に痛みとして流し込むコッチヲミロォォォォの能力は、火傷の痛みまでも再現可能である。
 絶叫する男たちを尻目に、ヤッPマスクは錠に繋がれた女をまじまじと見つめていた。

「へっ。こりゃまぁ……なんとも。なるほどっP」

 女の頬には殴られた痕があった。いや、殴られただけでは済まない。
 殴り傷は顔だけでなく、腕にも脚にも胸にも腹にもあった。むしろ殴られていない箇所を探すほうが難しかった。
 殴られただけではない、鞭で叩かれた痕もあった。火傷の痕があった。
 切り傷もあった。靴で蹴られていた。指の骨は当然全て折れていた。爪は全て剥がされていた。
 髪を無理やり抜かれていた。歯は折れていないものを数えた方が速かった。
 首は紐で絞められたような痕があった。胸は針か何かで刺されていた。肋骨は折れていた。
 肌は紫色に変色し、足の骨は砕かれているようだった。強姦もされていたようだ。
 生きている方が不思議だった。これで死なない事が不思議だった。
 それでも、微かに呼吸していた。脈が動いていた。

「蟹、わかるのか?」

 コッチヲミロォォォォは、そこで何が起きたか想像して少し興奮したが、あくまで冷静にヤッPマスクに訊ねる。

「……治癒能力者だっP」
「ああ、なるほど」

 女の傷が、二人の見てる前で塞がっていく。女の口から、呻くような呟きが漏れた。

「……とりあえず持って行くか」

 錠を破壊し、女を担ぐ。
 異常なまでに軽かったが、担いだ際に女の血が鎧に付いて、コッチヲミロォォォォは顔をしかめた。 
執筆者…夜空屋様
inserted by FC2 system