リレー小説5
<Rel5.ネオス日本衆議院2>

 

  ネオス日本共和国、首都ネオ東京

 

 

「我々の方こそ驚いたぞ。
 暗殺者ギルドのお遊びにお前が参加していたなんてな。
 前支配者復活に何か関係あるのか?」

VIP車輌の後部座席で脚を組んだ黒猫獣人の女は、
運転席からのロネの問い掛けには答えなかった。
顔を不快げに歪ませ、逆質問する。

「…其れより先に聞かせてよ。アンタ達LWOSはどうなのさ?
 アゼラル様は未だに封印されたままじゃないか。一体何をしてたっての?」

「これでも色々あったんだがな。
 リゼルハンクと戦争やって殺したり殺されたり、
 白き翼の連中を脅したり協定組んだり、SFESに従うふりをしたり、
 火星警察に協力してマフィアを排除したり」

「そっちこそ前支配者とカンケーない事ばっかじゃん」

「当時は前支配者解放に必要な手順だった。
 まぁ…SFESが崩壊し、調査隊が全滅してしまった今となっては…」

「動きが遅かったのは認めるわ。其れで機を逃し続け大局を見失い続けた。
 後悔してもし切れないわ」

助手席のマリーエントが真摯な態度の欠片も見出せない投げやりな態度で言う。
…其れも其のはず。
組織LWOSの所長であるバルハトロスが体現しているよう、
別に直属は前支配者に行動を支配されている訳ではない。
前支配者の謳う世界の破壊と新世界の創造を純粋に期待し絶対の忠誠を誓った者達もいれば、
単に力欲しさに、従うフリをしていた者達もいた。
前支配者の事を内心では道具扱いしていたバルハトロスが所長なのだ。
LWOSそのものも前支配者を大して重要視しておらず、
前支配者の捜索も殆ど惰性でやっていたようなものだった。

(其れに…バルハトロスは『センサー』を手に入れた。
  私達LWOSの行動はルーラー…『トル・フュール』に向かって進む事になる)


「フッフーン、別に良いけどね。
 直属ですらないアンタらに大した期待はしちゃいないしー。
 で、アタシが何で暗殺者ギルドに近付いたか…だっけ?
 第四次大戦でSFESといざこざのあった暗殺者ギルドなら取り入り易いと思ったんだよ。
 巧いこと動かしてリゼルハンクを攻撃させようと目論んでたんだけどねー
 結局アタシが何をするまでも無く、リゼルハンクは勝手に崩壊。ギルドマスターも行方不明。
 あーあー、マジ徒労」

黒猫女が吐き捨てた通り、最強の暗殺者ディレイト率いる暗殺者ギルドは現在機能していない。
火星で起きたマーズグラウンドゼロに居合わせたという話だから、
どうせもう役に立つ程の力も無いだろうと黒猫女は見切りをつけていたのだ。
人外の力を持つ者達故か、力押しの傾向が強い直属達にしては随分と慎重な動きだった。

(だが所詮、コイツは其処までだ。
  他人を使う者は自分も使われる事を、もっと理解しなくては…な)

「……ところで、ここ何処よ?」

車が止まってから漸く、其処がLWOSの施設ではない事を確認する黒猫女。
駐車場に止められた車の周りを、黒服の男達が通信機片手に取り囲んでいる。
一瞬LWOSの人間かとも思った黒猫女だったが、
黒服達の警戒心を即座に見抜いてLWOSの身内ではない事を確信する。

「今更だな。
 事前に言っていただろ?
 前支配者の直属でなければこなせない仕事がある。場所など問題じゃない」

どうもはぐらかしたような態度で返しながら車を降りるロネだが、
如何にも何かありそうな彼の言動にも黒猫女は大して気に留めなかった。

「そりゃ聞いてたけどさ。
 まー、こっちも手詰まりだし別にいーけどねー。
 協力する代わり、其れなりの成果は出しなさいよ」

黒服達に先導されてロネ、マリーエント、黒猫女が古めかしい建物の中へと入る。
最上級の羊毛で作られた赤絨毯の通路を進みながら、
ロネは後ろに続く黒猫女を哀れみ胸の内で呟く。

 

(恨むなら無力な御主人様達を恨むんだな。
  或いは…前支配者が封印された時点で遅かれ早かれこうなる事を想定出来なかった己の無関心さを恨め。
  
無思慮に力を振るうだけの存在など我々LWOSは必要としていない)

 

 

 

 

 

 

黒服達が両開きの扉を開け放つと同時に、
防音処理の部屋から溢れ出した騒音がロネ達を出迎えた。
其処は…

 

 

 

《結晶強奪事件の失態をどう清算するのか!
 小泉首相の任命責任はどうなるのか!
 こんな状態で
ジオン党がダラダラと続くなど国益を損なう結果しか齎さない!
 支持率低下の著しい今こそ
 ネオス日本国民の民意を再度問うべきではないのか!?》

「「「そーだそーだ!」」」

《内閣総理大臣、小泉純一郎君》

《えー、今オカラさんから指摘がありましたが、
 結晶強奪事件については、引き続き調査中であり…》
《調査中で済む話ですか!
 国家機密だろうと何だろうと国民にしっかりとした説明をする!
 これは当たり前の事です!
 クリーンでオープンな政治!
 其れこそが我々
ミンス党の目指すところであり、国民が望む政治の姿です!》
「「「そーだそー《いずれにせよ件の結晶は偽物であり、優先度は高くないと判断しています》

 

 


ネオス日本共和国国会議事堂であった。

 

 

 

 

 

 

其の訳の解らない光景に絶句しているのは黒猫女だけだ。
ロネもマリーエントも表情一つ崩さぬまま、黒猫女が逃げないよう扉の前へと手早く陣取る。

《…であるからに、
 破滅現象や前支配者といった優先すべき現状を一層理解して頂けると思っております》


《参考人、前支配者『直属』シャルード・ビフリアン君、どうぞ》

黒猫女…シャルード・ビフリアンが「はぁ?」と気の抜けた声を出す。
其の隙を黒服達は見逃さず、シャルードの手を引いて議場の中心部まで引きずっていく。
混乱したまま演壇に立たされたシャルードは暫し状況の推移に付いて行けず放心を余儀なくされる。

「…は?何コレ??」

《シャルード・ビフリアン君、前支配者の目的と其の脅威を説明して下さい》

 

 

「まぁそうだろうな。固まるのも致し方なしだ」
「考えたって何も解る訳無いんだけれど」

ロネとマリーエントは演壇で右往左往するシャルードを眺め他人事のように言う。
固まるのも致し方なし…何も解る訳が無い…
其れほどまでにシャルード当人を置いてきぼりにした展開だが、
シャルード…というよりも前支配者側の無関心さが招いた当然の事態であった。
人間の世界を支配する社会の『流れ』が其れを起したのだ。

 

 

ネオス日本共和国の小泉首相には焦りがあった。
敷往路メイと暗殺者ギルドの協力の下で八姉妹の結晶を解析するという思惑は、
マーズ・グラウンドゼロに於ける敷往路メイ、ディレイトの行方不明で立ち行かなくなった上、
ヴァストカヤスク・サミットでデリング大統領が結晶争奪戦に更なる拍車を掛けたのだ。

「(あんな事を堂々と訴えたのだ。足並みを揃えるなどとんでもない。
  絶対に暴走する馬鹿が出るに決まっている…!
  其の前に何としてでも私が……)」

其の考え自体が既に暴走であるのかもなと自嘲気味になりながらも、
一先ずは後の事など置いておいて、今の目の前…自らが計画した場面へと視線を戻す小泉。
演壇で混乱しているシャルード・ビフリアンの姿が其処にあった。

 

 

トル・フュールという最終目的へ至る手っ取り早い道をLWOSは発見してしまった。
トルに至る為の手駒として利用していた前支配者の価値は完全に無くなり、
前支配者を解放する目的で集まった『直属』も同様に単なる交渉道具となっていたのだ。

鉛雨街での調査に協力して貰う代わりに前支配者の『直属』を一人差し出す。

其の『直属』及び前支配者への背信としか言いようのない取り決めは、
前支配者が封印された直後にネオス日本共和国と交わされたものだった。
畢竟、LWOSとSFESの大規模な衝突が起こる前にまで遡れる話であり、
…詰まり、何も昨日今日で前支配者は道具にまで零落れた訳ではない。
SFESによって封印された時点で…
封印する技術の確立を目の当たりにした時点でLWOSに於ける前支配者の価値はほぼ決定していた。

《シャルード・ビフリアン君、
 前支配者の説明を始めてください。
 其の目的、脅威、力についても簡潔にどうぞ》

《あー…えーと、うん。
 全然話が見えないんだけど、どう理解しろってのコレ?
 前支配者の説明ィ?
 馬鹿じゃないの?
 はいそーですかって教える訳ないでしょ?》

御尤も。
幾分、落ち着きを取り戻したシャルードが壇上のマイクを片手に正論をのたまう。
ざわつく政治家達を一先ずは思考の外へと置き、シャルードは現状の理解に努める。

「(LWOSに連れて来られたと同時にンな質問された以上、偶然と捨てる訳にはいかないわよね。
  直属として認めたくない事だけどLWOSの連中…裏切りやがった?もうコイツら使えねぇ?)」

前支配者達が今まで暗躍出来ていた理由としては、
やはりSFESやLWOSといった人類側に大きな影響力を持つ組織からの援助があった…という部分が大きい。
其れが両方とも無くなってしまうというのは相当な痛手だ。
何の後ろ盾も無くなると、前支配者復活に向けた活動を大幅に修正せざるを得ない。

(…でもなぁ……)
無ければ再び作ればよい。
人間など力に群がる蟻のようなものだ。
SFESやLWOSに代わる手駒をこの場で作り上げてしまえば良い。
そう考えるとシャルードは余裕ぶった態度を強めて再びマイクを握る。

《フッフーン、でも無条件で教えてやっても良いものもあるわ。
 前支配者の目的…
 この世界を破壊して新たな世界を創造する事よッ!》

前支配者の目的など隠す必要も無い。
慌てふためいた様子の議員達を見て先ずは上々の反応だなとほくそ笑むシャルード。

《あんた達ニンゲンどもには想像も出来ないだろうけど、
 前支配者『ゼムセイレス』様が復活すれば世界の破壊も創造も思いのまま。
 前支配者の接触と同時に其の神話みたいな力の数々を理解させられた…刺激的だったわよ。
 塵芥達に命を与えて好き勝手に文明を築かせ、気分一つで何の意味も無く絶滅させる。
 この神々の娯楽に比べれば人間世界のお遊びなんて胡麻粒程の価値も無い!
 今、地球を襲っている破滅現象だって前支配者の戯れでしかないってのは知ってるでしょ?
 それだけの事が出来るのよ。誇張でも何でもなくね。
 あんた達も前支配者に力を貸せば其れなりに…》

「断る」
「「「そーだそーだ!」」」

シャルードにとっては意外だった。
小泉をはじめ議員達は物怖じせずNOを突きつけてきた。
態々、人類の敵対者たる前支配者の直属を連れて来て話をしようというのだから、
間で巧く立ち回ろうと目論む奴がいると睨んだ訳だが…どうも違うらしい。

《はァん?良い度胸してるじゃない。
 っていうか自分達の立場解ってる?あんた達今俎の上のお魚よ?
 前支配者奪還の為の小道具…ぶっちゃけ人質になって貰ったって良いのよ?》

「待て!話が違うぞッ!!」

小泉が焦ったように叫ぶ。議員達が目に見えて解る様に狼狽えて見せる。

「??」

何?何の話?とシャルードが口にするよりも早く、
誰かが「カメラ切れ」と叫び、国会中継が打ち切られる。

 

「…何?何の話?」

其の瞬間、国会の空気が変わっていた。
先程までみっともなく慌てふためいていた国会議員達は冷ややかな目でシャルードを眺めている。
其の目付きは…荷馬車に載った子牛を見るような…憐憫と嘲笑の入り混じったものだった。

「!?」

シャルードは首筋に熱い感触を覚えるのと同時に体毛が焼け焦げる臭いを察知した。
速記官の手にしたビームサーベルが一瞬の内に突きつけられていたのである。

「そーくるだろーなーとは思ってたが、解り易いなぁ。
 君、直属という立場に甘え過ぎだよ」
小泉が呆れ気味に言うが、再度の卓袱台返しに混乱を来たしたシャルードの耳には入らない。
LWOSに騙されて国会に引き渡され前支配者の情報をゲロするよう求められたから、
逆に懐柔してやろうと思ったら速記官にビームサーベルを付き付けられた…
…意味不明。
しかも速記官のみならず議長、総理、大半の議員が、
いつの間にやら得物を手にしているではないか。

「ま…待ちなさいよ!
 どーして高が政治家がンな武装してんのよ!?」

纏まらない頭で出した質問は実にどうでも良いものだった。
其れを知ったところでどうするというのか。
併し其れはシャルードが最初に抱いた偽りなき率直な感想でもある事も事実である。

「人間の偉い奴ってアレでしょ?
 上で踏ん反り返ってるだけで現場じゃ全然役立たずの雑魚でしょ!?」

「何言うとんのや?
 今の御時勢、暗殺者(アサシン)の十匹二十匹返り討ちに出来んで国会議員が務まるかいな」

「何それ怖い」

選挙時の暗殺者襲撃当たり前。
場合によっては聴衆全員がテロリスト。
国会警備員がテロの内通者である可能性40%。テロリストそのものなのが10%。
議員宿舎へのアサシン派遣、日常茶飯事。爆発物毒物発見一日平均5回。
食事の毒物混入率120%。検査スタッフもテロリストで再度毒を喰らう確率が20%。
遂には議員VSテロリストの国会バトルが見世物として番組になり高視聴率という始末。
弱肉強食の魔窟…
其れがネオス日本共和国国会議事堂なのである。

「はっは、ついさっきも何かアサシンが来てましたな」
「ダンスの巧い奴でしたな」
「踊れ踊れスタンガンダンスじゃー!ってか?」
「いや、汚沢さんが蓑踊りさせてた」

平常時と何ら変わらない様子で雑談を始める議員達。
隙だらけのように見えて其の実、シャルードの一挙一動を油断無く注視しており、
全員が何らかの武芸の達人である事は想像に難くない。
たとえシャルードが奥の手である両腕の仕込み武器を出した状態であったとしても、
とても逃げられそうにも無い。況してや議員達の排除などとてもとても。

「併し、こりゃもう正当防衛って事で良いでしょ」
「そーっすなぁ、専守防衛?」
「どんな名前が良いかね?直属国会事変とか?…やっぱ国会は抜かせないでしょ」
「インパクトあるしね」

議員達のそんな会話を聞き、シャルードは一足遅れでネオス日本の意図に気付こうとする。
何も知らずに逝くのも哀れだとばかりに小泉首相が状況を説明した。

「苦労の末、接触に成功し、
 説明の約束を取り付けたものの、途端になって反故にし牙を剥いた為、止む無く処分…
 …陳腐と言えば違いないが、まぁ……そういう事だ

「……汚い、さすが人類、汚い」

 

「Rest In Piece!マドンナ旋風!!」←社明党、土李高順
「パープルバイブレーション!」←社明党、辻冗虚見
「俺を誰だと思ってる?北斗仙手殺!」×2←ミンス党、松ジャギ&殲国
「死の宣告!」←ミンス党、垢松拾高
「ジャンピングアストロン!」←ミンス党、田中角子
「腐爺砲!」←ミンス党、腐爺
「ノンバンク・オカラ化トップバリュー拓銀ブラスト!後、ヂャスコのジーパン800円←ミンス党、オカラ克也
「友愛的宇宙開闢超振動波だッポー!」←ミンス党、ユッキー・ポッポ
「天利神拳…!あたたたたたたたたたた!!!!」←ジオン党、天利ケンシロウ
「逝くのだわ、ロイヒテンダールビン」←ジオン党、ライナルビン・フランシスコ
「インコンプリート・グレイスカルパワー!」←ジオン党、亜部震臓
「エンジェルスターダストレボリューションですぅ!」←社明党党首、天使瑞保
「面倒臭ぇ。邪王炎殺剣!」←ミンス党党首、汚沢一郎
「散れ、エンドオブハートっ!!」←ジオン党党首内閣総理大臣、小泉純一郎

「ちょ…これイジメ、何このアホな死に方くぁwせdrftgyふじこlp;@
国会議員達の必殺技を一身に受けたシャルードは、
世の中の理不尽さに毒づく暇も与えられずに即・この世を強制退去させられる。

「……はぁはぁ!恐ろしい奴だった!」
「一歩間違えれば皆殺しにされていたな、うん!」
「これが当面優先すべき脅威である事に賛成の諸君の起立を求めます」
「キョウイヤー! トンデモナイキョウイヤー!」

 

 

ジオン党重鎮達と共に退席する小泉と合流し、LWOSの2人は其の背に付き従う。
「ご苦労様でした閣下。
 併し…こんな茶番劇場で戯けなければ動けないというのも何とも…」

「残念ながら、
 破滅現象などという目に見えぬものを脅威として真剣に捉える程、
 我が国の民は成熟していなくてね。
 彼等が我が身と無関係だと思っている限り何も変わりはしない。
 其れを正せるというのであれば…茶番劇団になってみるのも吝かではないよ」
「よく野党も乗ったものですね」
「こっちから誘った訳じゃない。そりゃ自殺行為だよ。
 …ああ、先の発言に『議員にも言える話だが』…と追加しておこう。
 だが私にも其れなりに伝があってね。内部を揺らしてから人参で釣るのはそう難しい話でもない」

「成程」

前支配者をスパイ代わりにされていた事があっただけにLWOSにとっては耳に痛い話だ。
無論、小泉にそんな事を言える訳もないが。
シャルードに関しては『騙して連れて来た』と小泉に説明してある。嘘偽りの無い真実である。
前々から協力関係であったという点を無視するならば。
LWOSと直接関わりを持つ直属も、シャルードを処分した事で残り僅か。
LWOS所長であるバルハトロス、そしてLWOSのベリオムと接触した事もあるストグラぐらいだ。
(ストグラを処分すれば、もうLWOSが前支配者などに縛られる必要は無い。
  これで漸く肩の荷が降りたと言いたいところだが…お次は『センサー』の調査か、やれやれだ)
そんな事を考えながら続くロネ達を尻目に見る小泉は、
内心、彼等に対する憎悪を渦巻かせながら胸の内で呟く。

「(……隠し通せている積りか?無関係を装えている積りか?
  …エンパイリアンめ…)
執筆者…is-lies
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