リレー小説5
<Rel5.ナオキング1>

 

 

 

未だにナオキングの心は茫漠たる暗の只中にあった。
糸繰人形が己を知り糸を断ち切った所で、無様に頽れるが必定。
其れは即ち、真に己を知ったとは言い難いという事だ。
結局、自前の手足を動かせない人形は、何処まで行っても人形に過ぎない。
今のナオキングに、決意の結果から来る呻吟さえも無いのは……

やはり、

 

改め、

 

重ねて、

 

またまた、

 

またぞろ、

 

また候、

 

 

 

 

他人の声に付き随い、自らの糸を手放したからだった。

 

 

「じゃあ、行こっか。ティミッドさん」

指通り滑らかな髪を翻し、
『闇』は仲間達とナオキングを引き連れ再度の転送に臨む。

ナオキングは、隆達相手に嘘は吐いていなかった。
だが情報を隠していた。
『闇』の勧誘に乗ってしまったという背任だ。
この老狼宜しく下腹に毛がない怪人を、ナオキングが信用する事など有り得ない。
だが其れでもナオキングの胸の内に広がる『未来への不安』と『責任の重圧』は、
そんな怪人にさえも助けを求めるほどにまで少年の心を圧迫していた。
天の祐けなどであろうはずもなし。
救い主を嘯いて憚らぬ偸盗は、獲物の油断に相応の代償を求める。

「……本当に、タカチマンさんとジョニーさんも助けてくれるの?」

「くすくす、勿論だって。
 ドゥネイールだっけ? 其の組織から2人を引き出してあげる。
 ただ、今すぐっていうのは無理だけどね?」

ナオキングの願いを忖度し、
新しい人形を得たリライは表面上は上機嫌に振る舞っている。
だが内面ではそうもいかない。
リヴァンケとの対話で、
リライ達の茶会に訳の分からない異物が関わっている事が明らかになった。
リライの良き理解者であるダンテの園に醜悪な蠕虫が忍び込んで蚕食している。
悍ましさ以上に問題なのが、人の渇望を感じ取れるリライが其処に気付けなかった事だ。
勿論、実際にリライの感応力は其れほど便利な物でもないのだが、
彼女を高く評価しているダンテの失望を考えると、リライも気持ちが滅入りそうになる。
とんでもない味噌を付けてくれた害虫への怒りが沸々と湧き上がるリライだが、
此処に来て虫けらの存在に気付けたのは幸いだった。
これを機に茶会内部を洗ってみるのも良いだろう。
其の為の手駒……というよりは使い捨ての生餌に近いものとして、
このナオキング少年を拾ったのだった。

「ティミッドさんには、
 ウチの面子と顔合わせさせてから……
 少しだけ仕事を頼むから。適当にやっちゃって。
 そうしたら『自分を偽る引き金さん』も『地球に立てる十字架さん』も、
 両方、ドゥネイールから救い出してあげるよ。くすくす」
執筆者…is-lies
inserted by FC2 system