リレー小説3
<Rel3.シェリア1>

 

「はぁ…狭い家やなぁ…」
『青』が渋々折れた事によって、 
晴れてこの何でも屋に居候する事になった少女、 
名はシェリア・ラジュールと言う。 
歌で成功を収める為の第一歩として、 
アプリットオーディションに参加すべく火星に来たのは良いが、 
あっという間に迷子になってしまい、 
この狭い何でも屋に保護されるに至る。 
…とはいえ彼女シェリアが住んでいた実家は、 
確かにこの店よりは狭くないものの、広い方でも無いのだが…
「エイスさんもアオさんも出掛けてるし… 
 ……何すれば良いんやろか……」
エースや『青』は、イルヴの帰りが妙に遅いと心配し、この付近を探しに出掛けて行ったばかりだ。 
尚、シェリアに店を任すのも不安だったので、 
店そのものを閉店させて行ったので、シェリアにはやる事が無い。 
これから住む事となる店の中を歩き回っては見たものの、この狭い店では大した暇潰しにもなりはしなかった。
シェリアは退屈だった。
執筆者…is-lies

 店の外

 

「今がチャンスか…… 
 あの店…最近開店したらしいが… 
 客足も疎らだし、店員2人はもう出掛けて閉店… 
 ……あの精神病院から抜け出せたのは良かったが… 
 何か火星に来た途中の記憶が…良く思い出せん… 
 其れに金も無ければ腹も減った…… 
 この連続強盗殺人婦女暴行魔!!…になる予定ゴレティウ様の、 
 初強盗と行こうじゃねぇか!」
ボロボロの外套を纏ったデブ強盗が店へと向かっている事を、 
店中のシェリアが知る術は無かった。
執筆者…is-lies

「あー、そうや!
 何もする事がないんやったら、料理作ればええんやー 
 うちって頭いいー」 
何故料理なんだ。というツッコミが聞こえてきそうな事を言いつつ、台所へと向かうシェリア。
「えーと…包丁、まな板、フライパン〜…あ、秋刀魚がある〜」 
粗方材料を冷蔵庫から取り出すシェリア。勝手に取っていいのか。
「よし、秋刀魚もあるし、今日は秋刀魚の蒲焼きにしよう〜…作ったことないけど」 
作ったことないのにいいのか。
「えーと、まずは…秋刀魚を切って…それから…油を熱して焼く…!」 
良い子のみなさんは、さんまは3枚におろし、
腹骨を取って半分に切ってから焼いてくださいね。(某ホームクッキングより参照)
「…えーっと、これからどないするんやったっけ…… 
 いつ煮るんやったっけ……あ、焦げてる」 
焦げたというか、もう既に黒コゲ状態の秋刀魚を遠い目で見つめるシェリア。
しばらくして… 
「ま、ええわ。料理は愛情ッ!って言うんやし… 多少焦げても大丈夫!」 
料理は愛情の一言で死人が出たらたまったものではない。
果たしてこんな彼女は、店を守りきる事が出来るのだろうか…
一応、料理という事になる物体Xをせっせと卓袱台の上に並べる。 
此処で「この事件」が起こらなければ… 
卓袱台上の物体は『青』やエース、そしてイルヴが食べる事になり、 
この物語の後々の展開も、かなり変わったものとなっていただろう。 
だがそうはならなかった。
ガチャ
「……ほえ?」
音のした方を見てシェリアが気の抜けた声を出す。 
彼女の眼の前には、外套を纏った超ド級のデブが突っ立っていた。 
何処を見ているのかも解らないドングリ眼、だらしなくヨダレを垂らしたタラコ唇… 
醜怪の2文字を攪拌・凝縮して発酵させた様な容姿の大男もといデブだが、 
何よりも奇怪なのは顔の輪郭がガタガタに歪んでいる事であろう。
「うぉっ!?人が居たぁ!!?」
「…あ、こんにちわ〜」
激デブであるところの強盗は、 
裏の勝手口から軽々と侵入していたのだが、 
まさか中に人が居るとは思っていなかったらしく酷く狼狽えている。 
一方、シェリアの方は何の警戒心も持たず、強盗に挨拶していた。 
泥棒とは考えないのか? 
明らかに悪人面…というか見付けたら問答無用で通報したくなるような顔の男が、 
勝手に家の中に入って来たのだ。普通なら悲鳴の一つ位は上げるだろう。 
だが其処は天然入ってるシェリア。客だろうと勘違いかましていた。 
エース達が店を閉店させたという事は既に忘れているのか…。
「今から食べるトコなんですわ。御一緒しまへん?」
「………はへ?」
俄かには信じ難い。だが信じるしかない。 
シェリアはデブ強盗を招き、一緒に食事をしようというのだ。 
狼狽し、言われるままに卓袱台に正座し、シェリア作の物体Xを口に運ぶ強盗。
「はっ!?こ…コレはぁああああぁぁぁぁああああああッ!? 
 う…美味い!!美味過ぎる!!お…おかわりくれや!!」
ゲテモノ好きだったのか、強盗はシェリアの物体Xを次から次へと美味そうに頬張る。 
醜いデブがグロテスクな料理を嬉々として貪る其の様の不気味な事。 
シェリアも嬉しそうに次々とおかわりを出している。 
彼女自身はこの物体Xの味を知っているのだろうか… 
答えは知らない。この料理を作るのは初めてなのだ。
因みにシェリア自身は自分が作った物体Xとは別のものを食べた。 
物体Xを美味しいといってくれるデブ強盗があまりに嬉しかったのだろう。
執筆者…深樹様、is-lies
談笑なんかしながら食事も終え、居間で寛ぐ2人。 
リモコンでTVのチャンネルを変えたりしているデブ強盗の頭からは、 
この家に強盗に入ったという事すら忘れられていた。

 

 

 

……………

 

 

 

俺は強盗だぁあああああ!!!!!!
超・唐突。
いきなり叫んで卓袱台を引っ繰り返し、
包丁をシェリアへと向ける強盗ゴレティウ(未来の連続強盗殺人婦女暴行魔)。
つーか遅過ぎだアンタ。
「強盗…?」 
ん〜? と、引っ繰り返されてしまった卓袱台を元に戻しつつ、少しだけ考えるシェリア。 
「ここは銀行ちゃうでぇ」 
なんでそうなる。 
「えーと、そやなぁ… ここから銀行へは…」 
しかもご丁寧に地図まで出して調べてるし。
しかも隣で静かに聞いてるんじゃない。仮にも強盗だろ。
そして30分後。 
「って、違うんじゃいこのアホがー!!」 
再び引っ繰り返される卓袱台。哀れなり。
「あぁっ?! なにすんの。もう少しで銀行の位置がわかったのに!」 
「銀行の位置調べんのに30分もかけんじゃねぇぇぇぇぇえええっ!」
「せ、せやけどォ… うち、元々トロイし…地図逆さまで…こんな口調やし…」 
この際口調は関係ないと思われる。
「怒らんといてぇ…次からは25分以内に見つけるようにしますからぁ」 
それでも25分か。
「んなことはどうでもいいんだよ! 死にたくなかったら金を出しやがれ!!」 
「せやから、お金が欲しいんやったら銀行に行かな…
 ここは…………す、少なくとも銀行やないで!」 
お前、ここがなんの店かわからなかっただろ。
「だーかーら、此処が何かだなんてどーでもいーんだよぉ! 
 金出せ、食いモン出せ!!…あ、食いモンはもう良いや。 
 このゴレティウ様をあんま怒らせてんじゃねーよぉ!!」
予定の科白を叫んでから、既に自分が腹一杯食べている事に気付き訂正する強盗。 
まあ食べたものがちゃんとした食べ物であるか否かは怪しい所だ。
「…ええっとぉ…だから銀行でぇ…… 
 通帳があればお金出して貰え……」
「ねぇよぉおお!!!」
キレた強盗は包丁をシェリアにバッと突き出し、其の眼の前で寸止めする。 
デブとは思えない程の腕の速さ、そして正確さである。 
流石に声を失ったのか、シェリアは其のまま尻餅をつく。
「良いかァ〜、つべこべ言わずに此処の金持ってくりゃいーんだよ!! 
 次に下らねぇ事ヌカしたら…俺様の脱童貞に使ってやるぞ!」
「う〜…此処、銀行ちゃうのに…」
まだ銀行がどうのこうのと言いながらも 
漸く金を持ってくるシェリア。 
だが其の金は彼女自身が持っていた金だった。
「……この店…そんな儲かってねぇのか……? 
 …………まあ客は全然来てねぇけどよ…。 
 …まあ良いぜ!今度、強盗が来たら大人しく金を渡すんだぞ?」
メチャクチャな事を言いつつ出口へ向かおうとする強盗。 
だが、其の時……
「ちょ、ちょい待ち! 
 …其の……ごめんなぁ…うち、知らなかったんや。 
 銀行とちゃう場所なら強盗に大人しく金あげるなんて……」
コイツ、わざとやっているのかと訝しむ強盗。 
まあアレである。天然だから…としか言い様が無い。
「其れでぇ……せめてもの詫びに…… 
 、歌わせて欲しいんや。うち、其の程度しかでけへんし…… 
 ……こ、これでもで世界狙ってる位なんや!」
強盗ゴレティウ…彼の敗因は其の好奇心、忘れっぽさ、傲慢さである。 
彼へと贈る言葉は「好奇心は猫をも殺す」
執筆者…is-lies、深樹様

その頃、イルヴを探しに行った二人は。
「ふぅ… 結局、イルヴさん見つかりませんでしたね…」 
「くっ、オレのが足りなかったばかりに…」 
「………見つからなかったものは仕方が無いですよ。 
 一旦店に戻りましょう。もしかしたら入れ違いになったのかもしれませんし」 
「そ、そうだな! 待ってて下さい、イルヴさん! 今すぐ戻ります!」 
そう言って物凄いスピードで店の方向へと走り出す『青』。愛は偉大である。 
「いや、まだ帰ってるって決まった訳じゃ… 
 ……って、もう見えなくなってる」
「ただいま戻りました、イルヴさん!!」 
いきおい良く店のドアをあけて叫ぶ『青』。 
ちなみに、先ほどの会話から3分も経っていない。
「あ、アオさんや〜 おかえりなさいー」 
中にはひっくり返った卓袱台を元に戻しているシェリアがいた。
「イルヴさん、どこですか?! イールーヴーさーんー!!」 
『青』、シェリアは見えていない様子。それに続いてエースが店へと戻ってくる。 
「おい、エース! イルヴさん、まだ帰ってないじゃないか!」 
「いや、だから。まだ帰ったとは限らないって言っ……て……?」 
パッと見、店の状態に違和感を感じるエース。
「……あの、シェリアさん?」 
「あ、エイスさんもおかえりなさいー」 
「…ただいま。で、シェリアさん…… 探しに出た時よりも家具が移動していません?」 
「え? …………そ、そないな事ないでぇ? きっと気のせいやてー」 
心なしか、目が泳いでいる。ついでに視線を逸らしている。
「…ごめんなさい。歌を歌ったら何故か店が滅茶苦茶になってて…」 
「歌? なんでまた…」 
「そ、それがぁ… 
 最初はみんなが戻って来たときの為に晩御飯作ろ思うて… 
 作り終わった時、急に『強盗』って言うお客さんが来たんや。 
 一人で食べるのもなんやし、一緒に食べたら美味しい美味しい言うて食べてくれて… 
 その後テレビを見てたら包丁を持ってお金を出せって言うたから、 
 銀行の場所を教えようと思って地図を取り出して……えーと… 
 と、とにかく。銀行とちゃう場所なら強盗に大人しくお金をあげなあかんらしくて… 
 それで、お詫びに歌ったら…」 
『歌ったら……』そこで、エースは思い出した。 
彼女…シェリアの道案内を依頼した長身の女が言っていた
『歌わせない事。何が起こっても知らないかんね』という言葉を。
「……こう言うことか…」 
今更気付いても後の祭り。 
とは言っても、今回は彼女が勝手に歌ってしまったのだから、
防ぎようが無かったといえば無かったのだが。
庭の方を見てみると、家から勢い良く吹っ飛ばされた感じで気絶しているデブ男が1人。
シェリアは自分でも気付かない内に強盗を撃退していた様だ。
其れは良い。だが問題は『歌を歌う事で何が起きるのか』である。
執筆者…深樹様

 

inserted by FC2 system