リレー小説3
<Rel3.タカチ魔導研究所2>

 

 

一方、さっきハウシンカの言った嫌な予感は特等大当たりであった。 
高速道路の入り口付近に止めてあったタカチマン達の指揮車は、 
見るからにチンピラ然りといったトサカ頭の男に窓を叩かれていた。
「オイオイ、顔見せるだけでいーってんだよ。 
 俺等のシマ荒らした野郎じゃなきゃなーんも問題ねーって」
窓から見ていたらこのトサカ頭、 
周囲に行き交う人間全ての顔を注視し、 
車の1つ1つにも窓を覗き込んだりしてチェックし、 
更に仲間らしき男達が近くで同様の行為を繰り返している。 
もし彼等がSFESだとしたら此処で顔を出すのは自滅行為だ。 
タカチマンを出さなかったとしても、 
今、この指揮車に乗っている全員がSFESに顔が割れている。 
一応、窓に黒のスモークフィルムを張ってはいるものの… 
…いや、だからこそ余計に引っ付いて来ているのだろう。
「……放っておけば見過ごす……か?」
「…うむ、確証はないが、それは奴等も同じ事。 
 放っておけ」
しばらくすると、 
トサカ頭はタカチマン達のワゴン車のドアに一発蹴りを入れ、 
唾を吐きかけると、諦めたように去っていった。 
そして、路肩に駐車してある車を一台一台覗き込みながら、 
スモーク張りや改造アンテナの車を見つけては、また同様に絡んでいる。
「…念のためだ。調べておくか…」
先程のトサカ頭や通行人の姿が見えなくなった隙を見計らい、 
ジードがワゴン車の周辺を調べてみると… 
案の定、ホイールの隙間に粘着物に包まれた発信機のような物が見つかった。 
ジードは直にそれを別の車の取り付け、再び車内に身を潜めた。
「…やはりな。手当たり次第と来たか… 
 研究所周囲の警戒を強めたところを見ると、 
 ハウシンカ達の潜入に気付いたか… 
 いや、作戦そのものが読まれたかもしれんな」
執筆者…is-lies、Gawie様

勿論タカチマンの心配は的中。 
ハウシンカ達は潜入どころか、大暴れの真最中だった。 
残る強敵は重武装の巨漢。 
術士の防御を封じたとは言え、油断は出来ない。 
と思われたが、何故かデブはハウシンカ達の様子に戸惑っている。
「お、おかしいんだな。 
 どっちが陽動か解らないんだな」
敵は研究所に施されていた結界と術士の能力を連動させ、 
ハウシンカ達の潜入を完璧に察知していた。 
そしてその行動、戦闘能力からかなり手錬だと判断したのだが、実際にはそうでもなかった。
確かに戦闘力は申し分ないのだが、
行き当たりばったりの行動に、アダプタを渡し忘れるというミス、
そして好戦的な性格。決してプロの仕事とは言い難い。 
しかし、それらが幸いして、逆に敵の戦略を惑わせたのである。
「こっちが陽動なら遠慮はいらないんだな」
「へぇ〜、今まで手加減してたってわけ? 
 でも今更本気出しても、もう遅いわよ」
重武装デブことベムブルがロケットランチャーを構えた瞬間、 
突然その腕が何かに操られた様に引っ張り上げられる。 
同時にロケットランチャーはその頭上に向けて発射され、 
爆発と崩落する天井がベルブム達を直撃した。 
微弱な電流で自在に伸縮するローズの特殊ワイヤーは、 
既に敵の体を捕えていたのだ。
予定は狂ったが、敵を始末出来たので結果オーライ。 
とは言え、アダプタを渡し忘れたのでポーザ達も困っているだろう。 
ハウシンカとローズは近くにあった梯子を上り、 
下水の通風孔のような穴から地上に出た。

 

どうやら裏庭のようだ。 
植木の陰に身を潜めながら、周囲に監視の目がないのを確かめ、 
ローズのワイヤーフックで二階に攀じ登った。 
一旦、建物の形と地図を照し合せ、 
階段からドアの数を数えながら、四つ目の部屋の前に来た。
「…この部屋ね」
ローズが軽くノックしてみるが、応答はない。
「どいてみ」 
と、ハウシンカがドアを蹴り開け、銃を構えて乱入する。
執筆者…Gawie様

窓もなく、薄暗い無人の室内。 
床には魔方陣のような模様が描かれており、壁面は何やら良く解らない計器類で覆われている。 
その中で、一際大きく、いかにも手作りと言った観のある機械が目に入った。 
今時こんな大きな型は市販されてはいないが、どうやらこれがタカチマンの言ったコンピュータだろう。 
機体上部には透明な円筒が乗っており、その中には幽かに黄色い光を放つ逆円錐状の物体が回っている。 
機械にあまり詳しくない者が見ても、結晶を利用した特別な装置である事は一目瞭然だ。
「間違いない、例のデータはこの中ね」 
「けど、誰もいないわね。 
 てか遠回りして来たあたしらの方が先に着いちゃったじゃん」 
「ジルケット達が敵の目を引いてくれてるのか、 
 もしくは途中でやられたか。 
 まぁ、そうなればこっちの取分が増えるだけのこと…」 
「クールだねぇ…」
随分と薄情なローズの発言だが、 
暗殺者ローズにしてみれば、別に薄情とかそういう感情の問題ではなかった。 
人の生死に何の感想も持たない。たとえ肉親であっても。 
互いに暗殺者ならば、それが当然、必須であり、 
他の者には到底理解し難い絆のようなものでもあるのだ。
「…まぁ、そうならないように祈ってるわ。 
 とりあえず、お仕事お仕事っと」
気を取り直して任務続行だ。 
ハウシンカが端末の背面を覗き込みながら、 
ウェストポーチからジードに渡された無線アダプタを取り出す。
「解る?」 
「多分。 
 こういうのは大体差せる所に差せばいいのよ。 
 っと、ここかな」
アダプタと丁度大きさの合う穴を見つけ、 
それをカチッと音がするまで差し込んだ。 
同時に緑のランプが点灯する。
「OK! 
 もしも〜し、こちら潜入班。 
 準備完了よ。後はそっちに任せるわ」
直に携帯端末で待機しているタカチマン達に連絡を入れる。
《…こちらジード。OK確認した。 
 待ってろ、直に終わらせる》
何はともあれ、これで任務完了だ。 
ジードの作業は3分で済むと言っていた。 
その間、ローズは部屋の入口で外の様子に聞耳を立て、 
ハウシンカはジードの遠隔操作で作動しているモニター画面を眺めている。 
早い。プロテクトは1分も経たないうちに解除してしまったようだ。 
作業はスムーズに運んでいるように見えたが、 
ある画面で停止したかと思うと、その後3分経っても変化は見られなくなった。
「あの〜もしもし。 
 もう3分過ぎたんだけど?」 
《おかしい… 
 そっちで変なトコ触ってな…よな?》 
「いや全然」 
《まさか… 
 おい!、端…に別のア……が………?》 
突然通信が乱れた。 
《…私だ! 
 逆……で割込…れた! 
 構わ…! シ…テムを破壊し……逃げ……》
タカチマンの声を最後に、通信は途絶えてしまった。 
どうやら電波を妨害されてしまったようだ。 
辛うじて「システムを破壊して逃げろ」というのは聞き取れたが…
「やばッ、ダメっぽいわ。 
 こうなったらブッ壊して… 
 いや、それよりも…」
何を思ったか、ハウシンカは傍にあった椅子を持ち上げ、 
そのまま力任せにコンピュータに叩き付けた。 
上部のガラスの筒が砕け散り、中にあった逆円錐の物体が露になる。 
ハウシンカはそれを両手で掴み取ると、ニヤリと笑みを浮べた。
「お、思ったより重い。けど… 
 要はこの超結晶ライブラを持って帰ればいいのよねぇ♪」
執筆者…Gawie様
ホクホク笑顔で超結晶を掴みとって満面の笑みでローズを振り返った。 
…全く危機感というもののない女である。 
「さあて、超結晶とか言うからどんなもんかと思ったら、 
 な〜んだ、ハイカラな漬物石かと思っちゃったい。」 
しげしげと結晶を眺めながらハウシンカが呟く。
「そんなことしてる場合じゃないわ、 
 早くしないと追っ手が来かねない、行くわよ!」 
ローズが早くもドアに向かって駆け出す。
…と。
「!?」 
ローズの目の前であるはずのない扉がしまった。 
扉というよりはシャッター…いや、 
物体ではなく、バリアーといった感じの電子シャッターである。 
これではいかに物理的な攻撃を加えてもシャッターを破壊することはできない。 
「あっちゃ〜、敵さんの用意の周到なこと…☆」 
ぽかんと口をあけてハウシンカはその様子を眺めていた。 
そして、うろたえるまもなくけたたましいサイレンが部屋中に響く。
「どうやら…ただじゃ帰してくれなさそうね。」 
ローズがワイヤーを構えた。 
それに答えるように今度は天井の排気孔が開く。 
と… 
不気味な落下音を立てて何かが排気孔から床に落下した。 
「あ〜ら、新しいお客さん。」 
回収した結晶をジュラルミンケースに収納して、 
ハウシンカは呟いた。 
「…ってアンタ等……」
ハウシンカ達の目の前に現れたのは、 
ポーザ、ジルケットの2人であった。
「?何だ、お前達もう此処に来ていたのか? 
 併しどうやって入った?扉にはバリアーみたいなのがあったぞ」 
「ったく煩ェよなこのサイレン。ちょっと暴れた程度でよ」 
所々に付着した汚れを手で簡単に払いながら言う2人。
「ったくアンタ達進むの早過ぎ… 
 あ、姉貴。仕事は終わったんかい?」 
ブラストが排気孔内から顔を出して問い掛けるものの、 
其れに対してローズは溜息を吐き、額に手をやって答える。 
「アンタ達まで入って来てどうするのよ? 
 奴さんはこっちを閉じ込める算段みたいよ。 
 まあ排気孔は取り敢えず大丈夫みたいだし… 
 ブラスト退いて、其処から出るから。 
 アンタは退路の方確保しといて」
「あいさー」 
ブラストがすぐに引っ込み、ローズが其のまま排気孔に向って跳ぶが…
ガッシャーーー!! 
ズゥウーーーン!!
耳を劈く様な高音・轟音と共に部屋が大きく揺れた。 
排気孔に手をやってはいたものの堪らずにローズが落ちる。
「な…何よ今…の………」 
強く打った背中を摩りながら頭を上げたローズの視線が、 
ハウシンカ達の背後に添えられたまま止まる。
「ほーんと用意の良い連中だこと♪」 
背後を振り向く事も無く愉快そうにハウシンカが呟き、 
ジルケットは一層禍々しい笑みを浮かべ、 
ポーザは何事も無い様に眼を瞑っている。 
割れた天窓から吹き込む風が一行の頬を撫で去って行く。 
月明かりを受け、鋭く剣呑さを秘めて輝く巨体が、 
ハウシンカ達の背後でガラスの破片を踏み躙っていた。
《中々面白そーな連中じゃなーい》 
部屋の一角に備わったスピーカーから女の声が放たれたのと同時に、 
部屋の壁そのものが下へとスライドして行き、 
其処から強化ガラスを隔てて暗殺者一行を眺める数人の姿が見える。 
マイクを手にしているのはサングラスを掛けた長髪の大女… 
此処に来る前にタカチマン博士達から注意が必要と聞いた、 
SFESのゼペートレイネ博士である。
「ほぉ…化物博士直々にお出ましか。 
 だがこんなガラクタを寄越してどうする積もりだ?」 
微かに眼を開けて問うポーザ。
《あら?私の事も少なからず知ってたみたいねー。 
 やっぱ暗殺者ギルドからリュージの店が出たってのは本当だったみたいね。 
 危ない危ない…私が昔っからの客じゃなきゃ見逃してたトコだったわ。 
 …まー良いわ。えーっと…そうそう、どうする積もりって聞いたのよね? 
 其処で『エインヘルヤル試作機』に殺されるか、 
 其の前にタカっちの居場所諸々の情報ゲロっちゃうか決めてー。
 ま、どーせタカっちは件の店にいるんでしょーけど、一応保険として…ね》
見ると先の排気孔はシャッターが閉まり、 
逃げ場は数メートル上の天窓だけとなりそうだ。 
更に其の天窓からちらほらと銃を持った人影が見える。 
ワイヤーで無理矢理昇ったとしても、 
上にとっても下にとっても絶好の的となるだろう。
執筆者…錆龍様、is-lies
《さて、答え出る間にこっちはこっちの仕事をやっちゃいますか》 
強化ガラスの向こうに、ワゴンに縛り付けられている2人の少年が運ばれて来た。 
2人とも見た事の無い顔だが、ガラス越しにハウシンカ達を見るや否や其の表情を強張らせる。
《脈アリかしら〜、アンタ達のお仲間?…って聞くまでもないわね。 
 101便でタカっち達を助けやがった連中でしょ?この2人。 
 アタシは別にどれでも良いのよ? 
 この子達から聞き出しても良いし、今もお仲間には追っ手放ってるし。 
 さぁ答えはどうかしら?暗殺者ギルドの皆さん》
どうやら敵はあの2人の少年が此方の仲間であると勘違いしている様だ。 
ポーザがハウシンカ達の方を向き、顎で少年達を示すが全員が首を横に振る。 
もしかしたらタカチマン博士達が教えなかった別働隊の類かも知れないが、 
そうだったとしても助けてやる理由も余裕も無い。 
ハウシンカが暗殺者を代表し返答を送る。 
即ち……
エインヘルヤル試作機と呼称された、 
2腕と4脚を備えたロボットへ、振り向き様に釘バットを打ち込む。 
攻撃して下さいと言わんばかりに前へと突き出されたデザインの頭部が 
其の一撃で横を向いたのを皮切りに、ポーザの投げナイフ、 
ジルケットの銃弾、ローズのワイヤーが其の間接部分に吸い込まれる。
《クスクス、おばか》
だが、其の全てが何の効果も無く弾かれる。 
ポーザが一瞬我が眼を疑ったのも仕方の無い事だ。 
彼は大名古屋国大戦中でもナイフ一本で、 
敵の高性能メカ兵フルオーターの一団を容易く殲滅した程の腕前であり、 
他の皆もフルオーター程度であれば一度は戦った事のある者達ばかりだ 
メカの共通した弱点が間接のスリットである事は、 
そういった戦闘経験から得た知識であるが、 
今、眼の前に巌の如く立ち塞がる試作機には全く通用していない。 
無論、試作機と呼ばれたこのメカが新型のものであり、 
弱点を強固にしているという事は或る程度予想してはいたものの、 
其れでも傷一つ付けられないというのは信じ難い。
「まさか……無傷とはな…」
「へっ、少しは頑丈に出来てるらしいな? 
 ならちょいと早いが取って置きを…」
《無駄よ〜、ジルケットちゃん。 
 そいつってば総アダマンチウム製ですもの。 
 航宙機の衝突にだって軽々耐える世界最硬のレアメタルよ? 
 アンタ達の攻撃なんて鯨の前のミジンコにも劣るわ〜》
何か喋り掛けていたジルケットの口が開いたまま塞がらなくなる。 
総アダマンチウム製… 
正気の沙汰ではない。
第三次大戦よりも前、最初の結晶到来で、 
人間が潜在的に秘めていた能力を開花させたのと時同じくし、 
動植物や鉱物までもが其の恩恵を受け、強大な力を得た。 
力を得た動植物は魔物とされ狩られ、実験動物や生体兵器とされ、 
鉱物の方は新たな資源としてこれも採掘される事となった。 
そんな能力を得た鉱物の中でも最も価値があるレアメタル。 
力での破壊が不可能なアダマンチウム、 
エーテルを拡散させるミスリル、 
結晶と反応させる事で自由に形を変えるヒボタニウム、 
其の全てが、効果もさることながら稀少性もあり、 
純金をも上回る程の価格で売買されている。 
そんなレアメタルを全体に使用した戦闘メカなど聞いた事も無い。 
今はタカチマン博士達の仲間であり、 
大名古屋国最新アンドロイドであったリリィですら、 
全身をミスリルでコーティングした程度で収めてある。 
全てがアダマンチウムで出来てあるという其の言葉が真実ならば、 
今のハウシンカ達では、試作機の破壊は不可能という事になる。
執筆者…is-lies
《お解り?アンタ等、勝ち目無い戦いやらされてんの。 
 今からこの子達に薬使って吐かせるから、 
 其れよりも早く答えた方が良いと思うわ〜。 
 まずは〜…》
2人の少年にゼペートレイネが無理矢理、自白剤の様な錠剤を呑み込ませたのと同時に、 
沈黙を保っていた試作機が其の両腕を突き出し、 
掌からハウシンカ達に散弾の雨を降り注がせた。
「姉貴!!」 
隔てられた狭い排気孔でそう叫んだブラストの声は姉・ローズに届いたのだろうか。 
散弾の雨が凄まじい勢いで姉を含む仲間たちに降り注ぐのを、 
歴戦の中で鍛えぬいたブラストの目が捉えた。 
「っつ〜!何してくれてんだよこのロボット野郎…」 
ジルケットがぼやくように呟く。 
…さすがは鉛雨街の出身者である。 
弾の直撃を躱わすことは造作も無いことである。
…直撃は、であるが。
「あ゛〜!!つーかいきなり撃ってきてどーすんだよ、 
 このロボ!! 
 こっちゃあ貴重品持参だよ?!」 
ハウシンカが信じられないといった風に叫ぶ。
《そんなことはどうでもいいわ〜。 
 あんたたちが動かなくなったらまた返してもらえば良いんだもん。》 
ゼペートレイネの無常の一言が空間に響く。 
「けぇ!食えねえデカ女!あたしが男ならあんなやつぜってー 
 嫁にしねえ!」 
ハウシンカがすねたように吐き捨てた。 
が、その表情は限りなく無表情だ。 
「あーあ、この状況じゃ、さすがの結晶もただの石ね。」 
ローズがため息混じりに吐き捨てた。 
と…
「ハウシンカ、そのケースをこちらによこせ。」 
突然ハウシンカの背後で声がした。 
…ポーザである。 
「やっほー、あばれん坊チームのリーダー♪ 
 ここは大人の男に任せましょv」 
ジュラルミンケースをそっと受け取るポーザ。 
…その表情には不安の影をはらみながら、 
しかし、不思議な余裕を漂わせていた…。 
ハウシンカからジュラルミンケースを受け取るやいなや、 
すぐさまに試作機に向って駆け出すポーザ。 
颶風と化した彼の姿をモノアイで正確に捕捉しながら、 
試作機は手首を折り曲げ、腕の中に収納していたブレードを露わにした。 
やはり超結晶を巻き添えにしてしまう気はないらしい。 
となれば超結晶ライブラで相手の攻撃を或る程度調節可能だ。 
ジュラルミンケースを囮にして試作機を幻惑しながら、 
当たれば脆弱な人の身など一瞬で両断されよう斬撃を躱し、 
ポーザは巧く試作機の懐へと潜り込んだ。 
一瞬の閃きでポーザのナイフが試作機のモノアイを斬り付けるが、 
其れよりも僅かに早く、アダマンチウムのカバーがナイフを弾いた。 
だがポーザが狙っていたのは其処でもない。 
相手が眼を閉じた其の隙に上へと跳躍し、試作機の頭上に着地した。
《あら〜?》
ポーザが天窓へと視線をやると、 
其処には驚愕の表情を浮かべる狙撃手達の姿が見て取れた。 
先程はポーザ等の位置が低過ぎて相手の姿が見えなかったが、 
3m程の身長がある試作機の上でなら、 
今まで死角になって見えなかった所の敵も一目瞭然である。 
投げナイフで天窓の近くに居た狙撃手達を一瞬で仕留め、 
前倒れになった狙撃手の死体が天窓から落ちるよりも早く叫ぶ。 
「ローズ!ワイヤーだ!」
倒せないとなると戦っている暇は無い。 
天窓からさっさと逃げてしまうが吉。 
だが足元の試作機がそんな暇をくれる筈も無く、 
勢い良く頭部を仰け反らせてポーザを壁へと放り飛ばす。
「ちっ…流石に登る途中じゃ囮で何とかならんか」
「何よ、駄目じゃない。 
 其れとも誰か下に残ってこのロボ足止めする?」
詰まり其れは最後の一人に犠牲になれという事だった。 
だが其れに対し、誰も動揺していないのは流石暗殺者といったところだ。
執筆者…is-lies、錆龍様

   ガラスの向こう側

 

「こりゃもう駄目かしら?」
ゼペートレイネ・フィヴリーザは試作機に苦戦する4人を他所に、 
モニターに表示されている、たった今収集されたばかりの実戦データを眺めていた。
「はぁ…全くですね。其れに此方も時間の問題です」 
黒服の中年が、いよいよ自白剤の効いて来たミレンとケイムを見下して言った。
「もういーわよ。さっさと質問しちゃいなさいな」
「はぁ…では…君達。…タカチマン博士の居場所は?」 
中年がミレンの顔を覗き込んで質問をする。 
薬が効いたミレンの脳裏に其の声は幾重にも響く。 
最早、其の言葉が誰の発したものなのか、 
何に対して言っているのかすら解らず、 
夢現の状態の中、言われた質問に其のまま反射的に答えようとする。 
…筈である。
「………う…………あぁ……」 
ミレンは苦しそうに呻きながらも、答えようとはしない。 
併し中年はそんな彼の姿をさも下らなさそうに冷めた眼で見詰めている。
「はぁ…抗えはしません。楽におなりなさい」
「……た……か………ち……」 
ミレンが自白剤に屈しそうになった其の時。 
部屋の扉が蹴破られ、警備員の数名が同時に倒れた。
「ん〜?」
「はぁ…さっき閉じ込め損ねた1人ですか…」
警備員達の首に巻き付けたワイヤーを巻き取り、 
ブラスト・ジェイナスはゼペートレイネを睨み付ける。
「あのデカブツを止めろ。10秒以内にだ」
ガラスの向こう側でハウシンカ達と戦っているロボットを顎で指し示し、 
ゼペートレイネ一行に対し力一杯に叫ぶブラストだったが…
「はぁ…探す手間が省けましたねぇ。 
 ゼペートレイネ博士、如何致しましょうか?」
「んー、4人もいりゃ十分。そいつ要らないわ〜」
「はぁ…了解しました。 
 トゥラド、お仕事ですよ」 
聞く耳持たずといった感じで黒服の中年が、 
其の隣に佇む、肩にドクロの刺青がある男を嗾けた。 
中年からトゥラドと呼ばれた刺青男は、 
禍々しい笑みを零すと次の瞬間には其の姿をくらます。 
早い。 
そう考えるよりも先に、ブラストは半分反射的に其の場から飛び退いていた。 
刹那の遅れで、つい先程までブラストの居た場所を、 
トゥラドが両手に持っていた青龍刀がXに裂く。
「…くのッ!!」
反撃とばかりにブラストがワイヤーを繰り出すが、 
トゥラドは軽やかな身ごなしで其の間隙を突き再び青龍刀を振るい、 
向ってきたワイヤーを悉く弾き、更には、 
口止め目的か、ブラストがミレンとケイムに放ったワイヤーも、 
頭や心臓へ向っているコースのものは全て叩き落した。
「ちぃ……化けモンばっかりか此処は…」
「クク…暗殺者…ブラスト・ジェイナスだったか? 
 …軽率だったなぁ……こういう場所こそ何が起きても平気な様、 
 きちんと兵隊を揃えているもんなん……」 
トゥラドの科白が終わり切らない内に、 
再びブラストがワイヤーを展開させ、 
更には自身も駆け出し、ゼペートレイネへと迫る。
「はぁ…浅はかですよ」 
「そーゆーこったぁ!!」
ゼペートレイネの後ろに居た黒服中年が、 
眼鏡越しに倦んだ瞳とマシンガンの銃口をブラストに向ける。 
トゥラドがワイヤーの1つ1つを的確に見抜き、 
其の全てを青龍刀で叩き落し、ブラストを横から切り付ける。
マシンガンの銃弾がブラストの右脇腹に撃ち込まれ、 
青龍刀がブラストの左腕を深く裂いた。
がっ…!
ゼペートレイネの足元へ崩れ落ち、床へと吐血するブラスト。
「はい、お疲れさん」 
そんなブラストを見る事すらせず、 
ゼペートレイネは相変わらずモニターを眺めながら、 
無造作に果物ナイフを彼の頭に振り下ろす。 
ナイフの刃はブラストの頭へと綺麗に吸い込まれていった。
執筆者…is-lies
肉を裂いた感触、骨をかち割った感触… 
だが其処で違和感を感じたゼペートレイネが、 
始めて視線を下におろすと同時に、彼女の首にワイヤーが巻き付いた。
「な…博士ッ!?」
見るとブラストは瀕死といえ生きていた。 
ワイヤーで相手の攻撃を或る程度ずらしたりしていたのだろう。
「はぁ……死に掛けてまで…… 
 成程。プロだけはありますねぇ…」 
「…そーでも…しないと……貴方等には近付けないだろうからね… 
 ……ほらゼペートレイネ博士、首絞められたくなければ、 
 早くロボットの奴を止めろ。其れと扉のバリアーも解除…」
…アンタおばか?
突如、ゼペートレイネの体から飛び出した刀剣がブラストの全身を切り刻む。 
流石のブラストもこれはどうしようも無く、殆どマトモに喰らってしまった。 
事前にタカチマン博士から、ゼペートレイネの持つ能力… 
即ち合成と分離の能力については聞いていたが、 
まさか自身に武器を合成していたとは思わなかったのだ。
「よっわーい、何だかんだ言ってもやっぱ唯の人間よねー。 
 …こんな連中がタカっちに会えてアタシが会えないなんて変よー。 
 ま、いーわー。これから直ぐに会いに行けるんですもの。 
 モートソグニル!トゥラド! 
 このゴミ摘み出して、坊や達からの聴取を再開なさい」
ゼペートレイネにゴミ呼ばわりされ足蹴にされながらも、 
重傷のブラストは不適な笑みを崩さずに言う。 
「そ……そうかい?…でも……ぐっ… 
 ………はぁ…はぁ……生憎…貴方はタカチマン博士に会えない。 
 ……っ……だって………」 
言っているブラストの眼が先の入り口付近に向けられたのを見、 
ゼペートレイネ達が其の視線を追うと… 
其処には倒れた警備員達から奪ったマシンガンを構えるミレンとケイムの姿があった。 
先程、ブラストが2人の許へワイヤーをやったのは、 
彼等を攻撃する為でなく、彼等の戒めを解く為だったのだ。 
頭や心臓を狙っていたのは、全てトゥラドを欺く為の囮という訳である。 
其れは1人ではゼペートレイネ等に勝てないと見たブラストが、 
恐らくは彼女等とも敵対しているであろう2人を利用する目的だったが、 
どうやら巧く2人はブラストの目論見通りに動いてくれた様だ。 
慌ててゼペートレイネ達が飛び退くが、 
其の隙にブラストはコンソールを操作し始めていた。 
無論、操作の方法など解らない。 
だが相手はロボットを止める気も、此方を逃がす気も無い。 
そして此方は向こうに対抗し得る能力が無い。
(姉貴…死なないでくれよ…!!)
ブラスト・ジェイナスは一か八かの賭けに出たのだった。 
すでに息も絶え絶えのブラストにし得ること。 
それはただこのコンソールをこちらの優位に操作すること。 
それが唯一絶対の自分の役目であることは朦朧とする意識の中でもわかっていた。
(これが操縦桿…)
手に取ったレバーを当てずっぽうに動かしてみる。 
すると…
「うわったぁ!!」 
素っ頓狂な声でジルケットが悲鳴を上げた。 
先ほどのように散弾が暗殺者たちに降りかかる。
「ちっ…ダメだ…これじゃない!」 
今度は別な方向に操縦桿をひくが…。
「うわぁ!」 
レーザー光線の洗礼が暗殺者たちに襲いかかる。
(くそ…どうなってるんだ!?)
てこずるブラストを尻目にゼペートレイネたちは薄笑いを浮かべている。 
「何がおかしい!」 
マシンガンを構えながら…おっかなびっくり震える声で…ミレンが叫ぶ。 
「残念だけど坊や達じゃ、私のロボットちゃんは操れないわ〜。 
 あのこ、あのまま死んじゃうかもね〜。」 
冷酷な笑みを浮かべながらゼペートレイネが言う。
(くそ!!どうすればいいんだ!!)
日頃冷静なブラストも、死と未知の機械との戦いに憔悴しきっていた。 
そして… 
「くそったれーーーー!!!」 
渾身の力をこめて、コンソールを殴りつけた。
…と。 
《オートコントロールモード解除》
機械音に近い声が響いた。
「よし!!」 
ブラストは最後の力を…全ての精神を集中して操縦桿を握った。 
その時だった。
凄まじい散弾の雨が強化ガラスの壁に降り注ぎ、 
あれほどびくともしなかったガラスの壁を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「やっ…た!!」
そう叫んだのを最後に、ブラストは力なく地に倒れこんだ。
執筆者…is-lies、錆龍様
「………うっそーん…」 
余裕こいていたのが失敗だった。 
慌ててゼペートレイネ達がコンソールに駆け寄るものの時既に遅し。 
横から現れたローズのワイヤーが、気絶したブラストを掻っ攫う。 
ゼペートレイネ達が眼の端で其れを追うが、 
ハウシンカ達は最早部屋の中には居なかった。 
外から聞こえる銃撃の音のみが、まだ近くに居る事を示している。 
一体、何が起こったのかまだ良く理解していないミレンとケイムだが、 
流石に此処に居ては危険だと判断し、壊れた扉から手早く逃げ出す。
「…モートソグニルはラーズスヴィズ班、エイキンスキアルディ班と一緒に今の坊や達を捕まえて。 
 あの子達に逃げられちゃ元も子も無いんですもの。 
 トゥラド班はレギン、ヘプティ、ヴィーリ、ドールグスラシル班、リトに連絡。 
 無駄だと思うけどベムブルとアールヴにもね。 
 全員でさっきの連中を追うわよ。車を正面玄関に回させなさい。 
 後、本社のニューラーズに付近の道路封鎖と検問を要請」
蛇の様な執念… 
未だ諦める気配も部屋を後にするゼペートレイネを眺め、 
携帯電話を取り出しながらトゥラドは思考に耽る。 
(…ったく、これだからキレ系は…… 
  にしても…あのハウシンカって女…… 
  もしかして………いや、考えるだけ無駄だな)
執筆者…is-lies

 

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