リレー小説4
<Rel4.敷往路メイ2>

 

   三重、日本神宮会本部

 

「つまり、御嬢の…敷往路家に代々、そういう特別な儀式があったと?」

「そうであるよ?敷往路家に伝わる秘儀『遺シ羽根』の召喚…
 敷往路に連なる魂にしか行なえず…しかし其れで居て誰一人成し遂げられなかったという業。
 メイ君には敷往路の魂とやら以外にも…何かあるのかもしれぬのである」
日本神宮会エージェントの女が呟く。

「其れが俺達の調べた白布楡人の血なのかも知れないな」
「待て、まずは御嬢の儀式を見てからだ」
ハチとタクヤは腕を組みつつ、ガラスの向こう……魔方陣の中央に佇むメイへと視線を向けた。

今、彼等はメイが魔法学院より見付け出した資料に基づき『遺シ羽根』召喚の儀式を執り行おうとしている。
八姉妹の結晶カオスエンテュメーシスが敷往路の魂に反応したという事実を考えるに、
この秘儀で言及されている神の写し身『遺シ羽根』こそが八姉妹の結晶の事を指している可能性は大きい。
幸い資料には儀式の方法も記載されていた為、早速実行に移ったという訳だ。
日本神宮会本部の一施設…道場のような広々とした部屋にて強化ガラスを挟んでメイを見守るハチ、タクヤ、そして神宮会の人間達。
ネオス日本共和国総理大臣の小泉は多忙さもあってホログラムでの参加だ。
表立って姿を現さない暗殺者ギルドマスター・ディレイトはメイのすぐ近くにいた。
メイの真上である屋根裏で自分の脇腹を摩りつつ、小さなのぞき穴から儀式の様子を窺っている。
自分の脇腹の中にカオスエンテュメーシスを隠して探知を不可能とした彼としては、
カオスエンテュメーシスの在り処を小泉首相に悟られたくないに違いない。

ディレイトが来ていることもメイ達には解っていた。というよりも今回の実験はディレイトがセッティングさせたものだ。
儀式で本当に八姉妹の結晶が起動すれば…ディレイト自身ただでは済まないだろうが、彼にとっては些細な問題なのだろう。
変な気を使って躊躇するなとメイに釘を刺してすらいた。

メイは魔方陣の中で逸る気持ちを抑え、儀式開始に集中していた。
本来、この儀式には魔方陣は必要とされない。今、メイが中にいるものは魔力安定効果があるに過ぎない。
資料…敷往路家の先祖が天皇へと奉った巻物によるならば、儀式に必要なものは敷往路の魂と祝詞のみ。
魔力が必要とは何処にも書かれてはいないものの、敷往路家は代々天皇を守護してきた術士の家系だ。
もしかしたら魔力も必要なのかも知れない。用意しておいても損にはなるまい。
そして万が一の結晶暴走に備え、AMF(アンチマジックフィールド)の準備も為されている。

万全を期し…メイは儀式を始めた。巻物に書かれていた祝詞を唱えるだけの単純極まりなく…誰も成功させられなかった儀式を。

 

 

「限りある者よ我が身を………」

 

 

祝詞の詠唱と共に明らかな違和感が其の場の全員を包む。
何かの歯車が噛み合った音を聞いたような…そんな理由無く進展したと錯覚してしまうような感覚…
メイもハチもタクヤもディレイトも神宮会の人間達も…この光景をモニター越しで見ている小泉ですら、
この奇妙な感覚…そして成功の予感を同時に抱いていた。
やがて祝詞が終わりに近付く。

 

 

「………希わん。
 なれ、吾が御名の下、真実を指し示せ…

 

 心あれ。カオス・エンテュメーシス

 

 メイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメ…ですね」
「あーあー、何か起こると思ったんだけどなぁ」
《確かに…言葉では言い表せないが…手応えはあったように思う》
「まだ何かが足りぬのか…
 この祝詞は飽く迄、メイ君の方から呼び掛ける業であって、
 結晶の方から其れに応えるような何かが必要とでもいうのであろうか…
 まだまだ謎が多いのである」
《近付くものに災厄を与える結晶ワン・オブ・ミリオンの例もあるからな。
 だが此度の結果…方向性として悪くはないと思う。
 より仔細な調査が必要だ。頼むぞヴィンテルアルク殿》
「あいわかった。我輩に可能な最善を約束するのである」

 

話を進める小泉と神宮会エージェントの女を尻目に、ふとメイが一人ごちた。
儀式の真っ最中に感じた…成功するという確信を木っ端微塵に打ち砕いたもう一つの予感

 

 

「…何かが……何かが…邪魔をしている…?貴方達は…誰?
執筆者…is-lies
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