リレー小説3
<Rel3.タカチマン2>

 

 

  アテネ・独立記念博物館

 

タカチマン一同はガウィーに言われた様、 
八姉妹の結晶の実物を見るべく、 此処、独立記念博物館へと足を運んでいた。 
とはいえ八姉妹の結晶だけを見て終りでは難なので、 適当にぶらぶら見て回る事にしている様だ。
火星が地球の支配から抜け出し独立したのは、
大名古屋国大戦…詰まり第4次世界大戦直後…世界各国が大戦で疲弊し切った其の時だった。 
1Fに展示されているのは、 火星独立前の歴史を示す品々。 
其れは地球の非人道的命令が記された秘密文書であったり、 
火星と地球間の問題解決に挑もうとした火星英雄の写真であったりする。 
(この中には現火星帝レオナルドの姿もあった) 
だがやはりと言うべきか… 
獣人の受けた苦悶の歴史に付いては一切触れられていない。 
結局、解放だの独立だの言っても獣人から見れば何の意味も無かったのだ。
「う〜、こここわいです…」
「そう?じゃあ別の場所にいこっか?」
真っ暗な展示室に並べられた結晶銃を嫌ったのか、 
少々怯えているおトメさんを連れてバンガスは奥へと向かっていった。 
おトメさんは鉄砲で狙われた事がある為か、銃器の類を特に嫌っている。 
バンガスは今では彼女を刺激しない為、 
本来の武器である拳銃を捨て、護身用のクラブを持つ様になった。 
甘いと思いつつも口出しはしないユーキン。 
おトメさんの事でバンガスに何を言っても無駄だし、 
ユーキン自身もこれで良いと思っているからだ。 
尤も、ユーキンのそんな態度からして甘いのだが…
最初、火星の開拓を任されていたのは他でもない非能力者達だ。 
彼等が開拓をしていた当時、まだテラフォーミングも思う様に進んでおらず、 
開拓者達は『モーロック』と呼ばれるドームを火星の所々に建設して住んでいた。 
だが流石にこれだけでは狭過ぎる。
モーロックは地下が其の本体であると言っても良い。 
其の地下拡張時に偶然、火星の超古代文明が発見されたというのだから、 
何があるか解らないものだ。
正面ロビー西では火星超古代文明の遺産やらが展示されている。 
戦闘用人型ロボット『守護者』、用途不明な置物、 
何らかの文字が刻まれたプレート、火星遺跡内部の写真もあった。
「で…何なんでしょうね?このプレートの文字?」
「あかんなぁ…ちゃんと読める文字を横に出しとかんと…」
ナオキングやジョニーが言っている展示品のプレートには 
理解不能な文字で何か書かれているものの、其の内容は全く解らない。 
この博物館は飽く迄、独立記念博物館なのだから、 
火星超古代文明はオマケ程度でしかないのだろうか。
「全くだね。不親切極まりないよ。 
 俺、此処に来たのは初めてだけど… 
 古代文明を等閑にし過ぎだよ、此処」
ナオキングの横で同じプレートを眺めていた男性が、 
いきなり彼等の会話に割り込んで来た。 
一瞬、何だか解らずに唖然となるナオキング&ジョニー。 
其れにも気付かないのか、其のまま喋り続ける男性。 
茶色のベストを着た長身の男で、妙に軽い印象を受ける。
「でも何か嬉しいなぁ。 
 此処にも火星超古代文明に興味ある人が居て。 
 ……このプレート…赤い紋様はラグナロク時代のもの…… 
 火星超古代文明には其の年で幾つかの区分けがされているんだ。 
 今から約570万年前が今言ったラグナロク時代。 
 其の約2万6千年前がラグナレック時代、更に約3万2千年前がラグナリヴ時代。 
 このラグナロク時代のプレートに書かれているのは、ちょっとした神話伝承なんだ。 
 面白いと思わないかい? 
 『守護者』を初めとした超高度な科学力を持っていた古代火星人が神話伝承だよ?」
「は…はぁ……」
講釈かます長身男に、 
何処から入って話を中断させるか解らず、 
互いに顔を見詰め合い気の無い返事を返すナオキング達。
「うんうん。此処に記された伝承は、 
 古代火星の中でも尤も広く流布されていたと思しき動かざるトル……
「ナオキ、ジョニー。そろそろ結晶の方へ行くぞ」
長身男の話を遮ったのは、ちょっと前まで隣の部屋に行っていたタカチマンだ。 
助けに舟とばかりにナオキングが言う。
「あーっと済みません。僕達、別に見る所があったので…」
「そ、そやな。其の話は又、次の機会っつー事で……」
其れだけ言うとジョニー達は其の場を後にした。
執筆者…is-lies

館内を一通り見て回った一行は博物館の中央奥の部屋に集合した。 
インフォメーションの閲覧ルートではここが最後の部屋だ。
「…で、これが八姉妹の結晶、 
 ワン・オブ・ミリオンか…」
部屋の中央に鎮座する結晶を取り囲みながらも、全員何か腑に落ちないといった表情だ。 
八姉妹の結晶と聞いて、さぞ美しく神々しいものだと想像していたのだろう。 
期待外れとまでは言わないが、これといった感想も思いつかない。 
結晶自体は黒光りする八面体で、大きさはリンゴくらいだ。 
むしろ、妙に頑丈に作られた台座の方が気になる。 
プレートには「触れないで下さい」と書かれてはいるものの、 
ガラスケースに覆われている訳でもなく、警備も厳重という程でもない。 
その気になれば、ここにいる面子で簡単に盗み出せそうである。
「…む、やはりな」
タカチマンが携帯端末をかざして何やら計測している。
彼もエーテル先駆三柱の一柱と言われる研究者だ。
携帯端末には最新鋭機にも劣らぬ自前のエーテル波計が搭載されている。
「実は私はコレを見るのは二回目だ。
 だが、やはり何とも言えんな…」
何故かタカチマンも説明に苦しんでいる。 
プレートに記されている説明文を見ても不明な点が多い。
元々、この結晶はアメリカが所有しており、 
2年前、テラフォーミング計画に利用しようと火星に運ばれたのだが、 
その際に輸送船がここに墜落したのだ。 
つまり、この結晶が博物館に展示されたのではなく、 
この結晶が落ちた場所に博物館が建てられたという訳だ。 
その後、火星の独立に伴い火星政府がその所有権を一方的に主張した…
…というのがその経緯である。
「ニセモノじゃねぇだろうな?」
「いや、本物には違いない。 
 エネルギープラントとしての使い道はまだ解っていないが、 
 このワン・オブ・ミリオンは現在確認されている超結晶の中でも、その効果が特に不可解だ」
「ふ〜ん。 
 まぁガウィーもそうは言ってたけど、これはいただきだね」
「いや、やめておけ…」
プレートの注意書きやタカチマンの忠告も無視してユーキンが結晶に手を伸ばした、 
その時だ。ユーキンの足元がヌルリと滑り、前のめりに倒れこんだ。 
咄嗟に受身を取ろうとするも、右手がないのに慣れておらず、豪快に顔面を台座に打付けた。
「くぅ…こ、これは、バナナの皮…? 
 何故こんなところに…」
次にバンガスが足元を警戒しながらそっと近寄るが…
ガン!
たらいが突然降って来てバンガスを脳天を直撃した。 
勿論致命傷には至らない。直に上を見上げてはみたが、 
こんなくだらないイタズラをするような人影はどこにも見当たらなかった。
「…任せろ」
落下物なら避けてみせると言わんばかりに、カフュが前に出る。 
周囲360度を警戒しつつ結晶に触れようとすると… 
地球儀、消火器、ビールジョッキ、木彫りの熊、別冊マーガレット… 
まるでカフュが避ける方向を予測しているかのように次から次に微妙な鈍器が頭上に降り注ぐ。 
だが、スピードならば自由落下よりもカフュの反射神経の方が上だ。 
素早く距離を詰め、ついにその手が結晶を掴む。
「何!? 動かない!?」
結晶は台座に溶接されているかのようにビクともしない。 
両手で結晶を掴んで足を踏ん張った瞬間――
「スケボー…? いつの間に…?」
カフュの足元が揺らぎ、目の前が一回転、 
そのまま受身の取りにくい角度で台座から転がり落ちた。
「これで解っただろう… 
 落下物が剣や槍だったら致命傷にもなりかねん」
「それに台座に固定されてるみたいだしな」
「いや、固定されているのではなく、単にとてつもなく重いだけだ。 
 火星に運ばれて以来、日に日に重量が増し、今では推定17000tはあるそうだ。 
 そのうちアダマンチウム製の台座にめり込み、 
 いずれは火星の重力をも飲み込んでしまうのではないかと言われている。 
 おまけに触れようとする者にはこのような災厄が降りかかる。 
 以前に重機を使って移動させようとしたこともあったが、 
 その時には、大仏と鯨が降って来たそうだ…」
「これが…八姉妹の結晶…」
「八姉妹セシリアさんってどんな人だったんでしょうね…」
執筆者…Gawie様
「そろそろ行くぞ。」
タカチマン一行がその場を離れるのとほぼ入れ違いになるように、
二人組の少年が別方向から結晶の前に来る。
「これが――の結晶ワン―――か―」 
「エー――って、これじゃ――」 
「うん、でもどうせ――」
その会話に、バンガスはその場に立ち止まってそちらを振り向いた。 
話は途切れ途切れにしか聞こえなかったが、
おそらく『ワン・オブ・ミリオン』について自分達と似たようなことを話したのだろう。 
問題はそこではなく、単純に声そのものだった。どこかで聞いたことがある気がする。 
どこだったか思い出そうとして……
「おーいバンガスっ、何やってるんだっ、置いてくぞー!」
「あ、はいっ」
声をかけられ、顔を戻せば、既にみんな遥か前方。 
慌てて駆けだし、もう一度だけ二人組のほうを振り向くと、既にその二人は居なかった。 
疑問符を浮かべつつ、とりあえず気にしないことにして、バンガスは他の皆に追いついた。

 

バンガスが走り去ったのとほぼ同じ時――
「ねぇ、さっきの人達――」
「ああ、こんなとこで再会するとはね。」
「どうしよっか?」
「情報収集って言ってもアテは無いし、とりあえず尾行でもしてみっか。」
「そだね。あの人達、何か面白そーだし。」
一瞬前まで結晶の前に居た二人組は、物陰から彼等の様子を伺いながら、行動を開始した。
執筆者…you様

博物館からの帰り道、タカチマン一行は二手に分かれた。 
久しぶりの遠足気分で浮かれていたのか、 
珍しくリュージが「一杯おごる」と言い出したので、一行は年少組を先に帰らせ、 
タカチマン、佐竹、ジード、リュージのアダルト四人で繁華街の酒場に足を運んだ。
「しかし、八姉妹の結晶ってのはとんでもねェな。 
 あんなのがあと7つあるのか」
「持つ者に災いをもたらす呪いのアイテムなんて、オカルトじゃよく聞くが、 
 まさかあんなに解りやすい呪いが降りかかるとはな」
「で、どうする?やるのか? 
 やるとなると、当然SFESとも鉢合わせする事になると思うぜ」
「…報酬はともかく、問題はそこだな」
八姉妹の結晶を探すという依頼を持ちかけられたタカチマン達だったが、 
その依頼主のガウィーも話の中ではSFESに関しては一切語っていない。 
何でもSFES関連付ける訳にはいかないが、全く関係がないことはないだろう。 
八姉妹の結晶の力を利用するといっても、あれだけのエネルギーをどう扱うのか? 
その力がどのように具現化されるのか? 
まるで具体性に欠けている。 
「前支配者から地球を救う」という口実も一個人が口にするようなものではない。 
おそらくは大義名分に過ぎず、何らかの後ろ盾があるか、 
ガウィー自身も単なるエージェントである可能性が高いだろう。
「同じ情報屋でも俺とは畑違いだ。
 そもそも情報屋と言っても二種類ある。 
 一つはティップスター。 
 裏情報の売買を生業とするいわゆる真っ当な情報屋だ。 
 もう一つはディシーヴァー。 
 こいつは情報を操作して人を動かす言ってみりゃ詐欺師だ。 
 俺はどちらかと言えば前者だが… 
 奴はおそらく…後者だ。用心した方がいい」
「けど、槍の製作依頼は受けちまったぜ?今更断るのもなぁ…」
「いや、断るとまでは言わないが、 
 何かあるのは間違いないからな。 
 それに手掛かりが少なすぎるぜ」
「手掛かりか… 
 あるとすれば…原初の能力者…」
「あー、それ俺も調べたぜ。何も見つからなかったけどな」
以前の戦争当時、 
能力者側の象徴的存在であった八姉妹には、それぞれ 
原初の能力者という最初の結晶能力者が補佐に付いていたと言われているが、 
その存在も八姉妹と同様に謎に包まれている。 
そもそも八姉妹に関して謎が多いのは、この原初の能力者達が、 
戦後、八姉妹と自分達の記録を全て抹消したためだとも言われている。 
それ以来13年間、各国の追跡も空しく姿を現してはいない。
「ガウィーがまだ何かを隠してるといたらその辺りだな」
「情報を小出しにするのは情報屋としてはセオリーだ。 
 嘘は言ってはいないが、本当の事も言っていないってとこだな」
「…やはり我々の返答次第ということですね」
執筆者…Gawie様
一方、隣のテーブルでは17、8歳くらいの若い二人組みが座っていた。 
タカチマン達に背を向けるようにして、聴覚だけは後に集中させている。 
変装といえばカツラとサングラスくらいしか思い付かず、 
余計に周囲から浮いてしまっているタカチマン達に対し、 
こちらの二人組みは変装もあくまでファッション感覚だ。 
整形手術や特殊メイクを施すまでもなく、 
簡単なメイクと服装と髪型でガラリと雰囲気を変え上手く周囲に溶け込んでいる。
「…あちらさんも煮詰まってるみたいだね…」
「あぁ、まさか目的が同じになるなんてな… 
 けど俺はSFESを相手にするのはもうヤだぜ」
「う〜ん、でもリゼルハンクの下見くらいはしときたい所だけどね」
「そうだな。それもあるし、もう少し尾行してみるか」
二人組みはそう言いながら、ファッション誌で前を覆い、 
ステーキナイフを鏡代わりにして、タカチマン達の顔を確認する。 
だが、前方不注意だった。
「おい少年、お前等今リゼルハンクとかSFESとかって言ってなかったか?」
突然前から話し掛けられギョッとして顔を上げると、 
いかにも刑事風の中年男性が二人を睨みつけていた。 
懐からボロボロになった警察手帳をチラつかせると二人の顔が更に引きつる。
「え〜っと、 
 いや、あの会社のロゴが入ったTシャツいいなぁって…」
「SFESってのは?」
「さぁ、何かのブランド名ッスかね?」
「…知らねェか。 
 やっぱそうだろうなぁ。 
 いやな、リゼルハンクのSFESってのが最近ゴロツキの間で有名なんだが、 
 噂ばかりで誰もその実態は知らねェときた、こいつはただの都市伝説だな。 
 まぁ、お前等もあんまり悪い事すんなよ」
愛想笑いで誤魔化す二人に対し、 
中年は馴れ馴れしく席に座ると、タバコに火を点けた。早く帰れ。
「ところで、お前等どう見ても未成年だよな?」
そう言って二人が飲んでいたグラスを嗅ぐ。 
なんとなく汚らわしい。
「…酒は飲んでないみたいだが、 
 少年がこんな所にいるのは関心しねェな。 
 あんまり夜遊びしてると、補導しちゃうぞ」
中年は半分ほど吸ったタバコを揉消し、運ばれてきた水を一気に飲み干すと、 
そのまま一人で勝手に納得して店を出て行った。
「…警察も動いてるんだ、一応」
「てゆか、死ぬな。あのとっつぁん」
執筆者…Gawie様
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