リレー小説4
<Rel4.ハウシンカ1>

 

   フランス北東 アルザス基地

 

「やってらんねぇよ…」

悪態をつく少女のしかめっ面を横目に、説得しようとするのももう飽きたと、
グレナレフ・オールブランは新聞へと視線を戻して身も蓋も無く言う。

「まぁ、そう言うな。人生なんてそんなもんだ」

彼はどうか知らないが、少女ハウシンカ・ドラグスクはラ・ルー・ヌース法王の暗部を暴く積りで行動していた。
法王が囲っていた大切な人を取り戻す為に…協力者ルークフェイド・リディナーツも目的は似たようなものだったはず。
其れが今やどうだ。
ルークフェイドの大切な人は既に法王の手を離れており、飼い主のSFESはリゼルハンク本社ごと崩壊。
法王は『破滅予兆』を防ぐ為とか何とかで法王庁に篭もり切りで面会も許されず。
そして何故か自分達が…フランス軍の遣い走りとなってしまっていた。
窓から見えるアルザス基地射出場の物々しい風景が、
実感こそ与えないものの既に大きな力が彼女達を包み込んでいる事を知らしめさせている。

「…ま、フランスに助けられたんだから贅沢は言えないんだけどね。
 ったくルークフェイドの旦那ももうちょいマシな作戦立ててくれなかったのかねぇ」

「無茶言うな…アルカトラスだぞ?」

月アルカトラス刑務所からハウシンカとグレナレフを無事脱出させるのは、
流石のルークフェイド勢力でも無理があった。
だが能力者人材の確保に乗り出したフランス軍と結託し、
刑務所側の人身売買に付け込む形で何とかハウシンカ達の確保に成功した。
ぶっちゃけフランス軍にハウシンカ達を売ったようなものだが、
彼女達を救うにはこの位しか手がなかったのも事実である。

部屋の中にはハウシンカとグレナレフの他、5人が集められていた。
皆、月アルカトラス刑務所からLWOS経由で火星へ送られようとしていた異能者達だ。
彼等が僥倖にもハウシンカと同じ輸送機に乗せられていた為、
フランス軍によるハウシンカ救出作戦に乗じて保護される形となっていた。

「ところでさ…何で地球、こんなにまだ人がいるのさ?
 地球が破滅するー…って騒いでたのはどうなった訳よ?」

「いやなぁ…どうも破滅現象が大規模に発生した数日後、一気に沈静化したらしい。
 まぁ……まだ局所的に続いているみたいだし宇宙に避難する奴も後を絶たないけどな」

「ふぅーん…んじゃ一時の余裕が出来たってだけで、
 やっぱ将来的に地球はオシマイ?」

「かもな。破滅現象を止められれば一番良いんだが…」

「まぁ良いや…アタシそうなる前に、ロシア行きたいんだけど抜け出せねぇの?」

「…取り敢えず、ルークフェイド達の話を聞いてからだな。
 ぜってー面倒事被る事になるんだろうけど」 
やがて部屋へと入って来た3人の軍人…
其の内の、クライム・カーリュオン中佐を名乗った赤髪の男が
何も知らなかったハウシンカ達以外の元囚人達に事の顛末…
フランス軍が能力者確保に乗り出したという事、彼等がLWOS経由で売られようとしていた事、
今の彼等はフランス軍に従う事で一定の自由を得られる立場である事を説明する。

「表向き、君達の身分はフランス軍属の傭兵部隊。
 但し其の行動は君達の身体に埋め込まれたセンサーによって常に監視され、
 反意が明らかになった時点で処分させて貰う。良いね?」

「有無を言わせない積もりで良く言うよな」

椅子を前後逆にして背凭れに顎を乗せて気だるそうに言うハウシンカ。
クライムは其の弛緩し切った顔を見ると、教鞭片手につかつかと彼女へ近づいて来る。
ハウシンカは軽く受け流す気満々の腹積もりでいたが…

「安心してくれ。RR殿の要請に基づき…御二人にはセンサーも何も付いてはいない」

と、クライムが耳元で呟く。
RR…詰まりはルークフェイド・リディナーツか。

「ンなんで安心しろって言われても有難味を感じられないねー」

相変わらず愚痴るハウシンカを余所に説明を再開するクライム。

「働き次第でセンサーは除去され、晴れて自由の身となる。
 望むならば我がフランス軍で正式に雇用も出来る。悪い話じゃないぞ?
 アルカトラスの囚人が復帰出来るっていうんだからな」

元囚人達にとっては棚から牡丹餅。異論を挟む者など居よう筈もない。
其の大人しい態度にクライム中佐は気分を良くしたらしく、うんうんと大仰に頷いてみせる。

「我がフランスを含むEUは結晶技術や能力者の導入・雇用を蔑ろにし、
 結果、エーテル後進国というあまり有難くない呼ばれ方をする破目になっていた。
 EUが誇る宇宙人工天体アトラスも、蔑みの眼差しを敬虔なる畏怖へ覆すには至らなかった
 だがこれからは違う。
 破滅現象を撲滅する為のアーティファクト『八姉妹の結晶』を手に入れ、
 後進国などという汚名を返上…フランスの名誉を回復するのだ。
 君達…フランス軍能力者部隊『コロキント・ピラート』には、
 これからのフランスの未来が託される。忠実に職務に励め。
 …言っておくが、これは命令だ」
執筆者…is-lies

   フランス北東、ストラスブール
   ホテル『カンナード・ノズ』

 

今後、ハウシンカ達の活動拠点となるストラスブールのホテルの一室で、
火星から持って来た荷物を整理していたルークフェイドの姿を認めるや否や、
不気味な笑顔でもってハウシンカは青年へと詰め寄る。
歓待するかのように広く開かれた両腕は退路を塞ぎ切り、
決して相手を逃がさないという強い意思が込められていた。

「ねぇ、殴って良い?左で勘弁しといてやるからさ?」

「いや…本当に申し訳ありません。
 大人しくアルカトラスに入るとも思いませんでしたし、
 巧く逃がす算段というものも…私達だけでは難しいものがありまして」

実際、救出作戦は相当に成功確率が低かった。
こればかりはタイミングが良かったとしか言いようがない

「まあツケにしといてやるから泣いて喜べ旦那。
 …んで…あー……聞いときたいんだけどさ、旦那の大切な人…SFESにいたんだって?」

「…ええ、法王がSFESに売ったのか…妹と弟がSFESに籍を置いていたのは…ほぼ間違いないでしょうね」

ルークフェイドの表情は暗い。リゼルハンク本社崩壊で其の妹弟も死んだかも知れないからだ。
普段ならば、落ち込んだ相手でも挙って茶化しに掛かるハウシンカも、この時ばかりは大人しい。
グレナレフはそんなハウシンカの様子を月アルカトラスでも目にしていた為か、
何か思うところがあるのだろうと、彼もまたハウシンカに余計な事は言わなかった。

「恐らくハウシンカさんは…
 もう自分に付き合う必要はないんじゃないのか?…
 …と、そう仰りたいのでしょうが、私とてプロです。
 何があろうとも務めは最後までやり通すのが……そう、贖いです」

「……そっか。
 …うし、じゃあ早速話を切り替えよっか。結局、法王はヒッキー?」

「はい。法王庁舎に篭り切りだそうで…
 取り次ぎにサミュエル枢機卿が入るので交渉と同時に屈服させる事は難しいでしょう」

「厄介な展開だよな」

法王まで話が行かずに其の場で詐欺師として警察署送りにされる事も大いに考えられる。
どんな証拠を持とうとも、其れは結局のところハウシンカ達が法王を脅して従わせる為のものであり、
肝心の法王と直接接触が出来ない事には何の意味もない。

「ならどうやってちらつかせるかねぇ、グレナレフっちが暴いた証拠の数々を!
 …よし、んじゃ法王庁舎に潜入する方向で行きましょか♪」

「………(そ れ は 本 気 で 言 っ て い る の か ?)
渋い顔で汗を垂らすルークフェイドとグレナレフを余所に、
ハウシンカはどんどん先の予定を立てて行く。この行動力だけは誰にも止めようがない。

「となるとやっぱアイツの協力が欲しいところなんだよなぁ。
 取り敢えず予定通り軍から離れてロシアからアイツ引っ張って来て火星さ戻ってぇ…
 あ、暗殺者ギルドの協力も欲しいな」
執筆者…is-lies
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