リレー小説4
<Rel4.SeventhTrumpet1>
どの局でも話題は法王庁の一大発表に集中していた。 マスコミも怯え、藁を掴む思いで法王庁及びSeventhTrumpetに希望を託しているのだろう。 どれだけの大事故が立て続けに起きようとも、 実際のところ、彼等が確実に巻き込まれるという根拠は無い。 次に事件が起こるという確証も無い。
ただ単に不安なのだ。
必要以上に騒ぎ立て、早々にこの異常事態を解決する英雄を呼び出そうとしているに過ぎない。 だが彼等の其のネガティヴな予感は正しかった。 地球全土に起きた破滅現象、火星衛星の異常、火星水位の上昇、リゼルハンク本社崩壊… そう、4度あった事は5度目もあると考えない方が不自然であり冷静さを欠いた思考といえよう。
「マスコミも良い具合にSeventhTrumpetへ傾いて来たじゃないか。 法王自身が動いた…って設定が効いた訳だ。 まぁ、あれだけのお膳立てがあったからこその設定だけどな」 「言うなフェイタル・ファーラー。 常に真実が人々を善き方向へ導くとは限らない… …今、人々に必要なのは心の支えとなる偉人なのだ」 全てのチャンネルで全く同じ内容を垂れ流すTVをリモコンで消すと、 コードネーム-フェイタル・ファーラーことブルース・セトは 雑誌と睨めっこしているコードネーム-セントゲオルグことウィル・リナイに、 如何にも不服そうに「……別に構いやしないがな…」と返す。 「…上からお達しでもあったのか?」 「御賢察痛み入る。 一層の混乱を避ける為、今回の件は伏せておくように…だそうだ。 これでSeventhTrumpetの天下って訳だ。おめでとさんよ。 まあ法王直筆の許可証もあるからどの道こうなったんだろうけどよ。 あー、其れとSeventhTrumpet独裁政権樹立を祝い、 火星保安部が祝辞を述べに来てくれるらしいぞ」
「監査はお前だけでもう十分だよ全く…」 だが法王庁への畏敬がそのままSeventhTrumpetのものとなっては、 其れも至極当然の対応と結論付けざるを得ない。 火星政府関係者を含む民衆の中にもキリスト教系の敬虔な信者が多い。 其の全てがSeventhTrumpet寄りとなっては最悪、テロも警戒しなくてはならないのだ。 何故ならば、如何に民衆のヒーロー的な存在アークエンジェルズを抱えていても、 所詮SeventhTrumpetは終末思想を掲げた宗教団体なのだから。 「ところでカナン遺跡の方はどうなってるんだ? 少しは調査が進展したのか?」 「いや、全然。罠や魔物が危険度A級と報告を受けた。 遺跡に関しては我々は素人だからな…此処はプロに協力願う事にした」 ウィルが指を鳴らして合図すると、1人の男が扉を開け入室する。 如何にも傭兵然とした装いの其の男を見、ブルース・セトは一層表情を険しくした。 「……これはこれは…元中佐じゃないか。 良いのか?こんなところまで出張って」 「くく、確かに…第三次大戦の事を根にもってる連中にとっ捕まえられたかも知れんな… だからこそ安心出来る塒ってもんが欲しかったんだ… まあ、今じゃ善良な一傭兵団団長様だ。そう邪険にするなよ。役には立つぜ?」 ソファーへどっかり腰を下ろし不敵な笑みを浮かべる傭兵団長。 ブルース・セトが「何故こんな奴にまで」と愚痴っている間に、 雑誌のクロスワードパズルを解いたウィルは、机へ資料を広げる。 「依頼はSeventhTrumpet調査隊の護衛、魔物の排除、罠の解除及び破壊… 遺跡そのものへの被害は最小限に留める事。 報酬については……」 「あー…其の前にだ、傭兵は俺達だけと約束してくれ。 他に雇ってる傭兵が居たら全員叩き出し、他には雇わない。 ………特に『黒衣の者』はな」
「『黒衣の者』?」 「知らないか?全身黒尽くめの銀髪野郎さ。 まぁ俺達の商売敵みたいなもんだ」 「ちょっと待て…そいつは一人なのか?」 傭兵団長の口振りからすると『黒衣の者』は一匹狼らしい。 其れで傭兵団一つの商売敵に成り得えるとあらば相当の人材… 傭兵団を切って『黒衣の者』を取れば、支払う報酬を相当抑える事も… 「オイオイ、探索やらじゃ大人数の方が効率良いぜ? まあ確かに費用は浮くだろうけどよ、事態は一刻を争うんじゃないのか? 破滅の日だったか?其れまでに遺跡のお宝も集めなきゃいけないんだろ?」 「…確かにな。 良いだろう。そっちの条件を飲もう。 但し仕事は迅速かつ確実に」 「くくく…イエッサー。まあ見ててくれや」
執筆者…is-lies
「爪を…研ぐ……爪を…研ぐ……爪を…研ぐ……爪を…研ぐ……」 あまり時事には関心のなかった彼女は、こんな施設がある事も知らなかった。 連日の墓荒らし作業で衰弱しきった身体を休めるには丁度良い場所。 獣人や能力者といった人材も豊富で共同墓地も近くにある。 施設は完全な慈善事業で成り立っているらしく文無しの彼女でも利用出来たし、 何よりも身元の不確かな彼女をも受け入れてくれるというのだから条件は最高だ。 「…爪を…研ぐ……爪を…研ぐ」 既に壊れてしまった彼女の頭の中に残っていた目的は最後に与えられた使命のみ。 だが其の遂行は容易ではない。ターゲットに付き添っていると思しき「護衛」の力は想像を絶する。 自身の符術にも同僚の重装備にも怯まずに襲い来る恐るべし死神。 これを突破する方法として彼女… 力を絶対視していた組織SFESの元構成員である彼女が思い付いた手段は単純明快。 「……爪を…研ぐ……爪を……きひひ…きひひひひひ…」 其の日、SeventhTrumept内に2つの害悪が居付いた。 傭兵…恐慌の邪龍ヴァルカレスタ・フィンダム、 SFES最大戦力レギオン部隊元隊員…アールヴ、 だがサミュエル・スタンダードの法皇代理化によって急速に肥大していくSeventhTrumpetは、 この極めて危険で悪質な存在の侵入に気付けなかった、 時期も悪かったし相手も悪かった。詰まりは運が無かったのである。 SeventhTrumpetが彼等の危険に気付くのは既に何もかもが手遅れになってからだった。
執筆者…is-lies