リレー小説4
<Rel4.国連3>

 

 

   アテネ、国際連合第三庁舎

 

「以上が第二次フォボス調査隊から送られて来た映像となります」

少女の姿をした守護者が、カメラマンに手を伸ばしたところで映像は途切れていた。
その後メインモニターにはサンドスクリーンのみが映し出され、画面が切り替わり火星帝国旗のCGを映し出した。

二ヶ月前の繰り返しだ。画面上の各国の首脳陣達から溜息が漏れた。

ハーリーの持っていたカメラや調査員の結晶探査装置は内蔵された結晶によって、逐一火星本土の研究施設に映像やデータを送ることができる。
だが、送られてきたデータは確かに貴重なものだったが、解析したデータは今の技術の延長程度のものであり、
インフェルノ程度の強さを持つ兵器などは現在の技術力でも十分に作れるというのだ。
肝心のエンピレオについては、柳の独り言しかわからない。

帰還したハーリー・ウィンズとノナ・ソリスは、確かに生きてはいたが、
何を呼びかけても反応せず、医者は「外部から何らかのショックを与えられたために精神が壊れてしまった」のだと判断した。

すなわち、廃人と化していた。

ハーリーの両親は先の戦争で亡くなっており、彼は天涯孤独の身らしい。
ノナの方は孤児院出身で、やはり孤独な人生を送ってきたようだ。
二人ともアメリカ国籍だし、各国とも廃人になった二人を受け入れるのを嫌がったので
(表立って拒否することはできないので、受け入れられない言い訳をした)、結局アメリカが引き取ることになった。

第二次の調査も失敗したことは、誰の目で見ても明らかだった。
各国の首脳陣が次々に口を開く。


「散々な結果ですな」

「しかし、これで守護者や遺跡への対策も立てられます」

「あの映像を見てもまだそんなことが言えるのか? また次に行っても死人を増やすだけだ」

「しかし、あれほどの巨大さの結晶は八姉妹の結晶にも劣らないでしょう、調査を続ける価値は十分にある」

「調査は中止すべきだ! また守護者たちに殺されるのがオチだ!」

「確かに守護者は恐ろしいが……」


守護者たちが行った殺戮の映像は、首脳陣達に再度の調査を躊躇わせるほどの威力があった。
同時に、遺跡の奥にあった巨大結晶──エンピレオの映像が、首脳陣達の心を掴んで離さない。
平行線を辿り、纏まる気配の無い会議を傍観していたピンザー・デリング大統領は、数日前の事を思い出した。

廃人となった二人をアメリカ合衆国結晶兵器研究集団ジュブナイルAに送り、「男の方の脳を解析しろ」と命令した。
研究員たちは「廃人の頭を調べても仕方が無い」と言ったが、「念のため」と言われ、彼らはしぶしぶハーリーの脳を解析した。

そこで出た結果は──



「ところでデリング大統領、先ほどから何も発言されてないようですが?」

 ロシア大統領ラスプーチンの声で、デリングの回想は消えて、目の前にある画面上の現実に意識を戻す。

「いやなに、少し考え事を──」
「ところで」
言葉を遮られ、デリングは表情を僅かに歪ませる。
「生還したハーリーという男の脳を調べたのでしょう? どうだったのです?」

チッ、と心の中で舌打ちをする。このヒゲを伸ばし放題伸ばしたラスプーチンという男、なかなか鋭い。
ラスプーチンの発言で、各国の首脳達の視線がデリングに向けられる。

「……いえ、やはり調べても特に何もありませんでした」

「ふん、所詮廃人の頭を調べても何もわからなかったということですか。
 そんなことに無駄な費用をかけている暇があったら日本の復興でも手伝ったらどうです?
 アメリカが核でズタボロにした東日本をね」

いちいちつっかかるラスプーチンに、デリングはイラついてきた。さっさと会議を切り上げ、魔女っ娘アニメで癒されたい。

と、この場では聞こえるはずのない、手を叩く音が聞こえてくる。

 

「相変わらずの茶番ですね」

 

首脳陣達が、デリングまでもが、本日二回目の溜息をついた。
遺跡のセキュリティーよりも、ここのセキュリティーをどうにかしたほうがいい。

「……今度は何の用ですかな? ディノラシオール首相」

「いえ、皆様の滑稽な姿を拝みに。そこらの駄作映画よりかは楽しめましたよ」

もはや何も言うまい。こんなイカレた男の言うことをまともに聞いてはいけない。
首脳陣は完全にディノラシオールを無視することに決めた。
ロシア大統領以外。

「ディノラシオール首相、一つだけお聞かせください」

よせばいいのに、という視線がラスプーチンに一斉に集まる。そんな視線を鋭い目線で返すラスプーチン。

「あなたはあの遺跡にある巨大結晶……エンピレオについてご存知のようですね?
 どうかひとつ、無知な我々に、エンピレオについてお教えください」

喋り方こそ丁寧だが、
眼が明らかに「テメェなんか知ってんだろ? どーでもいいからさっさと教えろよこのガキが」というチンピラまがいのものであった。
対するディノラシオールは、

「フッ、脳味噌に蛆虫でも湧いているのですか? そのくらい自分で考えなさい。
 わが国で一番愚かな人間すらも、少し考えればエンピレオがどういうものかわかりますよ?
 無知! 無能! ラスプーチン殿、あなたよく大統領になれましたね」

逮捕されてもおかしくないキチ○イ科白で返した。

「むっ、むっ、無能だとぅ!? テメェ人が下手に出てりゃいい気になってんじゃねぇクソガキが!
 オレぁロシアの大統領だぞ!? 地球一の面積を持つ国だぞ!? 雪国だぞ!?
 テメェみてーなクソガキの国がぁ、どんくらいの大きさだと思ってんだバーロー!!」


突然鬼の形相になりプッツンするラスプッツン、じゃなかったラスプーチン。もはやただのチンピラである。
ディノラシオールは一切表情を変えず、爽やかな笑顔でこう返す。

「国の優秀さと面積はまったく関係ありませんよ、無能で馬鹿で阿呆で間抜けで痴呆なラスプーチン殿」

「ハァ? テメーイカレてんのかボケ! ポアすっぞ!?」

「何を仰っていられるのかわかりませんねぇ。
 申し訳ありませんラスプーチン殿。私、猿の言語はわかりません。人間語で喋ってください」                                                                                        カッコつけつつも失禁するディノラシオール。だが事前に用意したオムツの御陰でヌレテナーイ!!(・∀・)

ドイツ首相ムーヴァイツレンは思った。よくコイツら大統領になれたな。

「やれやれ…では啓蒙活動に勤しんであげますので御静聴下さい。
 エンピレオとは超古代火星文明最大の遺産でもある3つのアーティファクトの内一つ…
 紫の石『エンピレオ』…といえば幾ら鈍い貴方々でも、白い天秤赤い土の存在に至れようというもの…
 これこそが真なる八姉妹を生み出す要なのですよ」

「そんな情報を何処で…」

「ふっ…言ったところで貴方々のような無知蒙昧の徒には到底理解出来ません。
 さて……茶番を楽しむのもここまでにしておきましょう。
 部下におつかいを頼んでいますのでね。
 それでは皆さん、意味の無い会議ご苦労様です……」

そうしてディノラシオールは議場より立ち去った。                                                                                                               部下が買っているであろうオムツを受け取りに。

執筆者…夜空屋様
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