リレー小説4
<Rel4.白海・駿三郎1>

 

   アレクサンドリア、白海研究所

 

「な・・・なんだ・・今のは・・・?」
白海弟事、駿三郎は驚いた。

兄の様子がどうもおかしい。そう思い兄の後をつけてきて
ついには入るなとまで言われた研究所にまで忍び込んでしまった。
そして機械設備の影から特殊望遠鏡を使いスパイの真似事の如く彼らを監視していた。
そしてついに現実ではありえないものを見てしまった。
ミンファの耳から出た羽虫だ。
駿三郎の心臓はドクンドクンと波打っている。
今にも口から心臓が飛び出してしまいそうだった。

「お兄ちゃんの様子がおかしいと思ったら・・・
 なんなんだ・・・一体何が起こってるんだ・・・?」

恐怖のあまり身動きが取れなかった。
このまま此処にいたらおそらく自分はこの世には存在できないだろう。そのような思考が駿三郎の脳裏に浮かぶ。

「この場から離れなくちゃ・・・」

駿三郎はガクガク震える足に気合をいれて忍び込んできた
通気口へと入り込み出口へと進んでいく。
執筆者…R.S様

   アレクサンドリア、白海アイランド、白海城

 

「ジョージーーー!!」
埃まみれになった駿三郎が一人の老紳士に泣きながらすがりつく。

「むっ?どうなさいましたか?駿三郎様」

老紳士の名はジョージ玖玲。白海家の執事長を勤める男だ。
駿二が生まれてから今日まで白海兄弟を世話してきた男である。
「お兄ちゃんが・・・兄上が・・・」
ジョージはこの駿三郎の泣き顔は何度も見ているが
今回ばかりは尋常ではない事を察した。

「兎に角、落ちついてお話ください。何があったか、そして駿二様がどうなされたかを・・・」

ジョージはそう言うと手を二回ほど叩いた。
すると天井から、庭の灯篭から二人のメイド少女が現れた。
彼女らは白海家のメイドのノエルシエル。双子の姉妹だ。
まだ白海家に来てから3〜4年程度だがジョージからの信頼は厚い。
二人はジョージと目を合わせるとこくりと頷き
すぐさま駿三郎を茶の間のどんでん返しの向こうへ連れて行った。
その後を用心深く周囲を見渡してからジョージは後を追いかけていった。

 

 

「さてと・・・何があったか・・・説明お願いできますかな?」

ノエルが駿三郎を落ち着かせて座布団へ座らせてから
ジョージは優しく静かに駿三郎に尋ねた。 
「おに・・・兄上とミンファちゃんが研究所に入ってったんだ・・・僕兄上がなんかおかしいし
 ミンファちゃんがクロノ兄ちゃんと一緒にいないなんておかしいと思ってあとつけていったんだ・・・そしたら・・・」

駿三郎は研究所で見たミンファの耳から出てきた羽虫の事を
ジョージらに伝えた。
あまりの恐怖から声が涙声でうまく聞き取れない部分、
何を喋ってるか解らない部分も多かった。
しかしジョージは黙って頷いていた。

「しかし〜。前々から人間離れしてると思ってたら・・・
 ホントに人間じゃなかったんですねえ〜」
青髪のメイド、シエルはすっとぼけた口調で口を開いた。

「いやそーじゃなくて、駿二様が明らかにおかしくなったってことでしょう」
そしてすぐさま茶髪のメイドのノエルに突っ込まれた。

「ふむ・・・駿二様はクロノ殿に気があるような事は知っておりましたが・・・まさか人間をやめてまで気を引こうとするとは・・・」
深刻な表情しながらジョージは呟いた。

「いや話が違いますから。
っていうか人間やめてませんから。かろうじて」

「っていうか三人共兄上を人間として見てないよね。
 仕方ないと思うけど」

完全に話の論点がずれている。っていうかグダグダだ。

「さて・・・冗談はさておき・・・駿二様の様子がおかしかったのは事実。
 そして駿三郎様が見た通りの話から推測すると・・・。何かに取り憑かれているように思えますな」

「いやいや〜元から変ですよぉ〜?駿二様は〜」
「おめーは黙ってろ!!」

ジョージの話に茶々を入れるシエルに怒鳴り散らすノエル。
そんなやり取りを華麗にスルーしてジョージは話を続ける。

「以前駿二様から
 「酔っ払いの耳から羽虫が出てきた。
  それをミント殿が叩いて潰した」
 との話を聞いたことがあります」

「ま・・・まさかそれって・・・」

その話なら駿三郎も聞いたことがあった。
以前駿二が入り浸っているラーメン屋の客が大暴れした。
喧嘩100段の異名を持つ店主がいとも簡単に倒されたが
クロノの母親のミントがそいつを瞬時に倒したということを

「・・・ほえ〜・・・やっぱり駿二様って妖怪だったんですねぇ〜」
「どんだけそのネタ引っ張るつもりよ。殴るわよ」

「・・・考えたくはありませんが・・・駿二様は・・・」

「・・・そうだ・・・!クロノ兄ちゃんだ!クロノ兄ちゃんに会いに行こう!」

駿三郎の暗かった表情に光が差す。
変態すぎて友達もろくに居ない駿二にとってクロノは親友と呼べる存在だ。クロノならどうにかしてくれる。
そんな気がするとこの時の駿三郎は思っていた。

「ふむ、確かに。」

クロノの母ミントならば羽虫のことも解るだろう。
そして己が主の息子を助ける手段を知っているはず。
おそらくミントはクロノのそばに居るはずだ。
ジョージは藁にも縋る思いをクロノという少年にかけてみた。

 

「どうも〜。盛り上がってる最中申し訳ありません〜」

返し戸が音をたててゆっくりと開いた。
そして手にポリタンクを持ったスキンヘッドのグラサン男が
入ってきた。

「むっ!!?何奴!?」

ジョージは庇う様に自分の後に駿三郎を隠した。

「私は怪しいものじゃありません。私はエレオス。
 駿三郎さん。貴方を殺しに来ました

男は爽やかに邪気に満ちた笑みで答えた。
男の顔には見覚えがあった。
駿二のボディーガードであるジョン・ビルダーだ。
併しジョージがこれまで見た事も無いような気迫を纏い自らエレオスと名乗った彼に、
嘗ての面影は微塵も見られない。少なくともジョージの眼には全くの別人として映っていた。

「…駿三郎様を連れて奥から」

「あ、御気を使わずに結構。
 すぐ済みますので」

見ればエレオスが持っている携行缶の蓋は外されており、
ぽっかり空いた口からだらしなく涎の様にガソリンが滴り落ちている。

「貴様ッ!」

「家ごと火葬にしてさしあげます。中々盛大ですよー?
 アスタロト様とアスモデウス様の障害は皆、消し去ってくれましょう」

ライターを片手で弄びながら微笑むエレオス。サングラス奥の眼が悪虐な喜悦に細められる。
刹那…

エレオスの側頭部にジョージのローリングソバットが炸裂していた。
其の手から転げ落ちるライターを拾い、続いて顎下に掌底…
2m程ある巨体が仰け反った瞬間、回転するように肘打ち、連打…
息もつかせぬ激しい連撃の前に、体をくの字に折り曲げて吹き飛ぶエレオス。
どんでん返しの仕掛けが稼働してエレオスを隠し部屋から追い出す。
だが…
「ぬっ、これは…」

ジョージの足下から火の蛇が生じ、凄い勢いでエレオスの後を追い隠し部屋から出てゆく。
そう…ジョージの踏み込みによって生じた摩擦熱でもって…引火してしまったのだ。

「いけません、駿三郎様。すぐに脱出致しましょう。
 あちらに緊急用の出口が御座います」

「…執事長しっかりして下さいってば〜」

だが駿二の異常、駿二の護衛がこのような暴挙に出たという事は、
事態が極めて深刻であるという証左でもあった。
どうせ家に留まる事は出来ない。どちらにせよ逃げなければいけないのだ。
ジョージ、駿三郎、ノエル、シエルの4人は細長い通路を走り出口へと向かう。
執筆者…R.S様、is-lies

   アレクサンドリア、白海アイランド、白海城庭園

 

途中、耳を聾する轟音と振動が一行を襲うものの、何とか出口である庭園横の石室から顔を出す。
既に慣れ親しんだ白海の城は無残に崩れ落ち炎に包まれていた。

「うわぁー…」
何処か現実感の喪失した光景に、間の抜けた声を出す駿三郎だったが、
其の肩をジョージがしっかりと掴んで現実へと引き戻す。

「あの追っ手…人外の力を感じました。
 この程度で死ぬとは思えません。
 …すぐに白海アイランドを離れましょう」

「そうだね……
 あ、でもクロノ兄ちゃんは……」

ファグル一家殺人事件
親とクロノ、ミンファ他数名を除き一家の子供達が遺体となって見付かった事件だ。
遺体は風呂場で体組織が完全に炭となるまで焼き尽くされ身元確認のしようもなかったが、
警察はファグル一家の子供たちとみて捜査を進めている…とはいえ進展は全くない。
駿三郎は以前に、おかしくなる前の兄・駿二から、
クロノとミンファ、其の母ミントが生きている事、ラーメン屋での騒動など、
クロノに纏わる話を色々と聞かされていたので其の辺りの事情は少なからず知っている。

「クロノ様は何処かに身を潜めているでしょうな。
 まだアレクサンドリアにいるのか…其れともアテネの方に行っているのか…
 行き先を知っていそうな人間となると……」 

「クロノ様の御友人…」

「そっか。駿二様のお友達ならクロノ君の行き先も聞いているかも」
「何にせよクロノ君の情報を集めて、大よその居場所を推測しないとね」
「じゃあ早く行こうよ!
 お兄様…ううん、お兄様を乗っ取っている悪い奴から追っ手が来たっていう事は…」
「ええ、長居は出来ませんな。
 さぁ…行きますよノエル、シエル」
執筆者…is-lies
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