リレー小説4
<Rel4.ミスターユニバース3>
細川邸
高価な調度品に囲まれた大邸宅の客間にて、
帝国放送マーズインペリアルの腕章を付けたユニバースが、
細川財団を支配する男・春英と、低いテーブルを挟んで向かい合っていた。
「どうもどうも。帝国放送のユニバースと申しますええ。
この度は貴重なお時間を割いて頂き真に有難う御座います」
「前置きは結構。貴重な時間なのでな…早々に用件を聞かせて貰おうか」
報道関係者を騙ったユニバースを前にしても春英は決して媚びず、其の社交辞令を斬り捨ててみせる。
春英の声は老いた外見からは想像も付かぬほどに力強く、威厳に満ちていた。
細川の代表なだけはある。声や佇まいにカリスマ性というものを感じつつ、ユニバースが話を進める。
護衛のビタミンNからファイルを受け取り、春英へと手渡す。
「はい、では…
こちらの資料…何だか解りますよね?」
ファイルに躍る文字の羅列を眺める春英の表情は渇き切っており、心の機微を感じ取る事は難しい。
「天下の細川財団が…よもや非合法組織の片棒を担いでいたなんて…信じたくはありません。
ありません、が…だが併し…!
この資料には…嗚呼!細川の人間が……」
大仰に声を上げるユニバースを手で制し、春英が静かに呟く。
「みなまで言わずとも解る。
生体兵器の少年JK-112及びRV-113の身元を偽造していたな」
「はい。二人とも闇組織が身元を探し回っていたD-キメラっちゅー生体兵器ですな」
「が、これがどうしたというのかね?
謝罪会見は開いたはずだが」
「ま、話が不鮮明な上に何が目当てだったのか良く語られていないままでしたがね。
適当にでっち上げた雑魚を罪負い羊にしたんで細川の名誉は守られますしなぁ。
本日は…其の見えそうで見えない箇所をハッキリさせるブツがあるって事を伝えに来たんですわええ。
D-キメラ・KK-100「紅葉」……
こっちも細川小桃がつるんでいた組織のD-キメラなんですがね。
中々面白い証言や資料を提供してくれまして……
…身元偽造の真意と其の結果……細川一族内部のいざこざとか。
……さて、どうですミスター?何か思い出す事ありませんか?」
もう隠す気など微塵もない。ユニバースは露骨さを増して春英を尋問しに掛かる。
春英が開いた謝罪会見とは飽く迄、身元偽造に関してのみ。
其れすら極一部による個人的犯行であるという見方に何ら変わりは無い。
詰まり春英は、其れほど差し障りの無い汚点を自ら曝け出す事で民衆の注目を其処に集め、
其の間、真に細川財団にとって致命的な真実を隠蔽する…という作戦に出た訳である。
だが今ユニバースが突き付けているものは、
そんなダメージ緩和策が通用する程、生易しいものではない。
正に一撃必殺の牙。
公開されれば細川財団が終わる。
とはいえユニバースとてこのカードは出来得る限り切りたくはなかった。
何故ならばあまりにも核心に迫った情報源故に自分達の正体を見抜かれる恐れがあるからだ。
組織セレクタは未だに其の正体を隠し続けており、
ユニバース達を傘下に収めている火星帝国ですらもユニバース達=セレクタという認識はない。
打倒SFESを掲げてテロリスト紛いの事もやっていた訳だから、組織を隠すのも当然であはあるが。
兎に角、自分達の正体を解き明かす切っ掛けになるような情報は極力与えたくないが故に、
この手札はあまり出したくないものであったのだ。
「……何の事を言っているのか丸で解らんな
そんな下らない事の為にワシの貴重な時間を…」
「あ、あっあっあっ〜、もう結構ですわ。
いやはや手間取らせて済みませんでしたはい」
春英の方針は知らぬ存ぜぬを通すという事で決したようだ。
ならばこれ以上の長居は無意味。ユニバースはあっさりと矛を収め退散の姿勢を取る。
其の空気に乗じ、一先ずはこの場を終わらせようと春英が威圧を込めてこう言うのも、
全てはユニバースの予定通りであった。
「…さっさと出て行け。不愉快だ」
ユニバース達を追い出し、独りとなった春英は、
暫くの間、無言でテーブル上の灰皿を見詰め、ふと携帯電話へと手を伸ばす。
「……もしもし、ワシだ。
小桃と隆に至急、伝えろ。………そうだ。大至急だ。
…お前達の起こした事件を嗅ぎ回っている奴等がいる…と。
其れと、あまり我が細川に仇なすような事はするな…ともな」
執筆者…is-lies
「巧くいきました。
これで細川春英から小桃か隆に、ワシらの存在が告げられる事になります。
後は向こうから私達に接触してくるのを待つだけですわ」
「随分と気の長い事だ。
SFESの拉致ったD-キメラの所在一つで」
「其れしか打てる手がありませんからなぁ…
大々的に動きたくても火星帝自身、SFES発覚を恐れている節がありますし。
ま、のんびりやりましょう」
執筆者…is-lies