リレー小説4
<Rel4.ルドラサーム神国1>

 

   南極周辺海域

 

 

穏やかな海面に映った夜空の満月は突如、乱暴に掻き消され、ただならぬ気配に海がざわめく。
静寂の海を荒らして南極大陸へと突き進むのは海上を埋め尽くさんばかりの大艦隊…
おどろおどろしい髑髏の下にクロスしたフォークという海賊旗を誇らしげに翻したこの艦隊は、
ルドラサーム神国州都連合議会シードーベルマン直属軍
『ネプチュネス・ネイヴィー』である。

 

執筆者…is-lies

   総旗艦『ブランナー』

 

シードーベルマンが誇るネプチュネス・ネイヴィーの威容に、
これらを預かるポール元帥は満足気な様子だった。
南極の領有権を主張したとほぼ同時に艦隊を動かし、
各国の反対を押し切り南極を制圧してしまおうという腹積もりである。
危機的状況に陥っているルドラサーム神国の経済を立て直すべく、
鼻摘み者国家S-TAの豊富な結晶資源を狙って彼等はバレニー諸島周辺にまで進んでいた。
無論、バレニー諸島の領有権を主張するニュージーランドからの猛抗議があったものの、
潜水艦で密かに送り込んだ工作員達が足止めを仕掛けている内に此処まで進む事が出来た。
艦橋中央部に備え付けられた、翼の生えた白い鯨の立体映像は、
ルドラサーム神国が崇拝する創造神ルドラサームの偶像である。
彼等シードーベルマンが言うには、
神はまず己に似せて鯨を創り、其の奉仕種族として人間を創ったという…
故に能力者であろうが何だろうが彼等にとっては鯨の足元にも及ばぬ低級種。
各国が眠れる魔女と恐れる、鎖国中の魔女国家S-TAに対しても其の見方は変わらなかった。

「所詮は旧時代の野蛮人共ダス。
 こんなものを恐れる各国は腰抜け揃いダス。
 見るダス、我がネプチュネス・ネイヴィーの勇姿を!」

総旗艦である超空母『ブランナー』は全長400メートルの巨体を誇り、
85機の艦載機、CWIS(艦載近接防御システム)によって制御される兵器は30機以上に及び、
其れ以外にもD(データレス)兵器であるビットマシーンを3機も装備、
対艦・巡航、中・短距離対空ミサイル発射機も無数に有する海上要塞であった。
『ブランナー』の両脇を固める2番艦『ハーモニート』3番艦『ローベンバアン』も同様。
そして万が一S-TAが健在だった時の制圧用に引き連れた艦船の総数は300を越える。

「艦長、S-TAの防壁を目視確認しましたダス」

「ほう…あれがS-TAの大結界ダスか……」

艦橋から前方を見れば南極大陸と其れを包むオーロラのようなものが目に付くが、
其れはオーロラではなく、第三次世界大戦末期にS-TA首相アデルが発動した結界であった。
当時の如何なる兵器を以ってしても破る事は出来ず、
各国がS-TA内部からの手引きを得て極少数の精鋭を送り込み、
彼等が首相アデルの殺害に成功し、S-TAが鎖国した後も未だに張られている其れは、
七色の…其れでいて鈍い光を放ちながら周囲を威圧し続けていた。

「さぁ、寝惚けたS-TAを叩き起こしてやるダス!
 そして南極領土が我々ルドラサーム神国のもんだと認めさせるダス!」

《其処までよ、愚かな鯨信者共》

突然、周囲一帯へと響き渡ったのは女性の声だ。
何事かとポール元帥が辺りを見渡すと同時に、S-TAの方角上空に一つの光が灯る。
S-TAの大結界を背にした其れは一機のヘリ…

「これは…ヴォイドステルスで隠れていたか!?」

『ブランナー』のオペレーターがモニターにヘリの拡大画像を表示すると、
ヘリにはアメリカ合衆国の国旗が付けられている事…
そして腕組しつつネプチュネス・ネイヴィー艦隊を見下す一人の黒人女性が居る事が明らかになる。

「き、貴様は…コンドリーザ・ライス!?」

アメリカ合衆国国家安全保障問題担当大統領補佐官コンドリーザ・ライス…
世界最強の女とも呼ばれる女傑であった。

《其処から先は第三次世界大戦終結時にS-TA領と定められているわ。
 無闇にS-TAを刺激する事は許さない。即刻、立ち去りなさい》

「はン!何言ってるダス、ルドラサーム神国領土ダス!オマエこそ領空侵犯ダス。
 大体、自国を自国で守れないよーな国は滅びるのが当然なんダス。
 10秒待ってやるから命が惜しけりゃさっさと尻尾巻いて逃げるダス、クロンボめが!」

流石、鯨を人間より高等な存在と位置付けているだけあって、彼等の中では、
『鯨>(越えられない壁)>鯨に奉仕する自分達>ホワイト≧能力者=ブラック=イエロー』
という関係が構築されてしまっているようだ。
そして恐るべき速さで10カウントを取るとアメリカへの脅しの積もりなのか、
3番艦『ローベンバアン』がライス大統領補佐官の乗るヘリに向かって対空ミサイルを発射する。
外交問題というか戦争に発展しかねない事も平気でやる。
正にシードーベルマン。
だが…

「ふんっ!」

対空ミサイルは、ライスから放たれた闘気で押し返され、
其れどころかあらぬ方向へと吹き飛ばされ、空しく海中に没した。

「な、何ぃいい!?」

驚愕に目ン玉ひん剥くポール元帥。

《愚か者共め…》

ライス補佐官の一睨み。
其れだけでネプチュネス・ネイヴィーは壊滅的打撃を被った。
ライスの戦略的上目遣いを直視したネプチュネス・ネイヴィー艦隊のオペレーター達は、
恐怖のあまり失禁・失神し、或いは発狂して周囲の人間へと襲い掛かる。
だが人の形を保てているだけでも彼等はまだ幸せというものであった。

《ブリッジ!ブリッジ、応答するダス!!》
《此方、『ハーモニート』!艦長が…艦長が突如、塩の柱にッ!》
《こぉ…此方は『ローベンバアン』ダス!乗組員が急に破裂したダス!》
《やっぱり、あのコンドリーザ・ライスに楯突くなんて無謀だったんダス!》
《俺はあの噂を知ってるダス…
 ソドムとゴモラを滅ぼしたのは実はライスなんダス!》

指揮系統は脆くも一気に崩れ去った。ポール元帥?もう塩の柱になってるヨ。
トドメとばかりにライスの両目からビームが放たれ、
眼下に群がるルドラサーム神国の艦隊を裁きの光で薙ぎ払っていく。
5秒もしない内に、
ルドラサーム神国州都連合議会シードーベルマン直属軍ネプチュネス・ネイヴィーは壊滅した。

《雑魚が!》

あまりにも不甲斐なく潰れた相手に、ライスが吐き捨てる様に言い放つ。
こうしてルドラサーム神国の南極侵略作戦は、
アメリカ合衆国によって直前で食い止められたのであった。
執筆者…is-lies
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