リレー小説4
<Rel4.玄藩丞号2>

 

   玄藩丞号・10号車2F VIP用07客室

 

「あら、そう?
 で…貴方はどう考えるのかしら?」

レギオン中隊長ローズルはVIPルームの高級ソファーに座り、
周りに様々な衣装で着飾った美しい少女達を侍らせ寛いでいた。
青紫色のロングヘアには所々薔薇を象った髪飾りが咲いており、眼にも同じ色のメイクを施している。
身に纏っているのはチャイナドレスとレオタードを合わせた様な露出の激しいけしからん衣装。
腕を包むロンググローブは指先がカットされており、
其処から除く指を恭しく手に取った少女が嬉しそうに爪の手入れに勤しんでいた。
左手を少女に任せ、右手はティーカップを口へと傾け、優雅なティータイムと洒落込む。
ソーサーは持っていない。左手側に侍った少女が掲げているからだ。
無論、今ランポイントとの通信を行なっている通信機も、ソファーの後ろに佇む少女が差し出しているものである。

《私はペンギン太郎さんが好きではありませんので捨て置いても宜しいかと》

「そう…なら捨て置きなさい。ラーズスヴィズ君だって其の積もりよ。
 どの道、あの子は処分される道を免れ得なかったのだから」

《了解しました》

ランポイントからの通信を終えると、ローズルがすっと立ち上がった。
きょとんとした様子の少女達が、何事かと主へ視線を集中させる。

「……哀れね。暴虐の代償をこういう形で払わされる事になるなんて。そうは思わないかしら?」

「「「「はい、お姉様」」」」

少女達が声を揃えて答える。
彼女達はメイド服やドレスといった、コスプレのような…纏まりの無い服装をしていたが、
皆、ランポイント同様、色に違いこそあれ薔薇の髪飾りを付けていた。
これこそがレギオン中隊長ローズル直属の部隊である事を示すしるしである。

「最近のDキメラには可愛い子が多かったのに、あのペンギン君がいぢめるから…
 ………優しさがなければ、いざというとき誰も助けになんてなってはくれないんだから」

「其の点、お姉様は大違いです」
「お姉様の愛があったからこそ私達は今尚、此処にいるのです」
「ニューラーズ様も素晴らしい御方ですが、
 私達がSFESを裏切ったのも全てはお姉様を想っての事…」

「そう…有難う。私の可愛い蕾達」

ローズルに微笑まれ、頬を赤らめ恍惚の表情を浮かべる少女達。
この百合染みて、倒錯しまくった光景を見てけしからんと思う人間は少なくあるまい。

「それにしても…クリルテース君と合流出来なかったのは残念だわ。
 あの子に似合いそうな服があったのだけれど……どうして来なかったのかしら?」

棚に荷物を並べていた、ブレザー少女が口を開く。
「恐れながら…
 彼の姉であるサリシェラ・リディナーツがライズ・ゲットリックの陰謀に加担していた事に起因するのではないかと。
 サリシェラは持ち出した前支配者カプセルを既に何者かへと流している可能性が高く、
 其の交換条件としてクリルテース・リディナーツの保護を求めているものと思われます」

「過保護ね…可愛がりたい気持ちは解らないでもないけれど」

ブレザー少女が再び荷物を整理し始める。
化粧道具、替えの衣装や下着、
ショタものに広く触手を広げている玩具メーカーP-RANE社の女装少年フィギュア、
伝説の同人サークル『ν』の女装少年モノ同人誌…

実にけしからん。 
執筆者…is-lies

   ニューラーズ
   玄藩丞号・20号車1F 貨物室

 

列車の最後尾である20号車…大型の車両内にはコンテナが幾つも積み重ねられている。
中身は組織SFESから抜け出した時に持ち出した諸々の交渉材料、研究員の為の機材、
戦力として用意した最新鋭の機動兵器群、兵隊達の装備も含まれている。
荷物の量は膨大であり、協力組織が無ければこれらをもって地球へ行くなど夢のまた夢であったに違いない。
今、新SFESにとって一番重要なのはこれら協力者だ。
故に彼等への礼は決して疎かにしない。

「どうも御初に御目に掛かります。
 ニューラーズと申します。以後お見知りおきを。
 白海社長には大変お世話になっております。この程度で宜しければ喜んでご協力させて頂きます」

深々と頭を下げるニューラーズと対峙しているのは6人…
幼い少年を先頭に、其の直ぐ傍らに老執事、両脇に控えたメイドの少女が2人。
これだけならば良家の子息と其の使用人達と把握もし易いが、
更に其の後ろに野球のユニフォームを着た超チビな少年と、
列車の扉に挟まってジタバタもがいている超デブな少年が其の把握を台無しにしてしまうという、
実に得体の知れない6人組であった。

「助かりました。突然の便乗で本当に御迷惑をお掛けしますが…」

「いえいえ、困った時はお互い様…という事で良いではありませんか。
 この前の白海城炎上にせよ、先程の追っ手にせよ…駿三郎様の身には相当の危険が迫っている御様子…
 …兄君の駿二様は昨今、白海研究所や白海工業に入り浸っておられ…いや、要らない話でしたね。御無礼を御許し下さい」

幼い少年…白海駿三郎は火星の大企業・白海の御曹司であった。
彼の周囲でキナ臭い動きが起こったと思った矢先、いきなり列車への便乗を要請されたのだ。
そもそもこの列車・玄藩丞号は白海の所有物…白海社長との交渉の末、アテネへの運行を行なって貰ったのだ。
ならば其の白海社長の子供を助ける為、列車に便乗させるというのは吝かな話ではない。受け入れは即座に行なった。

「どうも、今回は随分とヤバかったらしいですね。
 ま、列車内なら俺達も警護につきますんで、まぁ安心して下さい」

「翠羽、客室まで案内して差し上げなさい」

「解った。こっちよ、付いて来なさい」
ニューラーズの命を受け、翠羽と呼ばれた少女が賓客達をVIP客室まで誘う。 
執筆者…is-lies

   キララ
   玄藩丞号・18号車1F 貨物室

 

「へえ〜、これがSFESの最新鋭機ですかぁ〜」

赤い髪を三つ編みにしたメイド少女は眼鏡の位置を直しつつ、貨物車両に格納されている無骨な鉄の塊を見上げている。
其のデザインを一言で言い表すならば…手足の生えた拳銃。
3m程の巨体に大きな両腕…下半身は四脚を備え、拳銃でいうところの銃口に相当する部位にはモノアイが設置されていた。
表面は白銀色の輝きに覆われ、何らかのレアメタルを使用しているものと推察出来る。

「はい。エインヘルヤルって呼ばれてます。
 流石にキララさんのような完全人間型じゃありませんが、多脚式は踏破性が高いんで。
 一応、こんなナリでも人間に扱える武器なら使用可能ですよ」

少女の傍らにいるのは、左耳にピアスを付けた黒髪の青年。
鉄の塊…SFES最新鋭機動歩兵エインヘルヤルの説明をしている。
このような機密を惜しげもなく晒すという事が、少女の身分を物語っていた。

「しっかし…こう見るとやっぱ小桃嬢も凄ぇもんですね。
 PA(パートナーアンドロイド)…でしたっけ?まるで『守護者』みたいに精巧だ」

「あう〜、改造とかしちゃダメですよ〜」

「俺ぁ本格入った技術屋じゃありませんぜ。
 単なる好奇心なんで、ま…勘弁してやって下さいキララさん」

キララは天才少女・細川小桃によって6ヶ月前に造られた。
未だ二十歳にも届かないような幼い少女が如何にして其れ程の力を得られたのかは定かではない。
大学は12の時に卒業しており、エーテル先駆三柱に加わるのも時間の問題と言われている。
人間型の機械については、嘗て八姉妹の一人オルトノアが造り上げたと言われる機動歩兵フルオーター…
其の機構を独自に解析して中華人民共和国が造り上げた先行者等があるものの、
キララの様に何処から見ても人間にしか見えない程のものは他に類を見ない。
否…幾つかの例外がある。
超古代火星文明の遺産である『守護者』達…そして大名古屋国のアンドロイド・リリィ。
だがこれらが所謂オーバーテクノロジーである事は疑う余地も無い話だ。
果たして細川小桃とは何者なのか…

「ふぅん…エインヘルヤルって表面はミスリルなんですね〜…随分と奮発しています。採算取れないんじゃないですか?」

世界は結晶到来によって大きく様相を変えた。
能力者の誕生、異形の誕生、鉱物にも大きな変化を与えて特殊な力を宿した鉱物が現れた。
このミスリルも其の一つであり、
羽毛の軽さ…超上位異形であるドラゴンの鱗の硬さを持ち…
最大の特徴としてエーテルを打ち消す性質によって結晶能力による攻撃を霧散させられる。
特殊な製法で繊維の様にする事も可能であり、其の汎用性の高さから酷く高価だ。

「ま、そうっすね。金はバカみたいに掛かるし、今ンとこ使い道は…売り飛ばすくらいかな?
 つーってもボスが許さないしなぁ…整備に金も掛かるだろうってのによぉ…
 ボスは六反田師団長と合流するまでの辛抱ってたけど、いつの話になるのやら」 
執筆者…is-lies

   玄藩丞号・10号車2F VIP用05客室

 

ヴァイスフリューゲルだと?…ふざけている!」

警察が結成した対能力者特殊部隊の話を聞いて顔を青褪めさせるジェールウォント・カディエンス。
彼等ヴァイスフリューゲルは能力者犯罪に率先して投入され、様々な特権を行使する事が出来るというが、
そんなものよりもジェールウォントが目を剥いたのはヴァイスフリューゲルを後援している組織である。
火星帝国…SeventhTrumpet………
そしてLWOS…
LWOS(エルウォウズ)…Living Weapon development Organizations
意訳して『生体兵器開発機構群』。
生体兵器開発の最大手といえる巨大組織であり、
ジェールウォントが未だに副所長籍を置きつつも裏切った組織でもある。

「この時期に結成され、LWOSが絡むとなると…確実にSFESの追跡に入るはず……」

彼は卑劣だった。
組織SFESの強大さを知って即座にLWOSの情報を流しSFESへと取り入った。
明らかな叛逆行為。其れでいてもLWOS副所長の席をも其のままに残し、場合によってはどちらにも付けるようにした。
其れを狡猾と見るか、中途半端な意気地無しと見るかは難しいところではあるが。

其れはジェールウォントにとって全く予期出来ない事…
SFES離反組によもや自分が組み込まれるなど完全な想定外。
ネークェリーハ同様、LWOSにパイプラインを持つジェールウォントもまた、
彼を交渉役として利用可能な人間と看做した離反組によってリゼルハンク本社から連れ出されていたのだ。
ジェールウォントには武道の心得があった。柔道黒帯に加え剣術も高いレベルで纏まっている。
だが能力者であると同時に軍人でもあるレギオン達に囲まれてしまっては、彼等に追従する他の選択肢などありはしない。
結果がこの有様。

「今、ヴァイスフリューゲルに動かれては……
 せめて…受け入れ先に身を隠せてさえいれば…」

LWOSに於けるジェールウォント・カディエンスの立場は活動資金の提供者。
類稀な商才を持ち、ジェールウォント財団や多数の企業を所有する彼を受け入れる事でLWOSが得られた恩恵は大きく、
其れ故に彼は、所長バルハトロスからも碌な信用を勝ち得ていないにも関わらず、LWOS副所長という高い地位を与えられていた。
そんな彼がリゼルハンク崩壊と同時に姿を消したとなれば…

「まずい…絶対に所長は私を怪しんで…
 いや、もう私を黒と判断しているに違いない…!」

詰まり、ヴァイスフリューゲルとはジェールウォントにとって、LWOSからの追っ手以外の何者でもない。
しかもLWOSから見限られた時の為、SFES内に用意しておいた玉座は、リゼルハンク本社と運命を共にし崩れ落ちた。
頼れるのはSFES離反組のみという絶望的な状況である。

「…待て、まだそうと決まった訳ではない。
 何とか土産を持って汚名返上すれば…いや、所長の事だ。容赦はしまい……
 どうする…どうする……!」 

そもそも何故、彼は斯様な裏切りに手を染めてしまったのか。
ジェールウォントは人生の成功者と言っても良いほど富には恵まれている。遊んで暮らす事も可能なのだ。
其れが何ゆえに…と問われたならば彼の傲慢さゆえにとしか言い様が無い。
彼には実力があり、富もあった。だが其れ以上の人間がこの世にはごまんと存在する。
其れが許せなかった。常人には理解出来ないだろうが彼にとってはこれが最も重要な事。
彼は自分が世界征服を成し遂げるに足る者であると信じている。だから自分以上の存在が許せない。
同好の士でもあるネークェリーハにしても対等以上の立場を許す気は無いのだ。
そんな彼だからこそ、ひたすらに力を求めるSFESを、LWOS以上に気に入ってしまったのであった。
よって力ある者に靡き、LWOSを裏切ったのは当然。

SFES離反組はジェールウォントがLWOSを裏切った経緯も知っている為、
やはり信頼を得られているとは到底言い難く、飽く迄道具としてしか見られていないだろう。
離反組の中に味方はいない。となれば…
ジェールウォントは窓際まで行くと携帯電話を取り出した。
執筆者…is-lies

   ナナシ・コール
   玄藩丞号・14号車1F 貨物室

 

中は高津の姿はなくなっていた。代わりに5mはあろうか
皿に鬼の様に盛られたおにぎりがあった。

「あーもう、このおにぎり具がはいってねーじゃねーか。
 具をいれろ具を、具をぐっと入れろ。最高じゃね?」

「死んでくれ。」

「いや今のそんなに寒くないだろ。」

出されたおにぎり3個を食べながら
ナナシはわりと余裕だった。

「いや本当に死んでほしいが確かに具がほしいな。
 つーかお前、握り飯は銀シャリだけで十分って言ってたじゃないか。」

「ほざきやがれ。具の無いおにぎりなど単なる飯だ。
 つか塩っ気もねーぞ。」

「まったく・・・
 こいつには危機感とか緊張感が存在しないのか・・・
 廃棄処分される身だっていうのに。」

皿に大盛りに盛られたおにぎりを掴み、食べながら
呆れた様子でMI-111はぼそりと呟いた。

「大体そのおにぎりは僕らの燃料だ。
 お前が空襲のような腹の虫の音立てなければ
 飯粒一粒もやらないところだ。」

「やれやれ、みみっちいこと言うねえ。
 山のようにあるんだから
 少しくらい分けてくれてもいいじゃない。」

「ふん、廃棄処分される奴らが食っても食わずとも
 同じじゃないか。」

じつはナナシ達が食べてるおにぎりはMI-111達の餌であった
ナナシが空腹のあまりとてつもない大音量の腹の虫を鳴らすものだから分けられたのだった。

「ふう・・・さっさと狼竜の核だけ取り出せば
 こんなアホともおさらばなんだがな・・・」

「おおかみ・・・りゅう・・・?」

聞き慣れない単語に一緒になっておにぎりを食べていた
小桃がか細い声で聞いた。

「ああ・・・我々には古代火星文明に存在した超獣の核が
 あるのですよ。無論JP−3にもね。」

「ちょう・・・じゅう・・・?」

「貴方も見たことがあるだろう。
 遺跡で発掘された巨大生物の事を。」

数十年前。
火星のとある遺跡で巨大生物が発掘された。
だが誰もが化石だと思っていたそれは生きていた。
永い眠りから覚めたそれは咆哮をあげ、人を食らい、
そして街を滅ぼした。

軍が駆けつけたころにはそれは再び化石となり
小さな結晶と化した。

それから似たような生物は各地で発掘されたが
どれもすぐに結晶と化してしまったという。

「その結晶は全てとある人物が回収して
 我々の核として使われているのです。
 いわばDキメラはそれら超獣の雛みたいなものなのです。
 まあ・・・色々と細工もされていますがね・・・」

「超獣・・・全ての生物の進化から外れた異形の生物
 火星の民はこれらを恐れ、奉り、そして戦った・・・
 その気性、荒ぶる自然の如し、その力、何者も粉砕する
 彼らを目覚めさせてはならぬ・・・
 静かに永久に眠らせるべし・・・」

小桃が口を開いた。
それは最初に超獣が見つかった遺跡に書かれていた物だった
しかしその遺跡は目覚めた超獣によって破壊しつくされ
跡形も無い物となっていた。

MI-111はしばし驚いたように目を見開いていた。 

「…小桃嬢は魔法技術だけでなく超古代火星文明の事も良く御存知らしい。素直に感服する」

彼らを他所に、納得いかないとばかりにナナシは顔を顰めている。
「………超獣…狼竜……俺の核…実感ねぇよなぁ…
 そんな凄そうな奴等が関わってるんなら、こんな檻なんざすぐにブチ壊せるようにしとけっての」

「無駄だ。所詮は雛…しかも人間の扱う兵器として調整されているんだ。
 人間がコントロール出来るよう出来ているに決まっているだろう?
 其のアダマンチウム製の檻を物理的な力で破壊する事は不可能だ」
自信たっぷりに言ったものである。
だがそう言った直後、MI-111はぼそりと呟いてみせた。
「尤も…コントロールする側の人間に問題があった場合はどうしようもないがな…
 ……ハーティス博士との連絡が付けていれば、此処の戦力だって……」

ハーティス…ナナシにも研究所時代に聞き覚えのある名前だ。
非常に優れた才覚を持ち、
SFESより与えられた研究所で独自のD-キメラを造り育てていたという。
だが其れ故に組織Lvに管理を徹底させる事が出来ず、
作り上げたD-キメラの一体が脱走を果たしてしまったというのは割かし知られた話であり、
MI-111は其の事を引き合いに出しているのであろう。

《皆サーん、お食事の時間デスよー!11号車に集マって下サーイ!》
変なイントネーションの車内放送が流れる。
思い出したかのようにMI-111が腹に手を当て、残り2体の同胞キメラ達へと向き直る。
「JK-112に燃料をくれてやってしまったからな…
 僕達も行くとしよう。エネルギー補給が万全ではない。
 さあ小桃嬢、付いて来て下さい」

恭しく差し伸べられたMI-111の手を取り、ふとナナシの方を振り向く小桃。
「………貴方が狼竜…」
すぐに視線を元に戻し、3体のD-キメラと共に貨物室から出てゆくのだった。
執筆者…R.S様、is-lies

   玄藩丞号・10〜11号車 食堂

 

大き目のシャンゼリアに燈る蝋燭の灯が食堂車輌の中を暖かく照らす。
およそ列車の中であるとは到底思えないような広々とした空間には幾つものテーブルがあり、
其処に今現在、玄藩丞号のVIP達である組織SFESの面々が揃って着席していた。

食堂車輌に用意されていたテーブルの殆どを占拠しているのはローズル指揮下の戦闘部隊だ。
SFES離反に加わったレギオン部隊員の内、
指揮能力・戦闘技能が総合的に優れていると判断されたローズルが離反組の全戦闘部隊を纏める事となっていた。
SFES最強の戦士であるSS(セイフォートシリーズ)といった者達も戦闘能力では人間を遥かに凌駕しているのだが、
やはり隊全体を纏める指揮官としては能力不足を否めなかった。
総勢138名。上空の戦闘ヘリ群や車内にいる、細川や白海より派遣された護衛隊を含めれば200名にも達するだろうか。
食堂車輌はただでさえ巨大な車輌を2つも用いた広大なものとなっており、
2階は10号車の後ろ半分、11号車の前半分が吹き抜けとなって1階にあるステージを見下ろせる造りをしていた。
この車輌が単に食べるだけの場所ではなく、様々な催し物の為にも使われていたであろう事を思わせる。
場の様相は宴会といった感じであり、離反組がどれだけ今回の白海との交渉を重要視していたかが見て取れるものである。

 

「お姉様、お見えになられましたわ」

「あらん…おじさま、随分と遅かったけれど…」

食堂車輌へとやって来たジェールウォントを出迎えたローズルが艶やかに微笑んでみせる。
疚しいところのあるジェールウォントには其れがまるで何もかもお見通しだと言っているように見えて仕方が無かった。
実際は誰に対してもローズルはこんな感じなのだが、そんな事は付き合いの浅いジェールウォントに解る筈がない。

「…何でもない。其れより私は何処に座れば良い?」

「向こうの席は賓客が座るみたいだし…あっちかしら。ネークェリーハ元総裁のお隣」

「そうか。だが…賓客だと?小桃嬢以外にそんな話は聞いていないが、誰がいつ乗ったんだ?」

「さぁ、其の辺りはちゃんと説明があるでしょう。
 そうでないと…血の気の多い子が侵入者と間違えて殺しに掛かっちゃうかも知れないし」

違いない…と、ローズルと一緒に席に座っている3人が笑う。
ローズルの副官的立場にあるエミリア、ドレスの上に軍服を羽織ったランポイント、
そして同様にタキシードの上に軍服を羽織った黒髪の女。
ジェールウォントも、ネークェリーハと共にSFES本部たるリゼルハンク本社ビル入りした際、
警備に当たっていたレギオン達から疑わしげな視線を受けていた事を思い出し、
有り得る話だなと薄ら寒そうにしながら足早にネークェリーハの座っている席へと急ぐ。

 

「どうもどうもジェールウォント殿。ささ、どうぞ此方へ」

ネークェリーハがジェールウォントに気付き、呼び声を上げつつ手招きをする。
恐らく、この列車の中でジェールウォントが唯一信用出来る人間といっても過言では無いだろう。

「おお、これは忝い。併し…何故ネークェリーハ殿の隣が空いているのですか?
 …そういえばペンギン太郎殿の姿が見えないようですが?」

ペンギン太郎の事はSSでもあり…まぁ其れ抜きにしても非常に印象に残る手合い故、ジェールウォントもすぐ彼がいない事に気付く。

「あー、あいつは私の隣の席でしたねぇ。
 どうしたんでしょうねぇ〜?食欲がないんじゃないでしょうかねぇ〜?
 ま、来ない奴は放っておきましょう!」

自分でバラしたクセにいけしゃあしゃあと言ってのけるネークェリーハ。
そんな彼の真正面に座った、黒い革ジャンを肌蹴て着ている女がガン飛ばしつつドスの聞いた声を出す。

「おいクソ兄貴。ンな調子こいてて、もしペンギンが戻ってきたらどーする気なんだよ?」
「ふん、ノしてやれば済む事です」
「ばーか、ペンギンはSSだろーがよ。テメーがどうにか出来るもんか。
 Mrマリックにゃ別の席に行って貰えよ」
「うるさい。ああ、ジェールウォント殿、済みませんな一々煩い奴でして」

Mrマリックとか言われてちょっちショックを受けるジェールウォント。
ネークェリーハ・ネルガルの妹でもあるシュヴァンリー・ネルガルは、首から吊るしたジッポライターでタバコに火を付け、
副流煙を撒き散らしつつ其の後も過激な発言を続けるのであった。
尚、彼女の隣に座っている褐色肌の少年は周囲の喧騒など知らぬ存ぜぬで外の景色を愉しんでいる。

 

「お、来ましたかい小桃嬢」
「もうそろそろでニューラーズ様からのお話がありますよ〜」

細川・小桃は、自作のパードナーアンドロイド・キララの姿を見付け、其の席へと着く。
同席しているのは、先程キララに車内の案内をしていたピアス男、そして赤い水兵服を着た男だ。

「……Dキメラ…見ていました。JK-112に狼竜…超獣の魂…有意義な時間でした」

「ふぅん、そうですかい。
 俺はあんま好きじゃねぇですけどね、キメラだろーが何だろーがガキを檻に入れるなんざ。
 …聞いた話じゃ廃棄処分とかも検討されているそうじゃねぇですか。気に入らねぇ」
「ふっ、相変わらず子供には甘い事だ」

不愉快そうに吐き捨てるピアス男を、小桃はじっと眺めて…こう言った。
「…シルシュレイさん……後で、少しお話があります」

 

「ルクレツィア…RV-113は私と無関係ともいえない存在だ。
 …独り占めにするのは些か公平性に欠けるとは思わないか?」

高津紳輔と相対しているのは、研究者と思しき若い女。
其の間には険悪な火花が飛び散っており、彼等の隣に座っている2人は一様に萎縮していた。

「そっちにはJK-112とJP-3を寄越したでしょう。其れで我慢出来ないなんて欲張りね」

「ルクレツィア、おおルクレツィアよ……
 ………ふざけろ?あんな並以下の連中でどうやって我慢しろと?
 其れに私が言っているのは飽く迄…父親として…だ」

「父親?言うに事欠いて父親と?
 ナナミを殺すような男が父親だなんて其れこそふざけているわ」

「何の事だ?約束通り私は一切手を出してはいないではないか」
高津は『私は』という部分を強調して言う。

「ぬけぬけとっ!」

テーブルに置いてある冷水入りコップをブチまけそうな剣幕で叫ぶルクレツィア。益々縮こまる部外者な2人。
そんな空気を打ち破ったのは…1階ステージのマイクを手に取ったニューラーズの声だった。

《…ニューラーズです。
 遂に我々SFESは白海カンパニーの協力も得られる事が出来ました。
 これで安全且つ迅速にデリング大統領が指定した庇護下の地へと向かえるでしょう、お疲れ様でした。
 この件につきましては細川財団からも多大なる支援を頂きました。取り成して下さった細川小桃嬢に感謝の意を表します。
 さて、既に御存知の方もいるとは思いますが、この旅路に白海カンパニーの皆さんが加わる事となりました。
 御紹介致しましょう》

翠羽、常盤といった護衛に守られつつ、ステージ上に上がって来たのは6人の…1人の老紳士を除けば若い少年少女達だけの集団
先にニューラーズが20号車で対面した一行に他ならない。彼らの簡単なプロフィールが読み上げられていく。

「あれは…白海の御曹司の…弟の方か」
「白海駿三郎ですね。そしてあの老紳士は元A級プロのジョージ・玖玲…
 やはり白海で働いていたという話は本当だったか」

《さぁ、まずは無事に出発できた事を祝おうではありませんか。
 これが我々の歴史に於いて貴重かつ革新的な一歩となる事を祈って…乾杯!》

本当は革新どころかマンマ立ち上げられたばかりの組織なのだが、
白海カンパニーや細川財団から派遣された人間もいる手前、自分達こそが存続しているSFESであるかの如く振舞う。
斯くして宴が始まった。
執筆者…is-lies

 

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