リレー小説5
<Rel5.アデル2>

 

 

結局、ベイルス家にまで到達したのはアウェルヌスのみだが、
直後にエネルギー切れになって消え去った為、何も出来ずに終わっている。
詰まり、前支配者復活は完全に無駄骨。
下手をすればベイルス家を刺激しただけかも知れない。

「……其の報告は確かか?」

《ええ、ベイルス家に動きはなし。
 でも例のクリスってお方が定期的に訪れてますわ》

覇王アデルの通信相手は、彼がイギリスに放った間諜ミスターユニバースだ。
2年後にユニバースはS-TA重鎮として原初の能力者ヘプドマスとなるが、今は唯の少年に過ぎない。
其の姿を利用してイギリスもといベルトンに潜伏し、ベイルス家に動きが無いか監視しているのだ。

「クリス……やはり交渉に成功したというのは間違いないか」

《ですが前支配者の一件……。
 あの暴れっぷりで欧州っていうか国連もビビってましてなぁ……
 今まで日和見決め込んでた連中も反S-TAに行きそうな感じですわ》

「そうか、其れは悪くないな」

アデルが欲しているのは人種戦争だ。
非能力者を駆逐する為には、非能力者との協力や交友などあってはならない。
バルハトロスなどにしても用が済めば早々に処分したいと思っている程で、
相手に手心を加えようとも思わない程に互いの憎悪の炎が燃え上がるのは望むところだった。
そしてミスターユニバースも似たような思想の持ち主だ。
彼もまた非能力者など皆殺しになれば良いと思う程の過激派であり、其れ故にアデルに見込まれている。
尤も……ユニバースは能力者に関しては『身内であり守るべき人々』と至極真っ当な考えをしており、
アデルとはやはり根本的な箇所で思想のズレがあった訳だが、今其れを知る者はいない。

《可能な限り戦争を穏便に終結させたいクリス欧州委員長は、
 ベイルス家の威力で以って戦わずしてS-TAを降伏させたかったでしょうが、
 こうなってはベイルス家の参戦は不可避。今度はクリスさんがベイルス家の存在に困る番ですわ》

前支配者による英国壊滅が世界に与えた衝撃は大きい。
あの圧倒的な武力がいつ自国に降り下ろされるか……
其の恐怖は非能力者陣営の大半を一致団結させて反S-TAへと向かわせた。
これは平和的な解決を望むクリスにとっては避けたい展開だ。
特にベイルス家が参戦に興味を示しているなどという話が非能力者陣営の知る所となれば、
彼等は嬉々としてベイルス家の超絶的な能力でもってS-TAを攻撃しようとするだろう。
ベイルス家を参戦させるべく今まで尽力して来たクリスの努力は、横から掠め取られてしまう。
しかも非能力者の敵意と憎悪とを晴らすという目的で。

「クリスは……奴は絶対に認めんだろう。ベイルス家を非能力者と合流させる訳がない。
 だが、ベイルス家との交渉を打ち切るまでは安心出来ん。
 非能力者共が独自にベイルス家と接触を試みる可能性もあるからな。
 監視の方を頼むぞ」

ユニバースとの通信を終え、
アデルは深く……様々な感情が斑と入り混じった溜息を吐く。
前支配者は休眠。行方不明。役立たず。
システム・セイフォートは危険。解析中。役立たず。
南極遺跡の他の遺産も大半は解析中。
当初の展望はもっと明るかった。
遺跡の遺産は今もオルトノアが復元中で、非能力者との戦争では大きな力となっている。
だが主力になるだろうと期待さえされていた前支配者が実のところ制御不能。落胆は大きい。

執務室の窓から外を見遣れば、
南極の寒々とした空と、狂気山脈の麓で広がるエルダーシング・シティーが一望できる。
結晶能力による気温調整があっても尚、肌寒さの残る南極の地は、
広く、冷たく……アデルの胸の内を象徴したような寂寥感に満ちて見えた。

「ふん、問題はない。
 オルトノアが復元した遺産だけでも充分だ。
 非能力者など一匹残らず蹴散らしてくれる」

其処に携帯端末からのコール音。
発信者の欄にはセシリアの名が表示されている。

八姉妹セシリア……
出身はアフリカだがネグロイドではなくコーカソイド。
旧世紀にイギリスの植民地だった地域の出らしい。
非常に掴み所のない独特な性格で、八姉妹の中でも浮いている方だが、
稀に、誰も気付かなかった事を鋭く指摘してみせたり、
極めて専門的な話に唐突に乗っかって新しい発想を披露したり、
何とも底知れない雰囲気を醸成している少女であった。
オルトノアやマチルダも、セシリアのそういった一面の能力は素直に認めており、
無能のイルフィーダと違って軽蔑はされていない。

南極のビクトリア・ランド基地の視察に向かっているはずだ。
というのもイギリス壊滅に伴い、オーストラリア辺りによる攻撃が予想された為、
そうなった場合、前線になるであろうという事からなのだが……

「私だ。どうしたセシリア?」

《アデル? あのね……変な人達が来てるんだけど?》

「変な人達?」

そりゃそうだろう。
能力者国家S-TAには、理想に賛同する能力者達が全世界から集まって来ている。
入国審査に弾かれず許容される程度の奇人変人はいるだろう。

《そうなのー。
 空間を割って瞬間移動みたいにして出て来たの》

「……!? え、S-TAの人間ではないのかっ!?」

瞬間移動能力者は希少だ。
其の全てはS-TAで管理されている。
アデルは其の所在を全て把握しており……
今、セシリアに接触するような予定の者がいない事を理解できた。
こうなれば其の瞬間移動能力者は、S-TA未所属……不穏分子か非能力者側の間諜ぐらいしか考えられない。

「護衛……は、ガウィーだけだったな……
 ぬぅ、そいつらは何人だ?」

八姉妹セシリアは、同じくアフリカで出会った能力者ガウィーと共にS-TAに参加しており、
このガウィーを護衛として側に置いているのだが、
彼の戦闘能力は軽い催眠能力と、槍による肉弾戦のみとアデルは記憶している。
実際に非能力者側の闘士を相手取るには戦力不足と見ていたが、
此処はS-TA。非能力者がおいそれと来れる場所ではないし、
八姉妹を妄信する国民達が危険になる事も無いとして護衛の質は気に留めなかった。

《4人よ。
 綺麗な人。何か可愛い猫耳みたいなのついてる♪》

屈託のないセシリアの言葉からは、何の緊迫感も感じられない。
こうなると、彼女の性格を理解しているアデルでも流石に違和感を覚える。

「敵ではないのか?
 装備は? お前達で対処できそうなのか?」

そう言いつつ、アデルは通信情報を保安部に回して兵の用意をさせる。
此方も瞬間移動能力者を動かして援護を差し向けたいが、連絡するだけでも多少の時間はかかる。
敵ではない事を祈りつつ……
併し、ならば一体どこの誰が来たというのかと、アデルの混乱は収まらない。

《えーっとね、敵対の意思はないんだってー。
 アデルと話をしたいみたい。『同胞を知らないか?』って言って来てる》

「同胞? ??
 ……解った。後で私が対応しよう」

やはり幾ら頭の中にある情報を並べ直しても推定不能。
既存の何がしかの勢力というよりは、完全に未知の存在と見做すべき……なのだろうか。
アデルはそう考え、結局のところ直接対面して話を聞いた方が早いと結論する。
希少な瞬間移動能力者を捨ておく訳にもいかないし、可能な限りは敵対もしたくない。
交渉の余地がある以上は身内にする事も不可能ではないとして、
アデルは護衛を伴い、謎の来訪者との対話に臨んだ。
執筆者…is-lies
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