リレー小説3
<Rel3.常盤貞宗1>

 

  火星内某所

 

どれくらいそうしていたのだろう。既にゼロの姿は、夜目の利く彼でも見えなくなっていた。
辺りは、暗黒と静寂のみが支配していた。それを打ち破ったのは、繰り返される機械音。 
「…はい。」 
《…始末できましたか?》
「…いいえ、失敗しました。」 
《…なんだと?》
「聞こえなかったのか?任務は失敗だ。」 
《キサマッ…》
まだ何か言っていたようだったが、残りは聞こえなかった。 
無論、電話を切ったためだ。
これで彼も命を狙われるかもしれなくなったが…そんなことはどうでもよかった。
「いつかお前は俺が殺す…ゼロ、お前の言う通り、また会いたいものだな。
 だが、形は変わらんよ、『殺し合い』という形はな。」

 

そう…任務など関係ない。お前を越えてやる
執筆者…you様

  火星アテネ 
  リゼルハンク本社・社長室

 

舌打ちしながら携帯電話を地面に叩き付ける男。 
衝撃でバラバラになる携帯電話。 
其れを気にも留めずに男は、隣の『専用』とプレートの提げられたドアを開ける。 
暗く、異臭漂う部屋の中には、老人や子供が大勢収容されていた。 
皆、眼に絶望を映し、俯いたまま何もしようとしない。 
男は壁にあるボックスにカードキーを通し、 
中からトゲの付いた鞭の様な代物を取り出す。 
一目で解る拷問道具であった。 
地に伏す老人や子供に。其れを何の躊躇も無く振り下ろす男。 
短い悲鳴が響くだけ… 
此処の彼等は既に理解していた。 
男に逆らってはいけない。男を挑発してもいけない。 
男が満足する様、自分達は耐えていれば良い。 
下手に演技すれば飽きられ、無残に殺される。 
男の残虐さ…非情さを、彼等は身を以って理解している。
これが男…表の顔は多角企業リゼルハンク社長…
裏の顔は非合法組織SFES総裁『ネークェリーハ』のストレス解消法である。
弱者を甚振り、喘がせ、虐げる時の快感は全ての不快を吹き飛ばしてくれる。
無能なクズ共は自分に逆らえずに耐えるのみ。 
其の様を嘲笑し、罵声を浴びせるのが彼最高の愉悦であった。 
目の前で両脚を抱えて座っている少女を見付け、 
彼女の背中を踏み付ける。背骨が折れる直前で退いてやる。 
病によって立ち上がる事すら出来ぬ老人の首を絞め、窒息寸前で離す。
何も理解出来そうに無い赤子をも死なない程度の力を込めた拳固で殴る。
この空間内では自分は神。 
足元の這い蹲るウジ虫は、自分の為に生きている。
其の考えが彼を満たしてくれる。 
執筆者…is-lies

 火星内某都市

 

「うわぁっ!人が倒れたぞっ!」 
「誰か救急車をっ!!」
 「ダメだっ!もう死んでる…!!」 
人であふれかえる大通り。突然、人が倒れ死亡したことで、混乱する人々、
そんな中、その混乱に乗じるようにして路地に消える一人の男が居た。 
「…」
「派手にやるなぁ、おい。」 
「…か。」 
一瞬、突如掛けられた声に驚きの表情を見せたが、
声の主が知り合いだとわかると、常盤はいつもの無表情に戻った。
「白昼堂々の暗殺は俺の専売特許だぜ?」 
積み上げられた箱の上から、冗談っぽく言う長いコートを着た男、D。
「お前の冗談に付き合う気は無い。」 
「へっ、相変わらず冷たい奴だな。まあ、いいさ、俺も暇じゃねぇ。」 
そう言うとDは、一つの封筒を常盤のほうへ落とした。 
それを受け取り、すぐに封を開ける常盤。
「さすが、仕事が早いな。」 
「情報屋Dの情報網を甘く見んなよ。」 
「…。」 
しばらく封筒から取り出した紙に目を走らせ、驚いたような表情になる。
「いやぁ、俺も調べてて驚いたわ。
 お前、そんな奴とやり合ってよく無事だったよな。」 
「なるほどな、あの異常なまでの戦闘センスは、持って生まれた才能というわけか。」 
「俺は実際見たことねぇけど、
 そのプロフィールを見るだけでも敵いそうにないわな。」 
「関係ないさ。」 
「あ?」 
「こいつがどんな才能を持っていても、関係ない。
 そうだな…一ヶ月後、越えてみせる。
 あの時、俺にトドメをささなかった事を後悔させてやる。」 
「おいおい、わざわざ理由もなくケンカふっかけることはねぇだろ。
 プライドがどうだので、命を落としちゃ元も子もないぜ?」 
「ふん、お前には関係ないだろう。」 
「はいはい、言うと思ったぜ。っと、そろそろ時間か。
 俺は依頼があっから、そろそろ行くわ。じゃな。」 
「ああ。」 
「そうそう、『それ』は貸しにしとくぜ。」 
そう言って、箱から跳び降り、Dは雑踏へと消えた。
「一ヶ月…ゼロ、一ヵ月後、お前を倒す…!」 
呟き、Dとは逆方向へ歩み出す。

 

 

同時刻、同都市

 

「…ん?」 
「どうかした?」 
急に足を止め、ふと視線を横に向けるゼロ。
グレイが追った視線の先には、薄暗い路地があり、ロングコートの男がこの通りへと出てきた。
「いえ、今誰かに名前を呼ばれた気がしたのですが…まあいいでしょう。」
執筆者…you様
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