リレー小説3
<Rel3.セレクタ3>
「彼等には予定通り、火星の裏側に飛んでもらいました」
「ご苦労さんでした。レシルさん」
「しかし、いいのですか? 火星の裏側というだけで、詳しい場所も分らないのに… 後で連絡するとは言っても……」
「問題ありまへん。その前に、獲物の方から食いついてきますな。 例の機体には態々あんなペイントまでしたんですから」
「そんな単純なものか、オレなら警戒する…いやむしろ問答無用で撃墜するな」
「あのネッパーだけでなく、思わぬ大物というのは… 心当たりがあるのですね?」
「ゴメンなさい。まだ推測の段階ですし、いずれちゃんと説明しますわ。 それより、そろそろ来ますよ。この話は終わりや…」
ナクソス島、某店――― この夜は全館貸切で、いつもの俗物共の下品な騒ぎ声もなく静まり返っている。 時折、リズムを外した鹿威しの音が間抜けに響く。 今夜に限って、その勘違で誇張されたような和風の建物は妙なワビサビを漂わせていた。
奥の大広間で待ち構えているのは、ロードス重工御一行様こと、浴衣姿のセレクタメンバー。 ミスターユニバース、ごとりん博士、ガウィー、レシル、シストライテ、ライーダである。 テーブルの上の豪勢な料理を挟んで向かい側には、同じく6人分の席を空け、今日の客を待っていた。
「これ、おかわりしていい?」 「あ、オレもだ。6本くらい持ってこさせろ」
既に料理に手をつけているシストライテ達が外の女中を呼ぼうとした時だ。 静かに襖が開くと、タイミング良く一人の女中が顔を覗かせ、深々とロボットの様に頭を下げた。 そして、それを跨ぐようにして、今夜の客達が入ってきた。
「はじめまして…」
「お待ちしておりましたよ『ニューラーズ』さん」
6人分の席に、客は4人、 最初にニューラーズと呼ばれた眼鏡の女性に、 ユニバースやガウィーも見覚えのある、変な口調のレギオンのリト。 他、スーツ姿の男性が2名。 あっけらかんと言い放ったユニバースの挨拶に、一瞬その場に無言の牽制の視線が飛び交った。 直に愛想笑いで流し、4人の客は席に着いた。
「遅かったな。ネッパーの案内は分かり難かったか?」
ガウィーがワインのボトルを差し出しながらニューラーズに言った。
「…なるほど、貴方がネッパー…偽ネッパーという訳ですか。どうりで… 本物は? 彼はどうしました? それにサリシェラも… …いえ、それはどうでもいいことでしたね」
先ずはセレクタの先制攻撃がニューラーズに少なからずの動揺を与えたようだ。
「…では、乾杯の前にこちらの用件を伝えましょう。 貴方方と我々は同じ目的を持つ同志… 僭越ながら、協力出来ることがあると自惚れ、今日ここに参りました。 そのつもりなら、SFESに悟られることなく、貴方々に力を提供する用意があります」
「Dキメラ、SFESDBか?」
「バレているようですから話は早いですね。 この程度で協力と言えるかどうかは分りませんが、 貴方方セレクタなら…」
「勘違いするな。 オレ達は力を求めている訳じゃない。 敵の提案を受けてどうする? 事情はどうあれSFESはSFESだ。 今日…そのSFESをここで少なくとも4人は仕留められる…」
サングラスをギラギラさせながら、ガウィーはボトルを傾ける。 ニューラーズのグラスから赤いワインが溢れ、テーブルの上に滴る。 ライーダ、レシル、シストライテ達も既に臨戦体勢だ。
「(――奴等は手は出さない。 いや出せないはず… …信じますよライズ…)」
ニューラーズ達は観念したかのように神妙だった。
「そこまでや、ガウィーさん、ライーダさん達も。 昨日の敵は今日の友。 そしてまた明日敵になろうとも、 今夜は酒を酌み交わそうではありませんか」
タイミングよくユニバースが割って入る。 これもワザとらしいくらいに、あまりにもお約束のパターンだった。
「…失礼…」
ガウィーはボトルをテーブルに置くと、 零れたワインの上にハンカチを投げた。 軽く頭を下げ、ニューラーズの酌を受けた。
「で…では、信用して頂くためにも是非とも…」
「ええって、ええって。今日のところは… まぁ、ただ…一方的に施しを受けるのも難ですし。 そうされた所で、ワシ等がご期待に添えるかどうかも分かりまへんし。 ワシ等もプレゼント用意しますので、 後日、せ〜ので見せ合いましょや」
ポーカーゲームは互いに手札を伏せたままドローに終わった。 好敵手であり親友でもあるかのような相手との巡り合わせに、 両者は嫌らしい薄ら笑いを浮かべ、腹の奥に高揚感を覚えながら、 静かにグラスを合わせた。
執筆者…Gawie様