リレー小説4
<Rel4.タカチマン4>
「・・・・・はッ」 グオオオオオッ!! グシャッ 「ふむ。・・・やるな。いつの間にか追い越されてしまっていたみたいだな。ハハハ」 庭で魔法の稽古をしているのはタカチマンとユゼフ博士であった。 シェルターの墜落事故の際に自分がエーテル能力を使える能力者である事を知ったタカチマンは、 一日一時間昼食後、そこそこの魔法の使い手であるユゼフ博士に師事して魔法の訓練を受けていた。 戦いに興味がある訳ではないが、この時勢の護身用として、 そして何より自分が過去に何をしていたかを知る手がかりになると考えての事であった。 博士の持つ魔導書の類も読み漁った所、やはりこの手の知識を嘗て数多く持っていた事を彼は強く感じていた。 「次は私がやってみよう。グラビティボム!!」 グシャッアッ ターゲットの鉄屑は音を立てて大きく拉げた。 先ほどタカチマンが放ったのと同じ重力弾だが、タカチマンのものよりも威力は若干低いようだ。 「さすがですね。威力は僕の方があるかも知れませんが博士は魔力のコントロールが上手だ。 僕の重力弾よりもエネルギーが分散していない」 「いや、君の方が秘めてる力は私なんかよりずっと高い。 私と同じ重力弾を使える人間は珍しいんだ。教え易くて助かったよ。 それに技術さえ身に付ければ、君は相当な能力者になれると思うよ。ハハハ」 ピンポーン そこへ、家の門のチャイムが鳴り響いた。 タカチマンが門を開けると、そこへ顔を覗かせたのはジョニーであった。 そう言えば、半年後にまた来ると言っていたな。例の落下事故から既に半年が過ぎ、季節は秋になっていたのだ。 「やっほ〜姉ちゃんいてるぅ〜?」 「・・・中にいるよ」 「ああ、お前!姉ちゃんに何もしてないやろうな!?」 「してないしてない」
執筆者…shack様
2人はエリシャとプルートを加え散歩に出掛けた。町の中心部にある並木通りを3人は歩いていた。 秋とは言えど、冷たい空気は既に冬の気配を覗かせている。 ジョニーとエリシャが先頭を歩き、遅れてタカチマンが歩いていく。 プルートのロープを持たせられているのは無論タカチマンである。 「寒い・・・」 「今日はゴンゾウおじいさんは来てないのよね?」 「うん、今日は俺だけや。実はな、俺、大学受験があるから、これから暫く顔出せへんねや。 勉強初めて篭りっぱになる前に、姉ちゃんの顔見ておきたくなってな」 そう言ってジョニーは鼻の下を指でずうずうと擦った。 「俺な、爺ちゃんの研究所継いで、結晶技術応用した地球の環境保全に携わりたいねん。 だから、今から勉強して立派な研究者になるんや。爺ちゃんに恥はかかせられへん!」 「そっかあ。まあ、アンタにしては上出来な夢ね」 「へへへ〜」 「(それは褒めてるのか・・・?)」 「爺ちゃんはいつも余裕持って行動せいって言ってたからな。早すぎるくらいで丁度いいんや」 「ううっ、寒い・・・戻ろうよ」 一同は散歩も程ほどに家に戻り、遅い朝食を取った。いつもと変わらない日々が流れていく。
執筆者…shack様
「うむ・・・こんなものだな」 「これは拳銃ですか?」 研究所の机の上でユゼフ博士が弄っているのは紛れも無い拳銃であった。 非能力者や立場の弱いものが暴力から身を守る上では必需品となっている時世ではあるが、 非暴力を唱えて結晶能力を抑制する研究を行っている彼がその物体を手に持っている事が、 タカチマンはどうにも納得出来なかった。 「友人に頼んで作ってもらったんだよ。物騒なご時世だからね。 昨日の夜もコンビニに出かけただけなのに、ゴロツキに囲まれてしまってね。 なんとか逃げられたから良かったものの」 「一家に一丁とは言いますが・・・僕はあまり好きじゃないですね」 「私も同じさ。なるべくなら持ちたくない。 それに市販のものは殺傷力がありすぎて、自己防衛以上のものになってしまうだろう。 これはカートリッジを変換して、色んなタイプの弾を撃てるように設計されている。 つまり、必要以上に相手にダメージを与えなくて済むわけさ」 「まあ、理屈はわかりますが・・・・」 「うむ。とにかく使わずに済むに越した事は無いな」 「ユゼフ博士!」 「どうしたブリクサ」 「結果が出ました。結晶エネルギーは効果範囲内では一定値を超えません!」 「そうか!これは・・・・あとは小型化にさえ成功すれば、MCFは完成を見る! 急いで今回のデータを纏めておいてくれ」
「(・・・・・・・・・)」
執筆者…shack様
その日は風が強い日であった。 簡単に昼食を取ったエリシャとジョニーは、二階に上がるための階段の近く、 中央の研究室の方から何やら言い争いが聞こえるのが聞こえた。 「パパの声・・・なんか怒ってるみたい?珍しいわね・・・ジョニー、行ってみましょ」 「なんやなんや〜」 二人は忍び寄り、閉じている研究室の扉の前で聞き耳を立てた。
「もう一度言うぜ博士。ライブラ結晶を俺に渡してくれ。この研究を企業に売るんだ」 「ブリクサ・・・・貴様正気か?」 「そうだ。正気だ。リゼルハンク社に掛け合ってこの技術を軍事利用出来るような装置を開発するんだ。 アンタも分かっているでしょう?この研究は大きな金になる。 博士の地位だって今よりずっと高いところに行けるはずだ。・・・・今すぐ、方向を転換すべきです」 「・・・・断る。これを軍事利用させる事は避けねばならない。 私はあくまで、この技術を、力を望まぬ能力者達と、能力者犯罪を抑制するために・・・」
「(ブリクサ・・・あいつ、前々から怪しいと思ってたけど、まさかそんな事考えてたなんて・・・)」 「(こう言うの修羅場って言うんやな。シュラバラバンバって昔あったよな)」 「(何わけわかんない事言ってるのよ!)」
ブリクサは腕組みをしたまま、やはりそうかと言う諦めの表情を見せ、呟いた。 「やっぱりそう言うと思ったぜ。交渉決裂だな。・・・・俺は降りる」 「・・・・・好きにしたまえ」 博士がそう言い放つとブリクサは白衣を机の上に脱ぎ捨てて、部屋を出ようと歩き出す。 「(やばっ、こっち来るわよ、逃げよっ)」 「(ひゃあっ)」 二人は素早く扉から離れて階段の後ろに逃げ込んだ。 ジョニーがもたついたが、エリシャが彼の首根っこを捕まえて強引に引っ張ったため何とか間に合った。 そのすぐ後、ブリクサが扉から出てくる。 一瞬、こちら側に殺気の篭った視線が及んだ気がしたが、 エリシャは首を横にぶんぶんと振ってきっと気のせいだと自分に言い聞かせた。
「(問題はあのタカチマンだな・・・奴を始末しない限りは先へ進めん・・・子鼠が二匹。やはりこいつ等を使うか)」
執筆者…shack様
タルシス郊外、研究施設跡
「いいかお前等。段取り道理にやれよ・・・失敗は許されねえ」 「ああ、当たり前ぇだ」 暗くだだっ広い倉庫の様な廃墟・・・タルシスの郊外にある、研究所跡である。 そこに集うのは数人の男達・・・ ここタルシスはポリス建設の初期に作られた都市であり、 役目を終えて打ち捨てられた廃墟のような建物が目立つ土地でもある。 中には反政府組織や獣人達、またマフィア等の巣窟となっている危険な区域もあり、 ここ数年での火星警察との小競り合いは一向に無くなる気配を見せない。 その犯罪の中心部となっているのはモーロック区画であるが、その周辺の小さな廃墟なども、彼等は塒として占拠していた。 「しかしブリクサよ。こんなはした金で事を手伝えって言うのはあんまりだぜ」 「ヴィレム。お前、ユゼフ博士の研究の価値をまだ理解してねえみたいだな。 結晶を手に入れた後ここを使わせてくれるなら、研究を売った金は後で等分で分けてやると言っているだろう」 「・・・・それを破れば、わかってるな」 ヴィレムと呼ばれた太った男が不服そうに答えた。 190cm近い大男だが、腹は出張っており締りが無く、拉げた鼻に干乾びた顔が印象的な男だ。 「ああ・・・当然だとも・・・・。もう、後には戻れねえ。フランツ。お前もわかっているな」 「・・・・・ああ。娘を人質に取り、管理されているデータを手に入れる。場合によっては保存媒体の結晶丸ごと。 もう一人の能力者は博士と引き剥がす。これはこの間雇った奴等が動いてくれる。 もし戦闘になれば博士の生死は問わない。博士と戦闘になった場合は恐らくもう一人とも戦闘になる。 そいつはガキ二人を餌にしてここにおびき寄せ始末する」 フランツと呼ばれたすらりとしてはいるが骨組みは頑丈な男がすらすらと段取りを答えた。 「ああ。タカチマンは放っておいてもいいところだが、それでは俺の気がすまねえ。 決して油断はするな。ユゼフ博士もタカチマンもなかなかの使い手だ」 「その為に俺達が必要なんだろう?」 「ああ。頼むぜ・・・・」
執筆者…shack様
シュヴァンクマイエル魔導研究所
「ねえ、なんでわざわざこの写真、セピアで印刷しちゃったのよ。なんか、最近のパパは後ろ向きだわ」 研究室の机の上にある写真立てに入れられているのは、 数ヶ月前のエリシャの誕生日に撮った写真であった。見るとセピア色にされて印刷されている。 「茶色は気分を落ち着かせる色なんだよ。 何年かしてこの写真を見た時に、懐かしい気分になれるといいなと思ってね」 「そういうもんなんかなあ〜。 チェ、この写真、俺も混ぜてほしかったわ。もうちょっと早く来てればよかった」 滞在中のジョニー少年がしょんぼりと呟いた。 「それにしてもタカチマン遅くない?ただのお使いでしょ?」 「そう言えばそうだな・・・・」
執筆者…shack様
タルシス中央道り公園
「やっと見つけたぜ」 「何者だ、あんた達は・・・」 電球、トイレットペーパー、詰め替え用の洗剤、髭剃りの替え刃、 タマネギ、ニンジン、長ネギなどが透けて見えるスーパーの袋を手にしたタカチマンを取り囲んでいるのは、 いかにもゴロツキ、ギャングと言った風情の3人組であった。 何者だなどと聞かずとも、正体は一目瞭然である。 「(変なのに絡まれてしまったな・・・)」 「悪ィけどょお、ちょっとだけぇよ、おねんねしててくんねえかぁよ」 「うんうん、アニキの言う事聞いておいた方が、身のためなんだな」 そう言うと、アニマル・ウォリアーの様な髪型をした男がいきなり隠し持っていた棍棒で襲い掛かってきた。 「!!!」 何を思ったか、咄嗟に袋から長ネギを取り出して応戦しようとするタカチマンだったが、 当然、長ネギは呆気なく棍棒にたたき折られてしまう。 容赦なく襲い掛かる棍棒を間一髪かわして魔法を放とうと片手に魔力を集中するが、 正面に回りこんできたトサカ頭の膝蹴りを鳩尾にもらい、その場に蹲ってしまった。 平日昼間の公園と言え通行人が居ないわけではない。 だが、通り過ぎる主婦、犬を連れた中年、昼休みのサラリーマン等の通行人達は、 よくある光景我は関知せぬと言った表情で脇を歩いていくばかりであった。 中にはばつの悪そうな表情でこちらを見つめるだけの老人もいた。誰か通報しろよ。 「随分あっけないんだな。もっとボコってやりたいところだけど、 これ以上やって通報されたらやばいんだな」 「まあ、依頼主からは足止め分の金しか貰ってねえから、この辺で勘弁してやるよ。じゃあな」 ボコッ!! 首筋に重い痛みが走り、地面に散乱する野菜、 日用品等が目に入ったところで彼の意識は途絶えた。 そして暴漢達のリーダーらしき男が携帯端末を手に取った。 「もしもし旦那ぁ、こっちは終わりやしたぜ。野郎は伸びてます、これでいいんですな?」
執筆者…shack様
シュヴァンクマイエル魔導研究所
「グルルルル・・・・ッ!ワンッ!ワンッ!」 「・・・・何のつもりだブリクサ。エリシャを放せ!」 「何度言えば分かる。これが最後だ!大人しく言う事を聞けば、娘は返す!」 「いやあっ・・・・」 エリシャの頭に銃を突きつけ要求をするのは、ブリクサ・ピウスツキその人であった。 白昼堂々と研究所に進入してエリシャを人質に取り、 その対価として自ら手を引いた研究の成果である超結晶ライブラを求めたのである。 研究所に進入してきたのはブリクサ一人ではない。 マシンガンを携えた細身の男が玄関を塞ぎ、もう一人、ブリクサ以上の巨漢の男が、 研究所のデータ保存媒体である超結晶ライブラのプロテクトを解除しにかかっている。 ユゼフ・シュヴァンクマイエル博士に逃げ道は用意されていなかった。 番犬プルートは博士の足元で、無礼な侵入者に怒りの声を上げている。 「ガキがもう一人居た筈なんだがな・・・フランツ!もう一人のガキを探せ!」 「ブリクサ。私はお前の才能を買っていた。理想を共に実現してくれる仲間と信じていた。 何故だ?何故、裏切った!?」 「何度言えばわかるんだ。博士、あんたは甘い。甘すぎる。 今更、結晶能力を弱めて押さえ込む程度の装置が開発されたからと言って、 この世界が変わると本当に信じているのか?争いが減ると思うのか!? どんな優れた知恵ある技術も、人間の心が変わらぬ限りはただ争いの火種にしかならん。 博士、あんたは見てきた筈だろう!この世界の抜け道など無いどうしようもない状況を! だから俺は、自分の欲に生きると決めたのだ!愚かなのはわかっている!だが俺にはこれしか道がないのだ・・・」 決断を迫るブリクサ。彼は自らの愚かさを理解していた。 だが、彼にはそれに、その愚かさに従い生きる以外の術を見失っていたのだ。全ては欲望の為に。 「全ては私の甘さが引き起こした事か・・・。 わかった。要求を受けよう。娘の命には代えられん・・・エリシャを放せ」 博士が開発しているMCF(マジック・コントロール・フィールド)は、 特殊な結晶による小型の結界を張る事によって結晶能力のエネルギー、威力を軽減出来る装置であった。 現在存在する物はカバン程の大きさの試作品一点のみである。 最終目的としては小型化し護衛用として身に付けるか、 力を望まない能力者が身に付け、自らの結晶能力による生きる上での弊害等を軽減する事にあった。 だがその効果を広範囲化し、効果を上昇させる事が出来れば、強力な対能力者用の防衛兵器としても成り立つ。 そしてそれは理論的に不可能では無い事から、軍事関係の開発者等に渡ってしまっては危険な技術でもあった。 「パパ!?ダメよ!!それは・・・パパの夢だったんでしょ!? 立派な夢だったんでしょ!?・・・確かにこいつの言う通り、 パパの研究で争いを減らす事なんて出来ないのかも知れない・・・だけど、私は救われたよ! パパの考えを知って、優しさを知って、心が救われたの! それが完成すれば、私みたいに、少しでも、希望を持てる人が居るかもしれない・・・だから・・・お願い・・・・」 ブリクサの腕の中で泣き叫ぶエリシャ。その表情は今までに見せた事の無い必死なものだった。 「エリシャ・・・・」
もぞもぞ・・・ 「ああっ・・・姉ちゃん・・・俺は、俺はどうしたらええんやっ・・・!! なんも・・・、なんも、できんのかあ・・・っ」 テーブルの下ではジョニー少年が膝を抱えて蹲っている。 軟らかい体で椅子の裏の小さな隙間に入り込んでいるので、彼の姿は一味には確認出来ていないようだった。 遠くの方で、もう一人の男が自分を探す為に部屋を荒らす音が聞こえていた。
「ヴィレム!プロテクトはまだ外れんのか!?」 「やってる!もう少し待て!」 機材に取り付けてあるライブラ結晶のプロテクトを外しにかかっている巨漢が叫ぶ。 こういった技術はかなり専門的なものなのだが、男の動きは素早く正確であった。おそらくそれなりの知識があるのだろう。 だが、エリシャの言葉に苛々を募らせたブリクサが叫ぶ。 「チッ、構わん、装置を壊して結晶丸ごと持って来い!」 「パパ!!!」 時間は無い。意を決した様にユゼフが口を開いた。 「ありがとうエリシャ。やっぱりお前は自慢の娘だよ・・・こんな私にも、戦う勇気を与えてくれた」 言うと、ユゼフは素早く懐から銃を抜き、 「エリシャ!!目を瞑れッ!!!」 引き金を引いた。
「!!!!!」 ユゼフの発射した弾丸はブリクサとエリシャの直ぐ横にぶら下っていた大きな照明の笠に命中した。 その刹那、激しい閃光がブリクサの目を襲う。博士が発射したのは閃光弾であった。 「くそぉッ!!!何をしやがったあッ!!!」 「ガアッ!!」 そしてブリクサの手からエリシャが離れた隙に彼に襲い掛かったのは番犬プルートであった。 プルートはブリクサの左手首を噛み千切らんばかりの力で捕らえて離さない。 手首からは鮮血が迸る。その隙にエリシャがユゼフの元に駆け寄ろうとするが・・・・ 「残念だね、嬢ちゃん」 エリシャの首を後ろから捕らえたのは、黄色い光を放つ超結晶ライブラを抱えた巨漢・ヴィレムであった。 「意外と手間が掛かっちまったが・・・こいつは頂いて行くぜ。 お前等!サツを呼ばれる前に引き上げるぞ!急げ!」 「エリシャ!!」 「いやあっ、離してッ!!!」 「チッ、もう一人のガキは諦める、フランツ!車を出せ!!」 エリシャを片手で抱えたまま、巨漢ヴィレムは素早く研究室を飛び出る。 急いで追うユゼフだったが、立ち塞がったのはブリクサであった。 遠くで車のエンジン音が聞こえた。 「パパぁッ!!!!」 エリシャの叫ぶ声が響いたが、やがてそれも聞こえなくなる。 最後に部屋に残ったのはブリクサであった。 「悪いな博士・・・娘さんは預からせてもらうぜ・・・ああ、チカチカする」 「!!!プルート!!!貴様あッ!!!」 ブリクサの足元には番犬プルートが口から血を流して横たわっていた。 体には強力な打撃を受けた痕があった。 ユゼフがさらわれるエリシャに気を取られた隙に、 ブリクサはこの巨大な番犬を一撃で倒してしまっていたのだ。 「ブリクサ・・・そこをどけえッ!!!」 ユゼフの渾身の重力弾がブリクサを襲う。 だが・・・魔法弾は男に到達する事無く、男を覆うコンクリートの盾によって防がれていた。 ブリクサの能力であった。彼は触れたコンクリートの床を剥がして盾に作り変えたのだ。 「それはお前の能力・・・・鉱物操作!」 「悪いけどよ・・・アンタ程度の技なら、いくらでも防げるんだわ・・・ 俺が元々傭兵やってたって知ってるだろ?こうやって・・・・何人も殺してきたんだよ!!」 ブリクサが片手を振り上げると、今まで彼を覆っていたコンクリートが剣となりユゼフを襲う。 「ぐ・・・・あッ!!!!」 直撃。ユゼフは脇腹に一撃を受けて倒れ伏した。 「・・・・・じゃあな博士・・・あの世で自分の甘さを呪うんだ・・・・」 そう言い終えると、ブリクサは何やら紙切れをユゼフの上に投げ捨て、研究室を後にした。 床には割れた写真立てが落ちていた。
数十秒後。
「博士ぇ・・・っ、博士ぇ!!」 机から這い出てきたのはジョニーであった。 「き・・・みは・・・・ジョニー君・・・よかった、無事・・・だった・・・か・・・」 ユゼフはかなりの重傷だったが、まだ息があった。 ブリクサは止めを刺さなかった。何故なのかはわからない。 彼の中にある、苦楽を共にした者を手にかける罪悪感からかもしれない。それとも、ただの偶然かも分からない。 「警察に、警察に電話せなあ!!あ、あと救急車、救急車・・・ど、どうしたらええんや、うわあ〜」 ジョニーは何も出来ない無力感と恐怖で泣き出し、パニック状態であった。 「いいんだよ、私はもう・・・たすか・・・らないだろう。 それ・・・より、エリシャ・・・・エリシャを・・・・っ、助けてあげてくれっ・・・」
執筆者…shack様
「・・・・うっ」 夕焼けが、やけに眩しかった。目を開けたタカチマンの目に飛び込んできたのは夕日。 随分な時間、気を失っていたようだ。ここは公園の茂みの中のようだ。 どうやら、暴漢達に人目につかない場所に運ばれていたらしい。 「そうだ・・・僕はゴロツキに殴られて・・・」 だが、財布を取られた様な形跡は無く、タカチマンはどうにも釈然としない気分であった。 隣には散乱した買い物袋の中身が、元通り袋に詰められている。律儀な暴漢もあったものだ。 無論長ネギだけは折れたままだったが。 「よく・・・わからないな・・・まあいいか。帰ろう。みんなには心配かけただろうな」
数分歩いて家に辿り着いたタカチマンだったが、どうも家の様子がおかしい。 普段なら玄関先に堂々と構えているはずのプルートの姿が見えない。 それに、いつもなら無い不気味な静けさが漂っていた。 「ただいま、帰りました」 いつもなら研究室から大きな音で響いてくる音楽が無い。 荒らされた玄関。 そして。 「ああ・・・っ、タカチマンさんっ!!博士がっ、姉ちゃんがあっ、うわああっ」 大声で泣きながら飛び込んで来たのはジョニーであった。 「どっ・・・どうしたんだ。・・・・博士!!!!!」 「タ・・・カチマン君・・・おか・・えり、ハハハ、随・・分長い・・・お使いだったね・・・・」 研究室の床には血溜まりが広がり、ユゼフ博士と番犬プルートが横たわっていた。 ユゼフ博士は腹と口から血を流し、プルートは息をしていない。 研究室は酷く荒らされている。床のコンクリートが部分的に剥がれ、 三つある照明のうちの一つは完全に壊されていた。そして、手作りのメインコンピューター。 二階堂博士から譲り受けた、博士の思い出の品であった。 無理な解除を試みたせいでシステムは破壊され、機械は静まり返っていた。 そしてそこに取り付けてあった保存用の超結晶が無い。 「・・・・結晶が!」 「そう・・・さ。ブリク・・・サが」 少しだけ冷静さを取り戻したジョニーが事の次第をタカチマンに説明する。 ブリクサが残したメモには彼等の潜伏場所が記されてあった。 恐らくエリシャを人質にタカチマンを誘き寄せるつもりなのだろう。分かり易い策だ。 しかし、そこはギャングの本拠地に近く非常に危険な区域で、警察の目は届き辛い。 火星警察に訴えようにも、潜入には相応の準備が必要なためすぐには動いてはくれないだろう。 もし警察が踏み込めば恐らくは組織との全面抗争になる。 そうなれば時間がかかるため、その内彼等は潜伏場所を変えてしまうだろう。エリシャを助け出すには今しかない。 「ぐフッ・・・」 ユゼフが口から血を噴出す。 「博士ッ!」 「これ・・・を」 震える手で、ユゼフ博士がタカチマンの手を握り、一つの物体を渡す。銃であった。 「これは・・・・・」 「見ての・・・通りさ・・・銃だ。これをどう使う・・・かは・・・君に任せるよ・・・・。 弾は・・・私の部屋の・・・引き出しにある・・・。 それ・・にしても・・ハハハ・・・みっともない所を見せて・・・しまったね・・・・。 この研究所は・・・君に任せる。それと最後の頼み・・・だ・・・ど・・うか、エリシャを・・・・」 この言葉を最後にユゼフの手から力が無くなった。 「博士!!!!」 「博士ぇ・・・・」
タカチマンは記憶を無くして以来初めて、心が震えるのを感じた。 そうだ。覚えている。この感情は怒り。理不尽な暴力に怒り身を震わす、激しい感情だ。 何時の時だったろう。こうして銃を握り締めていたのは。 その時、彼の体に僅かだが「闘い」の記憶が蘇るのを感じた。 過去の自分が決意を迫る。「闘え」と。 タカチマンは足元のプルートを見遣った。もう息は無い。 ジョニーから聞いた彼は勇敢だった。自分よりはるかに大きな敵に果敢に立ち向かい、無残に砕かれた。 彼の意思も決して無駄にはしない。 「プルート・・・・」 タカチマンは銃を握り締める。 「ジョニー。君は残れ。僕は行くよ・・・・エリシャと結晶を奪い返す」 「き、危険すぎるて!」 「罠なのは間違いないけど・・・それでも、やらなきゃいけない時がある。 今がその時なんだ」 「そっか・・・お、俺にも行かせてくれ!俺、さっき何も出来んかった・・・ 姉ちゃんが連れてかれる時にも、怖くて動けなかった。 でも、もうそんなの嫌や・・・!」 「・・・・いや、危険すぎる。君は残れ」 「で、でも・・・」 「君は僕みたいに自分の身を守る為のものは何も持っていないだろう?頼む。残るんだ」 夜の街に消えて行った彼の表情は、今までに無い殺気に満ちていた。
執筆者…shack様