リレー小説4
<Rel4.リゼルハンク1>
イオルコス南区画、リゼルハンク・イオルコス支社ビル
イオルコス北部を見渡せる高層ビル内にリゼルハンク崩壊を偶然免れた重役達が集まっている。 リゼルハンク会長カノンラッグは不愉快さを隠そうともしないしかめっ面で、 テーブルを挟んで正座している役員会の面々を威圧していた。 「…SFES……何もかもあの能無しの疫病神共の仕業だ。 我々が築き上げて来たリゼルハンクは今、蚕食の危機にある。 このまま指を咥えて見ていれば全てが貪欲なハイエナ共に貪り尽くされてしまうだろう… 最早一刻の猶予も無い!」 リゼルハンク社を隠れ蓑としていた闇組織SFESは、リゼルハンク本社崩壊と共に滅んだ… この大事件が一体何なのか…人為的なものなのか、其れともSFESの自滅だったのか…知る者は一人も居ない。 滅ぶなら滅ぶで結構。本社ビル崩壊は手痛いもののまだ何とかなるレベルだったが、其の後がマズかった。 事件調査の為、一斉捜査を受けたリゼルハンク関連の施設から大勢の子供達の遺体が発見されたというのだ。 残されたリゼルハンクの人間には知らぬ存ぜぬを通す他に手立ては無く、 火星と地球に於いて一国にも等しい力を誇ったリゼルハンクの信用は一気に地へと附し、 これ幸いにと日頃からリゼルハンク社を快く思っていなかった勢力が一気に攻勢に出て来てしまった。 リゼルハンクは立ち上がる以前に足場を固める余裕すらなく、斜陽の塔はズブズブとぬかるみへと沈んでゆく。 「だからあんな怪しからん連中に与するべきではなかったんですよ!」 「併し……奴等には………『彼女』が居た」 「う、うむ……」 「………SFESを受け入れた事を今更どうこう言っても仕様がない。 当時の我々の欲深さが招いた自業自得であったと言わざるを得ん。 其れよりもへーニル警視総監の方はどのような感じだ?」 「我々の立ち位置を説明し、一定の理解を得られました。 印象は決して悪くありません。ですが…… 誠意を……」 「回りくどい…率直に金と言えば良いだろうに… あるかそんなもの…ただでさえハイエナ共に集られ、況してや火星政府が資産の一時凍結に踏み切ろうかというのに…」 重要なパテントは本社崩壊の直前に何者かが他社へと売り渡してしまい、 数々の引き抜き工作を受けて技術も情報も流れ、役員自身も保身に奔る始末。 懇意であった相手からも見限られ弱みに付け込まれ…足許を見られる。 もうこの会合自体にすら意味は無く、単なる悪足掻きに過ぎない。 彼等もリゼルハンクを捨てるべきだった。過去の栄光に縋らずさっさと捨てるべきだった。 捨ててさえいればまだ彼等の再起は可能だったかも知れない。 なのに彼等はリゼルハンクに拘泥してしまった…栄光あるリゼルハンクという幻想に願掛けしてしまった。 捨てるべきものを捨てるべき時に捨てられない以上、彼等は其処までの人間…
だ か ら 其 れ は 現 れ た
「忙しそうですわね」
役員達が声のする方へと振り向く。 部屋には鍵が掛けられていたし護衛も居たはず… なのに其れは其処に居た。 「ヴァンフレムもゼペートレイネも死んでしまったようですわね。とんだ役立たず… でもまぁ…あの人達は所詮、運命のポストに入り損ねた外様ですわ。 ヴァンフレムは『彼女』の遺志を護る番人として実力不足… ゼペートレイネは『彼女』の遺志の後継者として意志薄弱… リライは敵に回るみたいですし、残ったのはわたくし達だけ…まぁ仕方がありませんわね」 「き、君達は……あの時の…」 「お久し振りですわねカノンラッグ会長。 あの時はディオも一緒だったかしら…?見分けが付かない?」 声の主…この者達こそが全ての始まり。 組織SFESの頂点に君臨する存在… カノンラッグ達リゼルハンク重鎮に『彼女』に纏わる話を吹き込んでSFESを受け入れさせた張本人。 「……今更、何の用だ!?」 「駒が欲しいのですわ。 もうすぐ始まる…盛大なチェスが……『カリプソ』を景品とするチェスが…… だから必要になる…多くの駒が…… 対価として……今の状況から救済して差し上げますわ。 さぁ答えなさいな、イエスかノーか」 「ノーだ。もう君達に誑かされたりはしない」 カノンラッグが全員を代表して声の主の提案を蹴る。 だが彼等はもっとよく考えるべきだった。リゼルハンクの事ではない…声の主の事を。 このような状況になった以上、其れを踏まえた上で提案された話を断るという事は即ち…… 「…あ、そう」 彼等の命運は此処で閉ざされた。
執筆者…is-lies