リレー小説4
<Rel4.ハチ&タクヤ1>

 

   タクヤ
   西日本 日本皇国立病院

 

「あ、楽にしていて下さい親方様」

「いや、良い」
ベッドから身を起こしてタクヤと向き合うのは病院に似つかわしくない程の力強さを湛えた老人…
今は亡き日本皇国の守護役『敷往路家』の党首敷往路・進だった。
既に護る国も家も力も失い、然し其れでいて彼の威厳は損なわれる事が無い。

「……其れで…敷往路家と八姉妹について…だったか?」

「はい。突然…調べないといけなくなっちゃって…」

「メイか?」

図星を突かれて黙りこくるタクヤだが、答えたも同然である。

「やはりそうか。
 全く…どうしてこう儘ならぬのか」
メイに平穏さを望んでいる進ならば当然の反応だ。
SFESというマフィアもどきの次は八姉妹と来たのだから其の心労は推して知るべし。

「…敷往路の家に何か特殊な性質があったとは聞かないな。
 …娘にも特別なものは…」

とするなら、敷往路家と八姉妹との接点は、
以前に進がカオスエンテュメーシスを見たというだけとなってしまう。
これでは明らかにメイに呼応した八姉妹の結晶との関係を説明できない。
だが話は此処で終わらなかった。

「いや……もしかしたら…アイツが…」

「アイツ?」

「メイの父親…詰まり遥の夫だな。
 …敷往路がどうこうではなく…アイツによってそういう特殊性がメイに受け継がれたと考えれば…」

確かに其の可能性は否定出来ない。
敷往路家に要因が無いならば外部から持ち込まれた可能性も考えるべきだろう。

「御嬢の父さんについて教えて貰えますか?」

「…うぅむ、情けない話だが…
 当時のわしはアイツを毛嫌いして碌に話も聞かず遥と共に追い出してしまったからな…
 …龍造寺の奴はアイツとも付き合いがあったから何か知っているかも知れん」

やるからには徹底的に調べ上げねばならないとタクヤは携帯電話を手にする。

「もしもし?ハチか?オイラ。
 ……うん。芳しくない。其れでそっちは御嬢のお父上について…」
執筆者…is-lies

   ハチ
   西日本 龍造寺流槍術道場

 

「こんにちは。御無沙汰しています」

龍造寺流槍術29代目師範「龍造寺・信虎」が縁側で迎えた客は、
敷往路家に仕える精霊神ダルメシア…の人間体である少年だ。
この道場でダルメシア、そしてメイの母である遥が鍛錬を積んでいた。
遥とメイの父親が出会ったのもこの道場だというし、
現状では道場主の龍造寺に話を聞く以外の道は無い。

「お前は…ああ、敷往路のところの…・・・…ダルメシア…だったか?」

「はい。この姿の時はハチと名乗っています。
 御無沙汰しております先生………少々お時間を頂けますか?」

「ああ、構わん。
 其処で待ってろ。茶でも…」

「いえ、御気使い無く。
 メイ殿の御父上…そして御父上とメイ殿の関係について…何か御存知の事がないかと思い伺いに参りました」

「…訳ありのようだな」

無粋に聞き返す事も無い。浅い付き合いではないのだ。
龍造寺は一拍子置いてメイの父親について話し始める。

「……白布・楡人(しらぶにれと)と名乗ってはいたが偽名だ。西欧人だが詳しくは何処のものとも知れん。
 だが…そうだな……
 此処で遥の修行を見学しに通っていた際、妙な様子があったな…」

「と言われますと?」

「…最初は積極的に遥に近付いていたのだが…
 親しくなってゆくにつれ、罪悪感染みたものを感じていた節がある」

メイに八姉妹との接点が出来た原因が白布の血にあるという仮定が多少現実味を帯びて来た。
だが同時に新たな疑問が幾つも擡げ上がる。
白布の血とは一体何なのか…八姉妹との関連性も含めて謎のままだ。
そして如何して遥に近付いたのか、そうしなければならない理由は何なのか。
何にせよ白布はメイと八姉妹の関連について重要なピースとなっている…ハチはそう思った。

「で…白布だがな…とうとう戦争に巻き込まれて遥共々死んでしまった訳だが…
 どういう訳か…身元が不明のままなんだ。奴が振っていた話題からしてアメリカの方とは思うのだがな」

「アメリカ……」

「写真もある。持って行け」

龍造寺の差し出した写真に映るのは、
彼と其の門弟達…メイの母・遥と其の肩に手を回している優しげな風貌の男だった。
ごく普通の男だ。果たして裏で何を抱えていたのか。
写真の中の白布は黙して語らず、ダルメシアをじっと見詰めていた。
執筆者…is-lies
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