リレー小説3
<Rel3.タカチ魔導研究所3>

 

 

ハウシンカ達は沸いて出て来る追っ手を撒きながら車へと向っている。 
多少の手傷はあれど其の俊足は損なわれていなかった。 
だが流石に重傷の上に気絶したブラストを背負ったまま、 
何とか走っているローズはそうもいかない。 
横からポーザが手を貸してくれてはいるものの、 
やはり大幅なスピードダウンは否めない。
「ふぅ…良くやったねブラスト… 
 ちょっと見直したわ」
「うんうん大儀であった。 
 取り敢えずはこれで超結晶をタカチマン博士に渡しゃOK」
停めておいた車へと乗り込み、早速出発させる。 
運転はジルケットに任せ、ハウシンカは助手席に座り、 
ローズとポーザは後ろの方でブラストの応急処置を始める。 
色々とあったが其れももう終わり。 
今はブラストをゆっくりと安静にさせておくだけだ。 
だが、後ろの光景を見て、 
ローズは自分のそんな考えが通用しない事を知った。
数台の車とコンテナ車が暗殺者達の車を追って来ている。
「マジで!?ったく、しつっけーやつら! 
 これからタカチのだんなんとこ行ったら一杯引っ掛けようと思ってたのにぃ!」 
ハウシンカが呆れたような口調で後部の車両を見やって言う。 
「まずいわね、追いつかれたら今度こそ打つ手無しよ。」 
苦々しげにローズが呟く。 
先程の激戦ですでに戦力外になったブラストを抱えた状態で戦えば、
絶対不利になる事は目に見えていた。
「とりあえずどうするか考えよう、まずはそれだ。」 
冷静に場を取り持つポーザ。 
「とにかくジルケット、フルスロットルで頼む。 
 あとローズ、シートベルトでブラストを固定しろ、 
 できるだけ振動と衝撃からブラストを守るんだ。」 
後部座席から指示を出す。 
「わかったわ。」 
言うとすぐにローズがブラストの処置にあたる。
「さあて、ぶっ飛ばすぜ、振り落とされんなよッ!!」 
言うやジルケットはアクセルをべた踏みした。 
暗殺者たちを乗せた車は凄まじい勢いで道路を走る。 
だが、それに追いつかんばかりの勢いでなおも車郡は迫ってくる。 
「ちくしょう、これじゃきりがねえな。」 
ジルケットが舌打ちする。
…と
「将をインとホッスれば…なんたっけ? 
 ま、そういうことだよ、ちょっと待ってな。」 
助手席から後ろをひょっこりと見て、ハウシンカが言った。
そしておもむろに窓を開け身を乗り出すと…。 
「プレイボール!!」 
言うが早いか懐から何か取り出した。
…手榴弾である。
「第1球投げました!!」 
ピンを口にくわえてひき抜くと、
まるで野球をする少年のようにハウシンカはそれを後方の車輌郡に向かって投げた。
手榴弾はもろに先頭を行くコンテナ車のフロントガラスに直撃した。 
…と、間を置かずに凄まじい轟音と衝撃とともに 
コンテナ車がバラバラに吹き飛んだ。
「ちょっとアンタ何考えてるのよ! 
 ブラストが…!!」 
弟の身を案じて、ローズが食って掛かる。 
「まあいいじゃないの、敵さんの足は止めたんだから♪」 
舌を出しておどけるハウシンカ。
「いや、そうでも無さそうだぞ。」 
後部座席から外を見やり、ポーザが呟いた。 
それにならって外を見る一同。 
…皆、同時に息が止まった。
「あーら、すんごい助っ人さん連れてきちゃってらあ。 
 こりゃちょっとおいたが過ぎたわね〜…」
バラバラになったコンテナ車の破片と煙を割って現れたのは、 
巨大な四足獣… 
だが其の四肢の先には、燃え盛る車輪が付いており、 
四つん這いの姿のまま恐ろしい勢いで暗殺者達の車を追って来る。
「…バーニング・ホイール……! 
 直ぐに高速道路に入るとはいえ、 
 こんな街中でンなドデカい生体兵器を出すかぁ?」 
ジルケットの疑問は尤もである。 
バーニング・ホイールは現在確認されている魔物の中でも、 
エネミー・クロウラーやアシュラに次ぎ、かなり巨大な種類に入る。 
街中で運用するには目立ち過ぎるのだ。
「……いや、これは………!!」 
ポーザの呟きが終わるか否かの間に、 
バーニング・ホイールの悠に3mはある巨体が、 
徐々に透明になり、遂には跡形も無く消えてしまった。
執筆者…is-lies、錆龍様

  SFESベンツ内

 

「マドモアゼル、リトとバーニング・ホイールが出ました。 
 暫し静観してみますか?」 
葉巻を咥えながらベンツを運転しているオールバック中年が、 
後部座席で踏ん反り返っているゼペートレイネに言う。
「レギン、アタシはマドモアゼルなんて年じゃないわ〜」
「……そういう返事が来たのは博士が初めてです」
「あら?そぉ?ふっしぎー。
 まあ良いわ。静観なんて余裕こいてたら駄目ねー。 
 今の手榴弾の威力だってかなりのモンだし、 
 こっちも出し惜しみ無しは極力ナッシング。 
 ヘプティとヴィーリも出しちゃいなさいな」
「了解。ヘプティ、ヴィーリ、出てくれ」 
運転手レギンが通信機で指示を出したのと同時に、 
前方の車輌の左右ドアが開き、2人の少女がひょいと跳び出る。 
彼女等の足が流れる道路に接する直前に、 
其の踵の部分から強烈なジェットが噴射され、 
あっと言う間に前方の暗殺者達の車へと向って行った。
「リトと其の透明化の能力で消えたバーニング・ホイール、 
 Sラーバとの試験共生を試みたレギオン2名… 
 ……まだちょい不安かもね。 
 レギン、アタシ達も急ぎましょ」
「了解。シートベルト…は博士に必要ありませんね」
執筆者…is-lies

「こんな夜中にあんなでッけえ化け物と追いかけっこかよ。 
 しかも男だか女だかわかんねえガキンチョのおまけつきなんてよ。まったくついてねえや。」 
ジルケットが舌打ち混じりにもらした。
すでに後方からヘプティとヴィーリ、そして姿なき巨大な追跡者が暗殺者たちに迫っていた。 
「止ぉーまれーーーーい! 
 もうチミ達、逃げられないんだよーん!」 
妙にふざけたヘプティの声がすぐ後方から聞こえる。 
「だめ、もうすぐ追いつかれるわ。 
 ジルケット、もう少しスピードでないの?」 
「あいにくこれがフルスロットだぜ。
 つうか普通に考えてレギオン連中相手にこんなポンコツで太刀打ちしようってのが無理な話だ。」
…たしかに無理な話である。 
二人の追っ手の足に装着されているブースターは音速走行可能な代物なのだ。 
いわば一般車輌とF−1のマシーンとの競争なのである。 
そうこう話しているうちに…
ガシャーン!!
車の後部を凄まじい衝撃が走る。 
「な、なに?!」 
後部座席で気を失ったままのブラストを抱きしめ、ローズが叫ぶ。 
「これは…。」 
後ろを振り返ってポーザが呟く。 
…何かに衝突されたように車の後部がへこんでいる。 
さらにもう一発、大きな衝撃が暗殺者たちを乗せた車を大きく揺るがした。
「くそ、バーニング・ホイールかよ。」 
バックミラーに映ることなき追跡者を見やるジルケット。 
「どうするの?このままいけば私達、車ごとあの世行きよ?」 
ローズがもらす。 
…と 
「車ごと…?」 
ポーザが何かに気がついたように呟いた。 
「みんな、シートベルトを外せ、すぐにでも逃げられる用意をするんだ!」 
ポーザが後ろを見やって叫んだ。 
「っつっても逃げ出したあとどうすんだよ、 
 ガキ共も追っかけてきてるし、すぐ後ろにゃあ化けもんがいるんだぜ。」 
ジルケットの言葉で、ポーザが一瞬考え込む。 
と…
「見えないんだったら見えるよーにすればいいじゃん?」 
まったく落ち着き払った様子でハウシンカが言い放つ。 
「な…! 
 見えるようにって…あんたね、こんなときにいい加減なこと…」 
「いや、あながちいい加減でもないぞ。」 
ポーザが前方に目を向けていった。
ポーザの目に、ひいては暗殺者たちの目には見えていた。 
前方に見える町並みに、はっきりと見える球状のタンクが。 
はっきりと黒い字でこう書いてある。
「コールタール」
「なるほど、さすがはリーダー、考えたな。」 
ジルケットが面白くてたまらないと言う表情を浮かべる。 
「あのガキどもも多分一緒に突っ込むっしょ。 
 車はきゅーには止まれない、だもん。 
 おねーさま、脱出のときはワイヤー宜しく。 
 あたしたちまで真っ黒けになったらシャレんなんないから。 
 時代は美白だしねv
ハウシンカがウィンクして見せた。 
「9回裏、大逆転と行きますか、ってか? 
 そうときまりゃあ行くぜ!!」 
ジルケットは再びアクセルをべた踏みした。
だが其れよりも早く既にレギオン・ヴィーリが跳躍し、 
暗殺者達の車へと飛び乗っていた。
「きゃっはー!いっちばんのり〜!!」 
笑いながらヴィーリが伸ばした警棒を振るう。 
リアウィンドウが一撃で叩き割られるものの…
「失せな」×3 
「はへ?」 
ハウシンカのトカレフ、ジルケットの銃弾、ポーザの投げナイフが、 
ヴィーリの頭部を消し飛ばしただけでは飽き足らず、 
其の小柄な体を車体から吹き飛ばす。 
地面をゴロゴロと転がるヴィーリだが、 
彼女がバーニング・ホイールに轢かれた様子は無い。
「…バーニング・ホイールは今は左右どっちかね。 
 正確な場所って解る?」 
先程のヴィーリの攻撃からブラストを守る様に抱きかかえたままローズが言う。 
だが流石の鉛雨街の3人でも、走行中の車の中、 
しかも追っ手は同じ方向から攻めて来ている。 
大雑把には何とか解るが、正確な場所となると難しい。
「…コールタールは出来るだけ派手に…広くブチ撒けられた方が良……」 
言い掛けてジルケットの視線がバックミラーへと釘付けになった。
「あーあー、これだから化けモンは… 
 なんつーのかねぇ…喧嘩の妙ってもんを弁えてないね。 
 …頭吹っ飛ばしたんだから素直に死んどけって」
ハウシンカの科白を聞き、漸くローズは鳴り響く金切り音に気付く。 
巨大な鉤爪で道路を引っ掻き火花を散らせながら迫って来ていたのは、 
今しがた頭を吹き飛ばしたヴィーリであった。 
両腕から先は歪に膨れあがり、研ぎ澄まされた刀の様な爪が生えており、 
損失した頭部も脳や眼球が既に形成されている。
「ヒョ…ヒョクホヒャッハヒャー!! 
 ナマカワハイデ、ドタマ丸齧りィーーーッ!!」 
喋っている間に既に彼女の口は元通りになっていた。
101便内でタカチマン達を苦しめた生体兵器Sラーバだが、 
其の能力は飽く迄も単体である時のものであった。 
全く異なる生物が使用して初めて全ての力を揮えるという、 
セイフォートとしての力は其処に無い。 
だが併し、試験段階であるとは言え、 
人間と共生可能なSラーバを得たヘプティとヴィーリは違う。 
最早、あらゆる魔物をも凌駕する復元能力を獲得していた。
「1人だけにしときなよ〜 
 残りは口割って貰わないとネ☆」 
言いながらヘプティが其の移動能力を最大に発揮し、 
一瞬で車の前へと回り込んで来る。
「っ!?」 
流石のジルケットも意表を突かれた。 
一瞬、其のまま轢いてやろうかと思ったが、 
其れだけで済む様な相手でない事は先刻承知。 
考える暇も無く急にハンドルをきる。 
つい先程まで走っていた車線上に、
ヘプティの能力か…無数の槍の様なものが出現したのを見、 
ジルケットは己の勘の冴えに笑みを零す。
併し既に其の間にヴィーリの方の接近を許してしまっていた。 
対応する暇も無く今度は横手から不可視のバーニング・ホイールによる体当たりが来た。 
だが今なら敵は全て車に集中している。 
ジルケットは何とか車を制御しつつ、 
其のまま車をコールタールのタンクへと突っ込ませた。
執筆者…錆龍様、is-lies
直前で後方の電柱に巻き付けたローズのワイヤーで脱出した一行は、 
其の背後で、先程まで乗っていた車が派手にタンクへと突っ込んだ音を聞く。 
…次の瞬間には彼女等を巻き上げられているワイヤーの動きが止まった。
「!?」 
「なぬ…?」 
「…ッ……」
空中で回転し、何とか着地した暗殺者達の前には、 
もう既に2人の追っ手ヘプティとヴィーリの姿があった。
「ボク達スピードあるからねェ〜 
 ……直前まで引き付けて自滅を誘う… 
 チミと同じ事した相手、今まで何人居たと思ってるぅ〜?」
「チミ達まさかボク達と心中する積もりでもあるまいしさァ〜 
 ……逃げるって解ってりゃ其の最中を狙えば狩り易いもんネ」 
どうやら彼女等はコールタールの罠にまでは頭が回っていない様だ。 
2人の背後にはタールを少なからず浴びたバーニング・ホイールの巨体が、 
虚空に其の輪郭を浮かび上がらせていた。
一応、作戦は成功した訳である。 
相手がドヤ顔で喋っている内にバーニング・ホイールだけでも片付けるべく、 
ポーザが広範囲に渡り等間隔にナイフを投擲した。 
軽々と回避するヘプティとヴィーリだったが、 
バーニング・ホイールの巨体では其れを避けるのに少々無理があった。 
空中に幾つものナイフが突き刺さるのと同時に魔物の呻き声が響く。 
致命傷ではないだろうがそうそう派手に動き回る事は出来ない筈だ。
「…あ゛……これってコールタール? 
 ははぁん、ハメられちゃったって訳かぁ」 
「あーんな状況で良く頭回るね〜 
 でも決定的じゃないんだよ〜ん」 
言いながらヘプティが左手をローズ達の方へと向ける。 
其の手の甲が上下に分かれ、中から現れた幾つもの銃口から、 
今、ローズのワイヤーを切ったエーテルガトリングが発射された。
「散れッ!!」 
ジルケットの叫びと同時に暗殺者達が左右へと分かれ、 
無数のエーテル弾は其の背後の壁を蜂の巣にする。 
ヘプティ達が相手の姿を確認しようとした時には、 
既に其の場に暗殺者達の姿は無かった。
「あーあー、むぅだな事しちゃってさァ〜 
 こっちにゃ増援なんてゴロゴロあんのにィ〜」 
「ま、いーやー。 
 サウジでやった暗殺者狩りの続きやろー!」 
「やろやろー! 
 多く生け捕りにした方が勝ちね〜」 
踵のブーストを発揮して周囲を跳び回り、 
暗殺者達を探す2人の姿は最早人間の肉眼では見えない。 
彼女等はあっという間にジルケットに追い付いていた。
「1人みっけー。 
 直ぐ近くの高速道路じゃなくて路地裏ってのがナイス。 
 見渡し良いとすぐに追い付かれちゃうもんね〜」
「ジルケットちんは大人しく捕まってくれるよね? 
 今更ジタバタする程アフォじゃないよね?」 
いやらしい笑みを浮かべながら近寄る2人に対し、 
だがジルケットは全く狼狽えもせずに禍々しく笑んで見せた。 
其れは血に飢えた野獣が漸く獲物にありつけたという喜びの笑み。
「へっ、結構これでも今日は粘ったからな… 
 ……やっぱ役得だよなぁ……こうゆーのがよォ?」
瞬間、爆発的に増大する殺気を感じて2人が飛び退くが、 
其れでも回避するには至らず、脇腹が裂けた。
「な?何何何〜!?」
ジルケットが持っていた武器… 
其れは2本のバーに渡された握りから成る特異な短剣。 
カタールとも呼ばれるジャマダハルという武器であった。
「連中ならとっくに先に行って合流…トンズラしたぜ? 
 これで漸く俺は御預け解除って事だ。クククク…」 
血の滴るジャマダハルの刃を舐め殺人鬼は笑う。
「こんのォ〜!生意気ィ〜! 
 こちらヘプティ!ゼペートレイネ博士! 
 標的はC-7〜9経路で逃走中! 
 此方は眼の前の雑魚ふん縛って8経路で追跡します!」
ジルケットと2体の異形との戦いの幕が切って落された。
執筆者…is-lies
鉤爪とエーテル弾でもって確実に退路を塞いで来る2人… 
一方のジルケットはジャマダハルの2刀流で次々と攻撃をヒットさせる。 
だがジルケットが付けた切り傷は、 
異形達の復元能力で瞬く間に塞がれていく。
「むぅだむぅだむぅだぁあああぁ〜!!!」 
咄嗟に屈んだジルケットの頭上を、ヘプティの5爪が横薙ぎにする。 
風圧だけでも首が圧し折られそうになるのを感じるものの、 
怯む事無くジルケットはジャマダハルでの斬撃を続ける。
「無駄っつーてんのが解んないのかなァ〜!? 
 だったら其の悪い脳味噌ちょっと見てあげよー!!」 
ヴィーリは両腕を振り上げてジルケットに跳び掛り、 
眼下の獲物を一撃の下に叩き伏せようとする。 
だが其れよりも早くジルケットの神速の突きがヴィーリに極まった。 
併しヴィーリもヘプティも相変わらずニヤニヤとした表情を崩さない。 
何故なら彼女等は其の恐るべき再生能力で護られている。 
体が切断されようが頭を吹き飛ばされようが直ぐに復元される。 
だからこそ相手の攻撃を回避もせずに攻めに掛かれるのだ。
「油断したな?」 
ジルケットがヴィーリに突き刺したままのジャマダハルが、 
突如、其の刃を展開させ、ヴィーリの体を更に広く裂く。 
3股のジャマダハル…其れがジルケットの武器だった。 
更にジルケットの攻撃は続く。 
ジャマダハルを回転させる様にして傷口を抉り、 
蹴り飛ばして刃を抜き、相手が立ち直るよりも早く更に連撃を加える。 
徐々にヴィーリが血霧の中に消え、あっという間に原型を留めぬ肉塊となった。
「ちょ…ちょっと凄いかも……」 
残されたヘプティが冷や汗掻きながら呟く。
「でもジルケットちんがそんなモン隠し持ってたって解ったから、 
 ボクも簡単には喰らってあげないもーん! 
 其れに何だかんだ言ってもそんな斬撃じゃ、 
 ヴィーリもボクも殺しきれないよーっだ!」
「おめでたいなお前。 
 本気で自分が負けないって思ってるらしいな。 
 1対2だからか?再生能力に自信があるからか?」
「違うよ。 
 ジルケットちん強いけど、ボクも強いもん。 
 それとねぇ…」
「1対2じゃなくて!1対4なんだな!」
突如頭上に大きな影が現れたかと思うと、 
その巨体がジルケットを踏み潰さんと飛び降りてきた。 
ハウシンカ達が地下水路で倒したはずのベムブルだ。 
頭蓋半分が陥没しており、上腕部の開放骨折が見て取れる。 
やはりこの巨漢も再生能力をもっているのだろうか。 
これだけの致命傷を負いながらも平然としている。
「わ〜い、ベムブルちん生きてた〜」 
「じ、実はもう死んじゃってるんだな。 
 術が解けたらお別れなんだな」 
「ってことは、アールヴちんか」
殺しても死なない。 
いや、死んでも生きている。 
そんなバケモノのような相手を前に、 
ジルケットは鼻の下に付着した返り血を舌で舐め、 
再びジャマダハルを構える。
「ククク…、そうだな。 
 俺も負ける事なんか考えた事もねェ。 
 所詮、俺とお前等は一緒… 
 いいだろう。 
 死ねとは言わない。 
 ミンチになるまで切り刻んでやるぜェ」
既に人の姿を形成しつつあるヴィーリの肉片を蹴散らし、 
ジルケットは銃撃でヘプティを牽制しながら、ベムブルの巨体に突進する。 
だが、そのドテッ腹に刃を突き立てた瞬間。
「ワンパターンなんだな」 
ベムブルは内臓を抉られるのも物ともせず、 
ジルケットの胴回り程もある太い腕で組みつき、 
ベアハッグを極める。 
負けじとジルケットもジャマダハルを回転させ、 
そのままベムブルの体を突き貫くが、相手は不死身のバケモノだ。 
怯むどころか、更に強く締め上げる。
「いっただき〜! 
 ベムブルちんゴメンね。ビリビリ〜!」 
素早く背後に回りこんだヘプティが、 
ジルケットの背中にロッドを押し当て、手元のスイッチを押す。
ぐはァァァァァッ!!!
青白いスパークが迸り、 
ベムブルもろとも、ジルケットの体を突き抜ける。
執筆者…is-lies、Gawie様
「博士、一人確保しました」 
建物の上からこの戦いを観ていたアールヴがゼペートレイネと連絡を取っている。
《OK〜ご苦労〜》 
「どうやら予想通り、 
 タカチマン博士の手の者であることは、ほぼ間違いないようです。 
 それが解った以上、生かしておく必要もないでしょう。 
 尤も、まだセレクタという線も残っていますが…」 
《セレクタはないわね。 
 アイツ等かくれんぼ得意だし。 
 原初の能力者が何人か集まってなんかやってるみたいだけど、 
 未だに尻尾も掴ませない…》 
「どうしましょう?残りも追いますか?」 
《そうねぇ、捕まえた奴はまだ殺しちゃダメよ。 
 相手がタカッちなら使い道はあるわ。 
 でも、そろそろ警察も騒ぎ出したし、適当に引き上げてちょうだい》
「了解しました。 
 ヘプティ、ヴィーリ、ベムブル、聞きましたね。 
 確保します」 
「はーい! 
 まずは手足をもぎましょう」
ヘプティがニコニコ顔で歩み寄り、 
倒れているジルケットの腕を取って間接を逆に曲げようとする。 
切断するのではなく、強引に引きちぎろうとしているようだ。 
ジルケットも何とか抵抗するが、電撃を喰らったばかりでまだ体の自由が利かない。
(こんなものか、あっけないもんだな…)
初めて己の死と言うもの意識し、 
最後にジルケットはヘプティの顔を見上げる。 
と、ニコリ笑ったその顔が突然吹き飛び、 
同時に銃声が耳に入る。 
そして、何者かが自分の体を飛び越え、ベムブルにドロップキックを浴びせた。
「あくまで完全勝利〜! 
 ヤッホー来ちゃった♪ 
 やられちゃってますねェ」 
「…ハウシンカ… 
 バカが…なんで戻って来た…?」
「仲間犠牲にするつーのもやっぱ寝覚め悪いじゃん」 
「…な、何だかんだ言っても、甘いな… 
 ギルドが態々素人のお前にリーダーを依頼したのは… 
 トカゲの尻尾…、ヤバイ時には真先に切り捨てるためだ…」
「なるほどなるほど。 
 まぁ、そのくらいのリスクは予想してたわ。 
 けど、こっちもアンタらの大ボスとちょいと交渉しててね。 
 あたしとしても、少しでも有利に持っていきたいのよ。 
 そう言う訳で、あとちょっと根性見せてもらいましょうか!」
執筆者…Gawie様
ジルケットに言った後、ハウシンカがアールヴ達に向き直る。
「よ〜、おめ〜ら、
 あたしのかわいい下僕第1号ジルケットちゃんをよくもヤってくれちゃいやがったなこの野郎!
 このハウシンカ様が来たからには手前ら全員ミンチにしてハンバーグ作っちゃうゾ!」
得意げに背中から得物である有刺鉄線釘バットを取りだし、例のポーズを決めるハウシンカ。
「手前、いつから俺が手前の下僕になったんだぁ!?」 
ジルケットが解せない様子で問う。 
「あたしはリーダー。アンタはその部下じゃん?」 
にこにこしながらハウシンカが答える。 
「ケッ、相変わらず食えねえ女だ…。」 
ジルケットが吐き捨てる。が、気分は悪くは無いらしい。 
いつもの不敵な薄笑いを浮かべる。
「またアンタなんだな。」 
「よ〜、メタルポーク!ちょうど良かった、うちハンバーグには豚のひき肉も入れるんだよねv」 
前に立ちはだかるべムブルにハウシンカがご機嫌に答える。
「いつまでその余裕が続くか見物ですね。 
 たとえ貴方一人増えたところで我々の有利は変わらない!」 
アールヴが言うや否や、すぐさまいつものように巨大な龍が二人に飛び掛る。
「おわっと!」 
それをかろうじて躱わす二人。 
更にそのまま空中で二手に分かれ・… 
「気ぃ取りなおして第2ラウンドだぜぇ!!」 
ジルケットがジャマダハルを構えてベムブルに突進したかと思うと
その首を一瞬の内にふっ飛ばした。
「なるほど、それで動きを封じたつもりのようですが…甘い!」 
すかさずアールヴの洗礼がジルケットに襲いかかる 
…はずであった。 
が、 
灯台モトクロス!!
突然上空から奇襲を仕掛けたハウシンカの打撃を頭部にまともに受けた。 
凄まじい勢いでアールヴが頭部から地面にたたきつけられる。
「甘いのはおめーの方だって☆」 
邪悪な笑みを浮かべるハウシンカ。 
アールヴは動かなかった。 
「死んじゃねーけどデブをめんどーみることまでは出来ねえだろ。」 
吐き捨てた。 
…と 
「ハウシンカ!!」 
背後からジルケットの声が響く。
「んもー!急に出てきて邪魔してぇ!何様のつもりぃ!?」 
やきもきしたような口調でヘプティが叫ぶ。
「何様って、だからハウシンカ様だっつってんだろうよ、 
 このひょうろくだま!」 
振り向き様のヘプティの猛攻をなんとか躱わす。 
「安心してるかもしんないけど、まだ役者は残ってんだよーだ!」 
言うや否や二人の背後で何かがうごめいた。 
「こいつあ…まだ生きてやがったか…」 
ジルケットがヘプティとヴィーリ、二人の背後を睨む。 
そこには黒く輪郭を浮かび上がらせた巨大な追跡者が佇んでいた。 
「いっけ〜!ホイールちん!」 
ヘプティ、ヴィーリの咆哮があたりに木霊する。 
バーニング・ホイールは大口を開けてこちらに突進してくる。
「へ…こうなりゃ捨て身も覚悟だな…。」 
ジルケットが小声で囁く。
と… 
「だから今日のご飯がデブとガキニ匹とスーツ娘のハンバーグだって言ったじゃん。」 
ハウシンカが呟く。 
「は?!」 
ジルケットがハウシンカを見やる。 
…笑っている。
「お前ら二人とも食われちゃえ〜〜!!」 
ヴィーリの声が響き、二人の目前までバーニングホイールが迫ってきた瞬間…
「そーら、ホイールちゃんにもご馳走してやらあ!」 
ハウシンカが何かを投げた。 
次の瞬間…
凄まじい爆音とともにバーニングホイールは内部から大爆発を起こし、
爆風に乗って文字通り「ミンチ」となって吹き荒れた。 
「うわああああああああ!!!」 
その爆風に飲みこまれたヘプティもヴィーリ空中にいた所為か 
あっけなく爆風に吹き飛ばされた。
「あっはは〜!ハンバーグの嵐だ〜v」 

 

ジルケットとともにまんまと逃げおおせたハウシンカの高笑いがゼペートレイネの耳に届いた頃には、
二人の姿はもうどこにも無かった。
「何をしているの!? 
 ヘプティ、ヴィーリ、応答しなさい!!」
マイクに向かってゼペートレイネが叫ぶ。 
…通信は、返ってこなかった。

 

「ところで…」 
逃亡の路、ジルケットがハウシンカを見やる。 
「礼は…言わねえぜ。」 
しかし、その言葉にハウシンカは答えなかった。
「それともう一つ。 
 …『灯台モトクロス』じゃなくて『灯台下暗し』だぜ。」 
「んなこた知らねえよv」 
ハウシンカは笑った。
執筆者…錆龍様

  タカチ魔導研究所内

 

「逃がしたですってぇ?」 
屋敷に帰って来たゼペートレイネに、 
モートソグニルを含む3人の男が早速報告を聞かせる。
「はぁ…面目ありません。 
 後に監視カメラの映像を見直してみたら、 
 どうも彼等は変装して出て行った模様でして… 
 いや、これがまた巧みに……」
「言い訳はお止しなさい。 
 レギオンが3名…しかも鉛雨街出身のアンタが居ながら……! 
 …いえ、どうもアタシもまだ何処かで相手を甘く見てたみたいね。 
 ベムブル死亡、アールヴ重傷、ヘプティ&ヴィーリ重傷、 
 バーニング・ホイール破壊……聞いてた以上ね。 
 ………モートソグニル!本社のニューラーズを呼び出して。 
 リト、そっちはどう?」 
モートソグニルに指示を出し、今度は通信機に話し掛けるゼペートレイネ。
《あ、博士〜。こっちは大丈夫デスよ〜。 
 取り敢えずは気付かれてないみたいでス》 
微妙なイントネーションの声が答える。
「其のまま感付かれない様にね。今はアンタが頼り。 
 後、アタシの命令があるまでは手出しをしない事」
「はぁ…博士、回線開きました」 
言ったモートソグニルの前のモニターに、 
眼鏡を掛けた目付きのキツい女の顔が映し出される。
《ゼペートレイネ博士、気は済みましたか? 
 済んだらすぐに本社へと御帰還願います。 
 今回の作戦の被害は会議にて報告させて頂きますからね》
「うっさいわ。其れにやっぱタカっちは死んでなんかなかったわー 
 其れが解っただけでも張り込んでた甲斐はあるってもんよ。 
 気は済んだ?冗談!これからよー。 
 近々レギオン数名とセイフォートシリーズを2人程持ってくわよ。 
 後、バイオ部とマシーナリー部からも応援貰うわー。 
 暇してそーなのはアズィム君にヘイル位かしら。 
 シルシュレイが居れば手っ取り早いけど… 
 あーのアンポンタンはどこほっつき歩いてんのか……」
《……確かにタカチマン博士が生きているのなら、 
 セイフォートシリーズを動かす事も出来るでしょうが、 
 最近、勝手が過ぎるのでは? 
 バーニング・ホイールを持って行かれたバイオ部や、 
 エインヘルヤルを持って行かれたメカニック部、マシーナリー部が、 
 このまま素直にゼペートレイネ博士の命令を聞くとは思えませんが…》
「多少渋ったって構うもんですか。 
 連中だってタカっち生存の知らせさえ出せば、 
 自分達から協力を求めるに決まってるもの〜」
《…畏まりました。ヴァンフレムに其の件は話しておきます。 
 ……………次があれば失敗無きようお願い致します》 
淡々とした口調でそう言うと眼鏡女は通信を切った。 
暫く其の場に突っ立って考え事をした後、 
ゼペートレイネは何も言わずに部屋を後にした。
(…タカっち……アンタ何で逃げてばっかなのよ… 
  アタシと……過去と面と向き合って……!)
執筆者…is-lies

  ガトリングガンズ2号店

 

 

「ライブラの結晶だ。 
 良かったな最初に贅沢言っておいて」
ジュラルミンケースに収められたライブラを見、 
流石のジードも込み上げる笑いを押さえ切れずにいた。
「は…はははははっ!良くやってくれたじゃんか! 
 まさか本当に贅沢叶えてくれたなんてな、なぁ博士」
「…ああ。流石は暗殺者ギルドが選んだ腕利き達だ。 
 ………………良い仕事をする」
其の時、先程ブラストの手当てをしてベッドへと運んだリリィが戻って来た。 
「タカチマン博士、先程の男性はベッドに寝かせておきました。 
 重傷ですが応急処置が良く、本人の体力も或る程度回復しているので、 
 暫く安静にしていれば意識を取り戻すと思われます」
「んー!?あのローズってお姉さんが付き添いしてるンだな! 
 バンガス!おトメさん!ボク達も一緒に行くゾーー!」 
「…何すンですか御頭…」 
「ついーん?」 
「知れた事!差し入れだ!リンゴでも切ってローズさんに…」 
「………そっちですか……」 
ロリコンのクセにお姉様系もOKなユーキンの相変わらずな言に、 
肩を上げるジェスチャーで失望を表すバンガス&マネするおトメさん。
「ねー、ちょいとタカチマン博士。SFESについてお手軽な情報聞きたくない?」 
ハウシンカがこっそりと耳打ちした。 
SFESとの戦闘で得た敵情報を、 
このまま商売道具にしようというのだろう。其の商魂には恐れ入る。

 

 

「…それでは…商談といこうか。 
 ハウシンカ、そちらの情報を君の言い値で買い取ろう。 
 それが君の狙いなんだろう?」
ガトリングガンズ2号店、店内。 
カウンター席の一番奥で、そう切り出したのはタカチマンである。 
それを聞いてハウシンカの瞳が光る。 
「さっすが博士、お話の飲みこみが早いこと。 
 そうそう、そう言ってくれるとこっちも商売のしようがあるってもんでしょうよ。
 さて、そいじゃ何から聞きますんで?」 
やけに聞き分けの良いハウシンカに若干の不信感を抱きながら、 
タカチマンはとりあえずハウシンカに持てる限りの情報の提供を求めた。
本日のミッション中の出来事… 
敵の武装、戦術、状況… 
そして…
「OK、まあ、あたしが知ってるのはこんなところだね。」 
ジョッキに入ったビールを飲み干してハウシンカが呟いた。 
「ありがとう、大体状況は把握できた。 
 これでこちらもこれからのアクションが起こしやすくなった。 
 礼を言わせてくれ。」 
するとハウシンカは、 
「お礼は態度で示してもらえっかな。」 
鋭い目でタカチマンを見やる。
「幾らだ?」 
抜け目のない女だ…。 
ため息混じりにタカチマンが聞き返した。 
…と。 
「このバーを豪華ホテルに立てかえれるだけの〜! 
 …っていこうと思ったけど、やめるわ。 
 その代わりあんたにもこっちに情報まわして欲しいんだよね。 
 知ってたらおせえて。 
 あんたら、あのSFESとか言う連中とは切っても切れない腐れ縁なんでしょ? 
 だったら知ってるかもしんないんだけど、レギオンについて聞きたいんだよ。」 
「…レギオン?」 
タカチマンが訝しげに聞き返す。 
それに目を向けるハウシンカ。 
その表情は今までの小ずるい小仕事屋のそれではなかった。 
「今日のミッションでもガキ二匹、女一匹、ブタ一匹とやりあったんだけどさ、そんなかにはいなかったんだ。 
 あんた、『エカチェリナ』っていう女を知らないか。」
『エカチェリナ』…。 
タカチマンは記憶からその名を探った。
「まあ、知んなかったらいいわ。 
 なんかわかったらおせえて、これが報酬。OK?」 
言うとハウシンカは席を立った。 
それを無言で見送るタカチマン。
「いい知らせ待ってるから。タカチのダ・ン・ナ☆」
執筆者…is-lies、錆龍様

十数分後。 
タカチマンはジード達を部屋へと呼び集めた。 
ユーキンはジェイナス姉弟の部屋にまだ居ると言って聞かないので、 
此処にはバンガスとおトメさんが来る事となった。
「中々面白い話を聞いたぞ。 
 まずはSFESに関して…レギオン…次にエインヘルヤル、最後にバーニング・ホイールだ。 
 …そうだな、まずは最初にレギオンについてだ」
「レギオン?」 
聞き慣れない単語にバンガスが眼を細める。
「現SFES最大戦力… 
 ハウシンカ達が最初にそいつ等と下水道内で交戦した。 
 事前に収集されていたデータによると、 
 第四次世界大戦中に其の存在が暗殺者ギルドに知られた者達で、 
 其の実態は世界各国の軍から厳しい軍事訓練を経た能力者達による軍隊… 
 胸にリンゴが描かれた徽章を付けているから一目で解るそうだ。 
 ハウシンカ等の見積もりによるとB+級プロLvの集団だったらしい。」
「B+級プロLVぅ? 
 …最大戦力つーと、俺達が101便内で戦ったセイフォート共以上… 
 少なくとも其れと同等って事にゃならねぇか? 
 ………悪ぃけど連中はB+なんてもんじゃなかったぞ」
「……さぁ、其れは良く解らないが… 
 兎も角、あの暗殺者達はSFESの軍隊を退けた。 
 …………頼りにはなる」
タカチマンの其の言に、だが併し、 
カフュは不機嫌そうな顔をして、机の上に肘をつきながら言う。 
「さぁ、どうだかな。所詮は殺し屋だろ? 
 金こそ取らなかったが何か打算があるに決まってる」
「当然だ。だが私達が猫の手も借りたい状況だったのも事実。 
 其れに、其の事について論じたところで現状では予想の域を出ない。 
 ……後回しだ。 
 次にエインヘルヤル……これはSFESの新兵器で、ロボット兵器らしい。 
 まだ試作段階らしかったが…総アダマンチウム製だそうだ」
其の場の全員が暫し絶句する。 
この反応はタカチマンにも予想が出来ていた。
「………冗談だろ? 
 ンなモン造ってどーするってんだよ?」
総アダマンチウム製のロボット兵器…
アダマンチウムを用いるメリットがまるで感じられない。
確かに暗殺者達が傷一つ付けられなかったというのは脅威だが、
だからといって総アダマンチウムは幾らなんでも度が過ぎている。
其れは、「硬いから」という理由でダイヤモンドの鎧を作ったり、
或いは「重いから」という理由で純金の文鎮を作るに等しい。
「…確かに採算度外視も甚だしい。 
 だが今に始まった事でもない。無論、此処まで凄まじくはないが…。 
 ………SFESの兵器は既に人間を相手にするものではない。 
 其れどころか地上の一切の魔物でも兵器でもない。 
 其れ以上の何かの為…或いは純粋にどれだけ強いものを造れるのかという興味か。 
 何にしろ最早我々に理解出来ぬ域にあるな。 
 …最後だ。SFESの兵器にバーニング・ホイールが出た。 
 決定的ではないにせよ… 
 ジョニーを狙っていた者が、SFESである可能性が強まった。
 後、SFES以外の情報として、
 我々の仲間らしき少年2人がSFESに捕まっていたそうだ。
 どうも101便内で私達を助けた連中らしいが……
 …機会があれば彼等にももう一度会ってみたいものだ」 
何はともあれ、タカチマンの研究データが納められた超結晶ライブラは奪い返した。 
これで少なくとも研究が悪用される心配はなくなったと言えるだろう。 
だが、それだけでは問題の解決にはならない。 
その研究が、 
SFESに対抗するもの――― 
毒を以て毒を制すような何かに成得るのか。 
そして、今のタカチマン達にその力があるのか。 
その問題が未だ重く圧し掛かる。
「ま、まあまあ、 
 とりあえずは作戦は成功したんや。 
 そんな暗い顔せんでもエエんちゃうん?」 
ジョニーが場を執成す。
「そうだな。 
 一杯やるか。 
 おい、ポーザ達も連れて来いよ」 
リュージに言われて、ナオキングが 
店の入口に立ったまま瞑想していたポーザをつれて来た。
「話は纏ったか?」 
「一応な」 
「そういや、そっちの報酬はどうすりゃいいんだ? 
 ハウシンカのは個人的なもんだったし」 
「本来なら、報酬の話は最初にするのが常識なのだが… 
 作戦自体の予定が狂ってな… 
 今更言い難いのだが… 
 今回、SFESから奪還した研究データの所有権をこちらに貰いたい。 
 と言っても、現段階で我々がデータだけ入手してもどうしようもない。 
 データはそちらに預ける。ノルマもない。 
 唯つまりは… 
 今後の研究の成果を、優先的に我々に提供してほしいという事だ」
「…うむ、断れる立場にはないな… 
 解った…」
「ハイハイ、という訳で、飲もうぜ」 
リュージがポーザにグラスを差し出し、バーボンをなみなみと注ぐ。 
しかし、ポーザは口をつけることなく、テーブルにグラスを置いた。
「折角だが、我々はこれで失礼する」
「え、でも、ブラストさんはもう少し安静にしてないと…」
「ダメだ。連れて帰る。 
 貴方々を信用していない訳でないが、 
 傷ついた姿を他人に晒しておく訳にはいかない。 
 ブラストも、そう思っているはずだ」 
ポーザはあくまで冷静に語りつつ、 
ちらりとキムラの方を見て、少し声を大きく、こう続けた。
「いつまでも厄介にはなれないしな」
それに気付いているのか、いないのか、 
キムラはそっぽを向いたまま反応しなかった。
ポーザ達を見送り、店の外に出た時には、既に夜が明け始めていた。
「なんだんかなぁ…」 
リュージはA4のコピー用紙に「本日休業」と書き殴り、 
それを店のドアに貼り付け、再びバーボンのボトルを捻った。
執筆者…is-lies、Gawie様

 

inserted by FC2 system