リレー小説4
<Rel4.セレクタ2>
アテネ デジタルバタス社ビル 会議室
以前にも使用したこの円卓に、以前とほとんど変わらないメンバーが揃っている。 ただし、ライーダ他数人は研究所から引き取ってきた少女――名はトゥランと言うらしい――のお守りを任された関係で臨席していない。 また、今回は一つ生物ではないものも会議に参加している。円卓の中央に設置された映像装置だ。 それに繋がった端末を操作しながら、ごとりん博士がユニバースに頷いて見せ、ユニバースもそれに応じて頷くとぱんぱんと手を叩いて見せた。 それを契機に、まだ会議と言う雰囲気ではなかった部屋がしんと静まり返る。
「はい、みなさんここ数日はご苦労さんでしたな。 今回集まってもらったのは他でもありません、ビタミンNたちがイオルコスから持ち帰った情報をメンバー内で共有してもらうためです」
ユニバースの開始宣言を受けて、ごとりん博士がボタンを一つ押す。その瞬間、映像装置から鮮明な映像が浮かび上がる。 それは、ビタミンNが研究所内で拾った写真の拡大映像だった。円卓に座る全員に見えるように、少しずつ回転している。
「情報提供者にも確認してもらった。 この写真に写ってる冴えない野郎があの研究所の責任者で、新型キメラの開発者のハーティス・ポルフィレニス博士に間違いない」
「冴えない野郎・・・えーっと、ピンク髪のほうでいいのよね・・・」
シストライテが一瞬戸惑ったのは無理もないと、手元に資料を広げて後を引き継いだビタミンNは彼女に頷き返しながら内心呟いた。 ハーティス博士は、わりと女性的な顔立ちをしていた。 写真の解像度があまりよくないせいもあるが、少なくともパッと一瞬見ただけでは迷う程度には識別しづらかった。
「金髪の女性のほうは、提供者曰く博士の親友だった人らしい。だった、というのは現在既にこの世にいないからだ。 そんなわけで、女性のほうはまあそこまで重要じゃない。 重要なのは今生きてる人間・・・つまり博士のほうだ。 俺たちが着いた時には既に研究所は荒らされた後だったが・・・脱出ポッドは生きていた。 で、それのデータを解析に回してたわけだが、その結果が・・・」
彼はそこで口を閉じ、変わって口を開いたのはごとりん博士。
「一度しか使えんように相当キツいロックのされたシステムぢゃったが・・・解析する程度なら簡単だったぞぃ」
ホログラム映像が切り替わる。新たに映し出されたのは、イオルコス周辺の広域地図。
「データは消去されておったが、復元はそこまで難しい事じゃあなかったわ。 ・・・復元データによると、あの脱出ポッドによる転移先は大体この辺ということが判った」
その言葉と同時に、地図に『この辺』という文字が表示され、アバウトにある範囲が赤くなった。
「・・・荒野のど真ん中ですなぁー」
表示された地点を見て、ユニバースがははは、と渇いた笑いを上げた。
「そのハーティスって人、生き延びてんのかねぇ?」
オレ無理、って感じでエーガが両手を挙げる。何故かみつおもうんうんと同意。
「まあ生きていてもらわないとこちらとしては困るんだが・・・」
「そうね・・・曲がりなりにもSFESに関わってたんだし、キメラの研究者だし・・・ あの世に情報まるっと持ち込まれたらどうしようもないものね・・・」
「・・・生きてない可能性も出てきたが・・・ まあ、とりあえずハーティス博士が何か知っている可能性は高い、彼の顔は少なくとも覚えておいてくれ」
少しざわついた場を、ビタミンNがひとまず締めくくる。その後、今度はユニバースが引き継いだ。
「転移する場所のことを把握していて、尚且つ生きてれば恐らくイオルコスに戻ってくるでしょうな、位置的に。 彼に接触するために今後しばらくイオルコスに何人か常駐しといたほうがいいかもしれません。 死んでたら・・・まあ、その時はその時ですわ。それじゃ、この話は一旦終わりましょ。 んじゃ次は今後の方針について・・・」
会議は踊る。されど進まず。 結局、あの研究所で得られたことはそんなに多くなかったのである。 一つ、ハーティス博士の姿。 一つ、あの時研究所にいた実験体の数は全部で八体で、うちキメラは五体。 一つ、遺されたものからでは、ごとりん博士の技術をもってしてもどのようなキメラを研究していたかは判らない。 一つ、研究所を襲撃した『先客』の練度は高く、複数人による。 一つ、ハーティス博士が生き残るためにはイオルコスに戻ってくる必要がある。 明言できるのは、以上の五つくらいであった。 またセレクタはトゥランからも情報を引き出そうとしたが彼女はやはり年相応であるようで、 『ハカセはヘンなひと』 『お兄ちゃんがお母さん』 『いっぱいのひとがたくさんきてみんな連れてかれた』 『上のお兄ちゃんたちはケガしない』 ・・・などなど、あやふやでかつよく判らないものばかりで、今後に繋がりそうなものは聞き出せなかった。 今後の方針は決まりつつあったが、徒労で終わった感は否めない。特に紅葉にとっては。 こうしてSFESの足取りはつかめぬまま、時間だけが無慈悲に過ぎていく――。
執筆者…ぽぴゅら〜様