リレー小説4
<Rel4.ハウシンカ3>

 

   ロシア、ハバロフスク、市庁舎

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「同志キュア・スターリン」
「…はっ、ははぁ!!何でありましょうか同志オセロット隊長殿ッ!?」
……シベリアで木の数を数えてみないか?
「…………」
執筆者…is-lies

 

   ロシア、極東連邦管区、ハバロフスク、アムールホテル

 

 

レーニン通りにあるアムールホテルは改修の折にオーディア家の資本が介入した物件で、
リスティー達レジスタンス運動家の隠れ家の一つとして利用されて来ていた。
今、ハウシンカ達が根城として利用しているのは、其の一室…元々は傭兵アリオストに与えられた部屋らしい。
傭兵…というイメージとは似つかわしくない小奇麗な部屋には、カラフルな謎の冊子や、
ブランドもののスーツが詰まったトランク、棚に並べられた赤ワインの瓶などがあり、
いずれもグレナレフの持つ傭兵像とは相容れない。傭兵とは「はした金」で命のやり取りをする職業であって、
豊かな傭兵などというのは命知らずな貴族の無謀な道楽でしかない。
或いは略奪に精を出しまくっただけの三日坊主ならぬ三日貴族といったクチか、
何にせよ碌な手合いではないだろうとグレナレフは思った。

「うっわぁー、コイツ下着までブランドものじゃん。
 落書きしちゃえ☆」

「ハウシンカさん、あまり人の物を荒らしてはいけませんよ」

荷物を整理しているルークフェイドが言う。
本来、ハウシンカ達がロシアへ持ってきた荷物は其の大半がトラックに積まれていた。
其れらはKGBがあっという間に回収しきってしまい、僅かな手荷物しか残らなかったものの、
リスティー達レジスタンスが、ハウシンカ達に友好の証と称して与えた物資は、
KGBに押収された本来の荷物よりも品質・数量共に勝っていた。

「いーじゃん、どーせ生きて帰って来やしないんだし〜
 …って、うわー何これ?…アリオストFC………イタタタタタタ、アイタ〜(ノ∀`)」

同人誌と思しきファンクラブ会員誌や写真集などを見付けたハウシンカがはしゃいでみせる。
左斜め45度で顎に手をやったアリオスト・シューレンが表紙の痛い冊子の中身は、
アリオストのファン…というかコマされて洗脳された女共のあられもない体験談や貢ぎ物自慢、
世界イケメンランキングとかアリオストに似合いそうな職業ランキングなどの要らぬ妄想記事で満ちており、
見ているだけで其の毒気に中てられそうな気分になってしまうという恐るべきものだった。

「イケメン1位アリオスト、キステク1位アリオスト、知的1位アリオスト、
 似合いそうな職業1位・宇宙大統領…
 ……イケメンイラネ」

アリオストマンセーな内容に、すっかりゲンナリしたハウシンカが冊子を放り捨てる。
其の肩越しに本を覗き見していたグレナレフも呆れ気味だ。

「詰まり、このアリオストって奴ぁ……ヒモな訳か。
 行く先々で女と関係を持って貢がせてるスケコマシ………
 全くもって見下げ果てた奴だな。もう死んでるだろうが」

結局、古本として売っても二束三文で手間が掛かるだけという事から、
この怪文書の山は暖を取る為、灰となって貰う事が決まった。

「燃えろ〜☆」

穢れた書物が次々暖炉に放り込まれ、炎によって浄化されてゆく。
室内を心地良い暖気が満たし、邪魔なものも無くなったところで漸く寛げそうな空間になって来た。
暖炉の前に集る一同、だがそんな中、暖気の及ばぬベランダ付近で独り何やら作業中に勤しんでいる者が居た。
窓一枚隔てた外で寒波に翻弄される出稼ぎ労働者達を、光を失った目で眺めているアーニャ・カプランベリヤだ。

「よー、アーニャん。春が来たね。
 隣いーかい?」

「春が来たね。いいよ」

「寒いね〜」

「そうだね」

「ピロシキ食べる?」

「後で貰う」

「何してるの?」

「銃の手入れ」

バラライカのケースに隠されていたのであろう狙撃用のライフルは、
冤罪と思われたキュア・レーニン、キュア・スターリン暗殺未遂事件に使用されたものに違いなかった。

「眼見えてんの?」

「ううん。何となく場所がわかるだけ。
 多分、能力者なんだと思う…検査受けてないから解らないけれど」

そりゃそうだと思うハウシンカ。今のロシアにとっては能力者は大事な生贄だ。
表向き弾圧してはいるが、能力者が滅び切ってしまうと民衆の矛先が政府に向いてしまう。
だから、弾圧する為に能力者が必要なのだ。適度に生かし適度に殺す。
態々能力者検査などを徹底して皆殺しにしてしまう理由は何処にもないのだ。
このバランスが崩壊した時とは…即ちロシアの崩壊と同義であった。

「ふぅん……
 …ねぇ、なんでこんなハッスルこいちゃってんの?
 アーニャん、前はチェリーと一緒でバリバリのインドアだったじゃん。
 何か理由あるのかにゃ〜?」

アーニャ・カプランベリヤは特殊警察の家系に生まれ、生活には不自由していなかった。
ただ両親に不幸があったらしく、其の際に光を失った…というような話を昔、病院で聞いていた。
隣人とはいえ、ただ其れだけの存在。特に気にも留めてはいなかったが、
やはり甘い蜜を吸っている側であるロシア貴族が自主的に反旗を翻すというのは気になる事だし、
少なくともハウシンカの記憶にあるアーニャという人間は、
リスティー・フィオ・リエル・オーディアが言う愛国心などという考えは持ち合わせていなかった。
何故、今になってそんな事が気になりだすのか。
単に戦う理由を知らない貴族と行動を共にして、後ろから刺されたくないというだけなのか、
或いは…今更ながら、少なからずとも似たような境遇にあった相手に親近感を抱いているのか…

「…民衆の為、勇者として戦う…
 …貴族の為、傭兵として戦う……
 …国家の為、騎士として戦う……
 でも理由の為に戦って…勝って…最後に笑える訳じゃない…
 …詰まり…そういう事。
 ………私が戦う理由を問うのは…無意味だよ。言ってもハウじゃ理解できない」

遠回しに何か言った様だが其れを理解する事が適わないという事は良く解った。
一つハッキリと解る事があったとすれば、
ハウシンカ自身にも何故か解らないものの、無性に腹が立ってきていたという事だけだ。

「(理由の為に戦って勝っても…最後に笑えない?
  …何それ?
  あのインフルエンザ野郎の時にだって言ってやったさ。
  笑うも笑わないもない。捕まってるチェリーを助ける…其の後の事は後で考えるっての)
執筆者…is-lies

   ロシア、極東連邦管区、ハバロフスク、ウスペンスキー教会

 

 

ファンシーグッズで満ちた部屋の中、
レジスタンスの自称ボス・リスティーは、両膝を抱えてカラフルなカーペットの上に座り、
ラスプーチン大統領の会見を流すTVの画面を眺めていた。
TVの上に対能力結界AMFの発生装置である結晶が備え付けられているのは…

《国民の皆さん…今日もラスプーチン劇場の始まりです。
 Президент Президент ПрезидентПрезидентПрезидент♪
 Распутин Президент♪》

電波に乗った洗脳歌がリスティーの耳に入る前に、AMFによってラスプーチンの力を遮断する為である。
Ω真理教の麻原同様の力…大量のラスプーチン達がロシア議会に食い込んだ理由が其処にあった。
最初は単騎のラスプーチンが議席を得るに留まり、次はクローン達が徐々に民衆を洗脳して議会入り。
能力や洗脳に耐性のある議員を、民意と称する数の暴力で叩き潰して追放、
更に勢力を伸ばし議席の過半数を占拠した時には最早、誰にも止められないモンスターが誕生していた。
情報非公開、人種弾圧、宗教弾圧、思想弾圧を経て国内を無理矢理統率すると、
昔、ワルシャワ条約機構に編入してたから今支配下にないのは気に食わないとか何とか意味不明な事をホザいて、
既にロシアギャングの手に落ちていたベラルーシ、ウクライナと協定を結び、周辺諸国へ宣戦布告。
其の直後、マイヤヒー共和国、ワラキア公国を問答無用で次々武力制圧、
恐るべき速度で無条件降伏したバルト三兄弟国を尻目にポーランド共和国へ攻め入り、
後、ついでだからとカレワラ共和国にも宣戦布告…旧世紀のソ連も真っ青な悪の一大帝国ブチ立てたのであった。
国連から非難の篭った蔑称「ロ連」を拝領し、脅し混じりの警告を受けて引き際を悟り、ポーランド侵攻を中断、
ポーランドを分割する講和条約を早期に締結させて戦争は終結した。
尚、モンゴルにも旧世紀でのツケ100倍返しであると攻め入ってはいたものの、
RIKISHIなる超人兵器から構成された航空部隊に苦戦し撤退を余儀なくされていた。

「お嬢様、宜しいでしょうか?」

ノックをして入ってきたのは黒服の青年R・Bだ。

「はいは〜い、何ですの〜?」
《手短且つ迅速且に三行以内で纏めろ》

「アリオスト氏が戻ってきません。
 如何致しましょうか?」

《フケェエエ!三行丁度にすンのが礼儀だろうがよファック!》
「やっぱり捕まっちゃいましたわね〜
 …傭兵ですし、もう洗い浚い吐かされてポイされているかも知れませんわ〜」

所謂プロ(プロフェッショナル)とは違い、プロギルドに属さない一傭兵…
そんなアリオストに、口の堅さなど望めはしない。
だからこそ彼には碌な情報など与えてはいなかった。所詮使い捨て。
だがこれは傭兵相手には至極当然の対応だ。
プロとは違い、出費や報酬の不満を現場での略奪で穴埋めするし、義務にもいい加減だ。
そして、よく逃げる。
雇用者は其れを踏まえた上で傭兵を雇うべきなのだ。
だからこそ…

「R・Bさんがそんな傭兵なんかを気に掛けるのって珍しいですわね?」

「…彼ではありません。彼を紹介したトードストール王国です」

「おー、あれは印象に残る出来事でしたわー。
 平和理想主義国家がオドオドしながらロシアをつついて来た形ですわね」
《革命への援助が僅かな傭兵の派遣だなんて笑っちまうぜぇー!
 正義感あるんだったら全面戦争に持ってけっつーのー!そして散れぇ〜!ゲヒャヒャ!!》
「もー、そんな事言っちゃいけませんわよ〜。協力者なんですから〜」

トードストール王国は旧法王庁のあったバチカン市国を抱く王政国家で、現在は女王が統治している。
女王は所謂、平和主義者であり世界平和を謳い外交をしているという変り種であった。
誰に対してもそんな姿勢を崩さずにいる為、EUやUNの内部では目立ちがちであり、色々口煩いものの、
少し脅せば直ぐ弱気になるなどヘタレているので、基本的に各国からは軽んじられている。
詰まりは強気な国に弱く、弱気な国にもイマイチ…
そんな国が行った大胆な行動が今回の其れだった。

《話し合いで平和的に。話せば解る。人類皆兄弟。
 …其れで円満解決すりゃ、世界はこんな世知辛くねーんだよなぁゲヒャヒャ》
「でもでも、煮ても焼いても食べられない相手がいるって解っただけでも進歩ですわー
 後は大々的に支援して下さればもー、ばーんばーんざーいですわー」

対話でロシアの暴走を止めようとし、結局何もかも無視され途方に暮れたトードストール王国は、
遂に実力行使…というには聊か物足りない攻勢…
ロシアを内部から変えようとするレジスタンス運動家への支援に乗り出した訳である。
だが慎重というよりもヘタレてる為、名のある傭兵を送る程度に留めているのだった。

「…で、何でしたっけ?」

「…詰まり、アリオスト氏を見殺しにする事で、
 トードストール王国を及び腰にしてしまうのではないかという事です。
 あの国の性格からすれば、完全に手を引く事も考えられます。
 我々にとってトードストールからの支援は無くてはなりません」
執筆者…is-lies

  ロシア西部、中央連邦管区、モスクワ、ベールイドーム

 

 

ベールイドーム。ロシア連邦議会ビルであり、ロシア・ホワイトハウスとも呼ばれる。
本来ならば国の行く末を定める厳か且つ神聖なはずの其処では、世にもおぞましい光景が広がっていた。

「おう、メドヴェージェフ。肩揉めや」
「は、はひぃい!!」
「メドヴェージェフ。メロンパン買って来いや。果汁入りのヤツだぞ」
「うわっかりましたぁああ!!」
「こらメドヴェージェフ。おりゃ今ムシャクシャしてる。便所裏に顔貸せやテメー」
「いょろこんでぇええ!!」
「待てやメドヴェージェフ。てめーの卑屈な笑い顔が気に入らねぇ。
 サンクトペテルブルク出がチョーシこいてんぢゃねーぞ、メンシェビキ(少数派)」
「むぉうしわけございませんんんっ!!」

揃いも揃って同じ顔したヒゲオヤジ達が、議席に足を乗っけたりしながら傍若無人に振舞っている。
しかも彼等は議席の過半数を占めているのだから、其れだけで議場そのものが異様な雰囲気を纏ってしまう。
議場…というのも烏滸がましい。チンピラの溜まり場であった。
この同じ顔をした不気味な集団には、現ロシア大統領ラスプーチンも含まれている。
というよりはラスプーチンの顔をした集団と言った方が正しいだろう。
国際法で禁止されたクローンではないかと指摘したジャーナリストは後日、全裸の死体で発見された。

ロシア大統領ラスプーチン…其の経歴は定かではないが、一部では魔術師ではないかとも噂されている。
数々の暗殺を受けながらも悉くクローンを囮として生き延び、
反対者へ徹底した粛清を下して来た彼に歯向かえる程の蛮勇を持った人間はこの場にいない。
既に、粛清されているからだ。
独裁集団である彼等ラスプーチン、そして其れに媚びる議員達、
反対する議員達は既に極少数派となり先鋒であったメドヴェージェフも今やこの有様。

「ベルトンのクソガキゃぁ…
 小国の分際で、このロシア様に盾突くなんざ身の程知らずも良いトコよ!
 おい、ちょっくらロシア内のベルトン旅行者をポアして来い。
 難ならΩモスクワ支部の兵隊を使っても良いぞ?」

日本に広く知られているΩ真理教の教祖・麻原の正体は、ラスプーチンのクローンであり、
彼は日本をΩ真理教一色に染め上げてからロシアに差し出す事を任務としていたが失敗したのだった。

「そ…そんな事………
 …い、いえ…喜んで、偉大なるラスプーチン指導者同志…!」

一瞬、反論しそうになってしまい、慌ててメドヴェージェフが尻尾を振るものの…

「ハァ?ちげーよ。オレぁラスプートンだ。
 ラスプーチン指導者同志はついさっき涼宮ハルヒノフのトコ行ったよ」

そう言って片手の小指を立てて見せるラスプーチンならぬラスプートン。
彼も他のクローン達も、自分がラスプーチン側にいる事を隠そうともしないのは、
誰がどう足掻こうが今の支配体制を覆せる訳が無いという傲慢さによるものだった。

「そうだなぁ…強盗殺人人身売買を組織的にやってたって事にしとけ。
 愚民共の怒りがベルトンに向いたら戦争だ戦争。あんなクソ小国秒殺よ!」

キーレーン・オーケストラ団によって演奏される「超越神力」のBGMを聞き、
ヨダレなんかを垂らしつつ悦に入るラスプーチンクローン達。
執筆者…is-lies
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