リレー小説4
<Rel4.リルリラ1>

 

   火星、アテネ

 

夜の到来と共に空はどんよりとした分厚い雲によって覆われた。
満天の星々を遮った灰色の暗雲こそが今宵のショーの観客達…
アテネの裏路地をステージとした惨劇ショーの幕が開く。

「誰だ?」
奇妙な男だった。
身に纏った外套はズタボロでところどころ歪に膨れ上がり、人の輪郭を成していない。
機械燃料と臭いと爬虫類の生々しい臭いをブレンドしたような鼻衝く異臭を発しながら男は路地裏の奥を睨め付ける。
繁華街から漏れこんだ光が逆光となって小柄な影を形成すものの、男の眼はしっかりと影が何であるかを把握していた。
和風の装いをした銀髪の少女らしきもの…というのも能面によってかんばせは隠されており、
巫女の様な衣装と、頭頂部に付けている大きなリボンからそうと男が判断しただけである。

「…貴様、人間……ではないな。
 ………まさかサーヴァント…なのか?」

男の問い掛けに、少女らしきものは「ククッ」と低く笑う。
「…流石は直属といったところか。
 だがサーヴァントなどという呼び名は止して貰おうか。もう我等を縛る者は存在しない。
 我等、隷属種に非ず…それを今、証明してやろう」

「そうか。併し珍しい…
 我等が主…前支配者の一部を受け入れて力を得た貴様等が…
 正当なる前支配者の直属たるオレの前に堂々と姿を現すとはな」

「ふふ、正規の起動ではなくてな。慣れるまで暫く動くのが難しい。
 …肩慣らしには丁度良いと思っただけだ」

「?何の事を言っている?
 …フン、まあ良い。
 折角だから楽にしてやるよ、本当の意味でな」
言うなり男は外套を脱ぎ捨てる…というよりも内部から破き捨てた。
其処から現る身体の奇妙さは先の比ではない。
身体は青に近い緑色の大きな鱗に包まれ、背には透けた翅、
何より異形なのは其の両手足だろう。
手足そのものが重火器であり、夫々6本の指は全てが細身の銃身となっている。
胸部にある6本の銃身を合わせるならば其の数、実に30本。

「オレは偉大なる前支配者が一柱アウェルヌス様の直属…ディラン!
 アウェルヌス様より高い信頼を頂き、数年前は数々の惑星の破壊行為を任されていた!
 このオレに狩られる事…光栄に思えッ!!」

ディランの両手に備わった銃身が少女へと狙いをつけ、一斉にレーザーを発射する。 
少女は発射直前の一瞬にて其の軌跡を見切り、回避行動に移るものの、
ディランのレーザーは少女を直撃するアーチを描いていた。
追尾レーザー…
対象を指定し其処へ確実に到達する光の一撃…
何者であっても回避する事の出来ない絶対の穂先は、併し少女を捉える事敵わなかった。

「何!?」

「驚いたな…そんな力を有していたとは。
 だが、この私…リルリラのバリアを破るには少しばかり出力が足りないようだな?」

「ほぉ、耐えたか。ならば別の手を使うまでだ」

そう言うとディランは胸の右砲口より冷気を、左砲口より火炎を噴出する。
其れすらも何という事も無いとばかりにリルリラはディランへと歩を進め、氷炎地獄へと突き進む。
氷を纏った冷気も灼熱の炎もリルリラの眼前で遮られ、其の背後を凍て付かせ、焦がすに留まるものの…

「ふふ、浅はかな奴」

其れらはリルリラの視界を塞ぐ目眩しに過ぎず、
彼女の頭上を跳躍して背後を取ったディランは腕を元に戻し、
眼下の巫女服の襟を掴んでリルリラの小柄な身体を持ち上げると…

「地面にキスをしろ小娘ぇえええ!!」

地面に向けて彼女の顔面を振り下ろそうとした。
リルリラは即座に戒めを破るべく、両腕でディランの腕へと拳を振るうも、
身体強度・腕力共にディランの方が圧倒的に勝っていた。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオルァァァァアアアアアッ!!!」

地面へと何度も強打されリルリラの能面が軋む。

「はっはっは!!どうやら貴様は戦闘向きではないようだな?
 詰まらん…そろそろトドメを刺してやろう!」

ディランが勝利を確信し酷薄な笑みを浮かべた其の時、
リルリラの頭頂部にぽつりと立った髪が伸び、
まるで生きているかの如く動いてディランの首へと巻き付いて来た。

「ん?何だこれは?
 こんなものでオレの首を絞められるとでも?
 これだから愚かなサーヴァントは……
 ………?…!!?こ、これはッ!?」

「お前の言う通り、私の身体機能ではお前に及ばないようだ。
 よって…私に合った戦法を取らせて貰ったまで」

ディランは動けなかった。リルリラを掴んだ手が勝手に開かれ戒めを解いてしまう。

「…オレの機械体をハッキングした…だと!?
 まさか、この髪は…」

『守護者』共通の特徴である触覚アンテナ…気付くのが遅かったな?」

ズレた能面の位置を直してディランへと向き直るリルリラ。
能面に隠された表情は…果たして嘲笑か憤怒か。淡々とした声から窺い知る術は無い。

「馬鹿な…貴様等サーヴァントがそんな力を持っているなど…『守護者』に憑依するなど…
 ……まるで、まるで………」

「前支配者みたい…だろう?
 嘗て『名を口にするのも汚らわしいあやつ』の眠りと同時に、ゼムセイレスらによって封印された我等も、
 今や奴等と同等の存在となった…という事なのだろう。
 まぁ…不思議には思わないがな。元々は同一の存在なのだから」

「み、認めぬ!我等が偉大なる主…前支配者が貴様等のような奴隷風情と同一だなどと…!
 認めぬ!アウェルヌス様より高い信頼を頂き、数々の惑星の破壊行為を任されていたオレが負けるなど!」

「認める必要は無い。ただ受け容れるが良い」

撒き付けていた髪を解き縮め…リルリラは其のままディランに背を向け歩み出す。
前支配者アウェルヌス直属ディランは、掌握されたシステムが全身の火器を暴発させ木っ端微塵に吹き飛んだ。
アウェルヌスより高い信頼を得ていると思い込み、
数々の惑星の破壊行為を任されていたら良いなと夢見ていた直属の最期であった。 
執筆者…is-lies
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