リレー小説4
<Rel4.セレクタ4>

 

 

   アテネ、デジタルバタス本社ビル、食堂

 

最初はまだ広々とした印象のあった会議室も、
今回の人口密度が異様に高い会議では息苦しくて仕様がないと、
セレクタ創立者ユニバースが食堂での会議を始めたのであった。

組織セレクタのメインメンバーが全員集まっているのは当然として、
今回の会議には細川財団を仕切る細川一族の第三子、第四子である小桃、
白海グループの御曹司である白海駿三郎と其の使用人達、クロノ・ファグルまでもが参加していた。
セレクタ、細川財団の一派閥、脱・白海派閥の連合体である。

滅びたとされるSFES・前支配者を追求しているセレクタ、
SFES末端の残党に拉致されたD-キメラの兄妹を救出したいという細川の一派閥、
前支配者と関わる異形サーヴァント達に狙われた白海の一派閥、
お互いが手詰まりとなった現状を打破すべく、情報交換、相互補助を目的として結び付いたのだ。
但し、同じリゼルハンク跡地調査隊の仲間でもある火星帝国ロボット技術研究所には、
セレクタという組織の存在すら明かしてはいない。
ロボット技研を動かしているシュタインドルフ皇太子を警戒しての事だろうが、
ゆくゆくは、ロボット技研もセレクタに吸収する予定ではいるのだろうとメンバーの誰もが思っている。

 

 

特殊監査部長…カタリナ・シュミット

総司令官…ミスターユニバース
副司令…細川・隆、細川・小桃

情報管理参謀…ガウィー

総務部長…ジョージ・玖玲
└副部長…ノエル、シエル

内務掃拭賛助官…みつお01(保安部員と兼任)
技術開発部長…ごとりん博士
└副部長…フルーツレイド

D-キメラ研究部長…ハーティス・ポルフィレニス
└副部長…ティルシェルチェ・フォーリナー
広報部長…幽凪・真白
└副部長…バウマン・タンツ・アオフ・デア・タラスク
保安諜報部長…エーガ
└副部長…セート
 └部員…レオン
 └部員…イオリ
 └部員…カイト
 └部員…ライハ
 └部員…ケイム
 └部員…バクヤ
 └部員…ミレン

医学部員…ルキ

保安部長…ビタミンN
└副部長…ユン・フェイレイ
 └保安部員…マジ=ルナ・フローレア
 └保安部員…アルベルト・ジーン
 └保安部員…紅葉
 └保安部員…みつお01(内務掃拭賛助官と兼任)
 └保安部員…シストライテ・ワーネリス
 └保安部員…レシル・ローゼンバーグ
 └保安部員…ライーダ
 └保安部員…クロノ・ファグル
 └保安部員…ツヨシン
 └保安部員…ポルポル
 └保安部員…松崎・ドラグーン




参入予定人材

ロボット技術研究部長…イワガ・ウェッブ
└副部長…リュージ
 └部員…南天・桂馬
 └部員…リエ

エーテル研究部長…タカチマン
└部員…ナオキング・アマルテア

古代火星文明研究部長…シュリス・キリウ
└副部長…イリサ・マーリスト

結晶能力研究部長…イルヴ・ロッド・ヴェインスニーク

前支配者対策部長…佐竹

情報管理参謀補佐…ジード

保安部員…敷往路・メイ
保安部員…ハチ
保安部員…タクヤ
保安部員…デルキュリオス
保安部員…『青』
保安部員…フライフラット・エース
保安部員…キムラ
保安部員…カフュ・トライ
保安部員…エドワード
保安部員…ユーキン
保安部員…バンガス(九尾の狐)

 

まず細川財団出の細川小桃と其のパートナーアンドロイド・キララが、
アレクサンドリアとアテネを繋ぐ列車『玄藩丞号』内での出来事について話を終えた。
SFES残党に拉致されていたD-キメラ…ナナシ・コールと其の妹ナナミ・コールを救出しようとし、
併し果たせずナナミは依然としてSFES残党の手の中へと戻り、
ナナシは逃亡中に受けた攻撃で行方不明…という内容であった。
又、このSFES残党には、
D-キメラの生みの親でもある高津紳輔ルクレツィアという研究員2人が与しており、
彼等の開発した新型D-キメラ3体…
「タイラント…巨漢型。異形へ変体可能」「名称不明…少年型」「名称不明…包帯だらけ」を確認したという。

「いやはや…驚いたね。
 SFESの残党でも其れだけの力を持っていたなんて…」

「ちょっと待ってよ。SFES末端のとこにネークェリーハが居た訳でしょ?
 其れでも……分かれて行動しているっていうのは……どういう事?」

こうなると手紙の信憑性自体が怪しくなってしまう。
リゼルハンク本社崩壊で溜飲を下げた火星皇太子シュタインドルフは、
ネークェリーハが零落れたとか其の辺りで納得してしまうのだろうが、
長年、SFESと戦って来て其の脅威を骨身に染み込ませたセレクタには未だ釈然としないものである。

 

セレクタにとって最も納得出来る展開とは…
実はSFESは今尚存続しており
ネークェリーハやヴァンフレムといったトップメンバーが存命しており、
セレクタはこれらと真正面から戦い、打ち破るといったものだろう。
自分の力で得た勝利でなければ実感が無い。
逆に言えば…
自分の力で勝ち取ったものは虚偽ではない。
…恐らく其れは間違っている。だがそうでもなければ納得出来ないのだった。

 

「まぁ、総裁のネークェリーハを捕まえるだけでも充分だろう?
 これでどっかからヴァンフレムでも見付かれば文句無し………って事にしようぜ?」

「いーやーなーのー!!ナナシを探すのーー!!」

駄々を捏ねるのはD-キメラ紅葉。ナナシ救出を協力の条件とした彼女からすれば、
既にナナシを手放してしまったSFES…そして其処のネークェリーハなんぞどうでも良く、
火星地中海東部で行方不明になったナナシを探しに行きたいというのは当然の反応だった。

「落ち着け。一応、捜索隊は出動させてある。
 範囲が広いから時間は掛かるだろうが…ナナシとてD-キメラだろう?
 そう簡単にくたばるもんか」

紅葉を宥めるビタミンNだが、紅葉はナナシが死ぬなどとは夢にも思ってはいない。
超越者たるD-キメラにとって無人の荒野とて命に関わる程の問題は孕んでいないのだ。

「今のSFES残党を纏めているのがニューラーズ…あの女か」

SFESでありながらSFESの崩壊を望む者としてセレクタに接触して来た女の顔を思い出すガウィー。
一応、協力するという話に纏まってはいたが…リゼルハンク本社崩壊後に会った事は無い。
ニューラーズ率いる新SFESにとってすらもリゼルハンク本社崩壊は予定外だったのか、
或いはニューラーズ達こそがリゼルハンク本社を崩壊させた張本人なのか。
総裁のネークェリーハを保護していたというのならば…崩壊を予見していた可能性は高い。
併し……

「これがありますしなぁ?」

無理矢理食堂内に放り込んだ大型のモニターには、
リゼルハンク本社ビルを外側から殴って消し飛ばした謎の触手が映っている。

「ああ、
 頭がどうにかなりそうだ…
 内部工作とか根回しだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
 もっと恐ろしいものの片鱗を見せ付けられてるぜ…」

ググッと力を込め、冷や汗なんか垂らしながらセレクタ構成員の一人ポルポルが呟く。
彼の言う通り、リゼルハンク本社の崩壊にニューラーズ等新SFESが関わっている可能性は低いだろう。
あまりにもスケールが違い過ぎる。
シストライテ達が101便で対峙したSS達であったとしても、これ程の力は持たないだろう。
詰まる所、ニューラーズ達は単に偶然、崩壊を免れた…落ち武者といったところなのか。
ネークェリーハを連れていたのだからリゼルハンク本社を捨てて逃げたのかも知れない。
何にせよ、其のネークェリーハと別れてしまった以上、今はネークェリーハを優先せざるを得ない。

「ふぅーむ、併し3体のD-キメラか。
 S-Larvaなんぞを使う辺り、高津博士も試行錯誤しているようだ。
 どう思う、ツンデレ君?」

「誰がツンデレかッ!」

真面目そうな顔しながら言うハーティス博士に、隣の席の女性構成員がツッコむ。
生体兵器…特にD-キメラ関連の研究を任されたハーティス博士の補佐を担当する事になったのが、
彼女…新入りのティルシェルチェ・フォーリナーな訳だが、
D-キメラよりもセレクタ所有のワイバーンに入れ込んでいる彼女にとっては、
性格に多少問題のあるハーティス博士と組まされるのは不本意であり、
会議が始まってからずっと不機嫌そうな顔をしているのであった。

「えーっとねぇ、髪とか髪とか髪とか」

其処へ割って入り、ティルシェルチェの金髪ツインテールを指差すのは、
ハーティス博士の傑作DNGナンバーD-キメラの少年…マジ=ルナ・フローレアであった。
130cm程度の其の体躯には、既存のD-キメラと同等の身体能力と、
本来、彼等が持ち得ぬはずの『更なる力』が秘められているのである。

「貴公の言う事は良く解らない…
 …で、高津式の3体ですが、SSとの親和性が高いというのは初耳ですね。
 あの二つが合わさるとなれば、これは脅威としか言い様がないでしょう。
 ユニバース殿、高津博士とルクレツィア女史の2人は拘束すべきです。放置するには危険過ぎる」

「そうですなぁ…ネークェリーハをシメめてから新SFESも捜索してみましょう」

新SFESへの対応が或る程度決まったというところで、ドイツ陸軍特殊幼年学校の制服を着た少女が立ち上がる。
ドイツから派遣されて来た、セレクタ監視役のカタリナ・シュミット少尉だ。

「ミスターユニバース、SFESの追求は良いですが前支配者の…」

「あーはいはい。忘れてませんとも。
 次ィー、前支配者について…ですが……ちょっと此処で遠回りを」

「どういう事ですかミスターユニバース?」

セレクタのスポンサーでもあるドイツ連邦の目的は、地球の破滅現象解消にこそある。
其の為にセレクタなどという怪しげな組織に協力しているのであって、
彼等がSFES憎し…或いは前支配者憎しの感情で暴走してしまう事を憂慮していた。

「物事には順序というものがあるという事ですわ
 さぁさぁ皆さん御注目」

勿体振って片腕を掲げるユニバース。
すると彼の背後にある食堂カウンターから割烹着姿の少年…クロノ・ファグルが顔を出す。
少年の顔に浮かぶ表情は…緊張やら困惑やら色々あるだろうが、
其れでも毅然とした態度であろうという心意気は伝わって来るものだった。

「…クロノ・ファグルです。
 白海駿三郎をサーヴァントから護る為…後、俺自身の為…セレクタに参加させて貰います。
 どうか、宜しく御願いします…!」

少年を見て室内の能力者構成員達が一斉に目を剥く。
中には早とちりして身構える者すら居た。
視線の先にあるのはクロノ少年の右腕…
黒い紋様のようなものが浮かんだ其の腕からは並々ならぬ力が感じられる。

「はい、どうも。
 まず…このクロノ君をセレクタに入れた経緯について説明しましょうええ」

モニターの表示が切り替わり、ズタボロになった廃工場の内部を撮影したものとなる。
ガウィーやごとりん博士、フルーツレイドの姿も其の中には映っていた。
どうやら気絶しているらしいクロノ少年を介抱しているようだ。

「兄である白海駿二さんに命を狙われているとして逃げて来た白海駿三郎君と護衛の方々が、
 セレクタの店で勤めていたクロノ・ファグル君の許を訪れたのが全ての始まりでした。
 駿三郎君を狙うのは、人間に寄生して活動可能な…憑依霊のような存在『サーヴァント』です。
 個体名も一応、判明していますね。『アスモデウス』『アスタロト』…有名な悪魔の名前ですわ。
 クロノ君が言うには…アレクサンドリア・モーロックの一件にこいつらが関わっていたそうです。
 んで、今は白海駿二さんに憑依して白海グループを支配していると…」

「其れが一体…
 大体、異形・精霊の類ではないのですか?」

「其の可能性も高い…ですが其の手の連中は超古代火星文明の遺産を弄べやしないでしょう。
 少なくとも…今の人類にすら不可解な超古代火星文明に精通した異形…といったところですわええ。
 話を続けますよ?
 『サーヴァント』からの刺客…エレオスさんがクロノ君を追い詰めたのが此処…
 そう、この廃工場ですね。そしてぇ……」

画面内のガウィーが、ふと槍を瓦礫の中に突っ込んで引き上げる。
穂先に引っ掛かっていたのはズタボロの肉片…

「…これがエレオスさんの成れの果て。
 ごとりん博士に記憶の解析を任せていますが…まぁ、此処まで損傷が激しいと…期待は出来ませんなぁ。
 クロノ君自身どうやって、この前衛彫刻を作り上げたのか覚えていないそうですが、これも調査中です。
 調査…というか其れが目的なんですよね。クロノ・ファグルの調査。
 理由は彼がサーヴァント…嘗て前支配者に創られたと思しき『黒き奴隷』達の末裔である可能性があるからです」

「ど、どういう事だぁ?こいつが…何だって?」

騒然とする室内で一番狼狽えているのが、長く行動を共にして来たツヨシンだ。
もし此処にクロノの友人である2人の少年も呼ばれていたら彼等が一番になっていただろう。
クロノの保護者を自称する仮面の少女アリエスは黙って成り行きを見届け、
『守護者』ルビーは…隣に座っているシストライテの髪を弄って遊んでいた。
ユニバースがツヨシンに答える。

「古代火星神話ですがね。こういうのがあるんですよ」

モニターの表示が、今度は火星独立記念館内部の映像…古代火星神話の石版に変わる。

『原初、世界は漆黒の闇の中にあった。 
 其の闇の世界には『7つ首の前支配者』という怪物が、 
 蟻達を支配して君臨していた。この怪物には、 
 『ゼムセイレス』『アウェルヌス』『アゼラル』 
 『カンルーク』『プロノズム』『モイシス・トコアル』 
 『ヘルル・アデゥス』の7つの首があり、 
 全てに打ち勝つ強大な力を持っていた。 
 闇の世界の上部から現れた『甘露を求める鷲』は、 
 光を放つ魂の剣で『七つ首の前支配者』を倒し、 
 これを深く、冥界へと閉じ込めた。
  次に『甘露を求める鷲』は白い秤、赤い土、紫の石を食べ、 
 8人の娘を出産したが、7番目の娘ルチナハトは闇の世界に酷く怯え 
 『甘露を求める鷲』にこう言った。 
 「私は光の世界を創ります。どうか手助けをして下さい」。 
 『甘露を求める鷲』はルチナハトの補佐として『動かざるトル・フュール』を任命した。 
 『動かざるトル・フュール』は、幽閉した『七つ首の前支配者』の魂の一部を切り取り、 
 これを蟻に入れて『黒き奴隷』を創造し、彼等に世界創造の手伝いをさせた。 
 見よ光輝く天と地を。見よたわわに実る果実の山を。 
 其れは全てルチナハトが望んだが為に誕生した。
  ルチナハトは光の世界に歓喜し、其の中で無邪気に戯れていた。 
 併し其れを見た黒き奴隷達はルチナハトに欲情し、彼女を陵辱した。 
 『動かざるトル・フュール』は黒き奴隷達のこの行いを良しとせず、 
 『七つ首の前支配者』を使い黒き奴隷達を捕まえ処刑しようとしたが、 
 黒き奴隷の1人であり、ルチナハトの陵辱に加わらなかったサタンは… 
 (以下、石版破損の為解らず)』

「…こんなもの信じたくはありませんが…符合が一致し過ぎなんです。
 クロノ君の前に現れたエレオスさんも前支配者について言及していましたしね。
 皆さん御存知の通り、前支配者に関しては新しい情報が丸で入って来てません。
 SFESに封印された…という怪情報を『青』さん達が掴んでいたようで、
 この出元を探っていたところ……火星帝国立ロボット技術研究所の傭兵君に行き着きました。
 同志アルベルトさんをスパイとして送り込んだのも、この為です。
 そして同時に…先のサーヴァントが白海研究所で『守護者』の起動に成功したという話も聞きましてね…
 この件、併せて調べてみました。其の結果………
 …この傭兵君が…自分はサーヴァントであり話に応じる…と言ってくれました」

セレクタの会議室に呼ばれたのは、
火星帝国ロボット技術研究所の考古学者シュリス・キリウ。
そして彼に雇われていた流浪者デルキュリオス。
プロギルドに登録されてもいない訳だが滅法腕は立ち、ロボット技研に護衛として雇われている男だ。
ユニバースは平和的に話をした様に言ってはいるが、実際には拉致に近い形であったという事実は、
今、此処にいる面々には全く関係の無い話であった。

「……隠していた訳ではないんだがな…」

「ええ、解っていますよデルキュリオスさん。
 なぁに…心配は無用です。取って食いやしません。
 ……サーヴァントとやら…そして前支配者について教えて頂けますか?」 

「…デルキュノ、お前の封印を解く手伝いだって出来るかも知れない。
 話してくれ。頼む」

シュリス・キリウの言葉に、デルキュリオスがやれやれと溜息をつく。
ミスターユニバースがデルキュリオスにターゲットを絞り、まず懐柔を試みたのがシュリスだ。
スパイ・アルベルトの報告で、彼がデルキュリオスと旧知の仲である事を掴み、
穏便に話を進める為には先ず此方から…と考えたのであった。

「何処から話せば良いものか……
 …お前等からすれば荒唐無稽な話だし、
 私とて…あの時の記憶は酷く曖昧だ」

「いいえぇ、実を言いますとね。
 ワシが古代火星神話とかを資料にしているのにも…ちょいとした訳がありましてね。
 どんな話でも聞きますとも、話せるところだけで十分です。
 ささ…どうぞどうぞ」

軽く言ったものだと、デルキュリオスが近く椅子を引き寄せて座る。
そして思い出すように眼を閉じ…謎の存在・サーヴァント、前支配者について話し始める。

「…まず前支配者から行くか…
 日本皇国の京都を襲ったあの巨大異形の事は覚えているか?」

「ええ。『青』さんやエース君達に貴方が加勢した時の事ですな。
 当事者じゃありませんが」

「あれは前支配者アゼラルの手の者だ。
 アゼラルの直属であるストグラも其の場に現れたからな、間違いない。
 奴等は古代火星神話に記された『七つ首の前支配者』であり、
 嘗て火星を暴力と恐怖で支配していた超常の力を持った異形の存在だ。
 『大いなる鷲』エンパイアに敗れて尚、実験材料として生き永らえさせられ、
 そして…サーヴァントの母体となった……」

「ふぅむ…で、サーヴァントとは?」

実のところミスターユニバースは前支配者が古代火星神話の存在と同一である事は知っていた。
最初に前支配者の情報をセレクタへと提供した男…マクシマス・ミリアンが、
前支配者を超古代の存在である事をユニバースに話していたし、
更に、前支配者の直属であるネッパー・ブッドの記憶を解析した際に得られた情報でも確認されている。

「古代火星神話…あれに出て来る『黒き奴隷』とはサーヴァントの事を指す。
 詰まり…前支配者の分体とでもいうべき存在……
 エンパイアに奉仕する為に創られた従者(サーヴァント)…という事だ」

「……成程。エンパイアとは前支配者に代わって古代火星を支配した勢力ですか。
 そして………従者たるサーヴァント……
 …ん?というとデルキュリオスさん、貴方も前支配者の一部であると?」

「ああ……
 前支配者に力を与えられたに過ぎない『直属』よりも前支配者に近く、
 其れ故に前支配者の居場所を探る感応力も『直属』より優れている」

其れを聞いて成程なと思ったのはメイド幽凪真白だ。
彼はヴァイスフリューゲルが行ったタルシスモーロック攻略作戦の折に、
デルキュリオスの獅子奮迅の大活躍を聞き及んでいたのだった。
混乱していたとはいえSSを相手に一歩も譲らない戦いを繰り広げたと。
人間でなかった…ともなれば其れも納得いく話である。

「…アンタも誰かの肉体を奪っているのか?
 妹の…ミンファの体を奪ったサーヴァントみたいに……!」

「いや、違う。
 残念ながらお前の言う『憑依するサーヴァント』については私にも解らない。
 ……俺が特別なのか…其の連中が特別なのかは解らないが…
 然し、憑依というのは前支配者の特性だ。
 奴等から生み出されたサーヴァントに同じ力が備わっていてもおかしくはない」

「随分、他人事みたいに言うな?」

「結晶能力を得た時のお前達…人類も同じだったろう?
 私であっても、憑依するサーヴァントなどは初耳なのだ」

「……サーヴァントが前支配者の一部分というのは解りました。
 で、率直に言って…彼らは何が目的かは御存知ですか?」

「さぁな…
 私の記憶に残っているのは其の程度だ。大した参考にはならないと思うが?」

正直な話、拍子抜けしたといったところだった。
前支配者と関わるという時点で、ユニバースはもっと劇的な何かを想像していたのだが…
どうやら今のところデルキュリオスから聞き出せるのは其の程度らしい。
とはいえ正体不明の存在サーヴァントが、前支配者の一部分であるというのは大きな情報であった。
何しろ、反前支配者を名乗りつつも、セレクタは前支配者について全くの無知……
あくまで大敵である組織SFESの添え物…という認識しか持っていなかったのだから。
そういう意味では、前支配者と彼らの起こした破滅現象解決をセレクタに期待するドイツを裏切っている訳だが、
どうやらセレクタも其の態度を改めざるを得ないようである。
そして何より…

「…サーヴァントが前支配者の居場所を探れる…
 こりゃ、凄い事ですよ?前支配者を辿ってSFESを探し出せるかも知れません。
 上手くすれば…両方一気に攻め落とせるかも……」

「悪いが私を当てにするな?
 さっきシュリスが言った封印とは…詰まり、そういうものだ。
 前支配者にとって私は目障りだったらしくてな」

「ちゃー…イケると思ったんですがねぇ……
 まぁ良い。一つ一つ堅実に片付けて行こうじゃありませんか。
 ワシらセレクタの宿敵…闇組織SFES総裁ネークェリーハ!
 ヨミさん御所望のナナシ君を連れ去った新SFES!
 白海の皆さんを狙うサーヴァント…!
 新SFESの行き先は地球ですし、
 まずは居場所も包囲網も完成したネークェリーハを叩くとしましょう」

ユニバースの言葉を、ガウィーが引き継ぐ。

「ヴァイスフリューゲルの一部部員が既にイオルコス北部未開発領域を封鎖している。
 ヘリや望遠能力者の偵察で、ネークェリーハ・ネルガルの存在は確認出来たが、
 代表創立者代理であるトリア・エクシテセラ・ラミアについては姿を見る事は出来なかった。
 無論、ヴァイスフリューゲルが動くのだからLWOSも動くし、
 SeventhTrumpetのアークエンジェルズ、火星帝国の人間も加わる。
 詰まり此処までは、この前のタルシス・モーロック攻略と同じ面子だな。
 そして今回は其れに加え、プロギルドや暗殺者ギルドも動く…
 ………過剰戦力気味だが何しろ相手はネークェリーハだ。
 SSの数匹は覚悟しておいた方が良いだろうしな、総力戦の構えで行くぞ」
執筆者…is-lies
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