リレー小説3
<Rel3.タカチマン3>

 

 

その夜、食事を済ませた後、 
ジードはジョイフルのネジを締め直し、安定起動する事を確認した。 
本来の所有者はネオス日本の誰かなのだろうが、今更届け出る訳にもいかず、 
暫くは超結晶搭載兵器として博士の研究を手伝わせ、 
リハビリはユーキンに任せる事になった。
一息吐き、ジードは冷蔵庫から缶ビールを一本持ち出して、 
一人で自分のノートパソコンの前に座った。 
先日再会してから、ガウィーからも頻繁にメールが来るようになった。

 

>頼まれてエカチェリナという女を捜している。 
 情報があったら教えてくれ。
>特徴が分らないんじゃ不可能に近い。未だ戦前人口の半数近くが行方不明だ。 
 その中にエカチェリナという女が何人いることか。 
 人物データを漁るならお前の方が得意だろう。
>それで見つかれば苦労はしねェ。 
 おそらく行方不明者リストにもないと思う。
>訳ありの線でエカチェリナだな。 
 一応覚えておく。 
 それと、先日は言いそびれたが、八姉妹の結晶捜索は引き受けてくれるんだな?
>一応そのつもりだ。 
 今カフュが動いている。気長に待っててくれ。 
 それと、お前のPC3台貰ったぜ。譲るって言ったよな?
>構わん。使ってくれ。 
 お前達のネタで十分元は取れたからな。
>ネタ? 
 何かあったか?
お前達を探している奴は結構多い。 
 情報料は弾んで貰ったぜ。
>ちょっと待て、俺達の情報を売ったのか?
>心配するな。 
 オレは依頼人は厳選する。 
 恐らく、お前達に危害を加えるような人物ではない。多分な。 
 むしろ、お前達を慕っているか、頼りにしている者だ。裏はありそうだがな。 
 まぁ、依頼人についての詳細は言えないが、一応報告しておく。

 

(ち、あの野郎…)
少しでも信用しかけたのが間違いだった。 
しかし、下手に責められはしない。 
お互いに裏の情報屋、こんなのはよくある事だ。 
ジードも軽いお返しとばかりに、ガウィーの発信元を探っては見たが、 
どうやら火星のあちこちを飛び回っているようで、 
活動拠点を絞り込む事は出来なかった。
(まぁ、アイツは俺達を利用しようとしている。 
  無茶なマネはしないだろう。 
  下手に警戒するよりも…ここは乗ってやるか…フッ…)
ジードは画面の前でニヤニヤしながら、 
缶ビールを口に運び、最後の一滴をなめる。 
空になった缶をテーブルに置くと、すかさず誰かがもう一本を差し出した。
「お、サンキュ…って、お!」
「じーどじーど」 
ジョイフルである。
「ガンバッテルカ、ぱそこんおたくをたをたをた」
「オ…オタ…」
見ると向こうでユーキンがゲラゲラと笑っている。
「おーよしよし、エライぞジョイフル!」
「ったくユーキン、余計な事を教えるな。 
 てか犬じゃねェんだぞ」
こいつにも上下関係というものを教えてやろうかとも思ったが、 
今この店のムードメーカーになっているのは実質ユーキンだ。 
いつの間にかそのムードに飲まれるしかなかったジードであった。
唯一そのムードに飲まれていないと言えば、この人しかいなかった。 
ユーキン達がジョイフルで遊んでいるのを横目で見ながら、 
タカチマンが裏口から静かに出て行こうとしていた。
「博士、どこ行くんだ?」
「うむ、ちょっとな…
「ィよしジョイフル! 博士のお供だ!着いて来い!」
「すまんが、今夜は一人にしてくれ…」
と言ってタカチマンは出かけていった。

 

「……………」
「こっそり着いて行きたい人…ハイ」
「やめとけユーキン」
「きっとキャバクラだ。いやソープか?ヘルスか? 
 よしジョイフル尾行するぞ」
「コラコラ、野暮なことすんなガキ」
唯の買い物や散歩といった雰囲気ではなかった。 
こんな時間に何の用事があるにせよ、 
今の状況ではタカチマンを一人で外出させるのは危険であるのは分っていた。 
だが、今日は何となく、ジードも引き止める事は出来ないような気がした。 
執筆者…Gawie様

「………雨…か」 
ぽつぽつと降って来た雨粒を掌で受け止めながら 
ふと空を見上げると、どんよりと曇った空がアテネの天を支配していた。 
まるで今のタカチマンの心境を象徴するかの様な曇天である。 
特に何か意味があって外に出た訳ではない。 
唯、今はガトリングガンズ2号店の中の雰囲気に居た堪れなくなった。 
タカチマンにささやかな癒しを与えてくれる仲間達… 
だが癒しを受ければ受ける程… 
自分自身に違和感を感じる。自分自身に場違いさを感じる。
(…JHN、記憶攪乱ウイルス…か。 
  私の記憶は一体いつ消えた? 7年前…私に何があった? 
  …私の記憶はSFESが握っている… 
  そして其のSFESは大名古屋国大戦時にJHNを使用したかも知れないという… 
  一番の近道はやはりSFESとなる… 
  次点は反SFES組織セレクタ。我々の中に居たらしいが…解らないな。 
  ………いや、待て、何故私は今更そんな事を考える? 
  今の私のままでは駄目なのか?)
今の彼には仲間が居る。空白の過去とは違って認識出来る現在がある。 
安定としている。 
だが其れで居て今も尚、過去はタカチマンを縛り続けている。 
101便の事件を境にタカチマンの心は徐々に無き過去に蝕まれていったのだ。 
いつの間にか雨は激しい豪雨となってタカチマンの身を水の礫で打っていた。 
だがタカチマンは其れも意に介さず、黙々と歩き続ける。
(……レイネ……お前は私に何をさせようというのだ?)
ゼペートレイネ・フィヴリーザ…SFESの一員であり、エーテル先駆三柱の1人。 
彼女は特にタカチマンに固執している印象がある。彼の過去も知っている様だった。 
執拗に彼を勧誘しようとするレイネが何を企んでおり、 
タカチマンに何を求めているのか……まるで解らない。
「タカっち、こんばんわ」 
ふと、背後から女の声がした。
「……遅かったな」 
足を止め…振り向きもせず、タカチマンは返す。
「色々忙しかったから」
「……何の用だ?」
「移籍の案内」
「下らん冗談だ」
「でしょうね、これを聞く様な奴だったら 
 101便の時にもう移籍してた筈だしね。 
 …でもね…誰にも……他の誰にもアンタは渡せないの。 
 リュージだろうと、ジョニーだろうと、助手の子だろうと! 
 けど、アンタは誰のものにもならない…アタシのものにもね… 
 ふっ…頑固なトコは相変わらずだわ…」
女の声に対し、初めてタカチマンが後ろを向く。 
「…質問をさせろ」
「なぁに?」 
タカチマンに背を向けたまま、 
女…ゼペートレイネ・フィヴリーザが言う。
「お前は私の何だ?」
一瞬、ゼペートレイネから殺気が溢れる。 
「…………さぁ? 
 アタシは嘗てのアンタと誓った夢を見たいだけ。 
 其の嘗てのアンタと違う奴に、教えてやる筋合い無いわ」
「記憶が無くなろうと、私は私だろうが」
「いいえ、今のアンタと昔のアンタは全く別人… 
 たとえアタシがアンタの過去を喋ったところで…アンタは変わらない。 
 アンタ自身が今のアンタを否定しようとしない限り、絶対にアンタは今のまま。 
 オルトノアが選択したアンタのまま。」
オルトノア…そういえば知っている。 
ガウィーの情報にあった八姉妹の結晶『シークレット・ウィズダム』に対応する八姉妹の名だ。 
「オルトノア? 八姉妹のオルトノアか?」
「…そうよ。八姉妹オルトノア… 
 でもね…ンな事は今、どうでも良いの。 
 タカっち…もうアタシの方からアンタを引き込もうとするのは止めるわ。 
 SFESの総意には反するけれどね…… 
 だから……アンタ自身で選択をなさい。 
 アンタがアンタの意思で今の自分を否定するか…さもなくば…」
「さもなくば?」
「死んで頂戴」
執筆者…is-lies
「思い通りにならなければ、その存在すら許さんという訳か。 
 あまりにも合理的でないな」
「そうでもないわよ。 
 前にもね、アンタと同じように、 
 アタシ達の申し出をどうしても聞き入れてくれなかった奴がいたの。 
 その力がどうしても必要だった。 
 …けど、殺したわ。 
 そしたらスッキリした。 
 今じゃその問題も解決して、そいつの事も忘れてたわ」
「私が知らないお前も、そうだったのか?」
「そうだったと思うわ。 
 アンタには『どうしても』ってものがないから解らないでしょうけど」
「…ならば、 
 失った記憶の中のお前に興味はない。 
 私も忘れよう…」
「………そう…ね…」
「今、ここで、殺り合うか?」
「…いえ、今日はやめとくわ。 
 アタシにも心の準備があるから…お願い… 
 …明日以降… 
 アンタも万全に準備して、 
 仲間を何人でも引き連れて、 
 いつでもいらっしゃい。 
 それまで他の奴等にも手出しはさせない。 
 待ってるから… 
 でも、もしも、 
 また逃げ出すようなマネをしたら、 
 絶対に追い詰めて、アンタを虫けらのように殺すわ」 
そう言うとゼペートレイネは、 
雨に塗れて垂れ下がり、完全に頭の上半分を覆い隠した髪を掻きあげタカチマンを一瞥し、 
振り返る事無く雨の帳の中へと消えていった。 
暫く其の場で何をするでもなくタカチマンは雨に打たれていたが、 
やがて驟雨が収まり、今まで地面を打っていた煩い雨音が急激に止み始め、 
タカチマンの頭上の電線から零れ落ちた一滴の雫を最後に完全に鳴り止んだ。
「………逃げ出すようなマネ…か。 
 ……過去は…私自身の手で摘み取らなければならない…」
水溜りの出来た路地を其の侭真っ直ぐに行き、 
タカチマンはガトリングガンズ2号店へと戻った。
執筆者…Gawie様、is-lies

「お、博士が戻って来たゾ! 
 博士!どんな女の子と遊んできたッ!?」
「昔馴染みらしい陰気な奴と会って来ただけだ。 
 其れよりも…」 
真っ先にからかいに駆け寄って来たユーキン… 
そして其の後をブーストふかしながら付いて来るジョイフルを見て呟く。 
「……随分と仲が良いみたいだが… 
 …以前からそんな仲だったのか?」
「ん?とーぜん!ボクとジョイフルには天突くバベルの塔の如き聳え立つ友情があったのダ。 
 ジョイフルと共に旅をし…山越え谷越えの大冒険を……」
「御頭、嘘ばっかり言わないで下さい。 
 ジョイフルさんと会ったのって、ごとりん研究所だったじゃないですか。 
 一緒に行動したのだって大名古屋国大戦の時だけだったし」
「ムー、折角博士にボクを見直させようとしたのに… 
 バンガス、お前最近生意気だぞ!?」
「知りませんよ。という訳だから… 
 タカチマン博士も御頭の言う事はマジメに取らないで下さいね」 
バンガスの言を聞いているのかいないのか、 
タカチマンは何を言うでもなくユーキンを眺めていた。
「?…ボクの顔に何かついてる?」
「いや…何でもない。 
 過去とは無関係に…人は絆を作ってゆけるのだな…」 
そう言うと彼は奥の自室へと向かった。 
ユーキン達に其の足取りは、 
以前のタカチマンの其れよりも幾分か軽そうに見えたのだった。
執筆者…is-lies
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