リレー小説5
<Rel5.マイケル・ウィルソン2>

 

   ベネズエラ、アウヤンテプイ

 

悪魔の山と呼ばれる、ギアナ最大のテーブルマウンテンは今現在、
テロリスト(力の信者)と、彼等を掃討する目的で地上に残された国連軍が死闘を繰り広げている。
尤もアメリカ合衆国をはじめ各国が力の信者達によって乗っ取られてしまった今、
既にどちらがテロリストでどちらが体制側という区別もつかない混沌とした状況にあるのだった。

《皆さん!DNN(デウスニュースネットワーク)レポーター、ピッタ・アーネットが現場へと到着しました! 
 ベネズエラでの食糧支援会談を潰すべくテロリスト・バルドイーグルが動いたとの情報は、
 コロニーCICADAでの一件でほぼ確実なものとなりました!
 奴は地上に残った我々を見捨てて宇宙へと逃げ出した上、
 『地上人類根絶浄化大作戦』を目論む裏切り者共の手先だったのです!
 頑張れリカルド新大統領!頑張れ新合衆国軍!》

テーブルマウンテン上空を旋回する報道ヘリが米国本土へと電波を飛ばす。
新政権が民衆を味方に付け、嘗ての指導者を敵視させる為にでっち上げた、ありもしない極悪作戦…
だが、各国首脳が率先して地球から離れた事で不信感を増大させ、
新政権メディアが散々に垂れ流した裏切り者というイメージの下地もあって
これらをアッサリと鵜呑みにしてしまった者、
また、異論を唱える事で弾圧の恐怖に怯えるよりはと表向き信じる者、
こうした全体的な空気に流されるがまま民衆は新政権をより強固なものとしたのだった。
そして今度は其の『宇宙の裏切り者』というレッテルがバルドイーグルにも適用されるようになった。
宇宙以外に共通点は無いのだが、其れらしい状況で其れらしい妄想を垂れれば、
抽象的なイメージだけが一人歩きして民衆を洗脳出来るのだという事を彼等は理解していた。

《現在、新合衆国軍はベネズエラ新政権軍と共に、
 悪しき国連軍を徐々にではありますが押し始めています!
 我々を搾取するだけ搾取し、愚策で国家運営を破綻させた挙句、
 自分達だけ先んじて逃げ出した裏切り者共の走狗たる国連軍も、
 新合衆国率いる精鋭達の正義の力の前では敵ですらないのです。
 バルドイーグルが何か企み事をしたら、すぐさま私が可能な限り悪し様に報道します!! 
 イエス!何故なら『ペンは剣よりも強し』!》

アウヤンテプイに設置された無数の固定砲台が国連軍の侵攻を阻み、
人口増加を防いで地球を守るという思想教育を受け、
一人でも多くの敵を道連れにして自爆するロボットと化した兵達の攻撃で、
統制がズタボロとなっている国連軍の旗色は悪化するばかり。
そもそも彼等が動き出すのがあまりにも遅過ぎた。
暴力に染まった世界を前に、この危機を以って人類を纏めようと、
其の象徴たる国連軍を結成したのは良いものの、急造の粗は如何ともし難く、
この末期状態に於いては焼け石に水であった。

其の時、力の信者達と国連軍の境界に相当する箇所の天空より、
真っ赤に燃える何かが降って来た。

 


隕石か?

 

コロニーか?

 

違う、

 

大統領だ!
執筆者…is-lies

  アウヤンテプイ内秘密基地

 

「オーレギが殺られたようだな」

「フフフ…奴は四天王の中でも最弱…」

「アメリカ合衆国大統領如きに負けるとは、
 四天王の面汚しよ…」
執筆者…is-lies

大統領の着地と同時に大地が炸裂し、
周辺に展開していたテロリスト達を地盤ごと吹き飛ばす。
クレーターの中央から素早く身を起こすパワードスーツの特殊装甲には、
多少の損傷があるものの動作には丸で支障が無い様子である。
大統領が万が一の時の為にと開発させていた秘密兵器は伊達ではなかった。

《ああ!何という事でしょうか!
 遂にバルドイーグルが現れてしまいました!
 まさか…大気圏を突破して来たのでしょうか?
 予想よりも遥かに早い登場に、流石の新合衆国軍も対応し切れない様子…
 早く!早く体勢を整え直すんだ!
 悪魔のバルドイーグルが被害を増やす前に、
 どうか、この狂犬を退治してくれ、我等が新合衆国軍!》

スピーカーで口喧しくアジってるDNN放送のヘリの下、
パワードスーツはカメラアイで周囲を見渡し、敵陣内から其の状況を確認する。
敵である自称・新合衆国軍のテロリスト達は、
事前に敵バルドイーグル乱入の可能性を聞かされていたが、
思いも寄らない方向からの敵の闖入と、其の副産物である大破壊に目を白黒させ、
反撃も忘れ、むざむざと敵に状況の把握を許してしまう。
安全な場所から高みの見物をしているマスコミの方が判断は迅速であった。

《テーブルマウンテン…
 随分と豪勢に盛り付けられていて腹一杯食えそうだが、
 …生憎、オードブルをじっくりと楽しんでもいられなくてな!》

テロリスト達の装備は米国正規軍の其れであり、
大統領の特注機と比べれば機能が劣るものの複数のパワードスーツを戦線に投入していた。
バルドイーグルは優先的に其れらを叩く。敵が我に返る前に1体でも多く減らす。
ブースターを全開にして垂直に飛び上がり、全方位へ乱射…
クレーターの周囲で尻餅をついていたテロリスト達の機体を次々餌食にして行く。

《バルドイーグルが私に銃を撃っています! 
 やめなさい!民衆が見ているゾっ!》

周囲のテロリスト達の機体が軒並み跡形も無く粉砕される攻撃の中、
DNNの報道ヘリは未だに健在であった。驚異的な耐久性である。
大統領機はそんなマスコミの抗議を無視して、
擱座したテロリスト機を飛び越え、敵本陣の真っ只中へと斬り込んでいく。
其の時…

「!」

これから大統領機を迎え撃つはずのアウヤンテプイ地下基地守備隊が後退し、
地下の入り口にもなるであろう巨大ハッチへと続く道を大統領へ明け渡す。
罠かと勘繰るまでもなく、ハッチが重々しい音を立てながら開いてゆき、
ぽっかりと口を開けた縦穴より、
マイケル・ウィルソン大統領の駆るパワードスーツに良く似た、
其れでいて、より攻撃的で禍々しい容貌の鉄機兵が競り上がって来た。
縦穴に備え付けられたリフトに乗っている訳ではなく、
垂直上昇して来たヘリの上で腕組をしながら佇んでいたのである。

《ンフハハハハハハハァッ!!
 ハローハロー、マイコーゥ♪》

ヘリのローター上に設けた専用のお立ち台に乗って、
独特な笑い方でもって大統領を迎えた鉄機兵。
其の声はアメリカ合衆国の元・副大統領…現・大統領のリカルドである。
恐らく大統領機に対抗して特別に拵えたものなのであろう。

《随分とお早い御着きじゃないか。
 折角、お前を見下す為だけに用意した、この演出用ヘリも無駄になってしまった。
 …まぁ、ヒーローは遅れて来るのが鉄則だ。
 お前より遅く登場するのも悪い気はしないな、ンフハハハハハ!》

続いてハッチから顔を出した2機のヘリにも同じくお立ち台が用意されており、
其処には鳥型の異形とトカゲ型の異形が鎮座している。

「良くぞ来たな。
 私はカルナヴァル四天王の一人、レディスマ!!
 貴様などリカルド新大統領が相手をするまでもない。
 どうしても戦いたいというのであれば、まずこの私を倒す事だな!
 …ギャアアァァァァアアアッ!

四天王レディスマは火炎放射器でアツアツのローストチキンと化した。

「フッ、我は四天王ヴェーバー!
 最弱のオーレギに手間取った貴様如き恐るるに足らぬ。
 此処が貴様の墓場だ!(キリッ!)
 …タスケテ!

四天王ヴェーバーはマシンガンで全身を撃ち抜かれて穴空きチーズと化した。
んでもってDNNのヘリにも更に弾丸がお見舞いされた。

《止めて!止めて下さい!お願いします! 》

先程までの高圧的な態度を一転させ、泣き叫ぶDNNレポーター、ピッタ・アーネット。
まだ辛うじて飛び続けているDNNヘリからの懇願も、大統領は聞いているのかいないのか。

《リカァアアアぁぁああルドォオオオぉおおッ!!!》

2機のヘリがリカルド機の高さへ上昇するのを待たずして四天王2体を出オチさせ、
余計な外野はもういないとばかりにリカルドを名指しして叫ぶマイケル・ウィルソン。

《……………
 ……………
 …ンフハハハハハハハッ!!実にスピーディーで結構じゃないかマイコーゥ?
 まぁDNNもいる事だ。多対一など絵にさせても格好がつかぬ。
 ラストアメリカンヒーローの勇士を拝見させてやるか》

カルナヴァル最後の四天王リカルド・ホークの駆る機体が、
胸の前で組んでいた両の腕を解いて臨戦態勢へと入る。
2機の特殊機動重装甲パワードスーツの激突は熾烈を極めた。
閃光と轟音と爆風と粉塵がアウヤンテプイ基地を満たし、
コンテナや資材が軽々と吹き飛ばされる旋風の中で両機の弾丸が、
或いは拳が、或いは踵が膝が肘が交錯しては更なる破壊の渦を巻き起こす。
均された大地は罅割れ砕け散り、次々とクレーターを成して行った。

《これが…大統領……》

爆風に吹き飛ばされないように距離を取ったDNNのヘリから、
ピッタ・アーネット記者が茫然と呟いた。
マイケル・ウィルソン大統領を貶める記事を乱発していた彼だが、
其れは新大統領リカルドの圧力に屈したからであり、
実際にマイケル大統領を前にしたのは今回が初めてであった。
同じ人類であるとは思えないような其の戦い振りに、
もしかしたら、この人勝っちゃうんじゃないだろうかなどと考える。

《貴様、自分が何をやったのか知らんとは言わせないぞ…!
 何故に世界の混乱を悪化させるような真似をする!?》

《何を怒っているんだマイコゥ?
 無能な豚共が増え過ぎたから間引いただけだ。
 東南アジアで起こった騒動は思いの他、大規模なものとなったのでな。
 これは我々も便乗せねばと…まぁ、そういう次第だ》

リカルドの返答は真実…
彼等カルナヴァルは、力が支配する混沌とした世界を作り上げようと目論んではいた…
が、彼等が事を起こす前に東南アジアの虐殺者が世界を塗り替え始め、
其れがカルナヴァルに早期決断を促す原因となったのであった。

《ンフハハハァ!!人間はもっともっと淘汰されるべきさ!
 旧世紀でも世界中で異民族や異教徒、移民の衝突が起こっていたと聞く。
 我が国でもそうだ。
 増え過ぎた豚共が国家を食い潰す様を、指を銜えて見ていろとでもいうのか?
 冗談ではない。アメリカはアメリカ人だけのものだ。他の誰のものでもない。
 だが哀しいかな…今やこの国にすら優秀な人間は数えるほど…
 故に私は裏社会を仕切るカルナヴァルに組し、四天王にまで伸し上がったのだ。
 邪魔な3人を片付けてくれて有難うよマイコゥ。
 今やカルナヴァルの頂点ヘプドマスに最も近い場所にいるのは、
 このラストアメリカンヒーロー・リカルドだけだ!
 アーティファクトを用いたカルナヴァルのエネミー技術を駆使すれば人為的に超人を生み出す事も出来る。
 そうすれば粗方世界中で無能が淘汰された後に紛争を止めさせ、
 世界の主導権を再びアメリカが握る事すら夢物語ではないのだ!》

《リカルド…其れがお前の愛国心だというのならば、
 私は全力で其れを否定してやろう》

《ンフフ、所詮…君と私は相容れぬようだな》

《ではどうする?》

《殺し合おう!》

衝突は更に激しさを増す。
ブースターを利用して空中をも戦場とする2機に、
僅かに残ったカルナヴァルや国連の残存兵が割り込める訳もなく観衆に徹するのみ。
どちらが勝とうともアメリカの大きな転機となるであろう戦闘で、
遂に放たれた決定的な一撃は…リカルド副大統領のものであった。
連続稼働でガタのきたバルドイーグルに、リカルドの機体胸部に装備されたレールガンが炸裂したのだ。
回避も防御も不可能な其れはバルドイーグルの右脚部を消し飛ばす。
空中で体勢を崩した大統領機が其の身を打ち付けられる大地は…其処にない。
リカルド副大統領が現れた巨大な縦穴が大きな口を広げてバルドイーグルを飲み込もうとしていた。

《まだまだぁああ!》

だがマイケル・ウィルソンはリカルドを止めるという一心で、
生き残ったブースターを全力で稼動させ副大統領機へと最後の突撃を果たす。
先程までの動きに比べれば弱々しいものであったが、
勝利を確信して油断したリカルドに其れを避ける事は出来なかった。
リカルド機の胴体にあるレールガンに、バルドイーグルの片腕が突き込まれ、
更に姿勢制御奪われた事で2機は絡み合ったまま真っ逆さまに縦穴へと落ちて行った。

《ぬぅ?悪足掻きを…!》

《捕まえたぞリカルド……
 思えばお前と戦場を共にするのも久しいな。
 まさか、こうして敵対する事になるとは思わなかったが…》

《何を言うかと思えば。
 マイコゥ…私は常にお前の影であり続けたのだ。
 当時の私の劣等感と其処から来る憎悪がお前などに解ってたまるか。
 アメリカは私が強く正しく導いてやるから、お前は安心して落ちるが良い!》

パワーはリカルド機の方が上。
力を嵩に両腕でバルドイーグルを引き剥がそうとするリカルド。
そうはさせじと全力でしがみ付く大統領機。
揉み合いと撃ち合いを続けて外壁を破壊しながら両機は縦穴をひたすら落下して行き、
其の最下部にある巨大な地下格納庫へと到達しても其の攻防は衰えず、
格納庫の床すらも破壊して更なる深淵へと進んでいく。
そんな…闘神達の戦いに入り込んで来たのは、
実体を持たない幻聴幻覚のような…
其れでいて直感が其の存在を一片の余地も無く肯定してしまう何か…

《?》

両者は其れを初め、
戦闘で一種の興奮状態に陥った自らの精神が研ぎ澄まされ肉体の反応速度を凌駕…
肉体とは別のところに意思を持ったかのように感じているのだと考えたが、
どうも違う。
肉体が静止し、世界も静止していた。
爆音も金切り音も止んだ其の世界の中、
2人の意識が感応し合う。

(馬鹿な……アーティファクトが…反応を…っ!?)

(…これは、今のはリカルド?リカルドの意識なのか?)

(私では…反応させる事が出来なかったのだぞ…
 ……マイコォ……お前は、こんなところでまで私を…っ!!)

直接脳内に響いてくるかのようなリカルドの声に、
激しい嫉妬と憎悪の色が混じってマイケル・ウィルソンに痛痒を感じさせる。
どうやらリカルドは何が起こったのか或る程度把握しているようだ。
其れを問い質そうとするよりも早く、
遥か上空に感じる残存部隊のものとは別…
いや、そんなものとは比較にならない程の多数の意識が流れ込む。

「(変わっていない……)」

(誰だ?…何なのだ、この声は?)

「(人類には…呆れ返る。
  何故、こうも同じ『過ち』を犯すのだ…)」
「(我々が見たい『過ち』は、こんなものではないというのに…)」

マイケル・ウィルソンは一瞬、自分が戦闘で死んでしまって、
何か超常の世界に紛れ込んでしまったのかとも妄想してしまいそうになる。
まどろみの中にあるような…夢見心地な気分ではあるが…
今、感応している複数の謎の意思達は、
妄想や白昼夢という主張が愚かしいと思えてしまう程、
其の圧倒的な存在感を示している…
人間では否定出来ない。否定する権利を持たない。

(お前達は…何者だ?
 リカルドのいうアーティファクトとやらなのか?)

「(……人間が遺シ羽根と同調したか)」
「(興奮状態となった人間が稀に見せるケースだ。
  だが別段に珍しいものでもない)」
「(ほんの一時の同調。取るに足らない瑣事である)」
「(併し…我等以外の者との直接的な会話は数百万年振りにもなるか…)」
「(監視者達からの眼からは入って来ない経験があるかも知れない)」
「(良かろう。オマエの意識が現世へ戻るまでの僅かな間、対話を許す)」

其の意思達が問いに応じた瞬間、
マイケル・ウィルソンの脳内に次々と厖大な情報が流れ込む。

「(我等は長きに渡り人類の『過ち』を観察している)」
「(我々の原罪と其の贖罪を知る為の聖なる実験である)」
「(『過ち』を犯せ。
  『過ち』を晒せ。
  『過ち』を正せ)」
「(我々に関してはオマエ達人類の言葉でいえば、
  聖人とも魔人とも妖怪とも妖精とも天使とも悪魔とも、
  神とも邪神とも創造神とも破壊神とも呼べる)」

「(我等は自らを『レイジア』と呼ぶ)」

「(我等が人類に望む『過ち』は唯一つ)」

「(『弑逆』)」
執筆者…is-lies
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