リレー小説4
<Rel4.国連2>

 

 

《あぁああ!?な、何なんだコイツらはぁああ!!?》
《これ、映ってるか?おいどうなんだ!?》
《今は其れどころじゃねぇだろーがよぉ!》
《ひぃ、お前ら私を護れ!私は日本の矢吹博士だぞ!》
《うるせぇハゲーーーー!》

画面がサンドストームのままで先ず飛び込んで来たのは怒りや恐れが混ざった叫び声。
画質が安定するのを待たず、彼等の置かれた地獄の如き状況が理解出来るというものだ。
《ふぉ…フォボスに遺跡が!変な連中がウジャウジャいやがる!!》
《あ…あれは異形の竜!?そんな…何でこんなバケモノが!?》

異形の竜は守護者(ガーディアン)に匹敵する超古代火星文明の遺産の一つであり、
そもそも強力な存在である竜を改造して生み出された狂気の産物である。
火星の遺跡でも2度ほど発見記録があるが、
この映像に映っている機械竜はどう少なく見ても20を超えている。
調査団護衛のパワードスーツ『可憐』が自ら壁となって調査団を護ろうとするが、
機械竜の尾の一振りで『可憐』の4本腕は針金のように容易く折れ曲がり、
続いて群れ為す人型機械の手刀によって全身余す所無く貫かれ、2秒もしない内に沈黙する。
『可憐』は決して弱い兵器ではない。天才フランソワーズ茜の作り上げた傑作の一つである。
其れですら紙の兵隊。まるで話にならない戦力差。このフォボス遺跡守備隊の力が異常というだけだ。

《ひ…ひぃい!?》
護衛と戦う異形機達の隙間を縫うように…いや、我武者羅に走る調査隊。
向かったのは出口ではなく遺跡の更に奥。彼等には冷静な判断を下す程の心的余裕はもう無い。
返り血と涙と鼻水に塗れ、後悔と怨嗟の叫びを上げながら只管に走り、
そして…彼等はやがて其の部屋へと辿り着く。

結晶の柱が林立する神秘的で静謐な広間は、恐慌を来たした調査団を落ち着かせて其の理性を取り戻させた。
そもそも学者。こんな状況下にあっても知的好奇心が死の恐怖を上回ったのだろうか…
だが恐らく其れは違う。護衛も全滅した今、彼等の命運は既に尽きている。
要するに単なる現実逃避に過ぎなかった。

広間の中央に円柱状の台座のようなものがあり其処に…
画像が安定しない為、良く見えないが何かが厳かに安置されている。
《な…んだ、あれは?》
《…あの形……其れにこの景色……まさか…石版にあった……?》
調査隊の学者が無用心にも其の結晶体に触れようとした直後…

《物理接触障壁、電波障壁、光障壁、エーテリック障壁の展開を要請》
其の場に居ない筈の少女の声が広間に木霊する。
直後、画面が一気にサンドストームの状態に戻った。

《こ…これは…が、守護者!?守護者がさ…三体も…
 …ご…護衛ィイイ!!?い……いぐわぁあああ!!!》

 

 

   アテネ、国際連合第三庁舎

 

「以上がフォボス調査隊から送られて来た映像となります」

メインモニターが見苦しいサンドストームを消し、
クオリティーの高い火星帝国旗のCGを映し出す。
火星の衛星フォボスとダイモスより異様な光が確認された事件の第一次調査は、
各国合同の調査団を派遣する事になったのだが、
やはり破滅現象の効果で今最も発言力を持っているのは火星帝国だという事だ。
尤も其れも最悪の形に終わってしまったと言わざるをえないのだが…
ホログラムで会合に参加している各国首脳陣達から溜息が漏れる。

「全滅か。散々な結果ではないか」

だが其れでもアメリカ合衆国大統領ビンザー・デリングは余裕を持って応える。
「いや、収穫はありましたよ。
 古代火星文明の遺跡…しかも稼動している『生きた遺跡』であり、
 無数の特A級異形に加え守護者3体が護るようなものが存在するという事実…」

「…これが……あの時の衛星異常とどう関係するのか…」

「やれやれ…そんな事も解らないとは
 これだから無能な老醜は…」
突如、部屋に存在しないはずの若い生身の声。
其処に現れたのはベルトン内閣総理大臣ディノラシオール其の人だった。
正気を疑う若造首相、暴力沙汰でホログラム会議を推進させた張本人、言いたい放題言って国連脱退したプッツン。
色々なエピソードがあるものの、招かれざる客である事は間違いない。
どうやって入って来たのかは知らないが、追求しようと思う者は居なかった。
この常識知らずのイカレを相手にしても碌な事が無い。

「…ディノラシオール首相、国連を脱退した貴方が何故この場に?」

「ふっ…貴方々の愚かな茶番を見物しに来ただけですが…
 『エンピレオ』の事も知らないなどとは……無知にも程がありますね」

「エンピレオ…だと?」

「どうせボケた貴方々の頭ではすぐに忘れてしまうのでしょうが…
 まぁ、あまりにも愚かしく滑稽な其の様を哀れみ、お情けで教えてあげましょうか無能諸君?」

「…ふん、場を弁えない方だ。貴方はもう此処にいるべきではないのです。
 おい、誰か。ディノラシオール首相殿を丁重に表まで送って差し上げろ」
デリングの指示によりA級プロが室内へと駆けつけ、ディノラシオールを半ば強制的に退室させる。
不敵な笑みを浮かべ「言っても解らぬ馬鹿ばかり」とか何とか捨て台詞を残してイカレは消え失せた。

 

「で、これからの方針ですが、
 我がアメリカは調査を続行……」

「待って下さい大統領。
 あの惨状を見てまだそんな事を」
「いや、あれだけのものだからこそなんじゃないか。
 頻発する様々な異常現象の根源が其処にあるかも知れん」
「ああ、調べねばなるまい」
「次は特A級異形や守護者への対策もしなければなりませんね」

何か…違う。
ドイツ首相ムーヴァイツレン・クーデルはそう思った。
今この議場を支配している空気…其れまでのものと何かが違う。
確かに調査は必要だろう。其の点に於いて何ら異論はない。

各国首脳達に篭った異様な熱こそが、ムーヴァイツレンの感じた違和感の正体。
SeventhTrumpetの終末論と、頻発する異常事件の数々によって育まれた不安は民衆を親SeventhTrunpetへと向かわせたが、
其れは各国首脳も少なからず同じだったようだ。
無論、彼等とて国の重鎮。SeventhTrumpetを妄信するような事は無く、
SeventhTrumpetが黒幕であるかも知れないという疑念すら抱いていたはず。
だが今の彼等は、法王庁舎で法王代理となったサミュエルの言に聞き入る民衆と同じ眼をしていた。
SeventhTrumpetは最初に遺跡探査しアーティファクトを捜すべきであると謳った。
そして其れとは別件で各国が衛星を調査して…『生きた遺跡』を発見、何かが安置されている事を確認したのだ。
…世界はSeventhTrumpetの流れに組み込まれ始めていた。
執筆者…is-lies
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