リレー小説5
<Rel5.エーガ2>
「…おいコラ?」
「何だ不満そうに。
それにしても似合っていないな」
「解ってるじゃねぇか」
何処か古風な青銅鎧と兜を着用したエーガが悪態をつく。
ドゥネイールが現地調査員の為に用意したコスプレ衣装の『余り物』に身を包み、
眉根を寄せて苛立ちを主張するエーガとは異なり、
他のメンバーは挙って学園の制服だの背広だのという、現代風世界観の無難なコスプレに有り付いていた。
「仕方無いだろう。
こうするより他に例の神社だかへは辿り着けまい」
「あーーー…太陽が目に眩しい」
「ずっとモグラだったからな」
「だが、これで職質はクリアー出来るな」
秋葉原隔離区の職質とは即ちアニメやゲームの知識の有無を問う事だ。
流石にオタクの裾野は広過ぎるが故に、知識を疑われたところで即座に追放されたりはしないが、
隔離区に於ける警察組織『東方警察』に睨まれてしまい、後々の行動に支障を来たす破目になる。
故にエーガ達は隔離区に溶け込む為、
今日までアニメ、ゲーム、漫画、小説尽くしの日々に耽っていたのだ。
全く生産性の欠片もない時間を過ごしたと愚痴るルキや、
無味乾燥と一刀両断にしたレオンとは対照的に、
ライハなどは随分と満喫していたようで、特に意味も理由もなくアニメの台詞を引用してくっちゃべっている。
「ドゥネイールの命令を良い事に、お前ら絶ってぇ楽しんでるだろ?」
「其の通り」
脱力。
エーガを半ば神聖視して常に目を光らせている副団長セートにしても、
どういう訳か、鎧姿のエーガを「まるで神話から抜け出したような美しさ」と評し、
団員達によるエーガ弄りを黙認するという為体であった。
「あー、もういい。ちゃちゃっと終らせようぜ」
「そーだね。あんまり余裕も無さそうだし」
そう呟くミレンの視線はビル壁面の大型ディスプレイに向けられる。
放送されているのは、秋葉原隔離区の現状と今後の対応をテーマとした特番だ。
《我々はネオス日本共和国の民ではない!
れっきとした独立国家『秋葉原』の国民である事を主張する!》
《今だって嗜好品の貿易でやっていけてるんだ!
俺達の事は俺達で出来ている! ネオス日本なんざ御呼びじゃない!》
表向き、秋葉原隔離区と貿易などしている国は存在しない…のだが、
娯楽抜きに人間の生を語る事は難しいだろう。
秋葉原隔離区という括りの中にある旧江東区有明で行われる大市場には、
世界各国の好事家が半ば公然と来訪しては、娯楽物に大枚をはたいていた。
アメリカ合衆国のデリング大統領も其の一人である。
普段のネオス日本ならば…そんな秋葉原隔離区を潰すなど有り得ない。
締め付けを強めるアピールはするが息の根を止める事など有り得ない。
…普段のネオス日本なら。
画面は、隔離区の住人達から、首相官邸の小泉総理へと移る。
《再三の呼び掛けにも応じない場合は武力行使も止むを得ない。
我が国の固有の領土を占領するテロリスト達には、
今一度、自身の良識を正視し、平和的で賢明な判断を下す事を願っている》
「それにしても…こんな状況でも遊び優先とは些か理解に難いです」
「流石にボスのVNFは事態を其れなりに重く見てるのか、
隔離区の外周に戦力を集めているようだが…自衛隊の前じゃ一溜まりもないだろうな。
さっさと調査を済ませて逃げようぜ」
執筆者…is-lies