リレー小説3
<Rel3.統合編 分かたれた言の葉>

 

そして、『その日』…
豪華客船、プリンス・オブ・マーズ、スイートルームでは…

 

「殿下、軍のヘリは予定ポイントに到着しました」
「よし…
 …航行中に…病人…アテネ第3病院へ搬送…途中リゼルハンク本社ビル上空を通過……
 いけるな…」
「市内の軍、警察の配備は完了しております」
「私の命令を待て。
 (黒い少女が現れ…
  その言葉のとおりに、仮面の男が現れた。
  ここまで、ヤツの言うとおり全て上手く運んだ…後は…)
「例の客…英雄が乗船しました」
「来たか、ドクトルウェッブに案内させろ」
「…殿下…
 いえ私は今は勿論、殿下派ですが、
 レオナルド陛下に無断であのような者の話を信じても良いのでしょうか?
 それに、SFESを倒すなど…」
「南天、怖気づいたのなら今からでも父上の所に帰ってもよいぞ」
「そ、そういう訳では…」
「軍、警察は予定どおりに動いている…
 それに、此方には英雄達がついているからな。
 奇跡は、いくらでも起こしてくれるさ…」
昂ぶる闘志を乗せ、
霞む朝日を浴びながら、客船は汽笛を鳴らしながらアテネの港を出航した。
執筆者…Gawie様

(…ゼペートレイネ…今行くぞ…
 思えば、本気でお前に何かを伝えようとした事は、
 何度かあったような気がする…
 そんな時に限って、お前は決まって留守だった…
 留守なのだから仕方がない…
 そう思うことで諦め、内心、私は安心していたのだろう…
 いや、もういい……
 軍や警察、火星政府に利用される形でこの作戦に至ったのは、
 正直、不本意だが……
 私は全てを利用してでも、お前に全力で立ち向かおう…)
英雄達は眼をギラつかせてはいながらも、
その表情には覇気はなく、どこか沈んでいた。
中でも、一応リーダー格であるタカチマンとイルヴの顔がいつになく怖い。
(…リディナーツかぁ…
 サリシェラリディナーツ、クリルテースリディナーツ…
 最悪戦う破目になるよなぁ…マズいよなぁ……)
青すらも珍しく暗い。
そして、案内役といって現れたイワガ・ウェッブがあまりにも胡散臭い。
ユーキンやおトメさんのような、この状況においても遠足気分な例外は除き、
皆、英雄という肩書きにはあまり似合わないマイナスオーラに満ちていた。
作戦の表向きはあくまで豪華クルーズ。
一般客の中であまりに目立つ英雄達は追い立てられるようにVIPルーム内に押し込まれた。
「よく来たな、英雄達よ」
最初にこの依頼を持ちかけられてから、相手はタカチマン達を英雄英雄と称える。
まずその事が、変に祭り上げられているようで彼等は気に食わない。
「そんな怖い顔で睨むな。
 ま、何も知らずに来たのだから無理もないか。
 まず、作戦内容を伝えよう。
 この船は現在06:00…、ナクソス島へ向けて航海中だ。
 諸君等の朝食の時間は2時間後。
 そこで集団食中毒が発生し、
 近くに居合わせた軍用ヘリで患者をアテネ第3病院へ搬送する。
 つまりこの患者は勿論諸君等の事だ。
 そして搬送中、リゼルハンク本社ビル上空を通過。
 丁度その時刻にリゼルハンクでは重役会議が開かれる事になっている。
 諸君等はそこでパラシュートで降りてもらう。
 同時に、付近で警護にあたる軍、警察の部隊、
 そして市内に偽装して待機している部隊も加え一斉に突入を開始する。
 諸君等の任務は一つ、『SFES』を少しでも引き付ける事だ。
 一度戦った者なら理解できるだろうが、
 奴等には追い詰められるという考えは全くない。
 力の過信ではなく、それだけの実力と精神力を備えたバケモノ達だ。
 だがそれもリゼルハンクという寝床を追われればそう長くは持つまい。
 それだけに、これまで奴等はあらゆる手段でその寝床を守ってきた。
 それを打ち破るにはこの作戦しかない。
 この際、ハッキリ言っておくが…
 ワシは諸君等の実力などコレッぽっちもアテにはしていない。
 だが、この任務は諸君等にしか出来ない…恐らく間違いない。
 この作戦が成功すれば、色んな意味で、世界は大きく変わるだろうな…」
イワガ・ウェッブは予想以上に知っていた。
目標はリゼルハンクではなく、あくまでSFES。
この認識があるかないかだけでも違いは大きい。
これで最初の疑いは晴れた。
「…なるほど、作戦としては悪くはないな…
 SFESの強さに対する認識、そして、
 我々をアテにはしていないという認識も間違っていない。
 だが、そろそろ依頼主の真意を聞いておきたい所だな。
 会えるのか? 本田ミナには」
勿論、本田ミナが依頼主だという事は嘘だろう。
嘘の言い訳の内容によっては、今からでも断った方が良いかもしれない。
タカチマンはそう思いながら、ウェッブ博士を睨むように問う。
「本田ミナはこの船には乗ってはいない。
 解っていると思うが、本田ミナが依頼主というのは嘘だ。
 しかし、
 SFESに対抗するために諸君等に協力を求める事、
 今日、リゼルハンクで重役会議が開かれるのが分った事、
 そして、軍、警察内部にここまでの協力者を得られた事、
 全て彼女のお陰であるのは間違いない。
 言ってみれば、この作戦は彼女の望みを実現するための第一歩なのだ。
 …っと殿下は仰られた」
ウェッブ博士あっさりと素直に答えた。
どうやらこの男にとっては心情的な問題など取るに足らないことのようだ。
「彼女の望みを実現するための第一歩か…
 確かに…そういうことか」
「他に文句はないな。
 では、
 作戦に参加する者の名簿を配っておく」
ウェッブ博士は投げ捨てるように名簿を手渡した。
集まった英雄は以下の通り、
 イルヴ・ロッド・ヴェインスニーク
 青
 フライフラット・エース
 エドワード
 タカチマン
 ナオキング・アマルテア
 キムラ
 ユーキン
 バンガス
 トメ
 リリィ
 カフュ・トライ
 ツヨシン
 アルベルト・ジーン
「…以上の14人だな。
 内、名古屋大戦の英雄は7人。
 予定の半数にも満たぬが…
 ま、こんなものか」
なぜ、大名古屋大戦の英雄に拘ったのかは分らない。
接触していながらも、メイや、ガウィー、ユニバース達は結局この作戦には参加しなかった。
その代わりに、タカチマン達、101便での功労者を英雄として受け入れた。
本田ミナの助言があったにしても、やはりどこか釈然としない。
そして、気になるのが、名簿の最後にあるアルベルトの名だ。
「アルベルト…
 まさか…!?」
「アルベルト?
 シュリス・キリウが連れてきたキメラか?
 ヤツがSFESのセンサーだと言いたいのだろうが、心配には及ばん」
「知っていたのか…!?
 …そうか、
 やはり本田ミナから情報を得ているのは本当のようだな」
「彼女は積極的に情報を提供してくれたよ。
 あの男がSFESのセンサーだと分った以上、
 それを逆手に取ればいいだけの事だからな。
 尤も、彼自身それは承知の上で今日この作戦に参加している。
 まぁ、念のため101便関係者は作戦開始直前までは面会は控えてもらう」
自分の意思でそうしているのではないから、
スパイではなく、あくまでセンサーという言い方をしたのだろう。
ならば、本田ミナも彼等にとっては言わばセンサーなのかもしれない。
「では、作戦開始まで約2時間、
 自由にくつろいでくれたまえ。
 あぁ、そうだ、フライフラット・エース君はA+のプロだったな。
 ちょっと話が……」
そう言って、ウェッブ博士はなぜかエース一人を連れて部屋を出ていった。
プロギルドに関する事だろう思って、特に気にすることはなく、
タカチマン達は鼻で溜息を吐きながらソファーに体を沈めた。
その中、直に二人が席を立った。
「俺ちょっとアルベルトってヤツ見てくる」
「俺もだ」
ツヨシンとエドワードだ。
お互い初対面で、「何の用だ?」と言う風に顔を見合わせながら、
二人は監視の黒服に連れられ部屋を出た。
二人はアルベルトとも面識はない。
オマケにキメラという者を見るものも初めてだ。
二人とも互いの表情でそれが何となく解った気がした。<Rel3.tougou-a1:2>

執筆者…Gawie様


二人の予想に反し、
アルベルトの部屋はタカチマン達と同じクラスのスイートルームで、
その部屋に待っていた男も、別に見た目は人間と何も変わらなかった。
アルベルトはツヨシン達に目線を合わせることなく、
部屋の中央の空間を見据えたまま、
今の彼の立場を端的に表すような台詞で言った。
「今は視覚を遮断しているが、足音で大体判る。
 名乗らなくていい。
 何の用だ?」
その問いに、まずツヨシンが答えた。
「…俺の方はあるヤツからの依頼だ。渡す物がある」
ツヨシンはそっと近付いて、アルベルトの手に小さな何かを握らせた。
「カプセル…か?」
「匿名の依頼だ。
 まさかここで会えるとは思わなかったけどな。
 やっぱり同じ穴の類は友を呼ぶのかね…
 伝言をそのまま伝えるぜ。
 『そのカプセルを飲めば、一時的にお前は呪縛から解放される。
  しかしその間、同時にお前はお前の力を失う。
  最悪、命の保障も出来ない。
  その気があるなら心して使え』
 …だ、そうだ」
「そうか、分かった…」
「…って、それで分かったのかよ!?」
「あぁ、十分だ。
 君にも礼を言っておく、ありがとう…」
「な、ならいいんだけど…」
「で、そっちは何の用だ」
アルベルトに問われて、エドワードは言葉を詰らせた。
(…元SFES…キメラ…)
 …お、お前は元……
 実は俺も……」
「…足音で少しは判る。
 訓練を受けたな…
 お前の体にも俺と同じ様に……」
「解ってる…!
 (コイツが俺の末路か……
 それでも牙は折れてないじゃないか…ありがたい!
 俺もまだ戦える…)
エドワードはそれ以上何も言わず、
結局何も伝えることなく部屋を出て行った。
ただ、彼を捕らえていた何かが少し和らぎ、何となく足音も軽くなった様に感じられた。
その一方、
一人別室に招かれたエースは、<Rel3.tougou-a1:3>
執筆者…Gawie様

「フライフラット・エース君、君はオリュンポス山脈の遺跡…
 『仙人の地』と呼称される場所に立ち入ったな?」
ウェッブの部屋に連れて来られ、勧められるがままにソファーに付いたエースへ、
不意打ちの様な鋭さでもって叩き付けられたウェッブの言葉が其れである。
まるで悪戯を目撃されていたかの様な動揺を感じるエース。
基本として依頼内容を第三者に漏らして良いなどと言う事は無い。
何処から漏れた?何処からでも漏れるだろう。
依頼主に害は無いのか?どんな害があるというのか。
これは不利益となるのか?聞いてみなければ解らない。
一体、何の打算なのか?だから其れを聞かなければならないのだ。
経験の浅さ故、混乱のあまり沈黙してしまったエースを見、
彼が警戒しているものと思ったウェッブが多少口調を柔らかくして話を続ける。
「そう警戒するな。実はワシ等もあの辺りに眼を付けておってな。
 君のトコの店に遺跡調査の依頼も出したぞ?君は居なかったみたいだがな。
 まあ其れは置いてだ…
 イオルコスの獣人と君が一緒に山へ入った姿が目撃されている。
 ワシの手の者も山に入ろうとしたのだが…霧のようなものに撒かれてしもうた」
(…成程、其の人達は試験脱落という事ですか…)
件の仙人が試験と称して入って来た人間に幻覚を見せている事は解っている。
其れで尚、ウェッブ一味が撒かれてしまったという事は、
仙人が入山を認ない手合いであったと判断したと見て間違いはないだろう。
「で、件の霧を分析してみた結果、古代火星文明のナノマシンである事が判明した。
 一種のエーテル機構でもって人間の頭に何らかの干渉をしているらしいのだが…
 …君が山へ行った時、何か気になった事など無かったか?」
頭への干渉というのは記憶を読み取られたアレであろうか。
そして其の霧は古代火星文明のナノマシン…
エースは仙人の正体を精霊神やら其の類と推測していたが、
単独でそんなものを扱える精霊神など存在するのだろうか?
当然の事ながら信仰心によって誕生した精霊神とは、
其の信仰が始まってこそ初めて存在を許されるモノ。
そして其の存在が表層化したのは結晶到来後である。
滅んでしまった古代火星文明の機構を操れるようなものとは思い難い。
「いえ、特には」
「そうか、では次の質問だ……君は山で仙人と出会ったのか?」
「出会いました。併しイオルコスの人々も会っているみたいでしたよ。
 態々、僕に聞かなければならない様な質問とも思えませんけど?」
そう、こんなトコロで態々切り出すからには相応の意味があるに違いない。
ウェッブ達とてイオルコスで情報収集は十二分に済ませている筈なのだ
「いや、英雄でもある君からならば或いは別の情報も得られるかと思ってな。
 其れに仙人を信奉しているイオルコスの連中には中々聞けないものなんだ。
 …仙人はロボットではないのか?などとはな」
「ロボット?」
「そう。仙人とやらが古代火星文明の機構を操作しているならば、
 そいつはまず間違いなく『守護者』だ」
「……『守護者』……古代火星文明の遺産でしたね」
「ほう、博識だな。
 其の通り。君から見て仙人はどうだった?
 首筋の辺りにジャッキ穴はなかったか?」
「いえ、良くは覚えていません。注意して見ていた訳でもありませんし」
「………ふむ、そうか。
 で、君は確か14、15歳…だったか?子供と看做される辺りだな?」
もうエースには、このイワガ・ウェッブ…
火星帝政府立ロボット技術研究所長の立場にある男が、
どういう目的でもってエースに仙人の話を聞いたのかが解った。
「仙人の正体を突き止める依頼…ですか?」
「まあ、そんなところだ」
「済みません、スケジュールが入っていまして、
 僕一人で勝手に受けると決める訳にもいきませんから…
 この話は…イルヴさん達とじっくり相談した上でお返事させて貰います」
聖域を侵す様な背徳感がエースにこの様な嘘を吐かせた。
あの楽園と見紛わんばかりの光景を知っているからこそ、ウェッブの依頼は受け兼ねる。
(あれこそ僕が目指すべき『理想郷』…!
  其れを…こんな依頼で汚す訳には……)
「……では返答を待つとするよ。
 別にリゼルハンクを制圧し終えてからでも良いのだからな。
 白水イチオシの君ならば、きっと仙人の正体も暴けるものと思っているぞ」
「?ギルドマスターが…僕を……?」
「…………ワシが知らないと思ったか?碧きイノセント回収作戦の折の活躍を」 
恐らく、超結晶の起した波を粉砕した事を言っているのだろう。
だが公表すらされていないプロギルド内の情報を、
火星の一研究所長が手に入れている…先の話と併せて白水が教えたものに違いない。
「まぁ、人間の伝というものは何処にあるのか解らない…という事だ。
 少々理由があって白水とは協力関係にあってな…
 まあ良い…先程言った様、この話はリゼルハンク制圧後という事にしようではないか。
 …君にとってもそう悪い話にはならない事請け合いだ」
ウェッブ博士の其の科白に思い当たる節でもあるのか、
目を細め、声のトーンを落とし…威嚇する様にエースが問う。
「………どういう意味ですか、其れは?」
「君自身が一番良く知っていると思うがね」
動じずに泰然と返すウェッブ博士を見、
苦虫を噛み潰したような顰め面を一瞬浮かべ…
「……失礼致します」
…と言い残し、素っ気無く其の場を後にする。
「はは、解り易いな。A+とはいえ子供か。
 ……そうだ…リリィ、本田ミナが言っていた事が本当であるなら…
 ヤツとも少しばかり話をしてみなくてはな」<Rel3.tougou-a1:4>
執筆者…is-lies

一方、部屋で武器の手入れをしているタカチマン一行の方も、
やはりというか陰鬱な空気をそのままに黙々と「其の時」が来るのを待っていた。
まず沈黙を破ったのはナオキングである。
「もうそろそろですね…タカチマンさん」
「…ああ、全ての決着がつく。
 恐らくレイネは私一人を狙ってくるだろう…そうなったら私が奴を迎え撃つ。
 隙は私が作るからお前達は英雄イルヴの隊に合流しろ」
「オイオイ、博士?
 幾らヤツと顔見知りだからってな…そりゃ殺されるぜ?」
柄にも無くキムラがタカチマンの身を心配する。
直接戦ったからこそSFESの戦力は嫌というほど解っている。
中でも狡猾さと残虐さが際立ったゼペートレイネを一人で相手するというのだから、
気にするなという方が無理な話であった。
「安心しろ。勝機も無い争いなどしない。
 其れに…奴との因縁は私自身の手で断ち切らねばならない」
「………僕はこの戦いを生き延びます。
 だからタカチマンさんも必ず、生きて戻って来て下さいよ。
 …僕はまだまだ未熟で…タカチマンさんが居なければ何も出来ないんですから!」
「フッ…当たり前だ。戻ったら一層コキ使ってやるから覚悟しておくと良い。
 ところでキムラ、怪我の具合はもう良いのか?」
「ああ、SeventhTrumpetで治療を受けた。いつでも戦える。
 ……少しばかり御布施するハメになったけどな」
サリシェラによって折り曲げられたキムラの腕は、
其の痕跡も残さずに完治されていた。
銃を構える速さも其の照準の正確さも、101便事件時そのままの水準を維持している。
キムラは腕を折られたあの瞬間を思い起こしながら、イメージトレーニングを重ねた。
だが、イメージの中でさえ、サリシェラの動きを捉える事は敵わなかった。
それでも、迷わず、唯相手より素早く引き金を引く事、
キムラはそれだけをイメージに叩き込んだ。
何しろ、突入後の事は誰にも分からない。
ここであれこれ議論する者もなく、
皆キムラの様に、目を閉じ、決意と最初の一撃だけに意識を集中させた。
そして、作戦開始までの2時間があっという間に迫っていた。
「では、皆様、朝食の準備が出来ましたので、
 こちらへどうぞ」
アルベルトの他にも、何故かエドワードも作戦開始直前まで一人でいたいと言い出したので、
それ以外の11人は、黒服に連れられ別室に通された。

 

テーブルの上には朝食というにはボリュームがあり過ぎる豪華な食事が並び、
その向い側には、ロングコートに長い銀髪を垂らした若い男が一人。
派手な装飾品こそ身に付けてはいないが、
そっと立ち上がって両手を差し出し、タカチマン達に着席を促す動作からも、気品の高さのようなものがさり気なく表れていた。
紹介されなくても誰であるかは直に分った。
この作戦の指揮者で、火星帝の隠し子と噂されたシュタインドルフ・フォン・シルバーフォーレストである。
どこか火星帝の面影もある。やはり火星帝の隠し子というのは本当のようだ。
「お初にお目にかかります。英雄殿。
 シュタインドルフ・フォン・シルバーフォーレストと申します」
「殿下、その英雄というのはやめて頂きたい。
 私達は別に、世界のために何かを成した訳ではないのですから」
仮にも火星帝の息子にそう畏まられては、タカチマン達の居心地の悪さも、表情だけでなく口に出てしまうというものだ。
「これは失礼。
 では私の事も殿下というのはやめて頂こう。
 察しの通り、私は火星帝の子、隠し子ですが、
 皇位継承権はありませんし、継ぐつもりもありません。
 そう、言うなれば我々は同志。
 本田ミナ様の理想を実現するための騎士というわけですね」
「殿下…、いやシュタインドルフ殿。
 そういう風に言えば聞こえは良いが、
 一歩間違えればこれはクーデター、いやテロですぞ?」
「ハハハ、確かに、
 そうかもしれませんね。
 考えてみればテロリスト共も命を賭して、
 その理想のため、正義と信じるもののために暴力を振るう。
 今、理想を語るのは止めておきましょう。
 ですが、忘れないでください。
 我々の敵、SFESは世界を牛耳る悪の元凶…
 火星帝もアメリカ大統領も、それを必要悪として利用するつもりが、
 逆に利用されていることに気付いてはいない。
 それは貴方方が最もご存知でしょう」
言葉尻を捕らえるつもりはなかったが、
同志だの理想だの騎士だの… 結果的に暴力であるものを、
そういう浮世離れした理想論で語る者は危険である。
イルヴはシュタインドルフに対する第一印象をそう捉えた。
だがそこは、シュタインドルフも役者であった。
そうだ。SFESさえなければ…
その気持ちが一同の中に一層湧き上がった。
「さ、どうぞお席へ。
 作戦では食中毒になってますが、
 勿論毒など入ってはいませんので」<Rel3.tougou-a1:5>
執筆者…is-lies、Gawie様
「最後の晩餐… いや朝食か…」
「バンガス!縁起でもないこと言うな。
 食えるときは食っとけ」
タダ飯とくれば、張り切るのはユーキンだ。
メンバーの中で一番足手まといであるのも気にせず、
最初に料理に手をつけ、行儀悪く食い散らかし始めた。
「…では、遠慮なく頂くとするが、
 私は朝からそんな食欲はないのでな」
と、タカチマンは、深めの皿を取り、そこへライスを移し変え、
懐からお茶漬けの元を取り出し、豪華な食卓を前に一人で茶漬けをすすり始めた。
「そうだ。
 リリィ君とジョイフル君にも何かやらんとな。
 流石に人間と同じ食事はとれまい。
 どれ、随分と碌なメンテを受けておらんじゃろ?
 作戦開始までワシが少し診てやろう」
ウェッブ博士がそういってリリィ達に近付いた。
「んんぅ?…これはこれは……
 流石はタカチマン博士ご一行様といったところか?」
両目の多機能スコープを調整しながらまじまじとリリィを眺め、
漸く、自分の出る幕が無い事を悟る。
タカチマン博士やリュージといった超一流技術者の業は、
ロボット技研の所長であるウェッブ博士をも唸らせるに値した。
「…ドクトル・ウェッブ……」
「ん?ああ…流石に知っているか。
 …自分のOSの基礎を創り上げた男の名は」
リリィの呟きにウェッブ博士がわざとらしく言い放つ。
「………お嬢様から聞いたのですね?」
「ああ。彼女は実に協力的だったよ。
 此方の質問にも淀み無く答えてくれた。
 これも全て、火星を思うが故…か。立派じゃないか」
「………」
「ところでだ…リリィ君、君に幾つか質問がある。
 なぁに、君に不都合なものなど何一つ無い」
ウェッブ博士が出した質問は今回の作戦にも全く関係の無い、
心理テストの様な因果関係のハッキリしない質問ばかりであった。
特に何の感慨も無く淡白に回答を続けるリリィ。
「うーむ…
 …これは……聞いた通り…自我が相当発達しておる……
 予想されていたとはいえ…非常に稀有な例だ」
何やら思案顔で明後日の方向を向くウェッブ博士。
今の質問で何らかの貴重な情報を得た様ではあるが、
心理的なものへの知識が不足しているアンドロイド・リリィには、
其れが何であるかまでは理解するに至らなかった。
「…自我…ですか?
 私は宗太郎様の命令に従っているに過ぎませんが?」
「…いや…まぁ、君がそう考えるなら其れは其れで良いがね。
 時間を取らせてしまったな、」

 

「やれやれ…嘗ての敵と行動を共にするとはな」
ウェッブ博士と会話しているリリィを横目で盗み見しつつ、
そう不味くも無い朝食を突付いてイルヴが溜息を漏らす。
嘗ての大名古屋国大戦で敵対したリリィと一緒になる事に対し、
多少の不安…不満もある様ではあるが…
向かいの席に座る『青』の意見はまた違っていた。
「別に良いんじゃないんすか?今敵でないんなら」
「…お前も相変わらずだな…
 ……ところで、あの遺跡から帰った日…
 …ワシは何の用事で外出したのだったか?」
「…ちょ…イルヴさん、今頃ボケ始めたなんて言うなよ?」
『青』が答えるよりも早く、室内にチャイムが響き渡った。
「……食事の終了…即ち作戦開始か?」
《乗客の皆様にお知らせ致します。
 ただいま本船で急病人が発生しました。
 緊急搬送のため、軍用機が着船します。
 乗客の皆様は暫くお待ちください。
 尚、患者収容後は予定通り航海を続けます。
 当クルーズに変更はございません。
 繰り返します……》
「…今考えても仕方ないか。
 よし、いくぞ」
イルヴは何か大切な事を忘れているような気持ちの悪さを振り払い、
意識を切り替え、立ち上がった。
同じく一同も、気合の一声を飲み込みながら一斉に立ち上がり、
ウェッブ博士達をも圧倒させるような静かな闘志が一気に室内を満たした。
執筆者…Gawie様、is-lies

快晴の朝の空に響く軍用ヘリのタンデムローターの音が、
英雄達の心音のリズムを煽り、彼等の闘志を一層鼓舞する。
一同は他の乗客からも急病人らしく見えるように、
頭からスッポリと毛布を被り、次々にヘリに乗り込んだ。
逸る気持ちは更に時間の経過を短縮し、
ヘリが飛び立ってからは、映像を早送りするように周囲の景色が過ぎ去り、
アテネのビル群の先に一際目立つリゼルハンク本社ビルが迫った。

 

「見えた。リゼルハンクだ」
「これほど昂ぶるとは…
 私の初陣…
 君達と共にあることを誇りに思うぞ」
シュタインドルフが呟いたその一言に、
全員「ちょっと待った」と思わず睨みつけた。
「ちょ、初陣って!?
 で、殿下!?
 いきなり何を仰るのですか!?」
徐にパラシュートを選んでいるシュタインドルフに、
南天が慌てて問質した。
「私が死んでも、本田ミナがいる。
 何の問題もない。
 それに、私とて格闘術の心得はある。
 英雄達に遅れをとるつもりはない」
シュタインドルフは大胆に言ってのけた。
指導者として頼もしい限りではあるが。
「皆、武運を!」
(ただのボンボンではないか。
 これが演技であるなら、大した役者だ)
一部、単独で飛行能力のある者以外、
全員がパラシュートを装着した。
(レイネ…今行くぞ)
(SFES…放ってはおけない)
(なんかよく分んないけど、
 とにかくこれで決着がつくんだ)
(…誰よりも先にサリシェラとクリルテースを見つけて、
 まずは話を付けないとなぁ……)
 …ッしゃッ! お先に!」
降下地点目前、
まだ数百メートルの距離があるにも関わらず、
真先に飛び出したのは青だ。
「相変わらずだなぁ。
 先行しすぎて自滅するなよ!」
青は両腕をジェット機関のようなものに変形させ、
リゼルハンク本社ビルの最上階を目指し、急降下で突撃した。
巨大な建物が青の目前に迫る。
目測を誤ったのか、青は軌道をやや上に修正しながら尚も突き進む。
だが、青が建物の巨大さに気付いたときには、
その巨大な壁が覆いかぶさるように青の行く手を阻んだ。
青は逆噴射で体勢を立て直すが、壁が迫る勢いは止まらない。
「うお、しまった。勢いつけすぎたか!?」
いや、そうではなかった。
青が目測を誤ったのではない。
あり得ないことだが、迫ってきたのはビルの方だったのだ
気付けば、リゼルハンク本社ビルそのものが、
まるでタカチマン達の乗るヘリに体当たりでも仕掛けてきたように高く舞い上がっていた。
「いかん!
 緊急回避!」
タカチマンは慌ててヘリを回避させた。
「リゼルハンクってスゲェー!
 ビルごと攻撃してきたぞ
「そんなバカな事があるか」
ヘリを旋回させつつ、一同はその信じ難い光景に息を呑んだ。
空に舞い上がった巨大なビルは、所々で放電しながら、
ゆっくりと力を失うように降下を始めた。
まるで巨人の断末魔のような轟音にアテネの街が震える。
ビルは崩れながら本来あるべき場所に再び着地すると、
爆風と爆煙で周囲の建物をも飲込み、
そして、跡形もなく瓦礫と化し、地に伏した。
「え………?
 な、何…………?」
「リゼルハンクが…崩壊した…」
行き場を失った闘志が、気力を奪いながら失せていく。
英雄達は眼下の惨状をただ呆然と見つめるだけだった。
「…どういう事だ。
 私はまだ何も命令はしていないぞ!
 どうなっているのだ南天!?」
「は、はい、えぇ…
 間違いなく地上の部隊はまだ待機中でした。
 しかし、現在は全く連絡がとれないので、状況は何とも…」
「まさかこの作戦に気付いて、
 アイツ等とうとう自爆でもしたのか」
「いや、それこそ有り得ん。
 少なくともSFESは、たとえ世界を敵に回してでも、
 あくまで勝つつもりで戦う事を選択するはずだ」
「しかし、こんな事が出来るのは…
 いや、仮にいたとしても、
 それなりの組織…
 我々の今回の作戦のように、
 後ろ盾がなければ唯のテロに終わるだけだ」
(まさか…
 例のセレクタとかいう連中の仕業か…
 こんな事になるとは…聞いてないぞ。リヴァンケ…)
「…兎も角、シュタインドルフ殿。
 こうしている訳にもいかない。
 地上の部隊には周辺の救援を急がせた方が良いのでは?」
「そ、そうだな。
 では我々も地上部隊に合流しよう。
 君達は引き続きSFESを警戒してくれ」
「うむ、これで滅ぶような奴等とも思えない。
 直接、この手で息の根を止めるまでは…」

 

SFESに対する電撃作戦の予定が、
ここまでの大惨事になってしまっては、
シュタインドルフも本来の立場に戻らざるを得なかった。
執筆者…is-lies、Gawie様
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