リレー小説3
<Rel3.月アルカトラス1>

 

 

「貴方には随分と色々な仕事を押しつけて申し訳なく思っています。 
 ですが、もう一つ頼まれてはもらえないでしょうか。 
 むしろこれが貴方をこのアルカトラスに送り込み、
 グレナレフ・オールブランと接触させた直接の理由なのですが・・・
 我々はあなたがご存知の通り、法王を失脚させるために活動していますが、あなた達にもその手伝いをして欲しいのです。 
 と言うのも、このアルカトラスは法王の秘密の塊と言っても過言ではないからです。 
 法王を追いつめるために工作した人間達は次々とこのアルカトラスに追いやられ、その行動を拘束されています。 
 その法王を影からサポートしている者こそ、アルカトラス刑務所所長、ヘル兄妹なのです。 
 おそらく貴方と今一緒にいるオールブラン氏はその秘密を解明している最中でしょう。 
 一説に寄ればヘル兄妹はこの収容所に収容された能力者を影で洗脳し、人身売買を行っているとのこと、 
 この証拠を掴めば法王の侵してきた数々の罪を芋蔓式に引き出す事ができるはずです。 
 辛い頼みだとはわかっていますが・・・法王を陥れるためにもうひと働きして頂きたいのです。 
 そしてオールブランを連れ出して彼と共に法廷に立って証言すれば貴方の妹さんについてもきっと何かわかるでしょう。 
 ・・・貴方の妹さんのためにも、もう少しだけ我々に力を貸してください。」

 

房の中、ハウシンカの吸っているタバコの白い煙がするすると冷たい天井目掛けて昇っていく。 
「どうする?」 
先に口を開いたのはグレナレフの方だった。
「つかこの手紙の見た瞬間マジこいつぶん殴ってやろうかと思った。パイプで。」 
手紙に目をやったままハウシンカが呟く。 
・・・グレナレフは頭を振った。 
と、 
「でもさぁ、考えが変わったっつーか・・・何か同情しちゃうんだよなあ。」 
意外なハウシンカの反応に驚いたのか、ふと、グレナレフがハウシンカの方を振り返る。 
「せんせ、切実じゃん。」 
ぽつりと零す。 
「やるのか?」 
「やるしょ。」 
軽いやりとりのあと、ハウシンカはグレナレフから背を向けた。 
グレナレフは口元を小さく歪めた。 
「やっぱりお前、似てるよ。」 
「誰にさ?」 
「ドルにさ、あいつも神妙になった時、ちょうど今のお前みたいな顔してた。」 
「よせや、気持ちわりい。」
それ以上、二人は言葉を交わさなかった。 
ただぼんやりと天上に昇っては消えていくタバコの煙を見つめながらハウシンカは、 
あの時モニカが最後に浮かべた笑顔と一緒に、幼いエカチェリナの笑顔を思い返していた。
「これが片付いたら、早くここを出ようか。」 
言ってグレナレフは席を立った。 
背後で格子がしまった音が聞こえたあと、
ハウシンカは一瞬何かを考え込むと深くタバコの煙を吐き出して、タバコを床に捨てるとそれを踏み消した。 
(さぁて…どうすっか考えとくかにゃ〜。 
  所長の謎をゲットする良い方法… 
  ……お、思いつかねぇ……
  ……やっぱグレナレフっちと一緒に考えた方が良いかな? 
  折角、協力してくれそうな雰囲気になった事だし)
執筆者…錆龍様、is-lies

  月アルカトラス刑務所長室

 

「結局モニカ・マッドカタファルク死去の真相は不明か…。 
 AMF結晶設備がもう少し早く整えば良かったが…… 
 …ちっ、社会の屑が……死ぬなら死ぬで場所を選べ」
月アルカトラスの刑務所長ダーイン・ヘルは、 
所長室のデスクに着き、つい数日前に購入したばかりの、 
リゼルハンク製新型結晶能力防護システム『AMF』の解説書を投げ捨てる。 
モニカのフロアは何時、彼女の魔力で壊されてもおかしくない為、
監視機器も見張りの所員も何も無かった訳だが、 
其れが祟ってモニカ死亡の発覚が遅れてしまっていた。 
尤もモニカが監視下にあったとしてもどうにもならなかったかも知れない。 
当のモニカの死因ですら全くの不明なのだ。 
死なない死刑囚とまで呼ばれたバケモノが死ぬなど予想すら出来なかった。 
とはいえ刑務所内で謎の死などあって貰っては困る。 
所長ダーイン・ヘルの管理能力が問われかねない。 
死亡当日の予定にダメモトのモニカ死刑でも捏造しようかと思いつつ、 
スケジュール表を捲ろうとした手を、傍らに於いてある電話のコール音が止めた。
「もしもし」
《ダーイン所長?アタシ、ゼペートレイネ。 
 3日前に話してた件なんだけど新しく20程追加頼むわ》
「其れは急な話だ。もう出す準備は殆ど整っているが…」
《あ、こっちの方は質全然問わない》
「…ふむ?なら間に合うか。 
 特上質1に他20で良いのだな?」
《そ。特上質の方…ハウシンカ・ドラグスクだっけ? 
 これだけ活きの良い娘なら代役も十二分に務まるわ。 
 ……この娘には個人的に色々借りもあるし〜。 
 …あ、でもコルテスも言ってたけど、 
 クリルちゃんが耐用限界っぽいから新鮮な内に届けて頂戴な》
「あの子?…ああ………。 
 ふふふ…所詮は法王の玩具。 
 どんな武器をやったところで戦争の駒には役不足だ。 
 其の点、我が刑務所は違う…これからも良い関係でありたいものだ。 
 ……そうだ。S級能力者の遺体を一緒につけておこう。 
 君には色々と世話になっているからな。サービスとして」
《あら?S級ってーとモニカ?ふぅん…死んだんだ? 
 ま、折角のご好意だし受け取っておきましょ。 
 …ああ、解ってると思うけど、 
 受け渡しは月面基地でね。話は通してあるから》
「LWOS様々か。了解した」
受話器を置くと、いつの間にか隣に控えていた妹にして副所長のリーヴ・ヘルが、 
細かい装飾のされたティーカップを差し出してから、今の電話内容を聞き出す。
「追加注文だ。ああいう客は精々大事にせねばな」
「肥溜めの蛆虫を有用活用するのが、 
 わたくし達のお仕事ですものねぇ。うふふふふ。 
 …20人……適当な者を選んでおきますわ」
執筆者…is-lies

  月アルカトラス刑務所・食堂

 

「で、具体的にはどうする?」
「そうですなぁ〜。所長室に潜入…なーんて出来ないかにゃ〜」 
菜っ葉の御浸しを頬張りながら提案するハウシンカ。 
グレナレフは取り敢えず「食いながら喋るな」と言ってから突っ込みを入れる。 
「無理。24時間体制の警備には隙も何も無い。 
 少なくとも正攻法でトントン進める様な場所じゃないし、 
 A級プロLVの武装職員に出て来られただけで御終いさ。 
 アルカトラス脱出と同じ位に無理。ほい次」
「んー…そんじゃシンプルイズベストに所長脅迫☆」
「無理。問題のA級プロが付きっ切りで警護してるんだぞ。 
 どうやって接触する?どうやって脅迫する?そら次」 
喋ってばかりで食が進んでいないグレナレフ。 
既にトレイ内の味噌汁は冷めてしまっていたが、 
其れに箸を伸ばす隙も与えずにハウシンカが次なる提案を寄越す。
「ダメぇ?だったらぁ〜…… 
 現場を押さえるとか?ほら、アンタのカメラで」
「無理。直ぐバレるだろ。危険過ぎる。 
 其れにそうそう都合良く…そういうシャッターチャンスが来る訳でもない」
「…じゃあどーすりゃいーんよ?」
「まぁた無理難題を…現状じゃどうしようもない。 
 (が、何の算段も無しにこんな依頼はしないからな…。 
  俺達の与り知れないトコで何をやってんだか…)
既に温かさの抜けきってしまった味噌汁を啜り出すグレナレフ。 
結局、有効手段無しかとハウシンカも落胆し、 
グレナレフ同様、残った食事を腹に詰め込む。 
年季の入ったスピーカーから放送が流れたのはそんな時だ。
《GDS-0387ハウシンカ・ドラグスク! 
 至急、第7ブロック医務室へ向かえ。 
 繰り返す。GDS-0387ハウシンカ・ドラグスク! 
 至急、第7ブロック医務室へ向かえ》
「……医務室ぅ?何々?何で?どーして? 
 あたし健康体そのものだよー?」
「…変な病気にでも罹ってたんじゃねーの? 
 其れとも火星から何かウイルスでも持ち込んだか?」
「あー、うっさいなぁ。乙女の前でンな言い草ありかよ〜?」
「乙女ぇ〜? 
 ………………( ´,_ゝ`)プッ」
「うっわームカツク〜」
取り敢えず、あっかんべーをしてから其の場を立ち去るハウシンカ。 
執筆者…is-lies

第7ブロックというと少々遠く、普段なら到着にも多少時間が掛かるのだが、 
幸い、食事中だった事もあってうろつき回っている囚人は少なく、 
軽く走って直ぐに第7ブロックへ到着する事が出来た。 
…が、医務室を目前としたハウシンカの前に、 
もう二度と顔も見たくなかった奴が、 
顔と言わず其の全身を余すところ無く現していた。 
腐臭を放つ肉の塊…ゴレティウであった。
「あ、オイお前!よくも騙してくれたな!? 
 何が良い女だよ!?しかも気付いたら体の所々に痣あるし!」
「…やっべー」

 

 

直ぐに隣にあった医務室へ駆け込み、鍵を掛け、 
状況を掴めていない医務室内の医者と職員に会釈する。 
「ちわー、三河屋でーす」
「……お…お前がGDS-0387ハウシンカ・ドラグスクだな? 
 前にやった診断の結果、家畜伝染病のDEペンタラグスが発見された。 
 これから医師の手によるワクチン接種を行う」
「…家畜伝染病? 
 (まさかナナシ君とかからうつったなんてゆーなよ?)
ナナシ達やジップロック等D-キメラ… 
ハウシンカはあまり気に留めた事が無いものの、 
其れ等は一般には殆ど未知の存在であり、 
今更ながら、彼等との接触で何かあったのではと考え出す。 
とはいえ其処はハウシンカ。 
どうにかなるだろうと特に問題視はしなかった。 
促されるまま、椅子へと座り…腕へと注射をして貰う。
(……あ……れ……??)
突如、眩暈を起こしたかの様に視界がぼやけ、 
眼を擦る暇も無く、猛烈な脱力感と眠気が、 
ハウシンカの意識のカーテンをあっという間に閉めてしまった。
執筆者…is-lies

  食堂前廊下

 

「………遅いな…… 
 …アイツ……冗談抜きでヤバイ病気でもあったのか? 
 ………オイオイオイオイ勘弁してくれ。漸く出る気になったってのに…」
既に食事の時間は終わってしまった。 
グレナレフがどれだけ待ってもハウシンカは帰って来ない。 
焦る気持ちに何とか抑え、もう少し待ってみる事にするが、 
其れは唯単に、痺れを切らすまでの10分を無駄に過ごしただけであった。 
多少面倒だがハウシンカが向かって行った医務室へと向かう事にした。

 

暫く廊下を進み、漸く医務室の扉が見えてくる。 
と同時に、其の扉の前で何やら喚いているデブも発見した。 
言わずもがな…ゴレティウである。
「あ、デブ……お前、何やってんだよ? 
 其処って医務室だろうが…静かにしろよ」
「お…ハウシンカと一緒に居た奴だな? 
 丁度良かったぜ。ちょっとハウシンカを呼んでくれるか?」
「は?どうしたんだ? 
 ハウシンカ……医務室に居ない?」
其れに対してゴレティウは首を横に振る。 
「アイツ…医務室に入ったまま全然出て来やがらねぇのよ。 
 俺を騙した罰…こんな事で逃げられると思うなよぉお!」
こんな事でハウシンカが帰って来れなくなっていたのかと思うと、 
余りの情けなさに呆れるのを通り越して寧ろ笑ってしまう。 
リラックス出来たのか表情を崩すグレナレフ。 
「あー…はいはい。 
 おーい、ハウシンカ聞こえるか〜! 
 お前は完全に包囲されている〜。神妙にしろ〜」
だが、誰も出てこない。 
医務室からは物音一つ聞こえてこない。 
…というよりは………人の気配が全く感じられない。
「なぁ…片方の扉からもう出てたったオチ無いよな?」
「バカにすんな!このゴレティウ様が其処までマヌケに見えるかよ?」 
 実際、医者や警備員がそっちの扉から出てったの見てるぞ!」
「マヌケに?…ぶっちゃけ見える。 
 …ってかアイツだったらお前に悟られずに逃げるなり簡単に出来るだろうな。 
 だが、あのお嬢さん、あれでどうして詰めが甘いからな」
言ってグレナレフがおもむろに取り出したのは小型のカメラだった。
「お、なんだ、この俺を撮ろうって・・・」
「冗談、悪いが今はそれどころじゃないんだ、どいてくれ。」
冷静に言い放ち、グレナレフはシャッターを切った。
パシャッ
軽い音と共に閃光が薄暗い廊下を照らすと、小型カメラからぺらりと一枚の写真が出てきた。
「なんだ、この紙?」
おもむろにそれを拾い上げるゴレティウ。
それをグレナレフはうんざりした様子でひったくる。
「写真さ。ポロライドカメラって言って、まあ、インスタントカメラさ。
 そんなことより邪魔しないでくれ。
 言ったろう、冗談にはつきあえないって。」
言ってグレナレフは険しい顔でポロライド写真に見入る。
・・・ぼんやりと写真に像が映し出される。
そして・・・
「やっぱり・・・そんなこったろうと思ってたぜ。
 少々甘く見すぎたかな?」
険しい顔で呟いたグレナレフの手の中で、ハウシンカの行方を映し出した写真がくしゃりと潰れた。
「あ?どうしたんだよ?」
グレナレフの様子の変化をゴレティウも嗅ぎ付けたらしい。
鼻が利くのならば、自分の体臭でも気にしていてくれなどと思いつつ、
何か閃いたのか、ゴレティウに向き直るグレナレフ。
「おいデブ、お前ちょっと付き合え」

「な…!?俺はそんな趣味ないぞ!?」
頬を気色悪く桃色に染めて叫ぶゴレティウ。
「ほざけ。ハウシンカを探すんだよ。
 お前も言いたい事があるんだろ?ちょいとだけ手伝え。
 (こんな奴でも攪乱くらいには使えるな)
執筆者…is-lies、錆龍様

斯くしてグレナレフとゴレティウは、
攫われたハウシンカを探しに刑務所内を奔走するのであった。
念写能力…グレナレフの持つこの能力こそ、
彼が月アルカトラスに叩き込まれるキッカケとなった要素であり、
又、ルークフェイド達が彼に助力を請おうとする理由でもある。
だがこれも万能という訳ではない。
先の念写で解った事は、ハウシンカが連れ去られたという事のみ。
飽く迄、写した其の場所・人物…又、自分の知る事しか念写出来ない。
十字路T字路に突き当たる度にグレナレフがシャッターを切り、
周囲の様子を窺いながら少しずつ進み、
やがて2人の警備員によって護られた仰々しいゲートが見えて来た。
周囲を見てみると宛ら地下鉄のプラットフォームの様である。
「これは…地下トンネル?」
「おおおおおい、どう考えてもただで通してくれそうにないぜ?」
壁を背に様子を伺うグレナレフにゴレティウが心配そうに声をかけた。
しかしグレナレフに動揺する様子はない。
「奴さん達、確かに重装備ではあるが・・・肝心なものを忘れてるぜ。」
口元を微妙に歪めてグレナレフが呟く。
彼の言う通り、確かにこの警備員達は「顔」を守っていない。
「どーすんだよぉ、銃を持ってるぜあいつらよぉ・・・」
「なに、その為にお前を連れてきたんだ。
 ハウシンカに一矢報いたいんだろ?
 それならちょいとお前の力、見せて貰おうか。」
執筆者…is-lies、錆龍様

同刻・プラットフォームを行く一本の地下鉄にて・・・

 

規則正しく揺れるその空間に、同じように規則正しく響き渡る線路を行く車輪の音が耳に入った。
うっすらと目を開けたハウシンカの視界に入った物は・・・
「それにしてもどうするつもりでいるんだろうな、こんなヤツを連れて行って・・・」
「さぁ、それは俺たち下々の人間が知る所じゃないさ。」
作業着姿の男達が何やら囁き合うのが見える。
・・・ハウシンカはうっすらと目を閉じて、ばれないようにそれに聞き入った。
「で?この女、結局例の場所に連れて行くのか?」
「そうだとよ、何でも労働力が必要とかで。」
「運のねえ女だぜ、あんな所に連れて行かれたら・・・」
「なに、こんな所にぶち込まれて悶々と過ごすよりも、
 ちっと頭をいじられて、何もわからなくなっちまったほうが気楽だろうよ。」
「ちがいねえ。」
それだけいうと男達はハウシンカの横をすり抜けて背後のドアの向こうに消えていった。
刹那、重厚な扉が閉まった。
(まったく、これが焼きが廻ったっていうことなのかにゃあ・・・)
心の中で呟くハウシンカの脳裏に、エカチェリナの顔がふと閃いた。
「神様、あたしはお前なんか大ッ嫌いだ。」
呟くとハウシンカはまた瞳を閉じた。
が、彼女には再び眠る権利すらも与えられなかった、
列車が目的地へと到着したらしく、
ハウシンカは猿轡を噛ませられ両手足を拘束されたまま担ぎ出された。
其の荷物的な扱いに腹を立てつつも此処は口を噤み、
寝たフリに徹する。徹する他にやれる事が思い付かない。
拘束具は対能力者用の強靭なものであり、
ハウシンカに行動を起させる余地を与えなかった。
見るとハウシンカ以外にも結構な人数が他の男達に担がれている。
どうも誘拐されたのは自分だけではなさそうだなと思うハウシンカ。
プラットフォーム外の通路で待ち構えていたのは軍服を着た男達。
彼等の眼はいずれも虚ろで、おおよそ感情というものを感じさせない。
「素体を確認しました。此方へどうぞ」
ハウシンカを一瞥し、男達はハウシンカを更に奥へと連れて行く。
やがて倉庫の様な部屋へ通され、其処で漸くハウシンカは床へ下ろされた。
先程まで薄目で見ていた床は綺麗に掃除がなされていたが、
この部屋に限っては碌に手入れされておらず、
よくもこんな所に下ろしたなと眉間に皺を寄せるが、
そんな小さな怒りは、刑務所所長ダーインの声で一気に霧散する。
「来たか、予定通りだな」
「ではダーイン所長殿、この素体は責任を持って火星へ送らせて頂きます。
 フォードゥン、お前達も素体を載せた便に乗れ。
 火星に到着したら総裁殿に例のディスクを渡してくれ」
「ホホ、了解致しましたわ。ジェールウォント副所長」
そう。ハウシンカは今、ダーイン所長達の裏取引を目の当たりにしているのだ。
其の取引材料が自分自身であるというのが皮肉な事ではあるが。
執筆者…錆龍様、is-lies

  同時刻・・・アルカトラズ刑務所地下通路前

 

「こりゃ一体・・・どうなってるんだ!? おい、至急本部に連絡・・・」
倒れた兵士を介助するもう一人の兵士の言葉はそこでとぎれた。
一瞬の出来事だった。
その傍に立っていた兵士に後ろからつかみかかるとグレナレフは兵士が持っていたマシンガンをひったくり、乱射した。
まるで爆竹を打ち鳴らしたような派手な音に続き、悲鳴が聞こえ・・・
「うわわわわ・・・おいおいおい!みんな死んじまってるじゃ・・・」
怖々と壁の陰に隠れたゴレティウが顔を出す。
「これ以外に他に仕方があったか?
 お前がそいつら倒すの見て解ったが、
 お前の臭いじゃ気絶させるまで時間が掛かりすぎだ」
苦々しげな表情で兵士達の屍を見下ろし、グレナレフは屍からカードキーを探り出し、門のロックを解除した。
「もたもたしてると追っ手が来る、行くぞ。」
言って駆け出した。
どうやら地下通路は大きな下りの階段になっているらしい。
辺りを警戒しながらグレナレフはもう一度シャッターを切り、写真に目を落とす。
間違いない、この先にプラットホームがあり、ハウシンカはそちらに運ばれたようだ。
「どうやらこの先に警備の兵はいないらしい。いくぞ。」
そんなグレナレフに言われるまま、背を追うゴレティウ。
(くそ・・・この俺様に指図しやがって・・・)
内心唇を噛む。

 

やがて階段を下りきると大きく開けた場所にでた。
そう、プラットホームである。
「さて・・・ここからが問題だぞ、どうやってやっこさん達の巣に潜り込むか・・・」
一人ごちるグレナレフ。
と・・・
それはもしかしたら殺気だったのかも知れない。
ただならぬ気配に当てられ、グレナレフは何処までも続くプラットホームの闇に目を凝らした。
何かが近づいてくる。
だが、その気配にグレナレフは覚えがあった。
「派手にやったじゃないか、まだ牙は折れていなかったって事か、なぁ、グレン?」
闇の向こうから、足音と共に聞き覚えのある声がした。
「フォノゥ・・・」
グレナレフは「声の主」の名を呼んだ。
「オ、オイ、なんでアンタが此処にいるんだよ!?」
「黙ってろデブ」
デブことゴレティウはデブ呼ばわりされたことにキレかけたが、
言葉を受け取ったと同時に感じた殺気で、自身の怒りが一瞬で恐怖に変わっていた。
ただの囚人、ましてやアルカトラズでは意外と温厚な方に入るフォノゥから、こんな殺気が放てるとは思わなかった。
グレナレフはフォノゥを見据えると、しばらく沈黙した。
十五秒ほどでグレナレフは沈黙を引き裂いた。
「…質問が、三つ以上ある」
「どうぞ」
「何で此処にいるんだ?」
「『仕事』だよ。俺の本業ってヤツかな」
「俺達に何の用だ?」
「仕事の邪魔するな。…そーゆーことだ」
「…どうやってここまで来れた?」
「脱獄の方法の一つ、外部の手引きさ」
一度グレナレフは首を振り、息を吐く。
「…質問を二つ増やす。お前の本業は何だ?」
「宅配便の護衛だよ。…唯の荷物じゃねーがな」
「お前に依頼した奴の名前は?」
「そいつは言えない。…まぁ、分かってるだろうがな。他の質問にしてくれ」
グレナレフは今度は五秒ほど考え、
「ハウシンカは何処だ?」
「この先の貨物船の中だ」
そうフォノゥが答えると、懐に手を入れる。
反射的に先程強奪したマシンガンを構えた。
フォノゥは懐から何か金属片の束を取り出すと、それをグレナレフに投げた。
鍵の束だ。御丁寧に「マスターキー」と書かれている。
「それでどうするかは自分で決めな。…じゃ」
「待て」
踵を返し、闇の向こうへ歩き出そうとするフォノゥを、グレナレフは一言で止めた。
「お前はどうするんだよ」
「…俺の仕事はトラックにネズミが入らないように見張ることだ。
 まだしばらくはこの監獄にいる。…いろいろとあってね」
「…」
「他の兵士に見つかるな。俺にもな。猫はここに何匹でもいるぞ」
「安心しろ。こっちには最終(臭)兵器がある」
そう言ってゴレティウを横目で見る。
頭が整理できてないのか、隣のデブは呆けた顔をしている。

 

いつの間にかフォノゥは姿を消していた。
溜息をつくと、しばらく考え、そしてグレナレフは隣を見た。
「行くぞデブ。脱獄しながら暴れ竜お姫サマの救出だ」
「お、おう」
ゴレティウは自分がデブ呼ばわりされていることに気付かなかった。 
さらに、極めて低俗な悪人である自分が、
いつの間にか、他人を救うために行動しているということにも気付かなかった。
執筆者…錆龍様、夜空屋様、Gawie様
プラットフォームから飛び降りると、二人は警備システムを警戒しつつ、
どこに向かっているのかも分らないモノレールの上をひたすら進んだ。
勤めて音を立てず、且つ急いだ。
かなりの距離を進んだように感じていたが、実際に走ったのは数百メートルに過ぎなかった。
立ち塞がる巨大な鉄扉に阻まれ、立ち止まったところで、
近くの誘導灯に照らされたプレートがそれを教えれくれた。
「はぁ、はぁ、はぁ、
 ち、ちょっと休もうぜ」
「まだ、たったの300メートルだぞ。
 この扉を開ければ……
 コレか…!」
グレナレフは手探りで巨大な鉄扉に脇にある非常ドアの見つけた。
指の感触で鍵穴を確かめながら、フォノゥから貰ったマスターキーを一つずつ試してみた。
…だが、どれも合わない。
何度か試したところでそもそもその穴が鍵穴ではないことに気付いた。
「クソッ…
 鍵なんかないじゃないか…!」
「はぁ、はぁ、はぁ、
 だ、大体、今日日そんなアナログな鍵が
 ここのマスターキーだってのはおかしくないか?」
「言われてみれば、確かに…」
グレナレフは改めてそのマスターキーを確認した。
鍵の束には、10個のディンプルキーと、
一枚のカードキーがぶら下がっている。
グレナレフは10個のディンプルキーを並べ、その一つ一つに眼を凝らした。
そこには…
・・・−− −・ 
−・・・・ ・・・
−−−−− −−−
−−−−・ ・
・・−−− ・
−−−・・ −−
・−−−− ・−−・
・・・・・ ・
−−・・・ ・−
・・・・− ・・・
「これは……」
「はぁ、はぁ、はぁ、
 や、やっぱり罠か?」
「ちょっと黙ってろ。
 この鍵の形…
 これは、暗号…パスワードか…?」
「はぁ、はぁ、はぁ、
 そ、そんなことより、なんか、息苦しくないか?」
「それはお前がヒデブだからだ。
 いいから黙ってろって……
 …いや、まて、確かに……」
「はぁ、はぁ、はぁ、
 あ、ここになんかレバーあるぜ。
 コレで開くんじゃないか?」
「待て! 触るな!
 お前の言うとおりだ。
 ……確かに、息苦しい。
 ここが月だってことを忘れてたぜ。
 ……酸素が、薄くなってきている……
 この扉の向こうは恐らく、空気がない……」
「はぁ、はぁ、はぁ、
 ヤ、ヤバいんじゃねェの?」
「あぁ、ここもヤバそうだ。
 貴重な酸素をこんなところに無駄遣いはしないだろうからな」
「はぁ、はぁ、はぁ、
 じ、冗談だろ…」
「さ、探せ!
 カードキーの扉だ!」
「はぁ、はぁ、はぁ、
 パスワードは解ったのか!?」
「今考えてる!
 とにかく探せ。
 ここになければ後戻りだ。
 収容棟にはそれらしい扉はなかったはずだ。
 いや、あそこにあるはずはない。
 あるとすれば、この線路上、プラットフォーム、そこまで通路…
 どこかに隠し通路は…ある! 必ずある!」
ここに来るまで、少々手荒な行動もしてしまった。
今となっては安全な収容棟まで戻る事は出来ない。
しかし、ボートでしか行き来できないと思われていたこの監獄に、
これ程の大掛かりな地下通路を発見する事が出来た。
その管理、維持のためにも、他にも隠し通路はあるはずだ。
フォノゥに渡されたこのマスターキーが、罠ではないと信じるなら…
執筆者…Gawie様
 
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