リレー小説3
<Rel3.統合編2>
軍がアテネに集合していた事から初動は極めて早く、 アテネの混乱は最小限に食い止められるものと思われる。 尤も、其れでも社会・経済に齎される被害は馬鹿にならないだろう。 原因不明のリゼルハンク本社崩壊と其れに伴うパニックによって、 アテネは半麻痺状態であり、この被害が全国へ波及する事は想像に難くない。
リゼルハンク本社跡地のすぐ側にて翻る火星国旗の下、 軍の仮設テント内でシュタインドルフがテーブルに肘を付きながら報告を受ける。 崩壊したリゼルハンク本社周辺のビルも瓦礫の直撃で崩れ落ち、 又、周辺を覆った粉塵によって被災者の救出も難航。 死者数を思い浮かべる事すら躊躇われる程の惨状である。
「…………奴等の事…偽装死までは考えられる。 だが…これは幾らなんでもやり過ぎだ。唐突過ぎる」
あまりにもこれ見よがしで唐突な崩壊は、逆に作為を感じさせる。 偽装死にするならば崩壊させるにせよもう少し間を置くべき… 少なくとも本社内…最深部にまで部隊が進むのを待った方が自然だ。 何よりSFESの様なバケモノが早々に観念して自爆などするとは思い難く… …詰まるところ、SFESは純粋に… 想像を絶する何者かによって一瞬の内に叩き潰された… …という事であろうか? シュタインドルフの前に集められた英雄達も動揺を禁じ得ない。
地球の破滅現象、 アレクサンドリア発光現象とフォボスとダイモスの異常、 火星の水位上昇、そしてリゼルハンク崩壊…
何が起こっているのか解らない。 何が起こりつつあるのかも解らない。 巨大な混沌の渦は徐々に火星を飲み込みつつある。 漠然とした破滅の予感を其の場の全員が感じ取っていた。
「アテネに散開していたリゼルハンク私設部隊の行方はどうだ? …やはりダメか?」
「ダメです…霞みたいに居なくなっています。 アテネ内のリゼルハンク系列会社に匿われている可能性もあるので、 そっちを虱潰しに探させてはいます…が、まだ見付かったという報告は……」
「単純に、この大惨事に恐れを成して逃げたってのも有り得るな」
作戦開始前、リゼルハンク私設部隊が本社前に集合…アテネ中に散っていった。 情報が漏れていたのかどうかは不明だが、 武装していなかった事から交戦の為の集合では無かったものと思われる。 リゼルハンク崩壊と同時に彼等は行方を眩ませているが、生きている事は間違いない。
「系列会社の連中締め上げて情報得たいものですねぇ。 まあ…此処まで綺麗サッパリ居なくなってるんじゃ… 残った連中が何処まで把握していたのかも怪しいもんですが」
「本社跡から死体やら資料やらは出たか? …ああマトモなものが出る訳ないか。 ビルごと一瞬で粉々だもんなぁ…」
「一応、重役がリゼルハンク本社に来ていたのは間違いありません。 影武者とか其の辺りかも知れませんが…」
「SFES総裁のネークェリーハだけでも見付かれば良いのが…」
総裁であるネークェリーハであればSFESの全ての情報… …この崩壊の真相すらも知っているかも知れないが、 この大破壊である…生きているとは到底思えない。
「いやいや、お待たせさせてしまったみたいで申し訳無いです、ええ。 皆さんお揃いで。お久し振りですな」
重苦しいテント内の空気を、 能天気なふざけた声でもって打ち破って来たのはミスターユニバース。 いつぞやガトリングガンズUへやって来た時と同じく、 ガウィーとカタリナも一緒であった。
「……ユニバース…… 『青』が呼んだガウィーだけならまだ解ったが…… 又「たまたま一緒になった」…という訳でもあるまい?」
唯でさえ鋭い眼を一層細めユニバースを問いただそうとするタカチマン。
「(また、たまたま一緒になった? 何故そこを疑うか? 流石に何か勘付いとるようやな… けど、博士にしては露骨や…その質問は露骨過ぎる。 余裕ないんやなぁ…)」
「『また』って訳じゃない。 あれからオレ達はずっと行動を共にしていただけだが… コイツらを連れてきたのは、マズかったか?」
「いや、それならむしろ好都合だが…」
「オレ達が作戦に参加しなかったのを疑っているのか? それなら単純に勝ち目はないと判断しただけだが…」
「ほんまにやるとも思わんかったし、 まさかこないな事になるとも思わんかったし、 どないなっとんねん?実際」
実際、誰も答えられなかった。 ユニバースに言われるまで分らなかった訳ではないが、 確かに、タカチマン達が勝率よりも、感情論で動いていたのは否めない。 だが、決して無謀な作戦ではなかったはずだ。 一同がその答えを求めてシュタインドルフに目を向けた。
「5割、いや6割強… 勝てると思っていた…この作戦なら…」
「(…そんなとこやな… だからワシらも乗った… しかし…)」
「しかし…… こんな事になった… …神が、我等の意思を具現化したとでも言うのだろうか…」
勿論、神などではない。 少なくともシュタインドルフは本気で勝つつもりでいた。 神の力を借りずとも実現は不可能ではなかった。
「あるいは… 我々の意思こそが、神…!」
その日、 SFESの反撃も見られず、 夕方には、行方不明者の捜索と共に、 リゼルハンク本社ビルの調査が始まった。 当然、それを統括するのは現火星帝レオナルドだ。
シュタインドルフ達は、早々に現場から姿を消し、 秘密裏に調査隊を組織した。
執筆者…is-lies、Gawie様