リレー小説3
<Rel3.ゼロ1>

 

  火星内某所

 

「…」 
一人の男が、木の上で何かを見つめている。
その肩には、黒い小竜が蹲って寝ていた。
「ねぇ、ゼロ?」 
不意に、その小竜が半眼を開け、男を呼ぶ。
「ん…なんですか?グレイ
ゼロ…小竜にそう呼ばれた男は、視線を全く動かさず、その呼びかけに答えた。
「ヒマだね。」 
その紅い翼を伸ばし、あくびをしながら、グレイが言った。
「そうですね…あの101便の事件が特に面白かったですからね。
 あれと比べるとどれも見劣りしてしまいますね。」 
髪をかきあげながら、尚も視線を動かさず言う。
「さっきから何見てるの?」 
グレイが頭を起こしてゼロの視線の先を探るが、特に何もないようだった。 
「あれですよ。」 
さらによく見てみると、一本の木で、2匹のカブトムシが争っていた。
「…楽しい?」 
呆れた。という様子でゼロのほうへ視線を戻すグレイ。 
「戦略も戦術もない、本能のみの戦いというのもなかなかですよ。」 
冗談っぽく、微笑みながら言うゼロ。 
「…趣味変わったね。」 
「そうですか?」 
可笑しそうに、微笑みながら呟いた。
「…?」 
何かに気がついた風に、突然、視線を離れた場所にある高い木の上部に向けるゼロ。 
「どうかした?」 
つられてその木を見るグレイ。 
「…誰か、こちらを見てたような気配がしたのですが…
 消えましたね。どうやら去ったようです。茂みが揺れる音がしましたから。」 
「…どういう耳してんのさ。」 
大分離れた所にあるその木と、ゼロの顔を交互に見、驚いた様子もなく、言った。
「さて…と。もうすぐ日も暮れることですし、
 いつまでもこんな所に居るわけにはいかないですね。」
「街に戻るの?」
「そうですね、次の街まではまだ結構あるみたいですし。」
そう言って木から跳び降りるゼロ。 
「…。」 
一瞬、視線を先ほどの高い木のほうへ流したが、グレイは気がつかなかったようだ。

 

(まさかあの距離で…見ていただけで気がつくとはな…。
  情報以上に手強いようだな。正攻法でいっても勝機はないか…)
執筆者…you様

「なかなかいい街ですよね。」 
「そうだね。」
二人街をふらふらと歩いていた。特になにをするわけでもなく、街の様子を見ているだけだ。 
そんな中…ゼロは気がついていた。
先ほどから、誰かがついて…否、誰かに監視されていることを… 

 

辺りはもうかなり暗くなっている。そんな中、ゼロは街外れを歩いていた。 
「ね、どこまで行くのさ。もう街から大分離れちゃったよ。」
「そろそろいいでしょう。」 
そう言うと、ゼロはその場に止まり、自分の背後に視線を向けた。 
「さあ、わざわざここまで誘い出されてあげたのですから、
 そろそろいいんじゃないですか?」 
少しの間があってから、黒服に白い上着を着た黒髪の男が姿を現した。 
「わざわざどうも。」
「さて…お聞きしてもいいですか?」 
「…なんだ?」
「依頼主は誰ですか?」 
「…!?
 なるほど、もう俺が何者で、何を目的としてるかわかってるわけだ。」
「…。」 
グレイは先ほどから、この男を睨みつづけている。
ゼロとは違い、本能的にこの男を敵だと感じているのだろう。
「教えることはできないな。当然だろう?」 
「そうです…よね。」 
「なんにしても、目的がわかってるなら話は早い。」 
そう言うと、懐からスイッチのようなものを取り出した。
「グレイ、空間移動術を使って、街に戻っていてください。」 
グレイにしか聞こえないように、小声で呟くゼロ。 
「なんで?」 
「いいですから、急いで。」 
「…。」 
その言葉で、グレイはゼロの肩から消えた。
「何をコソコソ喋っているんだ?それに、お前の相棒はどうした?」 
「関係ないでしょう?」 
「まあ…な。」 
その言葉と同時に、スイッチを押す男。
その瞬間、四方に赤い光が見えた。
「反魔力(アンチマジック)フィールド…ですよね?」 
「その通り、この中で魔法を使おうとしても、発動した魔力は全て結晶によって吸収される。
 つまり、魔法はもちろん、ご自慢の空間移動術も使えないな。」 
「へぇ…空間移動術の原理をご存知ですか、依頼主の想像がついてきましたね。」 
「それは意味のないことさ。…お前は、ここで死ぬのだから。」 
そう言って、腰の刀を抜く男。
「その首、貰い候…!!」 
刹那、二人の間合いは一気に縮まり、男の刀がゼロの首を狙う― 
だが、其の刃がゼロの首を切り落とす事は無かった。 
ゼロは大きく仰け反り、横薙ぎの一撃を避け、 
其れによって態とバランスを崩し、勢い余った男の懐に滑り込むようにして潜り込む。 
男が気付いた時にはもう遅い。 
転ぶ形で宙に浮いたゼロは両手で勢い良く地面に突っ張りをかまし、、 
其の反動と男の速度を利用し強烈な蹴りを男の腹に叩き込む。
ぐがっ!?
だが、敵も咄嗟に腹筋に力を込め、ダメージを半減していた。 
痛みも構わずに直ぐ距離を取る男。どうやら相当の手練れの様だ。
執筆者…you様、is-lies
「っ…油断した………
 魔力を封じられても余裕といった所か?」 
「私をただの魔術士だと思っているのなら、認識を改めるべきですね。」 
涼しい顔で言い放つゼロ。
「そうみたいだな。」 
苦笑し、刀を鞘に戻す男。
「…?」 
「魔法を封じればこれを使う必要はないと高をくくっていたんだがな…
 そうも言ってられんか。」 
ゼロのほうを睨み、刀に手をかけた。
「!?」 
刹那、ゼロの頬に切傷が現れた。 
「へ…ぇ、居合ですか。」 
その傷に手を当て、驚いたように呟く。
「速いですね、私でも反応が遅れましたよ。」 
「次は、当てる。」 
「…ですが、やはり私を見くびっているようですね。
 今の一撃で当てていれば、あるいは倒せたかもしれません。」 
次の瞬間、ゼロは今まで立っていた場所から消え、
ほぼ同時に地面がえぐれた…いや、斬れた。といったほうが正しいか。
「…『無音』をかわした…!?」 
「言ったでしょう。『見くびり過ぎだ』と。」 
「ちっ…!」 
「もう一度聞きます。あなたの依頼主は誰ですか?」 
「言ったろう、秘密だと…っ!!
ヒュンッ!
その言葉を言い終わるか終わらないかのうちに、
再び男は抜刀するも、虚空を薙いだ。そして、男は、吹っ飛ばされた。 
「…!?…!?」 
男はなにがおこったかわからないという様子で起き上がる。
そして、左肩に激痛が走っているのに気がつく。
「居合の弱点、それは抜いた直後、自分の利き手と逆側に回り込まれると反応ができない事。
 抜刀速度が幾ら速くても、それは同じことです。」 
「く…」 
「さて、どうやら依頼主の情報も教えてくださらないようですし。」
「待ちな…俺はまだ戦える…!」 
「…。」 
仕方ない。という表情を見せ、左の手のひらを上に向けるゼロ。
「…なにをする気だ?」 
「…」 
何か呟くと、手のひらに一瞬光りが溢れ、
しかし次の瞬間、それは四方の結晶へと吸い寄せられ、消える。
「無駄だ。」
それをひたすらに続けるゼロ、男は、わけがわからない。という顔でその光景を見つめる。 
そして、しばらくすると… 
ピキ…カシャァァンッ!! 
「なんだ!?」 
音のしたほうを見ると、結晶が崩壊していた。
「な…!?」 
「私は、始めからこうすることもできたんですよ。」 
そう言うと、男に背を向け、街のほうへ歩き始める。
「…そうだ、あなたのお名前は?」 
ふと足を止め、顔を男のほうへ向け、言った。 
「…常盤貞宗だ。」 
「今度は、こいう形以外で会いたいですね。」 
そう言うと、ゼロは再び歩き出した。
「…完敗…か。」 
暗闇に消えていくゼロを見ながら、貞宗が呟いた。

 

 

  火星内某所
「どうなった?っていうか、あれ誰?」 
「『常盤 貞宗』さんらしいですよ。
 依頼主のことを聞いたのですが、教えてくれませんでしから、少々からかって帰ってきました。」 
グレイに向かって楽しそうに、いつものようにゼロは微笑んで言った。
「…やっぱり趣味変わったよ。」 
「そう思いますか?」 
フッ、と軽く笑って、夜空を見上げる。そこには、満天の星が瞬いていた。
執筆者…is-lies、you様
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