リレー小説5
<Rel5.ネオス日本衆議院1>

 

「日程第三、メディア浄化法案、
 日程第四、図書室の自由法案、
 右両案を一括して議題と致します。
 委員長の報告を求めます。青少年倫理道徳総括委員長真逆より誇君。

衆議院会議の場で、議長より指名を受け、
ネオス日本共和国最大野党ミンス党の副代表でもある真逆より誇が登壇する。
現在のサブカルチャー見直しの急先鋒でもある女政治家だ。

「メディア浄化法案及び図書室の自由法案について、
 青少年倫理道徳総括委員会に於ける審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
 まずメディア浄化法案について御報告申し上げます
 本法案の内容の第一点は、
 公序良俗を乱し、人権を侵害するありとあらゆる表現を違法とし、
 疑惑時点での身柄拘束や家宅捜査を可能にしようとするものであります。
 第二点は有害な表現を取り締まるべく、
 司法省の許に専門の特務機関を設立しようとするものであります。
 本法案は去るX月XX日、青少年倫理道徳総括委員会に付託され…」

ネオス日本共和国は疲れ切っていた。
戦争放棄より500年も経ってから勃発して参戦を余儀なくされてしまった第三次世界大戦…
この窮地を乗り切った矢先に起こった日本国の分断と、
其の13年後に起こった第四次世界大戦(実際にはアメリカが誤射した核が最も悲惨な被害を齎した)で、
大きく国力を低下させ、結果…多民族共生国家という国家形態を更に歪なものとしていたのだった。
「…次いで討論を省略の上、法案に付いて採決の結果、
 起立多数を以って可決され、本法案は議決すべきものと決しました。
 次に、図書室の自由法案に付いて御報告申し上げます。
 本法案の内容の主なる点を申し上げます。
 第一点は、表現の自由を侵害する恐れのあるメディア浄化法案への歯止めとするものであります。
 第二点は、あらゆる図書室を、国民の知る権利を守る不可侵の砦とするものであります。
 本法案は、去るX月XX日、本委員会に付託され、翌XX日政府より提案理由の説明を聴取し、
 XX日及びXX日質疑を行いましたが、内容は会議録により御承知願います。
 次いで、討論を省略の上、法案に付いて採決の結果、
 本法案は起立少数を以って否決すべきものと議決致しました。
 右御報告申し上げます」

「他に討論は御座いませんか?」

議長の問い掛けに2人の女性議員が応えた。
片方は眼鏡を掛けた中年女性で、
もう片方は髪を背丈よりも長いツインテールにした少女である。

「岩毛洩子君

「図書室の自由法案について、
 これがメディア浄化の妨げ…抜け道となる事は明らかです。
 書店や書庫、図書室、ネットなどを規制しない限りは当該法案を認める事は、
 メディア浄化法を骨抜きにしてしまう事に他なりません。
 健全な人間に育つ為には健全な教育が必要であり、
 健全な教育を行う為には健全な規制が必要なのです。
 またネオス日本のネットに氾濫する有害表現に毒された外国の方々が犯罪を起こし、
 海外からもネオス日本の有害表現に対する批判が高まっております。
 既に超鮮民主主義人民共和国大使、超韓民国大使、
 中華人民共和国の涼宮・哈爾濱大使、
 アメリカ合衆国のシーブァー大使、ベルトンのセルエ・エルーク教授、
 ソマリアの海賊、ムガベ帝国のロヴェヤアアルト・ムガベ皇帝、
 リバティリア共和国のデラ・チャールズ大統領 
 大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国のカダヴィ議長、
 ヨハネスブルグ自由民主主義共和国のマランデ大統領、
 トルクメニスタンのヤニゾフ大統領、
 ネオス日本癒偽腐協会のアグネス・チュン大使すらも非難しています。
 これらの中には、犯罪発生率上昇の賠償を求めているところもあるのです。
 ネオス日本の有害情報が引き起こしたこの事態を一刻も早く正さねばならないというのに、
 メディア浄化を足止めするこのような法案は断じて認められません」

一気にまくし立て、渇いた喉に水を流し込むと中年女・岩毛は着席した。
同時に議長がもう一人の議員に発言を許可する。

「ライナルビン・フランシスコ君」

「我が国にメディア規制法を要求している国々の犯罪発生率上昇と、
 我が国のサブカルチャーの関連性が証明されていない以上、
 安易なフィルタリングはすべきではないものと考えておりますのだわ。
 また、これは児童ポルノ規制法に抵触するものではなく、
 飽く迄、ネオス日本国憲法で定められている、
 表現の自由の範囲内であるものという認識を示すものでありますのだわ」

更に別の議員が口を挟む。

「野村ククルス君」

「うふふう…
 今のラぁイナさんの発言は、
 単に御自身がそういったサブカルチャーの愛好家だからというだけのものでしょぉう?
 瑣末な問題よぉ。世界的な流れを無視する必要はないわ、おばかさぁん」

銀髪の議員・野村がライナルビンを小ばかにするが、すぐに議長が注意する。

「野村君、関係の無い話は控えて下さい。
 他に討論は御座いませんか?」

所々から「無し」と声が上がる。

「…討論を終結致します。
 これより採決に入ります。
 まず日程第三、メディア浄化法案につき採決致します。
 本案の委員長の報告は可決であります。
 本案を委員長報告の通り決するに賛成の諸君の起立を求めます」

議長がみなまで言うのを待たずして大多数の議員が賛成の意を示す。

「起立多数。
 よって本案は委員長報告の通り可決致しました」
湧き上がる万雷の拍手。
「次に、日程第四、図書室の自由法案につき採決致します。
 本案の委員長の報告は否決であります。この際、原案について採決致します。
 本案を原案の通り決するに賛成の諸君の起立を求めます」

「起立少数であります。
 拠って本案は否決されました。暫時休憩致します」
執筆者…is-lies
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