リレー小説3
<Rel3.ヴァンフレム1>

 

 

「久しぶりです。ヴァンフレムさん」 
髭面の怪しい和服男が、リゼルハンク副社長ヴァンフレム・ミクス・セージムと秘書フランソワの後ろに立った。
「…誰だ?」 
「僕、今変装してます」 
男は軽快な口調で答える。
「そんなもの声かけられた時点でわかっとる」 
「さすが。なら『隠者の亡霊』と言えば?」 
その言葉に、フランソワが再びその男に視線を向けた。
「一ヶ月ぶりです。ヴァンフレムさん。フランソワさん。… 
 クリル君、生きてます?」 
そこにいたのは、髭面の和服男などではなく、
黒いスーツの上に黒いコートの、青眼の青年だった。
「…相変わらず神出鬼没な事だ、『ハーミットファントム』
ヴァンフレムがため息を吐いた。
「長いので『H・F』で呼んでください」 
「聞いとらん。何の目的でこのパーティーに潜り込んだ?」 
「知って頂きたい情報が二つあります」
─ハーミットファントム。 
国籍不明。 
年齢不詳。 
能力不明。 
分かっていることは、男であり、能力者であること。 
その男が、SFESに情報を与えていることなど誰も知らない。 
それどころか、名前を聞いてもその名を知ってる人間はほとんど存在しないだろう。 
そんなまさに存在すらしないような男が、このパーティーに密かに紛れ込んでいるのだ。
H・Fが、口を開いた。
「八姉妹の結晶と思われる一つ、『サクリファイス』です。
 在り処を発見しました」
「何?」
「個人が所有していました。
 しかも、その人物はサクリファイスの持つ能力も完全に知っているようです」
「で、それは誰だ?」 
「それが二つ目の情報です。
 所持しているのは『闇』と名乗る少女。本名はリライ=ヴァル=ガイリス。
 八姉妹の一人「オルトノア」の妹です」
「……」
「彼女は人の願いをかなえる能力を持っています。
 さらに空間転移…テレポートみたいなものも使えるうえに、
 彼女に危害は与えられません。『否定空間』という能力だそうです」 
一体この男、どこからそんな情報を持ってきたのだろうか。
「それと警告が二つあります。これはかなり重要です。 
 『闇』は自分が気に入った相手を狂気に染める≠ニいう趣味みたいなものがあります。
 …狙われてますよ、サリシェラさん」
しばしの沈黙。 
ヴァンフレムが、口を開いた。
「…何が言いたい?」
「いえ、別に。あと一つは、『闇』に気をつけて下さい。彼女は危険です。…以上です」
立ち去ろうとするH・Fに、ヴァンフレムが問い掛けた。 
「貴様は…何を望む?」
「彼女…『闇』です。」 
異様な雰囲気がH・Fから現れたような気がしたが、それは一瞬にして消えていた。 
「クリル君やアズィム君にもよろしく言っておいてください♪あと、本田ミナさんにも…あれ?」 
H・Fが先ほど本田ミナがいた場所に目を向けると、彼女はもうすでにいなかった。 
「…まぁいいか。それじゃあ僕はこれで。また何か情報があったら来ます」
H・Fの姿が見えなくなったあと、ヴァンフレムは密かに呟いた。 
「…暇人だな。まったく、何を考えているんだ…?」
執筆者…夜空屋様
そう呟いた時だった。 
ネークェリーハ達と共に酒を飲んでいたデリング大統領が、 
ヴァンフレムの前へと姿を現したのは。 
「ヴァンフレム殿、聞きましたぞ? 
 ……サクリファイス…新たな八姉妹の結晶候補ですかな?
 それにオルトノア女史の妹君とか?」
八姉妹の結晶は名前通り8つの結晶があり、其々… 
ワイズマン・エメラルド 
カオス・エンテュメーシス 
《LostGoddes》 
セラフィック・ラヴァー 
ワン・オブ・ミリオン 
シークレット・ウィズダム 
ファンタスティック・マイティ・ハート 
イルフィーダ・トリスメギストス。 
…となっており、 
内、正体不明の結晶…便宜名《LostGoddes》に当て嵌まる可能性があるものとして、 
碧きイノセント 
カルネージ・デモン・ブラッド 
レイナ・デ・ラ・ディアマンテ 
…が挙げられる。 
最近になってから妙に八姉妹の結晶の情報が流れ出したとはいえ、 
サクリファイスという名の結晶は聞いた事も無い。 
結晶捜索に力を入れているデリング大統領としても気になるものなのだろう。
「《LostGoddes》の可能性があるものとして追っていましたが… 
 …どうやら既に人の手に渡っていたみたいですな。 
 ……しかも…あのオルトノア様の妹君とは…」
「ふむ…八姉妹のオルトノア女史といえば… 
 フルオーターの…」
「そうですわ。偉大なるオルトノア…汎用兵器フルオーターの生みの親」 
デリングの問いに答えたのはヴァンフレムではなかった。 
大統領の足元で彼を見上げながら答えたのは黒いドレスを纏った少女。 
デリングと眼が合うと、微笑みスカートの裾を摘まんで会釈する。
「……君は?」
「お会い出来て光栄ですわビンザー・デリング大統領閣下。 
 わたくし、トリア・エクシテセラ・ラミアと申します。以後、お見知りおきを」
ラミア…デリングは顔を見た事もある。 
アメリカが所持する事となったシークレット・ウィズダム… 
かの結晶の研究にも少なからず携わった事がある、其のいかにも陰気そうな少女こそが、 
SFESでも最重要とされるセイフォート研究室の室長であったと知ったのは、 
彼女が事故で死んだと聞かされたのと同時であり、当時のデリングも驚かされたものだ。
「ラミア? 
 …ヴァンフレム殿、件のラミア女史にも妹君が?」
「…まあ……妹…ですな」
少々苦虫を噛み潰す様な顔で、視線を逸らして答えるヴァンフレム。
「そうでしたか。………いやいや、初めましてトリア嬢。 
 いやいや、あのラミア女史にまさか妹……」
と会話を切り出してみたまでは良かったが、 
どうにもビンザー・デリングはこの少女が好きになれなかった。 
微笑みを湛えた其の顔に一点の違和感。姉と同じくドス黒く濁った眼である。 
数々の政敵と権謀術数で渡り合って来たデリングだからこそ解る。 
目の前にいるこの少女の瞳は、正に政敵達の其れなのだ。 
デリングを量っている眼。デリングを見定めている眼。 
そしてデリングを都合の良い道具として見ている眼。 
其れと同質なのである。 
結局、ヴァンフレムが早々に切り上げようと言い出すまで、 
ビンザー・デリングは彼女の顔を直視する事が出来なかった。 
表面では別れを渋りつつ、心底でしっかり喜んだのは言うまでも無い。
執筆者…is-lies

リゼルハンク本社へ帰還するSFESの車の中、 

 

「ん?」 
ヴァンフレムが外を見る。何か、黒い影が車道の隣の林で走っていった。 
その外見はヴァンフレムの動体視力で十分に見えている(普通の人間だったら見えないスピードなのだが)。
以前見たことがあるモノだった。
(…気配は本田ミナに似ていたが…
  むしろあの男に近かった…
  だが…今の影は…TAKE?)
生体兵器の中でも『最凶』と呼ばれたTAKEなら彼も何度か見たことがある。何故火星にいるのかは知らないが。 
(…となればプロジェクト・エインヘルヤルは例の時点で成功という事か。
  ……だがあやつをそのまま見過ごす事も出来んな)
暫く沈黙を保っていた少女トリアが口を開く。 
「ヴァンフレム、ゼペートレイネが明日に動くそうですわ」
「…そうですか。思ったよりも遅かったですね」
「ええ…ラミアであるわたくしにも…もうアレの行動は予測出来ませんわ。 
 最初の頃は……まだ解る所もあったのだけれど…。 
 羨ましいわ。忌々しいオルトノアの呪縛から解き放たれたのだもの」
「………そう考える事が出来る貴女も、 
 十分に解放されているかと」
「…くすくす、貴方はまだオルトノア擁護派なのね…。 
 そういえばH・Fが面白い事を言ってましたわね。 
 ………『闇』……リライ…
 わたくし達と同じものが動き出した。 
 早急に情報の収集を」
「…解りました。併し…今後はあまり……」
「解ってますわ。以前のラミアと出会った人物との接触は、極力控えますわ。 
 まあ、スルトの日も迫っていますし…あまりピリピリするのも難だけれども」
出来得る事ならば外出自体して貰いたくないのだがなと思いつつ、 
ヴァンフレム・ミクス・セージムは車の窓からネオンライトで彩られたアテネの夜景を眺める。
(……オルトノア様、貴女様の妹…いや、妹達が……これから世界を震わせる。 
  …さぁ、貴女様も……と共に見物しようじゃありませんか)
執筆者…夜空屋様、is-lies
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