リレー小説4
<Rel4.アメリカ合衆国2>

 

   アメリカ合衆国、ワシントンDC、ホワイトハウス

 

 

「プレジデント、おめでとう御座います。
 此度のニューファンドランド・ラブラドール州買収で我がステイツの州は59となりました。
 また国旗を書き直さねばなりませんね」

「ん…ああ」

国務長官ナイト・パウエルの報告に、アメリカ合衆国大統領ビンザー・デリングは、
手にしたコミックと、執務室に備えられた大型モニターとを両方同時に見ながら気のない返事をする。
北の大国ブリタニア・カナダは今やアメリカに国土を切り売りして糧を得ている状態にあった。
第三次世界大戦でのイギリス滅亡により、
英連邦王国の一国たるカナダも統制を乱し、結果イギリスの二の舞いと化した。
大戦末期、米国が保護した英国王族がカナダを再興すべくブリタニア・カナダを立ち上げはしたものの、
成果は芳しくなく国民生活は悪化の一途を辿り、王族への求心力も地の底へと落ちた。
国民は一刻も早い生活水準の向上を求めるあまり盲目となり、嘗てから米国が囁いていた話に縋ってしまう。
其れはブリタニア・カナダの併合。
馬鹿げた話ではあるが、切羽詰ったブリタニア・カナダ国民にとっては一考に価するものであった。

「シュナイダー皇帝でも最早どうしようもありませんね。
 CBCを始めブリタニア・カナダのメディアは我がステイツが押さえております。
 世論など如何様にでも作り上げられます」

くすくす笑いながら国防長官ラムザフェルドが言う。
其れなりに大国であった隣国の酷い荒廃は、政情を不安にさせる。
零落れたとはいえブリタニア・カナダの技術水準は高く、
形振り構わなくなってしまうとアメリカ合衆国にとって面白い事にはならない…
…そう言ってアメリカ合衆国はブリタニア・カナダへの関税優遇協定を元に、
最恵国税率、協定税率、特恵税率を実施、貿易相手をアメリカ一点に絞らせた。
そして彼らの併合が始まる。

「カナダは第三次世界大戦でとっくに滅んでいる。
 其の骸を我々がどう切り分けようが文句を言う奴はおらんよ」

冷酷に言い放つのは中央情報局(CIA)長官ランドルフである。
慢性的な財政難に陥ったブリタニア・カナダが、
ユーコン、ノースウェスト、ヌナブトの3準州を合衆国に売却したのがそもそもの始まり。
次は沿岸警備の手間を省く為としてブリティッシュコロンビア州を、
其の次はテキサス州と社会価値観や経済基盤の似通ったアルバータ州、
どうせ貿易国はアメリカのみだし、
昔から衰退傾向にあった漁業は切り捨てようと、大西洋側の州も軒並み売却…
こうしてブリタニア・カナダは米国に導かれるがまま緩やかに併合を受け入れていった。
ブリタニア・カナダの初代皇帝…詰まり先代がアメリカの傀儡であった事を知る事もなく。

「併しアルバータ州まで、こうも易々と手に入れられたのは意外でしたね。
 リスタコス工業の充実は今のステイツにとって非常に有益です。
 OLEC(リスタコス結晶液輸出国機構)依存脱却の足掛かりにもなりましょう」

「外堀は埋め終えました。
 御命令とあらば本丸のオンタリオ州を…」

ランドルフ長官が慇懃に礼をしながら尋ねるものの…

「其れより…どうだね諸君?
 これどう思う?」

折角の朗報を膠も無くあしらい、ビンザー・デリング大統領が大型モニターを指差す。
ナイト・パウエル国務長官には其れがぱっと見、戦争ものの日本アニメに見えた。

「これは……ジャパニメーション…ですか?」

「うむ。
 ウィッチが出ると小耳に挟んで取り寄せさせたんだが…
 どうよ?

「…えぇと…其の……ズボンはいてませんね……

ランドルフ長官の率直な指摘に、ライス大統領補佐官が突っ込みを入れる。

「違うでしょ?何処を見ているの。
 これの何処が魔女よ?」

ライスの言う様、何も知らない者がこのアニメを見たところで、ミリタリーものにしか見えないだろう。
てか其れ以前にパンツ丸見えだし。
「魔方陣や其れっぽい描写はあるが…流石にこれのみで魔女とは分類………」

「いいよね、これ。おぱんつ」

「………ジーザスクライスト……」

一同はアメリカ合衆国大統領ビンザー・デリングに心底、畏怖の念を覚えて恐れ戦く。
「我がステイツにもこういったものが欲しいな。
 ラムザフェルド君、手配してくれ給え」
「……其れはまたの機会に……
 其れよりプレジデント、火星の件…本当に宜しいのですか?」
リモコンでモニターを切り替えるラムザフェルド国防長官。
映像は火星イオルコスの未開発領域…超巨大なドームS-TAの大結界へと変わる。
「ああ、どうせ此方はSeventhTrumpet待ちだよ。
 面白いじゃないか。
 彼らがどれだけこの世界を振り回せるのか、篤と拝見させて貰おうじゃないか」
執筆者…is-lies
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