リレー小説3
<Rel3.統合編>

 

それから更に一週間後、
リゼルハンクグループ全てに行われた警察の捜査も最終段階に至った。
その間、87の関連会社は営業を停止し、約5万の社員全員の身元が確認され、
社長ネークェリーハ他数名の行方不明者を除く全員がそれに応じた。
そしてその全員が、SFESの事は勿論、事故の原因として考えられるような事は一切知らず、
ビルの崩壊は外部からの攻撃によるものだと主張するようになった。
さらにそれを見計らったように意外な目撃者達が名乗り出た。
事故当日、周辺で目撃されていながら、その後雲隠れしていたレギオン達である。
おそらく、潜伏してはいたものの、SFESから何の連絡もなく、彼等もどうして良いか分らなくなったのだろう。
つまり、レギオン達の供述もリゼルハンク崩壊の真相を解明するには期待出来ないということだ。
この事によってタカチマン達も考えを改めざるを得なくなってきた。
潜伏していたレギオン達が諦めて出てきたという事は、
SFESの側にいた者が考えても、やはりSFESは何かによって完全に消滅させられたという可能性が一番高いという事になるのである。
しかし、捜査はこれで終わりではない。
リゼルハンク崩壊の原因とは別に、リゼルハンクには警察でさえ手が出せなかった闇があった。
リゼルハンクグループ全体に行われた一斉捜査は警察としてもまたとないチャンスだったのだ。
そんな中、警察内部でも煙たがられるほどリゼルハンクを疑っていた一人の刑事に、今回の捜査本部から現場指揮が任された。
足かせを解かれた刑事マクスウェイは寝る間も惜しんで各地の捜査現場を飛び回っていた。
「…ご丁寧に、完璧なまでにシロか…
 ンなわけねェだろ!
 どう考えても証拠隠滅だ。何も出てこねェのが証拠だ!」
「無茶言わないで下さいよ警部」
「おいレギオンとかいったな。
 例のSFESの私兵。何か喋ったか?」
「はい、今日までに出頭して来たのが42人。
 能力者班が吐かせましたが、
 いいとこ暴行、監禁、器物損壊ってとこですね」
「チッ、ただの捨て駒か」
「えぇ、SFESというもの法人、団体として登録はありませんし、
 社内の機密部署みたいなもののようですね。
 尤も、供述以外にそのSFESに関する資料は一切出てきてませんが…」
「本当に、それだけなのか…」
今まで警察に対してもあれだけの圧力があった。
そして完璧なまでの証拠隠滅。
何もなかったはずはないのだ。
裏リゼルハンクの存在には警察の中でも特に鼻を利かせていたマクスウェイだったが、
ここまで何も出てこないのは流石に己の杞憂と疑ってしまう。

 

しかし、いかにSFESと言えども、完璧な証拠隠滅などありはしなかった。
リゼルハンクのアテネ第7研究所の捜査現場からの連絡は、マクスウェイにとっては朗報だった。
「警部、第7研究所の地下で採取した砂の中から、
 複数名の人骨が検出されました」
「出たか! 身元は!?」
「はい、今分っているのは、
 10年前から最近のものにかけて、
 失踪したまま行方不明になっていた少年少女38名です。
 鑑定不能を含めると、実際にはそれ以上かと…」
「これが神隠しの正体って訳か…」

 

こうなると、後は芋づる式に疑惑は高まる。
さらに、アテネ第3病院からも連絡が入った。
「マクスウェイ警部、例の101便事件の匿名の情報ですが…」
「どうだ、俺が言ったとおりだったろ?
 タレコミがなきゃ普通見逃すところだ」
「はい、101便の生存者を改めて検査したところ、
 全員が記憶操作されていた事が分りました。
 担当の医師の供述では、
 やはりSFESというグループ内部の組織から圧力を受けてやったそうです。
 しかし、非常に強力なマインドコントロールが施されたようで、
 記憶を元に戻すのは不可能に近いようですね」
「どっちにしてもリゼルハンクにとって都合の悪い記憶を消したんだろ」

 

人格を消してしまいかねない記憶操作は殺人に次ぐ重犯罪である。
アテネ第7研究所で発見された人骨の件も合わせ、
これでリゼルハンクが言い逃れすることは出来なくなった。
「マインドコントロールに、
 少年少女の集団拉致殺害…
 これだけの事をやって、SFESは何をするつもりだったんだ…」
ついに、リゼルハンクの闇の部分が白日の下にさらされた。
しかし、SFESなき今、残されたリゼルハンク関係者は事件に関しては知らぬ存ぜぬの一点張り。
捜査が進むにつれ、リゼルハンク本社ビル崩壊の原因と、闇組織SFESの実態は謎が深まるばかりだった。
リゼルハンクの表と裏は完全に引き剥がされ、
真相を知るであろう裏の側はビル崩壊とともに、まさに消滅してしまったのである。
リゼルハンク社長ネークェリーハは被疑者行方不明のまま書類送検される事となった。
結局、リゼルハンクに残されていたのは、
その中枢までを蝕んでいたSFESの後ろ盾を失い、形骸化した表向きのリゼルハンク―――
何も知らされないまま矢面に立たされた一般の役員、社員、研究員、
そして、一国の国家予算にも匹敵する莫大な資産だった。
批判や反論は当然あったが、
火星政府はこのリゼルハンクの莫大な資産を一時凍結させた。
このSFESの遺産が再び争いの火種になるのは誰が見ても予想に難くはなかった。
執筆者…Gawie様
inserted by FC2 system