リレー小説4
<Rel4.本田ミナ&TAKE1>

 

  火星、アテネ
  アメリカ大使館、資料室

 

深夜、
アメリカ大使館資料室の窓を開けて待つ事数分、
黒衣の大男が窓枠から顔を半分だけ出して中を窺った正に其の瞬間に声を掛ける。

「あは、やっぱり会えましたねTAKE

「……どうして解った?」

「何ていうのか……はっきりと言えませんけれど…
 こう……来るんじゃないかな…って」

ミナは柄にもなく浮かれていた。
急にアメリカ大統領から連合議会議員に指名され困惑し、
インタビューの数々に何が何だか解らない内に答え続け、
結局、今の自分を見直すのに丸一日掛かってしまった。
連合議会議員・本田ミナ……
第四次世界大戦の首謀者・本田宗太郎の娘たる自分が連合議会の議員なのだ。
風当たりを配慮し、御付のリリィが捨てさせた筈の『本田』の名を再び名乗れる日が、
よもやデリング大統領によって齎されるとは思っていなかった。
更には祖国・大名古屋国の復興まで支援するというのだから浮かれるのも仕様が無い。
だが薄々はミナにも解っている。旨い話には裏がある。
この幸福感は決して長続きしないだろうと。
よって今のミナは、浮かれている…というよりは
この甘さに浮かれようと努めている…と言った方が正しいのかも知れない。
これから先の見えない不安が…いつ途切れるとも知れない路への不安が、
どうすれが良いのかも解らない不安が、彼女を何者かが敷いたレールへと誘っていた。

「そう…か。
 まぁ早々に出会えて良かった。時間も無いので手短に行こう。
 ………お前はデリングに与する積もりか?」

「…彼が私を利用しようというのは…解ります。
 ですがシュタインドルフ閣下は策があると仰いました…
 今は……信じるのみです」

「シュタインドルフ…火星帝の息子だったな。
 だが果たして奴に、あのデリングを出し抜く事が出来るのか……
 お前を縛り付けようとする冷酷な頸木を破壊し得るのか……
 …結論を急ぐ必要は無いか…併し気を付けろ。
 お前の行く手に待ち構えているものは強大な運命だ。
 必ず打ち破れ。他でもないお前がだ」
TAKEはミナへと背を向ける。

「もう…帰るんですか?」

「ああ、これ以上は流石に騒がしくなりそうなのでな…」
言ってTAKEが大地を蹴ると、其の姿は既にミナの視界より消え失せていた。
置き土産となった風が吹き込んで来、高揚していたミナの頭を冷やす。

「…なに浮かれていたんだろ…
 私が立ち向かわなきゃいけないものは十年以上も前から火星と地球を支配しているものなんだから…
 気を引き締めていかなくっちゃ……」

執筆者…is-lies

  火星、アテネ
  アメリカ大使館庭園

 

「良イノカ?オレはもう少し待ってやっても良カッタんだぞ?
 …いや、やはり此処は足を止める時ではない。
 ミナの為にも…玲佳様の為にも……私にはやらねばならない事があるのだからな…」

物音に気付き、黒衣の者は素早く身構える。
視線の先には銃口を向けるメイド服の少女…得物は少女の背丈程もあろうかという巨大なライフルだ。
黒衣の者は其の威容を前に、ゆっくりと構えを解き…併し降参するでもなく帽子の鍔を人差し指と中指でくいっと上げる。

リリィか…
 ミナには考えがあるらしい。今は動くな。良いな?」

暫しの沈黙を経、
メイド服の少女リリィは無表情ながらも、其れでいて何処か困惑を感じさせる声で言う。
「貴方は……もしや……」

「ああ。久し振りだな。
 エインヘルヤル…最後の最後で永らえさせられるとは幸か不幸か…
 だが此処は幸であったと受け止めよう。
 …もし敷往路メイに会えたのならばプロジェクトBNウェイレアについて教えてやれ。
 彼女には其れを知る権利があるしな」

既にリリィは銃を下ろし、黒衣の者へと直立不動の姿勢で相対している。

「…ですが、そうなればビッグヘッドが…」

「動くだろうな。十中八九。
 良い機会だ。引き摺り出して第四次世界大戦の借りを返してくれる」

「…借り……と仰いますと…あの後…」

「うむ。してやられたわ。利用していた筈が利用されていたとは不覚の極みだ」
黒衣の者が忌々しげに呟く。
利用している積りが利用されていた…よくある事だ。
動かす者と動かされる者。流れを生み出す者と流れに飲まれる者。
人形を糸で操る者は、自らの業に陶酔し、己の手足に糸が付いている事に気付かない。
人形に繋がれていた糸が実は途切れており、人形が其の様に振舞っていた事にも気付かない。

BNウェイレアですが…此方でも数名確認しています」

「そうか、ビッグヘッドめ…一体何人にサーヴァントの血を混ぜた?」

「敷往路家という『大当たり』を生み出しても当時は気付かず、
 ビッグヘッドが活動を休止した神明11年まで延々と…2000人以上は創られてしまったものと思われます」

「…狂っている」

其の時、横手から茂みを踏み締める音が近付いて来た。警備の巡回だろう。

「お前も退け。航宙機を爆破しお前をも滅ぼそうとしたアメリカだ。
 捕まってもミナには会わせられまい」

まだ何か言いたそうに沈黙するリリィだったが、間近に迫った足音で刻限を悟り、
身を翻して来た道を引き返し大使館の柵を飛び越え、夜景に溶け込み消える。

「…話は終わったカ?
 うむ、だが……少し気になる。
 ミナは大名古屋国の技術を盾に101便への攻撃を止めさせたと聞く。
 だが…アメリカは………
 …考えるノハ後にして、今は身を隠す方に専念シテクレ。
 ああ、解ったよTAKE

執筆者…is-lies
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