リレー小説3
<Rel3.ユーキン1>
「御頭ぁ…大丈夫なんですかホントに?」
バンガスが彼本来の気弱な声を出すのも仕方が無い。 今、ユーキン、バンガス、おトメさんの3名は、 アテネスラムの中でも最も治安の悪いと噂の危険区域に来ているのだから。 しかも路地裏である。 壁にある落書きや血痕が、嫌でも不安を掻き立てる。
「た…確かな情報なんだゾ! …あ…安心して付いて来ーいッ!」
そういうユーキンも声がガタガタ震えている。 数時間前、酒場での聞き込みを続けていると、 1人の男がガウィーに会わせてやると言って、 この荒廃した路地裏を待ち合わせ場所として指定して来た訳だ。 金が無いとユーキンが言っても、ガウィーを確認してからで良いと返されたので、 それならばとやって来たのだが…ユーキンはもう少し考えるべきだった。 そんな美味しい話がある訳ないと。
「来てくれたかい」
指定場所は少し開けた広場の様になっていた。 其処で待っていた男が1人、ユーキン達を呼び出した張本人である。
「で、ガウィーは何処に……」
「後ろ後ろ!」
言い掛けたユーキンを遮って、男がユーキン達の背後を指差す。 何だと思い、バンガス達が振り向いてみると…
「な…んんじゃこりゃぁああああ!?!?」
ユーキン達が来た道は、鎧で武装した男達で封鎖されていた。 どういう事かと思って、先の男の方に眼をやると、 ついさっきまで1人だった男の隣にも、武装集団が佇んでいる。
「うひゃひゃ!ダマされてんの!ダマされてんの!」
馬鹿笑いする男や、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる武装集団。 一瞬、金目当てのチンピラかとも思ったが、 この武装集団…ザコではなさそうだ。隙が無い。
集団を割って出て来たのはリーダー格の男… 白い顎鬚を蓄えた筋肉質の男である。 両肩には鈍い金色のショルダーアーマーを付けているが、 何よりも異様なのは、持っている赤黒い槍だろう。優に2メートル以上はある。 そんなものを平然と持っているこの男も只者ではない。
「お…お前等……誰なんだ…」
「アンタにンな事聞く権利ぁ無いな。 質問するのは俺等だ。 『八姉妹の結晶』は何処に行ったよ?」
ユーキンの質問に質問で以って… しかも全く予想外の名まで出して返す槍男。
第3次世界大戦で地球の環境が急激に悪化… これを治す為に殉じた8人の英雄的女性『八姉妹』。 この八姉妹に通じる最高位の大結晶こそが、 顎鬚男の言う『八姉妹の結晶』であった。
「は…八姉妹!?」
「とぼけても無駄だぞ。 大名古屋国に八姉妹の結晶の1つ… 『ワイズマンエメラルド』があった事は、とっくの昔に掴んでるんだ。 そしてお前等が大名古屋国のアマノトリフネ… ワイズマンエメラルドのある司令室に乱入した事もな」
そう。ユーキン達は第4次世界大戦の最中、 大名古屋国に侵入、同国の支配者『本田宗太郎』を倒した。 実際にワイズマンエメラルドも見ている。 だが、何故か…ワイズマンエメラルドが何処に行ったかは思い出せない。 まるで其処だけ穴が開いた様に記憶がとんでいるのだ。 思い出す暇も与えず、次々と武器を構える武装集団。
「早く答えた方が身の為だぞ?」
「そ、それが、覚えてないんだ…其処だけ思い出せな…」 「ああっ!?何だとぉ?!」
一部の男達がユーキンの言葉を遮り、三人に詰め寄ろうとする。 其れに対して三人も臨戦体勢を取る。 そして男達がユーキン達に飛びかかろうとする。 戦闘はもう避けられない、そう思い、眼を瞑った次の瞬間、 その男達は2、3m程吹っ飛んでいた。 よく見ると先程のリーダー格の男の男の手から何やら黒いオーラのようなものが出ていた。
「何しやがるんだぁ!!「ヴァルク」ッ!!」
吹っ飛んだ男の一人が叫ぶ。
「それはこっちの台詞だぁっ!! テメエ等、まだ殆ど話しを聞いてねえのに襲ってんじゃねえ!!」
ヴァルクと呼ばれた男が、凄まじい見幕で男達を睨み叫ぶ。 その迫力に男達は黙り込んでしまった。
「悪ぃな…ちょーっとあいつ等は気が短くてな。 …だが、あまり答がフザケてると…容赦しねえぜ?さて、質問に答えて貰おう。」
「ふ…フザけてなんかいないぞッ! 本当の事言ってるだけなんだからなー!」
まるで信用してくれない得体の知れぬ相手に、 流石にムカついたのか、語気を荒げるユーキン。 無謀だと言いたげにバンガスが止めようとするが、暴走したユーキンは止まらない。
「大体、何だヨ、お前等! 人を呼び出しといて其の態度わぁ! 茶菓子の1つでも出してみろぉ!!」
叫ぶユーキンに青褪め、おトメさんを庇う様に手を遣るバンガス。 一方、謎の集団のリーダー・ヴァルクは、 やれやれといった顔付きでユーキンを眺めている。
おかしい
ユーキンも一応は大名古屋国大戦の英雄の一角。 其れを知っていながらも、 この男達は何故こう余裕があるのだろうか……
「何だ其の付き合ってられんとか言いたそうな表情わぁ! やるか?やるか!?やってやるゾー!!」
キレたユーキンが片腕でボウガンを構え、 ヴァルクの肩に向かって、問答無用で矢を放つ。 だが……
信じられなかった。 ヴァルクは片手の人差し指と中指とで矢を挟み、 肩に当たる寸前で止めてしまったのだ。 絶句するユーキン&バンガス。 何故、ユーキン達英雄を怖がらなかったか… 其の理由は簡単だったのだ。 このヴァルクという男が英雄よりも強かった。其れだけだ。
「馬鹿な奴等だな… この程度の力で俺に喧嘩売るたぁ……よっ!」
言い終えるよりも早く、 ヴァルクが信じられない速さで動き、 ユーキンの右側へと向かうと、其の長槍を振り下ろす。 慌ててユーキンは右腕で防御しようとするが、 そう。彼に右腕は無かったのだ。 以前に起きたSFESとの戦闘で無くしていた。
死ぬ
ユーキンが思った其の時……
本来の九尾の狐へと姿を戻したおトメさんが、 突き出されたヴァルクの剛槍へと横から突進して、 其の矛先をユーキンから壁へと逸らす。 壁は槍の一撃で木っ端微塵に粉砕された。
間違いない。このヴァルクという男、 人の姿をしているが人ではない。 槍撃の一突きでコンクリートの壁を粉砕するなど、 どう考えても人間の業ではない。 航宙機内で戦ったSFESのバケモノ以上の脅威… 其れをユーキン達はひしひしと感じていた。
「ほぉ?獣人か…いけないなぁ… 獣人はちゃんと死ぬまで働かねぇと。 併し、これが大戦の勇者様とはねぇ…… 本田宗太郎ってのも実は大した事ないんじゃないのか?」
槍を引きながらヴァルクが馬鹿にした様に言う。 彼の率いていた武装集団もゲラゲラと腹を抱えて笑い出した。 だが、笑っていたヴァルクの眼が、 ふと破壊した壁の向こう側に向けられると同時に、 彼の表情が一気に凍り付いた。
「……な…何で…『アンタ』が此処に……!?」 まるで喉から搾り出した様に呟くヴァルク。
一瞬、何の事か解らなかったユーキン達だが、 すぐ、壁に出来た大穴から何者かが覗いていた事に気付く。 そして……バンガスも口をあんぐりとさせた。
がっしりとした体付きの…銀髪の青年だった。 黒いロングコート、黒い帽子という出で立ちである。 彼は壊れた壁から、敵意も何も放たず、 じっとヴァルクとユーキンを眺めているだけだった。
「本田宗太郎は大した男ではない…か……確かにそうだな。 併しヴァルカレスタ…お前も其の轍を踏もうとしているのだがな」
青年が感情を感じさせずに呟く。
其の声にヴァルクことヴァルカレスタは、 忌々しそうに青年を睨み……
「………撤収だ!」
叫んで踵を返し、あっという間に部下と共に去った。
呆然としたユーキンが、青年の方に眼をやると、 其処には既に青年の姿は無く、 飛び散った瓦礫が転がっているだけだった。
「な…何だぁ…今の連中………」
場に取り残されたユーキンが誰にとも無く呟く。
「さ……さぁ……で…でも御頭… さっきの…壁から見てた方……あれは……」
随分と怯えた様に話すバンガス。 だが、ユーキンには何の事だか解らない。
「おかしら、バンガスさん、ようすへんです」
おトメさんが心配げにバンガスに近付く。
やがて落ち着いたバンガスは深呼吸しながら言った。
「あの…壊れた壁から…見てた人…… ……あ……あれ……『TAKE』です……」
執筆者…is-lies、鋭殻様