リレー小説4
<Rel4.パルテノン2>

 

  李・一清

 

「――人質を取られました……如何致します? 李警視。人質解放と引き換えに撤退しますか?」
 更にいらだつ様子の上司に向ってベテラン風の警部が深刻な表情で伺いを立てた。
「……今更、撤退できるか? 既に4人の死者を出し、2人も重傷者を出しているのだ。
 よもや、撤退など出来る訳もあるまい」
「この様に、人目につく場所で検挙しようなどと言う作戦にミスがあったのです。
 人質を取られている以上は、我々も慎重に動かざるを得なくなるでしょう。そうなれば、殉職者の数は増しますぞ」
「五月蝿い! 撤退など、出来る訳も有るまい」
 李は普段の冷静そうな表情を崩し、苦虫を噛み潰したような面をして怒鳴っていた。
「……警視。これ以上、被害を出すのは得策では有りません」
「黙れ!」
 李一清は自分自身の保身しか考えていない様子であった。
 今、此処で撤退などしてしまえば自分自身が今までエリートとして歩いていた道は閉ざされてしまう。
 其れを恐れているが故に此れ以上の被害を出す事すら厭わない様相を呈していたのである。
 部下は幾ら死のうが関係ない。 
 己の出世コース。この男にとっては自分自身が一番可愛かった。
《取り込み中のところ、悪いな。で、如何するんだ?
 あの男の言う観客全員が人質ってのは強ち冗談じゃなさそうだぜ》
 本部への連絡を入れたのは
 丁度、会場をドア一枚挟んだ場所で待機していたアークエンジェルのデュオニス・デュミナイであった。
 既に挟み撃ちといった作戦の成功は不可能に近い。
「其処から、ターゲットを攻撃して、一番近くに居る人質だけでも解放させる事は出来ないのか?」
 李が無線越しに尋ねた。
《流石に戦闘は不味い。観客に危害が加わり、死傷者を出す事になる》
 デュオニスが答える。其の口調は李とは対照的に冷静である。
「チッ。ドイツもコイツも役立たずじゃないか」
 無線を切れば、隣に居た部下に対して悪態を付く警視。
 既に其の様子からは作戦開始当初の余裕は完全に消えていた。
「もはや、我々では手に負えないかと……。増援を依頼した方が……」
「馬鹿を言うな。相手はたった一人だぞ。其のたった一人を検挙するのに増援など不要だ」

 

「…随分と厄介な展開になってきました。
 これはもう…皆さんに一仕事して貰わなくてはなりません」

「ガハハハハ!まあ任せろ。
 ところで相手側は何と言ってきたんだ?」

「ドームの関係者に観客と警察……まぁ、ドーム内にいた全員を人質にしているので、
 余計な犠牲者を出したくなければパルテノン敷地内へは入るなと。
 後、死体が幾つか投げ出されて来ました」

「あー、そりゃ本気だね。
 んー…どうしたものか」

いつの間にこんな事になっていたのか…
李がふと周囲に眼を向けると、様子は一変していた。
翼を模った徽章を付けた男達が何人も現場に入って来ており、
先の警部と情報のやり取りをしているではないか。

「えぇい!貴様、何を勝手な事をやっている!
 いつ応援など呼んだのだ!?」

憤り警部に詰め寄ろうとした李の前に立ち塞がったのは、
謎の男達の1人…、赤い髪にバンダナを巻いたチンピラ染みた男であった。

「ああ…アンタが李警視さん?
 アンタはもう結構ですよ。現場はオレ達『ヴァイスフリューゲル』が引き継ぎましたんで」

あまりにも不遜且つ軽薄な態度。だが…
「何だと!?ふざけるな!誰がそんな勝手を許すと…
 ……?ヴァ…ヴァイスフリューゲルだと?」
男が何気なく言い放ったこの単語が李の頭に冷却物質を送り込む。

「ふぅ……良いかい?これはもうアンタの手に負える事件じゃねぇの。
 ヘーニル警視総監からの命令なんだよ。
 プロフェートの幹部も人質に含まれているってんで、
 全権をヴァイスフリューゲルへ委譲し事態を可及的速やかに収拾せよ…とまぁこういう次第」

「…っ…!?」

ヴァイスフリューゲル…最近、設立されたという火星警察対能力者特殊部隊である。
軍の強化によって、年々弱体化してゆく警察の…一種のカンフル剤として設立されたらしく、
能力者絡みの事件に対し、積極的に立ち入る権限を与えられていた。
設立からして火星帝国やSeventhTrumpet、LWOSまでもがバックアップしているという
破格の扱いを受けている異様な部隊であった。

「まだ内部にアークエンジェルズは残っているな?
 オレは指揮を任されたヴァイスフリューゲルの『フレディック・ローディ』だ。
 今回のミッションは犯人の生け捕りを最優先とする。
 以前、奴を捕らえたケルビムがこれに当たれ。
 次点は要救助者…アウストリ・ジョバネス・ミューラーの保護、
 後は…獣人の少年と一緒にいる青い髪の男を保護しろ。年齢は20歳位だ」

《………生け捕りが最優先んん…?》

「以上だ。お前らは合図と同時にターゲットの気を逸らせば良い。
 お前らは以前もターゲット捕まえたんだから出来るよな?
 ザット、アルベルトは正門封鎖に、
 楊、ツヨシンは裏門封鎖に加われ。
 パーシバル、エドワード、カフュはホールまで進んで待機。
 アークエンジェルズの奇襲に乗じて要救助者を保護しろ。
 …?おい、聞こえてるのかアークエンジェルズ?」

何故、他の人質について言及しないのか…
其の意味するところが解らない程、ケルビムもシェイクヘッドもバカではない。
単なる事態沈静以上の目的が存在する事は明白。

《…了解……
 ところでフレディックさんよ、ターゲットなんだが…
 別に何をするでもなく時間を稼いでいるような節がある。
 ……アイツ、多分…仲間なり何なりを既に手配してるぜ》 
執筆者…タク様、is-lies

  骨の男

 

「キャアアアアアア!! フ、フ、フレーグちゃ〜ん!!」
 観客はこの状況に悲鳴を上げて居た。
 目の前で人質となったトップアイドルの姿、そして得体の知れない男、骨の男。
 男は『全員人質』と言っていたが信憑性が無い。
《ウルセェよ。ドイツもコイツも。
 静かにしねぇんだったら、この小娘の首を跳ね飛ばしてやろうか?》
 突然の乱入者が現れたのは次の瞬間であった。
「フ・フ・フ・フレ・フレーグたんを、フレーグたんをはな、離せ」
 ステージに上がったのはフレーグの熱狂的ファンらしい、太めの男達であった。
 その数は10人程度。何れもフレーググッズで身を固めた良い年した男達である。
「離して欲しいか? だったら離してやるよ」
 骨の男がフレーグをその場に放り投げながら、親衛隊の男達に不敵な笑みを浮かべた。
「貴様! フレーグたんに何って事を!」
「死んで詫びろ!」
「お前なんか。お前なんか」

 骨の男に殴りかかった親衛隊の男達の血飛沫がステージを真っ赤に染めた。

 一人は首を捻り千切られて絶命し、一人は睾丸を蹴り砕かれてショック死し、
 鋭い切れ味を持った手刀に切り刻まれた者が四名。
 そして、ある者は男の只ならぬ様子に恐れをなして背を向けた瞬間に肉体を縦に両断されて左右に倒れ、
 ある者は首を切断され、ある者は逃げる途中に親衛隊の仲間の生首を投擲され、頚椎を砕かれて死んだ。
 残る一人は、ステージで崩れるように倒れていたフレーグの元へ駆け寄る途中に後ろから貫手で心臓を貫かれて絶命した。
《オイ、お前等。大体、俺の言ってる事が分かったろ?
 俺に逆らった奴は死ぬ。この会場に居る以上はお前達は俺の人質だって事。理解できたか?》
 血に濡れた右手でマイクを鷲掴みにすれば、ロックスター気取りで骨の男が高らかに宣言した。 
執筆者…タク様

  カイト・シルヴィス

 

「・・・!見るな、暁!」
「え、ふえっ?!」
男達がステージに上がるのを見た瞬間、『仙人』様、ことカイトは暁の目をふさいだ。
ほぼ当日席のチケットで入場したその席からはステージ中央に立つ骨の男の姿は見えづらいが、見えないわけではない。
そして彼は、これからステージに上がった男たちが瞬時に肉の塊になるであろう未来を予想できた、その場でも数少ない一人だっただろう。
そしてすべてはその予想通りにことは進んだ。
当然これを考えることの出来なかった、いやできるはずのない一般観衆が一斉に悲鳴を上げるのは火を見るより明らかであるが。
「・・・ねえ、何、何が起こったの、『仙人』様?」
「・・・・・・」
もぞもぞと動く暁の顔を相変わらず覆い隠したまま、彼は硬直している。
その翠緑の瞳が、幾何学的にそして半規則的に橙に明滅していた。
(・・・なんだあの動きは・・・)」
それは驚きであると同時に脅威であった。
彼の製造物としての本能がこの場を即座に離れろと警告を発しているのが自分自身でもはっきりとわかるくらいに。
彼のタクティカルサーチ機能。
それは多岐に渡って対象の行動を予測する現代からしてみればオーバーテクノロジーな代物であるが、
それが捕らえきれなかったとなると骨の男の動きは既に古代文明をも上回っているということだろうか。
(どうやら今の俺には学習が足りないらしいな・・・)」
カイトの思考分野がはじき出した結論は、部分否定であった。
「(S-Bone・・・とか誰かが言ったな。・・・セイフォート?いやまさか。・・・ああくそ、どっちにしたって状況は悪いなー)
「・・・ねえ、『仙人』様ー?」
「・・・あ。すまん、忘れてた」
思考が渦巻き、そのまま固まっていたカイトは暁の何度目かの声で我に返った。同時に彼を覆っていた手を取り払う。
「ねえどうすればいいの・・・何が起こってるの・・・?」
「・・・大丈夫だよ、な」
照明に目を細めながらもすがり付いてくる暁に対し、カイトはいつもの飄々とした笑顔を浮かべると、抱き寄せて優しくその頭を撫でた。
水面下に下心がないというわけではもちろんないのだが、そんなことを考えている余裕が現状であるはずもない。
そして。
「・・・?」
一瞬、彼は粘りつくような視線を感じた。人が何かを見張る、独特の視線。
確かに自分は稀有な存在かもしれないが、ここまで即座に発見されるものだろうか?
仮にそうだとするのなら、人間の嗅覚も鋭くなったものだ。
「(・・・気のせい・・・か?・・・どちらにしても逃げる算段はしとかねーとな・・・。
 やれやれ、絶滅危惧種は辛いね・・・。)
少なくとも味方が一人もいないこの状況において考えうる最良の逃亡方法とはいかに。
演算が、開始された。それは、コンマ秒単位で刻一刻と状況の変わる頭脳戦である。 
ホール内部に散り息を潜めている能力者の位置を把握。
無線での連絡と思しき会話を傍受。かなりの数の部隊が展開されたようだ。
突入は時間の問題だろう。これだけならば普通に…混乱に乗じて退散すれば良い。
だが問題はそれだけではなかった。
未だにカイトへ向けられた複数の視線…
これがどの陣営に属しているのか。
ステージ上にいる無法者の陣営や第三勢力であれば問題はないが、
外の警察陣営であれば…突入すら待たずに離脱しなくてはならないかも知れない。
兎も角、舞台の無法者には殊更な注意を要するとし、
其々の位置関係から比較的容易に撤退可能なルートを割り出そうと考えた其の時…

「…」「んあ?」

凄まじい密度の魔力がドーム外に発生した。
発生源は2人程。異様な…人ならざる力まで備えているらしく、
主物質界最強生物たる『神族』の域にまで迫る力の波動を感じる。
骨の男にも匹敵するかのような魔力がひけらかす様に…
いや、これは実際にひけらかしているのだろう。
『仙人』カイトといえど現状ではドーム外の力まで捜索する事は出来ないのだから。
態々見せ付けるように晒された強大な魔力…
其れと同時にカイトを監視している視線がより粘度を増した事を感じ取り、
カイトは思っていたほどの事態ではない事を認識する。
こんな篩を使うという事はカイトの正体まで露見している訳ではないという事だ。
せいぜい『仙人』に連なる者として怪しまれている…其の程度だ。
こんな手はカイトに通用しない。平静にしていれば良い。問題は…

「(…神族乙型、丙型……ってところか。いや…全体的に神族って感じじゃないな。
  ………随分とバランスが歪な……人造人間とか強化人間の類なのか…これは?
  ………………人間…其の力はやがてお前ら自らの首を絞めるものになるぞ…)」

やがて、チャンスは意外と早く訪れた。
執筆者…ぽぴゅら〜様&is-lies

  骨の男

 

骨の男も、この魔力を感じ取り焦りを覚えたのだろう。
遊び半分だった其の思考を撤退に向けて回し始める。
ふと、冷めて現状を確認すると、最前列に座ったアウストリ司教の許へと歩み始める。
かつて自分が所属していたSFESの一員でもあった老人の許へ。

「……お前、どっかで見たと思ったら…
 …そういやレギオンにいたな……。俺だ神野だ。
 ちょいと質問するんだがな…」

「き…貴様……何故…こんな事を?」

骨の男は、状況解れとばかりに威圧を込めた笑みを浮かべ小声で会話を始める。
「質問は俺がする。SFESが滅んだって話は本当か?
 お前はどう考えてるんだ?何かネタはあるか?」

流石に骨の男ほどの者に睨まれては素直に従う他にない。
アウストリ司教は歯軋りしつつも従順な態度に出、小声での会話に応じる。
「…我々に連絡すら付かないのだから…極めて異常な事態である事は間違いない
 ただ…あの時のSFESは……内部分裂状態だったというか…かなりキナ臭い事になっていた。
 新SFES派閥が旧SFES派閥と戦争をしたのがリゼルハンク崩壊の実態なんじゃないかとは言われているが」

「んな事はどうでも良いんだ。
 潰れたってのが本当だったら…外の連中はSFESと無関係か。
 ちょいと異様な力だぜコイツは…SFES以外にもこんな連中がいたのかククク。
 まぁ兎に角、此処は退散するのが吉ってな」

解放されると思って安堵の息を漏らすアウストリだが、其の息は首を掴まれすぐに途切れる。

「な……にを?」

「いや、逃げるから念の為に新しい人質」

「貴様!其れ以上の狼藉は私が許さんぞ!…ぐはぁ!?」
サリパパの人中を突いて黙らせ、骨の男はアウストリをステージ上へと引き上げた。
そんな折に…
執筆者…is-lies

  シェリア・ラジュール

 

(あかん…あかんわぁ……!)」

両手で顔を覆い惨劇から眼を逸らし続けていたシェリアには現状を理解出来ていなかった。

「(このままじゃ……フレーグちゃんが危ないわぁ…何とかせなあかん!
  うちの方が年上なんや、やったる…やったるでぇー!)」

シェリアは眼を固く閉じたまま、すっと立ち上がると
ステージにも届くほどの…普段の彼女からは想像もつかない程の大声で叫ぶ。

「ま…待ちぃ!!
 うちが…うちが人質になるから、その子は放したってや!!」

静寂
恐る恐る眼を開けるシェリア。
骨の男に拘束されていたフレーグは、いつの間にか何かよーわからんジイさんに変わっていた。
ぽかんと口を開けたままになるシェリアに、骨の男はこう返す。

《お前が……人質ィ?……まぁいいけど》
執筆者…is-lies

  李・一清
  パルテノン広場前

 

「くそ…何がヴァイスフリューゲルだ…!
 手柄を独り占めになんてさせるものか……」

バックアップに回るよう指示されてはいるものの素直に従う李警視ではなかった。
目の前で連絡を続けるフレディックの背中を睨み失敗しろと強く念じるものの、
其れで思った通りになるようならば、この世に苦労は存在しない。
流石に其れは理解しているらしく、すぐに保身に向けて頭を働かせ始める。
このままヴァイスフリューゲルが全てを解決してしまったら自分は単なる道化になってしまう。
其れを免れるには李警視自身も何処かで目立つ活躍をしなくてはならない。

「(そうだ……さっき敵にも仲間の増援が来るみたいな報告があったな)」
聞き耳立てて得た情報を元に、己がシャイニングロードを見出す李警視。
即ち…

「おい…お前達……ちょっとこっちへ来い」
現場から下がっていた部下を数名連れ出し、敵増援を迎え撃つ用意を整え始める。
既に李警視の頭の中では先の犠牲や人質の事などすっかり抜け落ちてしまっていた。
パルテノンへ至る高速道路は既に警官達によって封鎖されている。
道路の封鎖にはAMF(アンチマジックフィールド)も使用されている為、能力による突破は不可能だ。
たがドーム内へ瞬間移動能力で侵入する事は不可能ではない。
これは中にいるアークエンジェルズの為にAMFを展開していないのだが、
今の李警視にはぶっちゃけどうでも良い事であった。
となれば…

「良いか?我々の目的は後方支援ではなく敵殲滅だ!我々が戦うべき相手は敵増援だ!
 これは警備ではない戦争だ!敵増援は空から来る可能性もある。対空装備を用意しろ。
 後、ドーム内にもAMFを発動し、瞬間移動による合流を防げ」

飽く迄、増援は自分達と戦い破れてくれなくては困る。
AMF発動でヴァイスフリューゲル側は苦労するだろうが其れで失敗してくれるなら結構。
李警視はとっくに自分がピエロの役に陥っている事を理解出来ていなかった。
そして其れは敵増援の正体によって確定的となる。
執筆者…is-lies

  リヴン
  パルテノン広場前通り

 

「へっくしっ!!
 ああ、もう…誰か噂しているな?」

黒塗り高級車の後部座席に乗った少年は不機嫌そうに鼻先を腕で擦る。
サングラス越しに、車を運転しているギャング風の男が不安そうな眼差しを向けているものの
この少年には最早慣れた反応であり、外見や態度が実力を表すものではないと啓蒙する気も失せていた。
とはいえ、ギャング風の男が訝しむのも無理はないかも知れない。
少年の緑髪はウニの如くボサボサであり、だらしがなく、手には包帯まで巻いているのだから。
この外見ではどれだけの仕事をこなせるのか疑問に思うのは至極尤もである。
彼が極めて特殊な力の所持者である事を除外すればの話だが。

「…もうそろそろ封鎖線だぞ…本当に大丈夫なのか?
 言っておくが…此処までお前を連れて来てやったのは
 ボスがお前の力を確かめたいと言ったからなんだ。
 だからお前が窮地に陥ろうが俺達はお前を助けたりなんかしない。
 俺はお前と合流せず監視だけしとくから、お前は仲間を助けたら一緒にイオルコスまで行け。
 …解ってると思うが余計な犬っころを連れていたりした場合は……」

「はいはい、良いから黙って見ててよ」

それだけ言うと途中で降車し、
少年は無防備に封鎖線へと近寄り始めた。
何の武器も持ってはおらず…しかし全く物怖じせずに。
執筆者…is-lies

  ????
  スパルタ北方廃工場

 

「よし、お前はそのまま監視を続けろ。
 ……さて…お手並み拝見といくかね」
薄汚れた廃工場の一室で、大勢の手下を従えた如何にも軽薄そうな男が携帯電話を切った。
アジア系と思しき顔は美形の域にあり、年齢も精々20代半ばといったところか。
烏の濡れ羽色と言う感じの髪は前髪に白のメッシュ、
またシルバーアクセサリーで飾った派手な服装と、
テーブルの上に脚を乗っけて煙草をふかす其の態度からは品性を感じられない。

「戻ってくるよ、あの子…だってあの子は…」
そんな男の傍らに佇み赤い服の少女が小声で呟く。
白銀の長髪を上品に垂らしており、アジア系男のいる其の場に凡そ似合わぬ風貌をしている。

「ああ、アンタと同じ…あのSFESの遺児…只者である訳がねぇわ。
 使えそうな奴だったら…『骨』って奴共々オレ様の手元に置いといてやるよ、くくく」

「…彼は其れを望まないと思うな……」

「あー、聖女様にゃ解らねぇか…
 そしたらまた同じ事の繰り返しなのさぁ。
 ああいう犯罪者が平穏を得るには…オレ様達みたいな奴の傘下に納まるしかないんだよ。
 …おっと、其れだともう平穏じゃないか?はっはっはっは!
 ふふ、これだけの力を得れば…オレ様が新たなSFESとしてアテネに君臨するのも夢じゃねぇ」
執筆者…is-lies
 
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