リレー小説4
<Rel4.セレクタ3>

 

 

   アテネ デジタルバタス社ビル 会議室

 

「…ダメでしたわ…わっはっは、こりゃ参りました、ええ」

「というか初っ端っからSSの捕縛なんて無理あり過ぎだろ?」

会議室に集ったセレクタメンバーの中には、
先のパルテノン事件に際して初出動した火星警察対能力者特殊部隊ヴァイスフリューゲルに侵入し、
情報を収集していたスパイ達も居り、セレクタ創立者であるユニバースへと報告を済ませていた。

「でもまぁ大収穫でした。
 …あのヴァイスフリューゲル…やっぱりLWOSの出先機関ですな。
 パルテノン事件の主犯がSSである事とか、景気良くウチのスパイに情報くれやがりましたわ。
 んで更に面白い事に…どうもウチらは半分連中に信用され、半分は疑われいるみたいなんです」

「どういう事だ?」

「いえね、渡される情報にかなりのバラつきがあるんです。
 ワシらセレクタは組織の存在を隠す為、色んな出身ロンダリングやっているのは御存知でしょう?」

ドイツ首相ムーヴァイツレン・クーデルとの交渉で獲得したのはセレクタ上位メンバーのドイツ国籍取得。
他にも様々な機関にパイプを持ち、組織の存在と構成員の正体が露見しない様、幾つもの防衛線を張っていた。
火星帝国の皇太子シュタインドルフもセレクタの協力者であり、
ヴァイスフリューゲルへ火星帝国が送った人材も、結局は自覚無きセレクタの駒として動いている。
嘗てセレクタに所属していた現火星帝国立ロボット技術研究所所属のアルベルト・ジーンや、
表向き火星帝国の研究員という事になっているセレクタ構成員ティルシェルチェなどが橋渡し役だ。

「たとえば、このSFES流出の資料なんかは火星帝国出身となっている部員には明かされていません。
 だからアルベルトさんらはSSの詳しい特徴とか抜きで作戦やる破目になってました。
 後、連絡経路も随分と遠回し…てかぶっちゃけ直接上と掛け合えないようになってます、ええ」

ユニバースが片手に持った資料は、
パルテノン事件の主犯である神野緋貝…通称セイフォートの骨の情報だった。
黒スーツを着た長髪のD-キメラ・アルベルトと、
質素なドレスに身を包んだ金髪女ティルシェルチェが表情を陰らせる。

「詰まり…ヴァイスフリューゲルことLWOSは火星帝国からの人材を警戒していると?」

「いいえ、ツヨシンさんやエース君といった大戦の英雄についても同様ですね」

「成程。其れ以外については特に警戒していないという事ですね。
 彼等が獅子身中の虫と認識出来ているのは極僅か…
 併し…火星帝国と大戦の英雄……どういう事でしょうね?」

「(ヴァイスフリューゲル………一方的な獲物にはならないか。
  ……まぁ、警戒するに越した事はない)」

そう頭の中で結論付けるとユニバースは「今は其れを考えても仕様が無い」と切り捨てる。
自分達が疑われている以上、ハッキリさせたいといった様子のアルベルト達だったが、
情報不足は如何ともし難く、考えても答えは出ない以上、口を噤む他に術は無い。

「アテネのピンクドラゴン店長から今し方連絡があった。
 白海駿三郎……あの白海グループの御曹司様が侍女や、クロノの友人と一緒に来てるってな。
 因みに、この友人達は前に俺がクロノを見付けた際、一緒にいた連中で間違いない」

タバコを吸いながら報告するガウィー。
セレクタ所有の物件ピンクドラゴンで働くクロノ・ファグル少年は、
以前にポリス・アレクサンドリアで火星帝国ロボット技研に拉致された事があった。
其れは古代火星文明の遺跡に迷い込み、偶然にも『守護者』のマスターとなってしまった為である。
其の事件ではSFESと思しき人外の存在も絡んでいた為、
セレクタがクロノ少年を救出して手元に置いたのも決して伊達や酔狂ではなかった。

「しっかし…白海っていえば最近ゴタゴタしているそうじゃないか。
 妙な厄介ごとでも持ち込まれちゃ溜まらないぞ?
 …クロノの友人も来ているなら、其の繋がりか?」

白海グループは火星でもかなりの力を持つ。
アレクサンドリア周辺を其の勢力内に収め、古代火星文明の研究も行っている。
そんな理由で火星帝国軍とも繋がりは非常に強い。
最近になって白海のバカ御曹司である白海駿二が突然別人のようになり、
遺跡や軍関係の繋がりを殊更強めていると聞く。
一部では戦争の臭いでも嗅ぎ付けているのではないかとすら言われていた。
白海駿二が弟・白海駿三郎や執事・侍女達と共に住んでいる白海城に、
放火が為されたという事件もあって、メンバーが警戒感を強める。

「ああ。店長の話じゃ、クロノ・ファグルを探して態々アレクサンドリアから来たらしいが」

「会わせてやれば良いじゃないですか。変に隔離して怪しまれても難ですし、
 借金がある以上、クロノ君の身柄は此方で押さえて……いや待て…白海の御曹司って……まさか」

「ああ。クロノ・ファグルの借金を全額返済するから引き取りたいと言ってきている」

其れはクロノを手元で飼っておいて、
未だに彼への興味が尽きぬ様子の火星帝国ロボット技研との繋がりを強めるセレクタにとって、
あまりにも面白くない話であった。

「……ちゃー……しっかし、何で其処までして……
 仕方がない…腹を割って話してみますか。
 ウェッブ博士の意向もありますし、クロノ君を手放す訳にもいきません。
 難なら白海駿三郎君の持ってきた厄介ごとも請け負っちゃいましょう」

白海グループとの伝を築き上げる積もりだ。
SFESが消滅したとはいえ残党は今尚何処かに潜伏しているはずである。
それらを炙り出すには巨大な組織力が必要だ。
火星帝国だけでもダメなら、有力な所を次々当たってゆけばいい。
ユニバースのそんな考えで招かれた白海駿三郎達であったあが、
彼等が齎した情報は、セレクタメンバーの抱いていた軽い想像を遥かに凌ぐものだった。 
執筆者…is-lies
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