リレー小説5
<Rel5.ヴァストカヤスク・サミット2>

 

 

「………成程、大体の流れについては把握させて貰った。
 レイジア、エンパイリアン、四凶、前支配者、八皇女、トル、ビフレスト、
 リゼルハンク本社ビル崩壊が様々な意味で転機となっているようだ」

高津の映像とデリングの説明を経、小泉首相が溜め込んでいた空気を吐き出しながら全てを理解したと言う。
其の額には一筋の冷や汗。
各国首脳も同じような様子で、高津の映像が齎した真実の重大さを噛み締めている。

「ですな。トルによって一定の判断が下されたという転機」
「エンパイリアンの雌伏の終焉という転機」
「超古代の負の遺産が表舞台へ引き摺り出された転機」
「前支配者から続く失敗作達の犠牲が漸く報われる転機」
「我等の存亡すらも左右しかねない人類の転機」

映像の中にあったキメラらしき少女の語る記憶には、
今現在の人類を取り巻く八姉妹や前支配者、超古代火星文明を一つに結ぶものが含まれていた。
詰まり彼等は至ったのだ。
全ての最深奥へと。

「こうして見ると仙人…カイト・シルヴィスは不運だな。
 彼は流れと直接的な関係を持っていないにも関わらず、其の力ゆえ組み込まれてしまっている。
 同情に値する」

「力を持つ者も楽ではないという事だね」

「ン百万年前から強制的に因縁付けられてしまっている我々人類が同情する立場でもあるまいよ」

「併しイオルコスでは人類とも共存出来ていたというのだから、
 可能ならば他の『守護者』を利用したいところではありますボ。
 別に彼でなければセンサーにならないという訳でもない様ですしボ」

「トル級の個体ともなると相当限られてくるという話ですよラヴァルモット殿」

「併しレイジア教とは……
 第四次大戦でSFESが記憶撹乱ウイルスを用い、彼等の存在を忘却へ追いやったのも合点がいった………あ…」

「どうしました、ラスプーチン大統領殿?」

「……いや……何でも…ない……
 (やべぇよ…俺、レイジア教弾圧して滅ぼしちゃってるぢゃん。しーらねーっと)」

「併し…意外でしたな。
 私などは途中で、てっきりトルVSエンパイリアンの構図かと思ったのですが、
 まさかトルが…」

「トル自身も其処には気付いていないかも知れないわね。
 でも成程…エンパイリアンが真に望んでいる敵がトルではないというのは納得ね」

「人類そのものを人質にしてまで、自らの手で『彼等』を討ちたいとでもいうのでしょうか。
 これはもう、偏執狂とかそういう段階を遥かに超えていますよ」

「レイジア…一体何を考えてこのような道を我等に与えたのか」

「んー…困ったなぁ…」

確かに彼等は全てを知った。
アメリカが連れて来た高津によって、自らを支配する操り糸を持つ者をも理解した。
併し、結局其れはどれだけ大きな情報であろうとも他者より齎されたものであり、
彼等自身が手に入れたものではない。
そんな情報に対しては相応の警戒心を抱くのは当然の話。

「…だがエンドよ。
 此処まで一方的に情報を貰ってから言うのも心苦しいが、
 我々は今日と大変酷似した状況を忘れている訳ではない…」

「第三次世界大戦…」

『ハーグウェイディユ』…ですな」

「ええ。アレを知るのは各国上層部…五英雄を含む極一部の人間のみだが忘れる筈も無い。
 確かにアレは我等と共に大戦を終わらせた。其の事については異論のある者はいまい。
 併し…あまりにも道理の通らないものであった。エンドとて当時のアメリカ大統領に憤慨した筈だ。
 …我々を欺くような事だけはないと信じたいのだが」

「其れを私に言うかね。
 リン…お前に其の発言をそっくり熨斗を付けて返させて貰うよ。
 お前こそ我々を欺いていやしないのか?」

「何の話かさっぱりだが?」

「…まぁ良い。腹の中に色んなものがあるのは御互い様だ。
 ただ今は世界の一大事…
 先を見据えて策を練りはするが、其れは破滅現象の解決策を何ら妨げる事は無い。
 そういう意味では、もっと信用して欲しいものだね」

アメリカの大統領就任や裁判で証言をする際、聖書に手を当てて宣誓するよう、
デリングはまるで其処に聖書があるかのように宣誓の構えを取った。
聖書に書かれているのはモーセの十戒「汝、偽証する勿れ」。
だがデリングは先に彼自身が述べたように宗教に対しても一歩離れた立ち位置を取っている。
信用出来る訳が無い。
そんな小泉の視線を無視してデリングは各国へと今後の対応を協議し始める。

「今後は各国、能力遮断設備や遺跡基地にエンパイリアン対策本部を設置し、
 相互に情報の遣り取りを行って頂きたい。
 ああ、勿論レイジアの『目』と思しき古代の者達に列なる様な連中も排除せねば」

「ですな。トルは決して見付かってはならない舞台装置、
 そしてレイジアは快くないデバガメ…いや、或いはトルの立場にもなりかねない不気味な存在です。
 我々の意図を読まれないに越した事はないでしょうな」

「我がステイツは何の問題も無い。
 他の諸君はどうかね?相応の施設は準備出来るのかな?」

発起人であるアメリカ合衆国は、このサミットの時点から万全の準備で臨んでいるのだから、
問題などあろう筈も無い。ホワイトハウスを筆頭に主要施設は全て常時AMFの影響下に置かれている。

「ほっほっほ、中国も問題ありませんよ。
 人革共は万全の結晶防御能力を誇りますし、
 植み…いえ……同盟国にだって幾らでも火星縁の遺跡がありますシナ」

「ネオス日本もだ(立川のネオ永田町を使う事になろうとはな…)」

「……我がロシアは…むぅ、これは苦しいところだ。
 研究学園都市(ノヴォシビルスキー・アカデムゴロドク)くらいしかなさそうだ。
 まぁ、他国の厄介になるような事はないだろう」

「サンサーラもね」

「ほう、サンサーラは本当に大丈夫なのですか?
 難なら我が中国が力添えをしてあげても…」

「大きなお世話よ。中国に借りを作るぐらいなら舌を噛んだほうがマシだわ」

「一国の長となられたのだから発言には気を付けるべきでは?フロイライン」

「…そういうドイツはどうなのかしら?」

「カインプロブレーム(気ニスンナ)。エーテル後進国とはいえ相応の守りはある」

「EUの各国は心配に及ばないわ。トードストールが全力で支援するのだからね」

「頼もしいボ。流石はエーテル先進国だボ」

「残念ながら今のブリタニア・カナダは其れだけの設備が整っておりません。
 デリング大統領殿、アルバータ州遺跡基地を借用させて頂きたいのだが…
 …レオポルドお兄様の方はどんな様子ですか?」

ブリタニア・カナダの皇帝シュナイダーがブリタニア・オーストラリアの代表であるレオポルドへと問う。
イギリス崩壊後に散った王族が其々新皇帝を立てて正統なる大英帝国後継者を主張している為、
この皇帝シュナイダーとレオポルドは同じ血の通った兄弟なのだ。

「う、うーん……こればかりは『ノウちゃん』に聞いてみないとなぁ…
 この場での返答は保留させて貰うよ」

「イスラム共栄圏も準備は万全だ。なぁムシェ・HA☆GA大統領よ」
「も、勿論ですっ!特に最近はテロリスト対策の強化もあるので虫一匹紛れ込めない警備体制です!」

 

 

 

 

 

 

 

「…あの……超韓は?」

「「「あ゛?」」」

何故無視すんの?と訴えるノムヒョンだったが、各国首脳の反応は冷淡そのもの。
国際会議には次官クラス、閣僚クラスなどの「ランク」がある。
此度のサミットはランクのトップである各国の最終意思決定者達が直接話し合う事が主眼のサミットなのだ。
其れを考えてみると、この場に於けるノムヒョンの立場というのも見えてくる。

ロシア連邦…『大統領』ラスプーチン
ネオス日本共和国…『内閣総理大臣』小泉純一郎
中華人民共和国…『国家主席』グ・ジンユー
アメリカ合衆国…『大統領』ビンザー・デリング
トードストール王国…『女王』アリシア・エムレールート・フォン・エルイトツール
サウジアラビア王国…『国王』モハメト・シャーハンシャー
エジプト・アラブ共和国…『大統領』ムシェ・HA☆GA
フランス共和国…『大統領』ラヴァルモット・プロヴォーネ
ブリタニア・オーストラリア…『ウルトラヴァイオレット』レオポルド・ウー・ブリタニア
ブリタニア・カナダ…『皇帝』シュナイダー・エル・ブリタニア
サンサーラ共和国…『首相』マハーラージャ・ソーマ
ドイツ連邦共和国…『首相』ムーヴァイツレン・クーデル
大名古屋国…『首相』本田ミナ

統一超鮮…『暫定超酋長』ノムヒョン

統一超鮮のトップであるゴールドマサデイ『総書記』の支配下である超酋長…しかも暫定。
下っ端でしかないガキの使いの『暫定超酋長』がサミットで合意しようが何しようが、トップ『総書記』の鶴の一声で覆されかねない。
よって超酋長なんぞの意見など誰も気にしていないのだ。

「総書記が来ないと話にならないんだがなぁ
 まぁ良い。君らの所はどうなっているんだ?
 確か遺跡が幾つかあったはずだろう」

「…あ、あー…其の……
 再開発の邪魔になるから取り崩してしまって…」

「…どうして君らは歴史的な遺物にもそんな無頓着なんだ?
 声高に歴史を誇るのに、其の歴史を軽んじているようにすら見えるぞ。
 今回の話を聞いたからには君らにも協力して貰わねばならんというに……
 仕方ない。設備については我々の…」
デリングの話を遮って、グ国家主席、ラスプーチン大統領が口を挟む。

「おおっと、アメリカの出る幕ではありませんなぁ」
「其の通り。そしてグ国家主席殿、貴方の出る幕でもなぁい。
 万事はロシアに任せ…」
「ほっほっほ、ラスプーチン殿…貴方が先程言ったばかりですがねぇ。
 ロシアにどれだけ余裕があるというのですか?」
最寄の統一超鮮に他国の影響力が及ぶ事を嫌っているのだ。
自分を無視して勝手に言い争いを始める各国に、遂にノムヒョンがブチキレた。
「ファビョーーーン!!
 何、当事者をシカトして話を進めているニダ!?
 此処まで差別が罷り通るとは失望を通り越して笑えてくるニダ!
 流石WASP(ホワイト、アングロサクソン、プロテスタント、総じて白人)汚い!汚いWASP!
 傀儡国家のエジプトや大名古屋国まで参加しているのに、ウリナラをランチにしか呼ばないのは差別ニダ!
 差別の撤廃を要求するニダ!!」

数秒でもう怒った理由を置き去りにして別の鬱憤を吐き出す。
怒りの感情が強力な燃料になる事を知って、態と怒って本当の主張に勢いを付ける。ただ其れだけの行為だった。
つか傀儡とか本当の事を臆面もなく言われてムシェHA☆GAもミナも顔真っ赤。

「IMFが介入するような国が入れる訳ねーだろ」
「いーじゃねーかよ、飛び入り参加出来たんだから」

IMF(InternationalMonetaryFund=国際通貨基金)…超韓民国にとって特に忌まわしい存在であった。
通貨と為替相場の安定化を目的とした国連の専門機関ではあるが、
援助としてしか金は出さない上、如何なる手段を用いてでも確実に取り立てる為、最強の闇金とも呼ばれている。
返済計画は強制であり、超韓民国からも金を全額取り立てた実績がある。
…そう、超韓民国は闇金に手を出して阿鼻叫喚の地獄を経験していたのだった。
強権を以って行われる政治介入…
未曾有の増税、外国人土地所有認可、外国企業参入規制撤廃、
電力や港などのインフラ公社民営化(株式発行させ数割がIMFに)、
中央銀行の議決権すらIMFの手に握られ金融オペを弄くり回されるという暗黒時代を経験している。

「お…思い出したニダ……IMFっ…!」

其の記憶を呼び起こされ、少しは大人しくなるかと思った各国首脳だが…
斜め上だった。ノムヒョンの思考は。

「IMFは過去の間違った統治で超鮮人に与えた苦痛を忘れず反省しなくてはならないニダ!
 あの超緊縮政策の所為でウリナラは滅茶苦茶になってしまったニダ!
 うちの企画財政長官もそう言ってたニダ! 」

助けて貰っておいて逆恨み。
しかも受け売り。

「…お前の顔は良く覚えておくぞ」

IMF総裁テーアイ・ストロースカンヌが、不気味な笑みを其のままに舌なめずりしながら言い、
各国首脳は、出娑張った結果が御覧の有様だよと肩を竦める。
結局、グ国家主席とラスプーチン大統領の間で話はつかず、
ノムヒョンはサミット内容を総書記に伝える伝言役をやらされる破目になってしまった。
ゴールドマサデイ総書記が来ていれば僅かながらも実りのある話が出来たかも知れないというのに、
三下のノムヒョンしか来なかった事で統一超鮮は全く良い所無しで破滅現象対策会談の一回目を終えた。

 

「さて、今回の件で諸君等の頭の中には、決して覗かれてはいけない情報が入った訳だ。
 今後、何が起こるか解らん。頭の中を読み取られないよう細心の注意を払って頂こうか」

そう言ってデリングが目配せすると、高津が小型のカプセルを取り出し、
デリングの机の上へと、其の内容物を吐き出させる。
ドイツのクルツ博士が開発したカプセルJは物体を圧縮して収納し、
手軽に持ち運びが出来るようにした逸品ではあるが、コストの問題で多様されるものではなかった。

果たして出て来たのは指輪や耳飾などのアクセサリーだ。
このような話の場で出て来た以上、ただの装飾品であると考える者はいない。
…もし、この場にタルシス・モーロック攻略戦やネークェリーハ捕縛作戦を見た者が居たならば、
或いは気付いたかもしれない。
このアクセサリーが、ヴァイスフリューゲルの対SS兵器バームエーゼルと酷似している事に。

「我がステイツから一切の精神感応を拒絶する『マインドウォール』を提供させて貰おう。
 とはいえ諸君等もホイホイと得体の知れない道具を使えやしないだろうから、
 帰った後に存分に解析…コピーしてくれても結構だ。そっちの方が安心出来るだろうしね」

「…こんなものまで用意していたとはな」

やはり、これも然程驚く事ではない。
デリングは今回の一件に関して火星開拓時からのノウハウを持っているのだから。

「破滅現象やらトルやらという解り易い脅威についての協議は終わったが、
 我々は其の他にも様々な案件を話し合わねばならない。
 当然、トルらの話からは遠ざけるべき矮小な者達も招待しなくては。
 …以後、先程の話の一切合切を胸の内に封じて話を続けようではないか」

其れはトルの目を欺く為の偽装。
各国首脳が密室で世界に関わる話し合いを行っているという目立つシチュエーションに、
監視を防ぐAMFの徹底は、トルに不審がられているかも知れない。
其処で世界に関わる別の話題による会議を同じ場所で行う事で、
僅かでも違和感を抱かせないようにするという手であった。
とはいえ次なる話題は偽装なれど確かに世界に関わる重大なものだ。

経済と産業の再構築。

現在の経済世界は混沌を極める。
一度人類が某世紀末のモヒカン宜しくケダモノに退化し掛かった人類混乱期、
当時のアメリカ暫定大統領(リカルド)が、世界混乱を煽った組織カルナヴァルの一員であった事から、
経済を辛うじて維持していた各国からのアメリカの信用は失墜し、
$安は止まらず、$の価値が見る見る下落…米国債の価値も下落して行き、
そんな$を抱えた米日中の破産が避けられないような状態になってしまった。
其処でマイケル・ウィルソン大統領は新通貨UDを導入した。
1UD=0.5$のレートで導入し、米国債の価値を半分にする代償として$の切り捨てに成功した。
そうなると今度は米国債を溜め込んでいる国が自動的に国家破産する破目になるのだが、
各国が追従して新通貨を発行し効果の拡散に成功した。
そもそも既存の経済を維持していたのは、人類混乱期でも軽傷で済んだ一握りの国家のみ。
其れ以外の国々にとっては旧世紀の遺物に縛られて再建の芽を摘まれるなど真っ平御免であり、
そんなものを律儀に守って破滅するよりも、強引にでも全てをゼロにして新しいルールの下で再出発したかったのだ。
既に趨勢が決まってしまったと見るや否や、残りの国家郡もあっさりと既存の経済を放棄する事に同意し、
呆気なく人類混乱期を象徴する世界規模での破産宣言が成立してしまった。
一度、全てを捨てて再度築き上げるという中で人類は結束し、大規模な諍いも起こさなかった。
火星開発事業で相当に過酷な氷河期を迎えたのは事実だが、
続く『Hope』到来による結晶能力の開花で、人類全体が喜びに打ち震え、
嘗てない程の気力を以って結晶技術を急速に発展させ、経済産業も旧世紀以上の隆盛を見せた。
併し其れ以降は第三次世界大戦による大打撃、八姉妹の奇跡による復興、
第四次世界大戦での経済産業の破壊、そして破滅現象……地球の経済は徹底的に翻弄されたのだ。
勿論、人類も大戦といった大破壊に備えて二重三重の防衛策を取ってはいたが、
其れでも傷痕は決して浅くはなく、早急な再生策を必要とされた。

室内にECB(欧州中央銀行)総裁マネタリ・P・C・トリシェ御一行や、
FRB(連邦準備制度理事会)議長ヘリ・バーナンキ御一行などを加えて会議は第二ラウンドを迎えた。

「グローバルな問題にはグローバルなアプローチが必要だ。
 各国が緊急対策を準備しておくのは当然。
 特にEU各国政府は域内銀行システムへの脅威を見過ごしてはならん。
 具体的な方策については…」

「あー、其の前に断罪やっとかないと示しが付かないんだ」

テーアイ総裁の発言を遮って各国首脳陣…特にEU諸国の長が、
腹の内にあるマイナスの感情を隠そうともしない声色で言う。

「断罪?」

「お前らだよECBの諸君」
「そうそう、経済鈍化の真っ最中に利上げかましたECBの皆さぁん、
 御仕置きの時間ですよぉおおおおおおぉぉっwwwwwwww」

俎上へとノコノコやって来たECBの面々に、
もう我慢出来ねぇといった様子でヨダレを垂らしながら叫ぶEU大統領ファンロンパイ。

「あの成長予想は何だったのかね?妄想?
 我がステイツは非常に危険な状況の中、UDの安定と結晶資源の高騰を止める為尽力していたのだよ?
 其れを邪魔しくさって一体全体何をしたかったんだ?
 FRBの金利引き下げに協力出来たはずだろ?金融引き締めの終了くらいは言えただろぉ?」

「し…仕方ないだろぉ!?
 インフレがシステムに存在する限り、賃金価格スパイラルという最悪なリスクの危険性が…!」 

「あのデリケートな時期にやり過ぎだよ。
 結果的にEUを深刻な経済停滞に陥れてしまった」
「経済も投資も住宅価格も下がりっ放し。貴方達の強硬路線が招いた災厄だわ。
 自分の尻尾を追い回して、現在の経済に付いていけていない証左ではなくって?」
「君達には、うちの財務相が、
 大手産業製品の輸入業者が人員削減に走り始めた話とセットで忠告したはずだが?
 EURIBOR(欧州銀行間取引金利)が何bp(ベーシスポイント)上がったよ?
 クレジット・クランチが始まっても金利は維持されたままだし、UROはUDに対して値上がりし続けている」
「何故助力もせずに逞しく妄想遊びにかまけていた?
 お前等が利上げを仄めかした後、URO高騰を背景にリスタコス結晶液価格はバレル当たり20UDも跳ね上がった。
 1日だぞ?たった1日でこの有様だ。
 複数のレバレッジつけて結晶先物がアンチUD通貨化し、もう何度目になるかも解らないリスタコスショック…
 ………何この自滅?」
「まぁ…OREC諸国すら説得出来なかったサウジアラビアにも責任の一端があるんチャイナいんか?」

イスラム共栄圏とは敵対関係に近い中華人民共和国国家主席グ・ジンユーの言い掛かりだが、
共栄圏盟主国サウジアラビア皇帝モハメトは静かに切り返す。

「仕方あるまい。商人連中とはそういうものだ。
 先物取引で価格操作に走るヘッジファンドにOREC諸国の大半が乗っかっているような状態ではな…
 どうやらソレッタ・アザディスタンや貴国の二の舞いにならなければ眼が覚めないと見える」

険悪ムードな2国は置いといてECB詰りを続ける各国。
特にEU諸国からの批判は群を抜いていた。他所の国ならまだしも自分の身内なのだから一層憎たらしいのだろう。

「EUの実体経済を不況に追い遣って物価を押し上げた此度の責任は決して軽くはない」

「とか何とか言っちゃってるけどYO?ムーヴァイツレン殿も馬脚を現したしぃー? 
 EU救済策を立てたフランスの努力を蹴飛ばしたのはアンタだかんな? 
 「救済策ナンテとろーじゃんほーす(トロイの木馬)カモ知レナイぢャン、
  我ガ国ノ納税者ヲ搾取シテらてん組ニ落トス気だナ!(キリッ!」…だっておwwwwwwwww」 

またしても机をバンバン叩いて囃し立てるファンロンパイ欧州委員長。ドイツ首相ムーヴァイツレンは屈辱に顔を歪める。
つかファンロンパイどっちの味方だよ。

「そりゃ彼が正しいボ。為政者として真っ当だボ。
 だがEUの政治ゲーム自体が機能不全なのだから、
 「てめぇのケツはてめぇで拭け」とか言った所で意味無いのは確かだボ。
 そしてこれはファンロンパイ殿、貴方にも言える事だボ。
 だっておwwぢゃねーよ、このスカタン野郎!」

フランス大統領ラヴァルモット・プロヴォーネの怒号に、
まるで空気が抜けた風船の様に萎縮し吹き飛ばされるファンロンパイ。雑魚が。
「併し…利上げを仄めかしてから今手を引いてしまえば信用を失ってしまう。
 我々は楽観的で無責任な理由で政策を作る事は許されないのだ。
 消費者の信頼の為、経済成長の為…インフレを無視する事は出来ないっ!
 我々を断罪するというのは筋違いだ!勘違いも甚だしい!
 インフレの原因である小切手ばら撒き政策や金融緩和を行ったFRBやアメリカ政府こそ地獄に落ちろ!
 尽力?はっ!冗談も休み休みに言え!インフレを世界にばら撒いている分際で何を偉そうに!
 株の買い支えや結晶投機に回っているファンドの資金が何処から出ているというんだ!
 UDとUROで金利にどれだけの差が出ているのか理解しているか!?倍だぞ倍!
 倍も金利が稼げる上にUD程暴落のリスクが無いURO債が糞蟲共に注目されるのは自明の理だろうが!
 インフレには金融の引き締めで景気を冷やすのが唯一無二の策だというのに、
 アメリカが金融の引き締めを行わないから…」

「で、小康状態をブチ壊しにしろと?
 あー…「全てアメリカの都合ではないかー」とかいうアナーキスト的テンプレートは遠慮してくれ給え。
 インフレの被害と金融不安の再発を天秤に乗っけた結果がこれだというだけの話だ」

「……ね、ネオス日本も他人事のような顔をしているんじゃない!お前等もインフレの元凶の一つなのだぞ!
 ファンド共は超低金利なネオス日本からも資金を調達して高金利な国への投資を行いマージン(利鞘)を稼いでいるのだ!
 お前等が利上げすればファンドだって投資を引き上げたはずなのに!反デリングのアンタ(小泉)が何で…!?」

「勘違いしないで頂きたい。
 私はエンドとは第三次大戦以来、馬が合わずにはいるが…決して反米ではない。
 米国がダメージを被る事によって生じる我が国への余波を度外視する愚は犯さないよ」

「こぉ…このアメポチがぁ!
 ち…中国ぅ!人民元の上昇ペースをどうして早めない!?
 ただでさえ低調なEUの景気回復が一層遠のいてしまう!
 人民元のUDに対する事実上の固定相場を解除した以上の何をやった?」

「ほっほっほ、
 過小評価していた通貨にUROが翻弄されています助けて下さいぐらいは言えないのですか?
 いやはや…ECBの癇癪に巻き込まれたEUの皆さんには深く同情します」
必死に各国を批判するものの、インフレの恐怖から暴走し、世界の金融協調路線を損なったのはECBの問題だ。
読みを誤った。
あれらはこう動くはずだ。今の時期ならばこうする。こう言えばああ動く。
其れを外してしまった。
当然だ。
脳味噌の詰まった人間様相手に策謀のみで出来る事など高が知れている。
アメリカもネオス日本も中国もEUも全ての国が、全ての企業が、全ての人が己の目的の為に歩んでいる。
そして人形使いを気取った愚か者は、人形と思い込んでいた其れらからの反乱を受けて漸く身の程を思い知るのだ。
ECBは今、自分達が各国民の怒りを向ける為の罪負い羊として育てられたと解釈したが、
実際のところは自滅だった。その死体を利用されたに過ぎない。
「警告したはずよ?インフレのみに目を奪われるなと。
 トリシェ総裁らタカ派には経済成長のバロメーターにも一層の注視をして欲しいと思ってたけれど…駄目だったわね。
 最早ECBの独立性には限界がある事を認めねばならないわ。
 マーストリヒト条約第109条(EU閣僚にURO圏為替レート決定の権限を与える)の行使も…致し方なし」
萎んだファンロンパイに代ってトードストール女王アリシアが示したEUの決定で以って生贄は捧げられた。
どの道、破滅現象のごたごたの中で金融安定など出来る筈も無いのだ。
其処へ来てECB自らが各国の協調路線を損なう方針で動いてくれた為、
全ての責を擦り付けてボロクソに扱き下ろす事で国内面での保身を図れるようになった。
正に僥倖。

「プルーデンス政策(金融安定の為の各種政策)を行う権限がねぇECBが、
 通貨発行しか能の無ぇ穀潰しだって事ぁ皆知ってる通りだわな。
 ハゲタカと内通した糞が量産されるってのも大方の予想通り」

「良い具合にECBが出娑張ってくれたから当面は批判を凌げそうだが、
 こんな状態が続けば必ず深刻な政治不信を招くだろう。
 事此処に至ってアメリカの状態は芳しくないように見えるが、実際はどのような按配か?」

兆単位の対外債務に加え、国債や政府機関債の半分以上を外国人が持っているという状態のアメリカが、
結晶捜索事業のみで全てのイニシアチブを取れる訳が無い。
だが事業をリードさせてしまえば其の内アメリカへの求心力が増し譲歩を強いられる恐れもある。
此処に至っても、やはり人類は一つになどなれはしないなと思い知らされる各国首脳だが…
デリング大統領は、さも下らないとばかりに大仰に笑ってみせる。

「君等が恐れているのはUD崩壊の危険性かね?くっくっく…有り得んよ。
 というよりも寧ろ全く逆の問題だよ。
 UD建てのバランスシートをベースとした国際的貸付がデレバレッジ(脱レバレッジ)を行い始めている。
 UDの奪い合いが起こるのも時間の問題だよ。
 大規模グローバル・ キャリートレード(安い金利で資金を調達し、高い金利で運用し利鞘を得る手法)の為、
 UDを利用してきた連中の踏み上げ(空売りしたが株価上昇に恐れをなし買い戻す)さ。
 国際的な銀行は、UDレバレッジのマージンコール(追い証)に晒されており、 
 其れ故にFRBが流動性を提供しているという訳だ。
 アメリカ合衆国はセイフヘイヴン(安全な避難先)として御注目を頂きつつある訳で、
 ともなれば反発も弱まり強引な金融刺激策も安心して進められる。
 …なぁ、この賽の目を私が見逃すとでも思っていたのかね?
 主導権が欲しいのは解るが…相手の失点狙いというのは、ちょいとセコいんじゃあないか?」

各国首脳も其の程度の事は理解している。
もしデリングが其処に気付かない間抜けだったらとカマを掛けただけだったが、
流石に其れ程ちょろい手合いではなかったという事だ。

…彼等は結晶捜索事業が既にデリングの掌の上で進む事を見抜いていた。
アメリカと競争するにせよ、アメリカに追従するせよ、最早デリング抜きでは話が進まない。
だから場違いであろうが無理矢理であろうが兎も角、結晶とは別の所で優位性を示したいのだ。
当然、ノムヒョンも同じ思惑だった。

「…併しデリング大統領、アメリカ…いや、
 此処に御集まりのお歴々もそう楽観するのは危険というものニダ。
 各国が保有する外貨準備をプールする形で積み立てる国際基金構想を検討すべきニダ。
 これで危機対応策を整備s」
「あーはいはい。要するに…世界の世界によるお前等の為の基金…を作ろうと?
 他人の財布を当てにするなよ」

「違うニダ!飽く迄、互恵的な…」

「…お前ら搬出するだけの外貨あんの?」

「…………」

「貴方々が「何々すべき」と打診してくるのはもう何度もあるが、
 其の全てが、こっちにとって何の恩恵も無い話じゃないか。
 誰が好き好んで自転車操業国家の話を聞く?」

「だ、そうだが?」

IMF総裁ストロースカンヌが「素直にこっち来いよ」と、ノムヒョンに向けていやらしい視線を向ける。
さっき面と向かって批判されたIMFが、
ノムヒョンに対してどんな判断を突きつけるかなど思考の必要性すら感じられないほどに明白だった。

哀れではある。併し自業自得でもある。
日本皇国との戦争で北超鮮の力を借り、其れを機に国家統一などという、
南北の如何ともし難い経済格差を無視して理想を求めた結果がこれなのだ。
南北統一の代償として嘗てない経済混乱と窮乏に陥り、起死回生の博打に次々挑んでは破れていった。
ノムヒョンが今回のサミットに意気込んでいたのも、
サミットで各国の信用を集めて金の流れを引き寄せようとしたからに過ぎず…詰まり博打の一つでしかない。
其れだけならまだしも、統一超鮮のそんな事情すらIMFに完全に見透かされている始末。
やがて現実を直視し己が判断を誤魔化せない状況になれば、
相手を詐欺師と責め、自分を正当化し反省も学習も無い。
そして歴史は繰り返すのだ。
結局ノムヒョンは何ら成果を得る事も出来ず、道化を演じるのみとなってしまった。
執筆者…is-lies

休憩時間、ノムヒョンは次なる一手を思案しつつトヤパレスの中庭を歩いていた。
既に各国には下心を見抜かれ、IMFからも足許を見られ進退窮まった状態ではあるが、
だからといって利益誘導を断念するなどノムヒョンに出来るはずも無し。

「ど…どの国も個別協議に応じてくれないニダ…
 このまま爪弾き者にされてしまったままではウリナラの誇りが……
 そぉ、そもそも将軍様が何も考えていないのが悪いニダ!
 ウリが出張ったところで話が纏まるわけなんて無いと決まっているのに…
 …って、そもそもウリを招待したのは確かロシア……
 おお!そうだそうだ、ロシアが悪いニダ!これは早急に謝罪t」

「ほう、言ってくれる」
「やれやれ、何という体たらくか」
「見ていられませんシナ、我々が相手をしてあげましょう」

伝家の宝刀を抜き放たんとしたノムヒョンの前に3人の影が立ちはだかった。

「お、おお…ラスプーチン大統領殿、ソーマ首相殿、グ国家主席殿!!」

とても奇妙な顔触れである。
中国と険悪なロ連のラスプーチン、サンサーラのソーマ、ロ連及びサンサーラと険悪な中国のグ、
其れが揃って休憩時間にノムヒョンと話をしたいというのだから只ならぬ事だ。

「少々ノムヒョン殿に確認しておきたい事案があってね」

「ほっほーーーう?ウリも多忙ではあるのだが、3大国の長に頼まれては拒むのも失礼n」

「「「さて……
  クローンマゲドンについて何か釈明があれば聞こうか」」」

3人が口を揃えて放った言葉に、ノムヒョンは上機嫌な表情を凍りつかせる。
クローンマゲドン…
クローン禁止法が更に強化される原因となった100年以上も昔の事件だ。
統一前の超韓民国が2億近いクローンを野放しにしてしまい、
周辺国…詰まり中国、ロ連、統一前の北超鮮、分断前の日本を混乱に陥れたのだ。
この一件に関して超韓は自らも被害者であると主張し続け、
結局有耶無耶のままに終わった。終わったはずだった。

「…何で、そんな昔の事を今更……
 過去に囚われず、未来志向で進むべきではないニカ?」

「勘違いして貰っては困る。
 今更補償云々と誰かさんのような事を言う気はない。
 我々が聞きたいのは責任の所在だよ」

「おっと、早とちりシナいように。
 当時の超韓の状況はよぉーく理解していますとも。
 あんな大量のクローンを拵える設備も技術もない事くらいはぁ」

「貴方達は何かに唆されていたのではなくって?
 全ての責任は超韓ではなく其の連中にあるのではないかと見ているのだけれど?」

「な…何の事だかさっぱりニダ…」

「しらばっくれなくても良いわ。
 其れとも全ての責任は貴方達、超韓にあるの?違うんじゃないかしら。
 良く考えると良いわ。本当に悪いのは一体誰なのか。
 私達に其れを教えてくれるのならば、私達は積極的に過去の汚名を払拭するよう働き掛けても良いわ」

「…其れは、本当……い、いやいや、訳分からんニダ…」

「ふぅむ、まだ隠し通せるなどと思っているのかな。
 八姉妹『玲佳』本田宗太郎が接点を持った事件を我々が知らないとでも?」

「本田グループの手引きでソウル大学から命辛々逃げ出したそうだね玲佳は。
 我々は別に、この事を種に云々とは考えていない。少なくとも今は興味が無い。
 問題はお前らが今まだ例の黒幕とのパイプを持っているかどうかだ」

「!!?」

「火星水位上昇事件の際に超結晶を暴走させ調査隊の潜水艦を沈めた存在…
 転送された映像を見て確信したわ」

「あの外見…そして結晶の共鳴現象…こうも情報が揃えば君等へと至るのは容易いよ」

「ほっほっほ、そう…お前ら棒子共が実験体として複製た玲佳の一体だったのですからね。
 詰まり我々は、お前等がまだSFESと繋がっているんじゃないかと疑っているんですよ」

 

 

 


「……そういう…事だったんです…ね」

 

声のした方へとラスプーチン達が一斉に振り向く。
グなどは立てた人差し指の先に殺傷力を持った魔力の塊を生成し、いつでも闖入者を殺せる体勢に入っていた。
暗がりより姿を現したのは…
「本田ミナ…!?」

「……あの写真の女の子が玲佳……
 でも、薄々は気付いていました。
 父が崇拝する八姉妹を妻として娶るなんて事は無いだろうって。
 やっぱり私の母は…八姉妹とは無関係なんですね?
 そして、父と玲佳の関係もまた違う……」

「どうして此処に…」

「ノムヒョンさんが今回のサミットで意味を持たないくらいは私にも解ります。
 なら…そんな意味の無いノムヒョンさんを態々ラスプーチン大統領が招くに足る理由があるのか?…って。
 ゴールドマサデイ総書記に知られずノムヒョンさんに接触したい思惑があるのだと考えました」

グ国家主席が装備するバイザー状装置に、電子音と共に数値が表示される。

「おや、これは凄い。洞察力30まで上昇しましたよ。
 デリング大統領の着せ替え人形かと思っていましたが正直驚きました」

ミナの考えは当たっていた。
ラスプーチン大統領は情報を引き出す目的でノムヒョンを招待したのだ。
当時、分断されていた北超鮮側のゴールドマサデイよりも南のノムヒョンの方が物を知っているだろうし、
過去の黒歴史をチャラにし超韓ではない黒幕を用意すると唆せば、
ゴールドマサデイへの確認もせぬまま話に食い付いて来るだろうという考えからだ。
だがラスプーチンにも誤算があった。
彼の思惑はソーマとグに見抜かれていたばかりか先を越されそうになっていたのである。
ノムヒョン単独攻略の機を逃すくらいならばと、ラスプーチンはソーマとグを誘って3人でノムヒョンを落とそうとした。
併しミナにすらバレていた以上、デリングの耳に入るのも時間の問題。
アメリカを最大の敵と看做すラスプーチンにとって大きな痛手だった。
これまでのミナであれば、このように積極的に動く事は無かったかも知れない。
大名古屋国の復興という餌でデリングに利用される立場に甘んじていただろう。
併し今や彼女は…八姉妹にも纏わる火星文明の真実を知ってしまった。
嘗て理解出来なかった父…本田宗太郎の真意と其の心が…今では痛いほどに理解出来る。
「……ミナが死ねば、私は確かに涙するだろう…
 だが、其れでも地に伏す事は無い。そのまま計画を続行する…
 私がAD計画を行うのは、この星の願いであり、摂理だからだ」
「黙れ!お前等プロ共は見た事があるのか?
 虐げられる能力者達を!大戦に於ける能力者…獣人の扱いを!」
「其れに…状況は違って来ているのだ!
 高い能力を持つ者で星を編成せねば、
 いずれ宇宙は『奴等』によって破壊されてしまう!」

「……」

前支配者と肉体の主導権を奪い合いながら宗太郎は確かにそう言った。
本田宗太郎は能力者の解放を目的としていたが、
エンパイリアンの存在もまた知っていて彼等に対抗しようとしていたのだ。

「確かに……今なら父の言葉が良く解ります。
 エンパイリアンは『彼等』との戦いの為に宇宙までをも巻き込んで滅ぼしかねません」

「…そう考えればトルすらもまだ制し易いのかも知れんね…彼は宇宙を守る側にある」
「私達が宇宙を蝕む害虫と看做される可能性を度外視すればね」
「ほっほっほ、どれも我々人類の敵ですよ」

過去の亡霊たるエンパイリアン、人類を無知無力の内に縛り付けるトル、
そして全ての発端たる『彼等』…
現在の人類の周りには敵しかいない。其れも眩暈を禁じ得ない程にまで強大に過ぎる敵達だ。
「で、どうなのだノムヒョン殿よ。
 我々は此処で君のはぐらかしに付き合うような気が一切無いという事を理解して喋って欲しいが」
ラスプーチン達に詰め寄られ、遂にノムヒョンは観念したように呟き出す。

「…確かに第三次大戦初期まではSFESの前身『マハコラ』と通じていたニダ。全部連中の責任ニダ。
 でもこれは信じて欲しい、今はSFESに通じている連中なんて…もういないニダ。
 昔、懇意になって羽振りも良かった奴等ですら右往左往している以上、そう見るしかないニダ。
 少なくとも以前のような影響力は維持出来ないはず………だと、思う…」
執筆者…is-lies

周囲を護衛達に封鎖させ、彼等はトヤパレスのベランダで共に濁った色の空を見上げる。
ネオス日本共和国内閣総理大臣・小泉純一郎、
アメリカ合衆国大統領ビンザー・デリング、
第三次世界大戦の英雄である2人が静かに口を開いた。

「…エンド、お前はあれを知ったからリノーアを…」

「ふん、懐かしい名前だ。
 S-TAのオカマ野郎と一緒にお前がガンブレードの錆にしてしまったがな。
 そう…あの大戦こそ、第三次世界大戦こそ私が選択者となった転機よ」
執筆者…is-lies

 

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