リレー小説3
<Rel3.シャックス・ウォン1>

 

 

  アテネ西部、コリントス上空

 

 

SWATの大型ヘリの中で目的地への到着を待つSTの面々。 
無論、監視役として警察から付けられたブルース・セトも一緒だ。 
目的地は今居るコリントスよりも更に西…ミュケナイというポリス(都市)にある。
モーロック… 
火星がテラフォーミングされる前、 
臨時ポリスとして各所に建てられたドームがあった。 
併し其の本体はドームの下…詰まりは地下施設であると言っても良い。 
テラフォーミングが終了し用済みとなった其れこそが、通称モーロックだ。 
政府はこれを犯罪者や獣人の監獄として再利用しているものの、 
今回、一同の向かっているミュケナイモーロックの様、 
一種、治外法権のスラム化しているもののもある。
第3次世界大戦…そして少し前の第4次世界大戦…… 
そういった未曾有の大混乱に乗じ、 
区画整理で溢れてしまった一部の者達がモーロックを始め、 
荒廃した都市の一部区画を占有してしまったと言われている。 
しかもタチの悪い事に能力者や獣人が率先して行ったらしく、 
思う様に再開発が進んでいなかった。 
だが、地球から大勢の移民が来るとされる今、 
何としてでもスラムの再開発を推し進めなければならない。 
ST側もこれを断る事は出来なかった。
「しっかし…少々強引でも早めにスラム開発してりゃ良かったってのに… 
 そうしてくれてたなら、俺達が動く様な事も無かったろ?」 
呟いたのは虚空…いや、相変わらず姿が見えないままのアンビジョンだ。 
確かに幾らスラムを支配している能力者達の力が絶大でも、以前から採れた方法は幾つもあった。 
現に第三次世界大戦…詰まりは能力者と非能力者の戦争でも、 
新兵器や物量でもって能力の差を打ち破った非能力者が勝利した。 
この火星を支配している火星帝… 
非能力者達からは賢君と謳われているレオナルドも、獣人や能力者に対しては容赦が無く、 
彼ならばもっと以前から、今よりも更に強引に開発を進めさせていた筈だ。 
だが、火星帝はそうしなかった。
「今回の事でも十分に早急ではありませんか? 
 其れよりももう直ぐミュケナイに着きますよ」 
牧師服を着た細面の男が右手の手袋を填め直しながら言う。 
ヘリの中に牧師というのも少々ミスマッチだなものだが、 
彼こそがSTの切り札的存在でもある能力者なのだった。
執筆者…is-lies

   ミュケナイ・モーロック

 

横に広がった感じの巨大な半球型ドームは、 
分厚い鉄の壁と、宇宙線を防ぐ目的で取り付けられていた、 
くすんだ色をしたガラスの壁で構成されている。 
既にアテネ南北では旧時代の遺物とされているが、 
此処、ミュケナイの様な開発が不十分な区域にとっては、 
未だに周囲の荒野と合って溶け込んでいる印象がある。
古めかしい外見のドームを包囲しているのは、 
先に到着していた警察官達だ。 
其の中で、メガホンを持った代表格の男が、 
ドームに向かってあれこれと地球の破滅現象、地球からの移民、 
火星の開拓地区不足などをベラベラと垂れ流す。 
モーロック内の能力者達は正に聞く耳持たず。其のまま沈黙を保っている。 
だが警察官達に突き刺さる敵意が強烈になっている事は、 
其の場の誰もが感じ取る事が出来ていた。
《そんな事はどうでも良い。 
 我々が此処から退去する条件は唯1つ。 
 火星に於ける能力者・獣人差別の撤廃だ! 
 愚帝レオナルドの残虐行為は決して正当化されぬ! 
 貴様の様な下っ端では話にならんわ!》
ドーム全体から響き渡って来る様な男の声。 
モーロック内部に居る能力者達のものだ。 
警察側と問答を繰り返しているのが嫌になって来ているのか、 
其の声にも怒りがありありと滲み出ている。
だが、警察側は其れで良いのだ。 
彼等は最初から交渉する気など無い。 
単なる時間稼ぎなのである。
数分経ってからか、増援と思われるパトカーが現われ、 
合流して来た男の内1人が、 
先の警察代表の男からメガホンを受け取り、 
モーロックへと更に近付く。
「革命の志士の皆様、 
 私が政府から指名された交渉人ジャック・チャンです。 
 政府は貴方々の要求を条件付で受け入れる事にしましたので、 
 其の条件を今から伝えます。
 …武器を置いて、地面に伏せろ! 
 手は頭の上で組め!!
執筆者…is-lies

「…そうですか。もう決着が付きましたか。 
 流石は『ヴォイス』のウォン神父……」
街を眺めながらテラスで寛いでいるのは、 
教会の白い法衣を着た中年男性。 
脱色を始めた灰色の髪と髭に、中年太りした体付き。 
これだけなら何処にでも居る平凡な神官と言った所だが、 
彼の羽織った豪奢な青いマント、 
そして十字架と翼のシンボルを取り付けた帽子が、 
この中年が火星の法王である事を示していた。 
穏やかな笑顔を浮かべて隣の小姓少年から報告を聞き、 
法王ラ・ルー・ヌースはさも愉快そうに髭を摩る。
アテネ西部コリントス。 
火星法王の宮殿がある事でも知られている大都市だ。 
アテネやスパルタ程の規模や設備は無いものの、 
信心深い人間にとっては、 
正に此処こそが聖地であり、火星の中心部であった。
「この力…SeventhTrumpet……いや、 
 我々、教会そのものの内に閉ざしておかねばなりません。 
 過ぎた力は必ずや破滅を齎す事でしょう。 
 …で、アークエンジェルズは帰還したとの事でしたね。 
 併し……法の改正とは、また強引な… 
 火星帝………何を考えているのか」
困ったように呟きながらカップを差し出す法王に、無言で紅茶を次ぐ小姓。 
法王が眼を遣ったコリントスの町々は、夕日に染められた黄昏時だ。
「ああ………黄昏ですか……… 
 神々の黄昏………また始まる…… 
 …まあ私には関係の無い事……精々楽しませて貰いましょう」
執筆者…is-lies
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