リレー小説3
<Rel3.SeventhTrumpet2>

 

  3時間目「魔術実習」

 

ナターシャ達は憂鬱だった。
先週末に今年の実習カリキュラムの変更が発表された。 
それにより、アークエンジェルズ候補生は素質の有無に関わらず、 
これから一年間は基本属性別に攻撃魔法の基礎を叩き込まれることになった。 
有翼という特殊な体質を見込まれ、アークエンジェルズの候補生となったナターシャ達だったが、 
炎や水を操るタイプの魔術はまるで苦手だったのだ。 
尤も、当初は候補生それぞれの適性に合わせた能力開発が行われていたのだが、 
今年になって、より戦闘的な能力が重視されるようになり、それに対する教団内の反対の声も少なくはなかった。
しかし、当のナターシャ達はというと…
「…予習できた?」 
「全然ダメ。 
 大体、適性で判ってながら「やれ」って方がおかしいのよ」 
「しょうがねぇよ。 
 まぁ、必修ってわけじゃないんだし、 
 火傷しないように適当にやろうぜ」 
「ふふふ… 
 わたしはそうはいかないのよね。 
 今日の実習でいいとこ見せてれば、 
 例の警備の仕事に選ばれるかもしれないし」
ナターシャ達がぼやいている中、 
アナスタシアは妙な含み笑いを浮かべながら、 
一足先に実習室に続く螺旋階段を駆け下りていった。 
勿論、アナスタシアも今日の課題「炎術」は得意ではない事は皆知っている。 
当然、二日や三日で習得出来るようなものでもない。 
況してや、秘密の特訓をするほどの根性もない。 
イヤ〜な予感を抱きながら、ナターシャ達もアナスタシアを追って実習室へ急いだ。
執筆者…Gawie様

魔術実習室は教団施設の地下に深くに建設されていた。 
直径100メートル程のドーム状の室内は全てミスリルでコーティングされ、 
エーテル波計等も最新のものが揃えられている。 
ただ、内装は至って古典的であり、照明は蝋燭の灯のみで、辺りには香の匂いが漂っている。 
飾り物の神を祭っている地上の礼拝堂とは対照的に、 
ここは宛ら、魔女が悪魔を召喚する秘密の部屋のようである。
ナターシャ達が実習室に到着すると、
室内では、既に50名ほどの候補生が集まっており、 
各々が予習の成果を披露している。
5本の指に火を灯している者。 
口から炎を吐いている者。 
全身が燃え上がっている者。 
様々だ。 
ナターシャ達もその集団に加わると、 
一応それらしく見えるように瞑想を始めた。 
と、そこへ、牧師兼魔術講師であるシャックス・ウォンがやってきた。
「皆さん、予習はしっかりやってきたようですね」
彼の言う予習とは、 
炎を発生させ、それを3分以上維持することである。 
今週から本格的に魔術の実習が始まったのだが、 
自ら起した炎で火傷したのでは話にならない。 
ウォンが候補生達に課した狙いは、 
炎を操る事よりも、その熱に耐える事にあったのだ。
「え〜、現在、全人類の約4%が能力者であるといわれています。 
 その中でも最も多いのが、などを操るタイプであり、 
 皆さんがアークエンジェルズに正式に入隊した際に、即戦力となるのもこのタイプです。 
 当初は、パイロキネシスハイドロキネシスエレクトロキネシスなどと呼ばれ、 
 その属性、効果によって細かく分類されていましたが、 
 エーテル能力があまりにも多種多様になったため、 
 今では、単に「魔法」と一括りに呼ばれることが多くなっていますね。 
 能力の効果は人それぞれが持っている才能やイメージが関わってきますので、 
 必ずしも、全ての種類の能力を習得出来る訳ではありません。 
 ただ、一つの能力が使えるだけでは、実戦では役に立たないのも事実です。 
 理想としては、 
 格闘術+エーテル能力か、もしくは、エーテル能力数種の習得です。 
 一年間の実習の中で、自分のフィーリングに合う形を見つけてください。 
 では、実習を始めましょう。 
 今日からは、より実戦的に的を使うことにします。 
 何も考えずに炎を起すよりも、的を攻撃するという意思が加わりますから、 
 コツさえ掴めば、これは予習よりも簡単なはずです」
ウォンが説明を終えると、 
候補生達から20メートル程離れたところに指導員が的を設置し、 
更に、万一のエーテル暴走に備え、数名の指導員が候補生達を取り囲んだ。 
的といっても、木製の支柱の先に紙風船を取り付けただけで、 
火球が命中すれば簡単に燃え上がるようなものだ。 
候補生が一人ずつ的を撃ち落していく中、 
列の後の方で迷っていたナターシャ達4人にもついに順番が回ってきた。 
ナターシャ達に背中を押され、仕方なくアレクセイが前に出る。
「ファイヤーストーム!!!」
「…………」
気合は良し… 
しかし何も起こらない。 
「イメージが先走り過ぎて、エーテルが全く同調していません。 
 はい、次」
エレナの番だ。 
大真面目にやって失敗するのはやはり恥ずかしい。 
かと言って、適当に失敗して誤魔化しても直にバレてしまうだろう。 
普段何気なく使っているテレパシー能力―― 
精神感応も炎術も、系統は違ってもエーテル能力には違いない。 
他の候補生達を見ても、炎の起し方は人それぞれだ。 
ウォンが言うように、コツさえ掴めば何とかなりそうな気もする。 
エレナは珍しく真剣な表情を見せると、 
目を閉じて、小さく呟いた。
「…炎…」
最初は落ち着いて、的に向かって手をかざし、炎をイメージする。
1分経過… 
握った拳に力が入り、 
体全体がプルプルと震えている。
2分経過… 
周りからクスクスとせせら笑いが聞え、 
エレナの顔がみるみる紅潮する。
3分経過… 
額に脂汗がにじみ、背中に冷汗が流れる。 
もはや、周囲の嘲笑に耐えるのに精一杯で、 
とても集中出来ているようには見えない。
「よろしい、そこまで!」 
「はぁ… 
 す、すいません…」 
「いえ、先程も説明したように、 
 全ての系統の能力が使えるようになるとは限りません。 
 能力の系統や属性によっては、出来ないものは出来ないのです。 
 ですが、知っていることに越した事はありません。 
 たとえ適性がなくとも、様々な能力の修練を積むことは、 
 自分の得意な能力を更に強化するヒントにもなるでしょう。 
 そうですね… 
 では、ここで一つ実験してみましょうか。 
 サブリナ、ガルシア、お手本を見せてあげて下さい。 
 それから、レベル3の用意をお願いします」
ウォンがお手本と言って指名したのはサブリナとガルシア、 
候補生の中でも特に能力の高い二人だ。 
そして、その二人の前に指導員が金属製のパネルのような物を持ち出してきて、 
的を覆い隠すように設置した。 
レベル3とは、つまり障害を想定した訓練のことなのだろう。
まず前に出たのは、ナターシャ達のルームメイトでもあるサブリナだ。 
おとなしい子で、この状況を申し訳なく思ったのか、 
ナターシャ達に対して照れ笑いを浮べている。 
だが、その魔力は本物だった。
「…障壁はおそらくミスリルですね。 
 なら…、ファイアブーメラン!
サブリナが放った火球は、障壁を避けるようにカーブし、見事に的を捕えた。 
周りで見ていた候補生達からも拍手が起こる。 
だが…
「ふん、ブーメランとは、また安直な… 
 君は実戦でもそうやって魔法の名前を叫ぶのかい?」
鼻で笑っているのはガルシアだ。 
学園ドラマで必ず一人は出て来そうなお約束なヤツで、 
魔術の才能はあるが性格が悪い。
「魔法はもっとスマートに、僕のようにね…」
ガルシアが軽く手をかざしただけで的は燃え上がり、 
あっという間に支柱もろとも炭と化した。
「二人ともお見事です。 
 さて、今見せてもらった様に、 
 同じ系統の魔法でも、その発動には大きく分けて二通りあります。
 サブリナはプリセットタイプ。 
 魔法の属性や効果を予めパターン化しておいて、 
 主に詠唱によって発動します。 
 一度イメージを固定したものを変化させるのは困難ですが、 
 エーテルの制御が比較的簡単で、 
 修練を積めば、詠唱なしでも発動出来るようになりますし、 
 複数の魔法を同時に扱うことも可能になるでしょう。 
 そして、もう一つ、 
 ガルシアはヴァリアブルタイプです。 
 これは、その場の状況の応じてイメージを練るタイプなのですが、 
 制御が難しく、状況によっては、発動に時間がかかったり、 
 思うような効果が得られなかったり、最悪の場合、暴走も有り得ます。 
 しかしこれを極めれば、一種類の系統だけも絶大な威力を発揮するでしょう。 
 今日、残念ながら、アレクセイとエレナは上手く出来ませんでしたが、 
 この事踏まえて、もう一度考えてみてください。 
 では、次… 
 あ、そろそろ時間ですね…」
説明が長過ぎたようだ。 
ラッキーと思うナターシャだったが…」
「待ってください」 
声を上げたのはアナスタシアだ。 
「あの、わたしやります。 
 障壁はそのままで構いませんから、お願いします」
「…ふむ、いいでしょう」
ナターシャが止める間もなかった。 
アナスタシアのことだ、本当に炎術が使えるようになったのなら、 
勿体付けずにベラベラと自慢するに決まっている。 
『抜駆けなんてあるはずがない』 
複雑な気持ちで見守るナターシャ達だったが、 
そんな彼女達を余所に、アナスタシアは自信に満ちた表情で前に出る。 
背に生やした翼が一際目立つ。 
天使のようなその姿には皆が見慣れていた。 
所詮、失敗作の実験体、見掛倒しであると… 
しかし次の瞬間、その場にいた全員が目を疑った。
「…舞い降りたるはエデンの守護者… 
 …天の理に慈悲は無し… 
 …唯、其を討つは断罪の熾の剣…」
アナスタシアが呪文のような言葉を呟くと同時に、 
大きく羽ばたいたその翼が真赤に燃え上がる。 
突き出した両手からは炎の渦が巻起こり、 
ミスリルの障壁を物ともせずすり抜け、的を焼き尽くした。
「おお……!」
「アナ…いつの間に…」
思わず絶句する一同だったが、何故かウォンの対応は至って冷静だった。
「はいはい、今日はここまで。 
 あぁ…アナスタシアはちょっと残りなさい。 
 他の者は急いで下さい。午後の礼拝が始まりますよ」

 

 

ウォンが急かすように候補生達を追い出し、 
実習室にはアナスタシアが一人残された。 
広い空間にポツンと佇むアナスタシアを見据え、 
ウォンは溜息を吐きながら、静かに語り始める。
「…何故残されたか、解っていますね?」
「え、え〜っと……」
「今日の貴女の術は大変見事でした。 
 しかし…インチキはいけませんね…!」
ウォンが的の方を指差すと、 
そこには、アナスタシアの魔法で燃え尽きたはずの的が、 
いつの間にか元の形に戻っていた。 
ここで初めて、油断して術を解いてしまったことに気付いたのだが、 
アナスタシアの失敗は詰めが甘かったという以前の問題だった。
「結晶能力、エーテル能力、魔法、呼び方は色々ありますが、 
 それらの起す現象がエーテルを媒体とすることに変わりはありません。 
 貴女の魔法はミスリル板をすり抜けましたね? 
 ミスリルにはエーテルを拡散する効果があることは教えたはずです。 
 何の反応もなくすり抜けるという事はあり得ません。 
 その点に於いて、貴女の「幻術」はリアリティに欠けていました。
そう、アナスタシアの魔法は「炎術」ではなく「幻術」だったのだ。 
ウォンの指摘にうろたえるしかないアナスタシア。 
勿論、彼女の幻術の効果は彼女なりには実証済みであった。 
尤も、相手が相応の使い手ならば、ウォンの言うリアリティ云々以前に、 
簡単に見破られる危険もあることを、アナスタシアが知る由もなかったのだが…
「精神感応を応用して、精神操作が行えるようになりましたか… 
 本来ならば、褒めてあげたいところですが、 
 生兵法は怪我の元と言いますからね。 
 精神感応をベースにしているので、能力を行使する際に、 
 同時に相手への精神防壁を解くことにもなり、非常に危険です。 
 解りますね?」
「…すいません」
「…まぁいいでしょう。今回のことは不問とします。 
 ただし、二つ約束してください。 
 精神操作が使えるようになったことはクラスの友達にも秘密にすること。 
 そして、これまで通り、基本属性の鍛錬に励むこと。 
 いいですね?」
ラッキーなことにお咎めはなし、 
しかし、マイナス評価であることに間違いはないだろう。 
コンサートの警護の任務に就きたいという望みは絶望的かもしれない。 
去っていくウォンの背中を見ながら、アナスタシアはただ項垂れる。 
ふと、ウォンが実習室の扉の前で立ち止まって呟いた。
「あ、そうそう、言い忘れました。 
 破壊力のみを追求する能力は、争いに勝つためのもの… 
 本来ならば必要ありません。 
 貴女の能力…精神感応は、 
 その争いの元凶である「誤解」という溝を埋める可能性を持っています。
 『神は嘗て人に「火」を与え、そして今、「結晶」という新たな力を与えた』
 その真意を確かめる術はありませんが、 
 貴女は、貴女に与えられたその能力を大切にして下さい。 
 期待していますよ…」
執筆者…Gawie様
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