リレー小説4
<Rel4.国連1>

 

   アテネ、国際連合第三庁舎

 

「地球の破滅現象は徐々に収まって来ていますが、帰還は時期尚早でしょう。
 此処は地球の様子を見る事と、火星と地球の親睦を深める事を兼ね、
 火星帝の好意を受け取り、暫くは滞在を続ける方針に異論無き事を確認します」
連合議会議長にしてアメリカ合衆国大統領ビンザー・デリングが決を採ろうとする。
彼等、国連は地球で起こった破滅現象から逃げる形で此処、火星へと来ていたが、
長年の地球支配から独立したばかりの火星帝国との仲はぶっちゃけ宜しくない。
寧ろ地球が危ないから火星に住まわせて貰いたいと言うのが
火星介入の良い口実でもあると前向きに考えを巡らせる程度には逞しい国連であった。
無論、地球を捨てる意思はないし、破滅現象の沈静化と同時に対応を協議する事になるだろう。
一方の火星帝レオナルドも、そんな国連の考えを踏まえた上で各国を火星へと受け入れたのだ。
人道的云々以前に火星帝国の有利を示す良い機会になる事は明白。
そんな上辺の社交辞令の下で常に相手を下そうという遣り取りが、
地球の国連と火星帝国の間で行われているのだった。
ベルトン抜きで採決ですか?
 一応、待っては如何でしょうか?」
「ベルトンの若造なんぞを待っても…」
「大体、遅れるにも程がある」
「あいつは足並みを乱してばかりだ」

ポツリと空席となっている其処は新興の多民族国家ベルトン一団の席だった。
妙に日本染みた其の国政の有り様も注目されている国ではあるが、其れ以上に…
嘗て、第三次世界大戦中にベルトンの一都市イプトが極大規模の破滅現象に巻き込まれて消滅したという、
悲劇の国…そして世界で初めて破滅現象が発生した国でもある。
だがそんな哀れな国の首相はというと…

「お待たせしました」
文章で美形云々書かれていても、挿絵じゃ代わり映えしない法則
悪びれる様子も無く遅れて議場に現れたのは、まだ十代にも見える美貌の青年…
話題のベルトン国内閣総理大臣ディノラシオール・ルシファラオン・ヴォルケッティアーノ首相であった。
其の風貌からして異様…というよりも場違いな男である。
鼻筋が通った端正な顔立ちに左右異なる色のオッドアイ、中央で分けた長髪は金色の波を立て、
男とも女とも付かない美しさを、議場に犇く中年の国主達に見せびらかせている。
着ている服も高級なブランドもののみで固められており、スーツはフルオーダーで一着700万という具合だった。
この若さで弱小の新興国家でしかなかったベルトンを発展させ(やはり自称・天皇は御飾りであった)、
国連副議長国にランクさせるまでに至った為、ベルトン国内では天才の中の天才と謳われているのだが、
其のあまりの若さと何を考えているのか解らない行動により、
各国からは「若造めが」と煙たがられているのが現状だ。
そんな事実を会議室中のねめつけるような視線がこの上なく示している。
併し当のディノラシオール本人はというと涼しい顔をしているものである。
この毒気の中でも平然と微笑みすら浮かべているのだから。
そういった態度に一層の不興顔を浮かべる面々の前に、更なる不快の種がディノラシオールに続いて現れる。
魅神・上(みかみのぼる)と照月・夜(てらつきないと)…ディノラシオールのイエスマン2人組だ。
此方も十代に見える若造だが、やはりベルトン国に於ける重鎮として君臨している。
軍務大臣である魅神は鼻や臍にピアスをし、ニット帽にサングラスという非常にイカれた装いで、
態度も装いに相応しく、曲がりなりにも国連の議場に臨むというのに、
ポケットに両手を突っ込み、タバコを吹かしている其の様は明らかに場から浮いている。
だが魅神も顔は上等な部類に入り、日焼けした肌や短く生えた顎鬚がワイルドさを醸し出していた。
内閣官房長官の照月も其れは同じで、女という事もあり風貌だけなら苛立ちの素にはならない。
露出狂丸出しな服装と、スーパーハードなムースで固めた髪が無ければの話だが。
何にせよこの場に相応しくない出で立ちである事は間違いない。
胡乱な酒場で騒ぎ立てている方が余程、様になっている。

「総理、この椅子汚れてるわ。ナメられてんじゃない?」
ディノラシオール用の椅子に難癖を付け、席の上に腰掛ける照月。

「おい其処のキモ過ぎるオヤジ、邪魔だ退け」
魅神がドイツ・ムーヴァイツレン首相を蹴り飛ばして椅子を一つ空ける。

「な…何をする!無礼ではな……んぐっ…!」
怒鳴りつけるムーヴァイツレンだったが、其の抗議は皆まで言えずに押し黙るを得なかった。
其の股間に魅神の持つ短銃の銃口がぐりぐりっと押し付けられていたからだ。
魅神がムーヴァイツレンの顔にタバコの煙を吹き掛けて言う。
「うるせぇよジジイ。
 あんまゴチャゴチャ囀ってると臭ぇ金玉ハジくぞテメェ?」

あまりの傍若無人さに、絶句する面々。
「(何だこのキチガイ共は?)」
「(私は夢でも見ているのか?)」
護衛も困惑気味ながら銃を取り出してベルトン国一行へと銃口を向ける。
そんな中、微笑を崩さず魅神によって空けられた席へ優雅に着席し口を開くディノラシオール首相。

「ムーヴァイツレン首相が気持ち悪い老醜であるという点は同意ですが
 魅神、貴方も其の程度にしておいてあげなさい。今度からは椅子の汚れに気を使って欲しいものです」
イカれの親玉もやはりイカれている。
初めてディノラシオールと対面した者はこの光景が何かの低俗なやらせではないかと馬鹿な想像をしてしまっていたが、
其の他の面子は彼等以上に衝撃を受けていた。
確かにディノラシオール一味は様々な意味で議場に相応しくない者達だったが、
これ程までに酷くはなかった。

「火星帝の好意を受け取り、滞在を続ける方針に異論無き事を確認します」
議長ビンザー・デリング大統領が場の混乱を無視して繰り返す。
其の様子が癇に障ったのか、魅神がデリングの元へとつかつか歩み寄る。

「オイオイオイオイオイオーーーイ?
 シカトぶっこいてんじゃねぇよ屁こきオヤジ。
 ベルトン御一行様への挨拶はどーなってんだよ?
 ザケてんじゃねぇっての。何とか言えよビチグソが」

デリングの前にガード達が集まった為、魅神は悪態をついてディノラシオールの許へ戻る。
ガードは皆、A+ライセンスを持つプロの域にあるが、
ベルトンの者達はそんな彼等をまるで恐れていないかのように振舞っている。
だがデリングはやはりペースを崩さず、早々に話を纏めてからベルトンへの対応に入る。

「ベルトン国ディノラシオール首相、貴方はこの場に相応しくない。
 ムーヴァイツレン殿への暴力・暴言は退場に十分過ぎる」

「ナメてるねこのジジイ。ねぇ総理、これさぁ生ゴミに捨てて大丈夫よね?」
「大丈夫なんじゃないですか?身の程を知らない小者はこれだから困りますね。
 アメリカ程度の小国が我がベルトンと対等に話し合えるなどと考えられては…」

ディノラシオールの言に、ガード達が構えようとするが、其れをデリングは片腕で制する。

「これからの会話を考えると…他の皆様の耳に入れるには忍びないですな。
 隣でゆっくり2人で…いや、4人で話し合おうではありませんか。
 ゴア、火星の件は纏まったから後は任せる」

解散をゴア副大統領に任せ、デリングは顎をしゃくりディノラシオール達を別室へと誘う。
攻撃的な彼等は聞くに堪えぬ罵詈雑言を浴びせ掛けながらもデリングの後に続き、議場を変えるのだった。

 

 

「で、何を話すというのですか?
 貴方のような矮小に割く時間は成る丈、短くある方が好ましいのですが…」

小部屋の席に3人が着き、長いテーブルを挟んでデリングと対峙する。

「もっと場を弁えて連帯は出来ないのかね?
 君達だけの問題で済むなら私も黙っているが、小さな議員を迎える予定なんだ。
 若い子への風当たりをキツくされては敵わんよ」

デリングにも何らかの思惑があったという事だが、
其れに対しディノラシオールはまるで全てを見透かしているかのように嗤って見せた。
「ああ……あれの事ですか。
 あんなものを使うなどとは……随分とヤキが回ったのではありませんか?」

「ま、所詮アメリカみてーな偉そうにしてるだけの後進国はさっさと滅びろって事だな」 

「ってか頭悪いし。もっと他の手が幾つもあるっていうのにさぁー」
魅神と照月も一緒になってデリングを見下し嘲り笑う。
其れがデリングの心算を本当に見破っているのか、単にブラフを掛けているだけなのか。
そんなふざけた態度の彼等を冷ややかに見詰めデリング大統領が言う。

「…私が言いたい事は唯一つ、私の邪魔をするな…だ」

デリングの威圧を真っ向から受け止めるベルトンの3人。                                                                                                                       デスクの下へ潜れば、彼等3人のズボンに染みが広がり、椅子を汚す様が見て取れただろうが、生憎、この部屋にそんなソリッド・スネークは存在しなかった。
涼しい顔は其のままにディノラシオールが応える。
「貴方の予定など私には関係ありません。
 ですがまぁ、貴方達の茶番に付き合うのも時間の無駄でしょうし…
 御望み通り、ベルトンは勝手にやらせて貰う事にしますよ」

あっさりと国連脱退宣言を受け、もう此処で話す事は無いとばかりにデリングは無言で部屋を後にし、
ディノラシオール一味も又、デリングのとは反対方向の扉から通路へと出た。
余裕を湛えた笑みは絶対にして不変たる自信の表れなのか、単に恐れを知らないだけなのか…
いずれにせよディノラシオールは国連を脱退しても尚、楽しそうに笑っていた。

 

「ふっ……
 権力を誇る老醜共の何と愚かな事か…年を経たというだけの愚衆は大人しく隠居でもしていれば良いのです。」

「力の差が解らないなんて…畜生以下ね」

「地球を包み込んだ破滅現象こそが、俺達の力なのにな。
 何も出来ねぇでひいこら言って逃げ出した負け犬が上等かましやがってよぉ」

「ゼムセイレス前支配者は良く力を付けてくれました。
 この壮大なデモンストレーションの為ならば、イプトなど安いものでしたね」

「プロジェクトBNウェイレアも近々結実するとビッグヘッドから通達があったわ」

「後はSFESから前支配者を奪い取るだけだな。
 LWOSはSFESが片付けたし、横取りされる事はねぇな。
 まぁ、どいつもこいつも俺達がラスボスだって事を解っちゃいねぇアホ共だけどな」

「アホ前支配者、アホサーヴァント、アホ国連、アホSFES、アホLWOS、アホセレクタ、
 なーんであたし達の周りってこうもアホばっかなのかしらねぇ。
 ビッグヘッドも最後はあたし達に裏切られる道しかないアホだし」

「ふっ……古代火星文明、大いなる鷲、『Hope』、前支配者、八姉妹の結晶、遺シ羽根…
 森羅万象の全てが私の手の内にあり、痴愚なる者共の行い全てが私の予想の内に収まっている…
 宇宙の真理も法則も…私から見れば子供騙しで幼稚なカラクリに過ぎない。 
 私こそはこの愚かで滑稽なバトンリレーの中心に君臨し、其の最後に全てを捧げられる者…
 私こそがこの世界の中心であり万物の主であり支配者…ゲームマスターに他ならない…
 愚衆共よ…私の掌の上で踊るが良い。そして私に楽園への扉を捧げて貰いましょう」

「ゲームねぇ。タイトルは?」

「そうですね…愚かな人形が私へ供物を捧げるべく織り成すリレー…
 ……Relで良いでしょう」

「で、さっきの部屋の『しるし』はどうする?」
 …スイーパー(掃除屋)を呼ぶか?」                                                                                                                                       『スイーパー』=『清掃員のオバサン』
「放って置けば其の内来るでしょう。
 私達が手を汚す必要はありません」                                                                                                                         下半身に上着を巻いた異様な風体でコソコソと人目を避けて出口へ向かう3人。
「キャーーー!!誰だいこんなトコに漏らしたバカは!」
先の部屋から悲鳴が上がったが、
其の時には既にディノラシオール達は庁舎ビルから立ち去っていた。
執筆者…is-lies
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