リレー小説3
<Rel3.セレクタ編2>

 

 

山間の小さな集落で二人はタクシーを降り、 
そこから徒歩で峠を越えると、 
盆地の中に白い建物が見えてきた。
「学校…廃校ですね」
「何でまたこんな辺鄙なところで…」
ライーダとエーガがセレクタに入ってからこれで三度目の集会だ。 
今までに四回あったそうだが、場所は毎回異なっている。 
敵の目を欺くと言えば当然ではあるが、 
どうもユニバースがテキトーに決めているような気がしてならない。 
錆付いて開かなくなっている校門を乗り越え、鎖で閉ざされた正面玄関を迂回し、 
二人が校舎の裏庭に入ると、巨大な二つの物体が目に入った。 
どちらも学校に置いてあるような代物ではない。
一方は小型のスペースクルーザー。 
尾翼にはドイツ軍のエンブレムがあるが、 
普段はユニバースが私用で乗り回しているらしい。
もう一方は人型ロボット。 
シルバーの機体の両腕両脚の側面に赤いラインが入っている。 
ごとりん博士が開発したエニルオークとかいうロボットだろう。 
エーガが興味を引かれ、近付いてみると、 
脚部の装甲には小さな無数の穴が等間隔であいている。
「そいつに触れるな! 
 蜂の巣になるぞい」
二階の窓から叫んだのはごとりん博士だ。 
触れたら蜂の巣などと、そんな危ないものを置いておくなと思いつつ、 
二人も4年2組の教室に入った。
執筆者…Gawie様

動いていない時計を眺め、暫し足を休める。 
間もなく夕暮れ時、既に教室にはユニバースを除く全員が顔をそろえた。 
17:00:00 
突然響くチャイムの音と同時にユニバースが現われた。 
入室するなり、何故か入口の引戸の上に黒板消しを挟み、 
「これでよしっと」 
彼は教壇に上がった。
「ふむふむ、ごとりんさん、ガウィーさん、フルーツレイドさん、グレートブリテンさん、
 ビタミンNさん、エーガさん、フェイレイさん、レシルさん、ライーダさん、シストさん…
 珍しく時間通りに全員揃いましたな」
「演出はいいから早く始めろ」
「黙りなさい。 
 皆さん学校行ったことないですやろ? 
 見てれば判ります!その協調性の無さ! 
 よって今日は集団生活というものを学んでいただきます!」
ユニバースが教卓をバンバンと叩いて語る。 
誰もリアクションしてくれなくてもお構いナシだ。
「えー、その前に、皆さんに転校生を紹介します。 
 ドイツ陸軍からワシ等を監視するために派遣された 
 カタリナ・シュミット君です〜」
引戸を開け、軍服の少女が姿を見せた。 
同時に戸に挟まれていた黒板消しが少女の足元に落ちて転がる。
「惜しい!!」
一人ではしゃぐユニバース。 
どうせコレがやりたかっただけだ。 
ベタなギャグでいつもメンバーの失笑を買っているが、 
そんなマヌケ面の裏は、非常に抜け目の無い男であることは皆知っている。 
警戒するあまり笑ってやるほどの余裕はない。 
ユニバースに紹介された少女もそれは知っているようだった。 
足元に転がる黒板消しを爪先で軽く蹴り、 
不機嫌そうな顔で一同の前に歩み出た。
「カタリナ・シュミット少尉であります。 
 ドイツ、ムーヴァイツレン閣下の命により、皆様を監視するために参りました。 
 どうぞよろしくお願い致します」
カタリナと名乗った少女の軍服は確かにドイツ陸軍少尉のものである。 
怪しい面々を前にしながらも、臆することなく顎を突き出し、一同を見据える。 
しかし、その顔はあどけなさの残る14,5歳の少女のものであった。
「っと、いう事です。 
 皆さん仲良くしたってくださいね。 
 では、ホームルームを始めます。 
 まずは、グレートブリテンさんからお願いします」
執筆者…Gawie様
資料を片手にグレートブリテンが立ち上がる。
「…茶番はもう沢山だ。 
 丁度一週間前、ガウィーが見張っていた遺跡に入った際、 
 遺跡内で火星帝の姿と壊れた封印を見付けた。」
「ほぉ…火星帝御自ら…… 
 あのマクシマスさんが言っていた様、 
 かなりの上物が発掘されたみたいですわな。 
 で、封印ちゅーのは何の事でっしゃろ?」
「…解らない。唯…そうだな… 
 充満したエーテルを感じた。超文明の遺産だろう。 
 封印なんぞされている辺り物騒なものには違いないだろうが…」
「ンなモンの封印が解けてるってマズくねぇか?」
エーガの疑問は至極当然である。
サテライトキャノンや『守護者』などの超強力兵器を有した古代火星文明の遺産なのだから。
「火星政府が何か対策を立ててくれている事を祈るのみだ。 
 ……で、他には?」
ガウィーが先を促す。
「……其の封印のモノかどうかは知らないが、 
 発掘された異形が数匹逃げ出したそうだ。 
 其れと遺跡内で火星の部隊と核分裂異獣が交戦していた。 
 まあ物量で火星部隊の圧勝といった感じだったな」
「………何か…第三者…いえ、第四者の影を感じますね…」
「そして…此処が肝心だが…遺跡の中に…… 
 ああ…ガウィーから聞いていただろうがガキが4人居たんだが、 
 この内の1人がアレクサンドリア病院に運び込まれた。 
 ……『守護者』と一緒にだ」
「『守護者』じゃと!?」 
ごとりん博士が研究者魂を刺激されたのか、珍しく顔色を変えた。
「そう。どうも其のガキは何かの弾みで、 
 其の『守護者』にマスター登録されたらしい。
 んで、2日程病院を見張っていたら… 
 深夜いきなりプロの連中がやって来て攫って行きやがった。 
 俺の能力でプロ達の中に潜入してみたが、 
 依頼主はどうもアレクサンドリア・モーロックの火星研究所らしい。 
 其の強引さからも何か焦っている感じがしたが、全く其の通りだった。 
 ……このプロ連中を襲って来た奴等が居たんだ。 
 人数はたったの2人だったが…かなりの手練だった。 
 …プロのランキングで言えばランクAは下らんだろうよ。 
 後で和解して聞いたらこいつ等も火星政府の依頼で動いてたんだと。 
 火星政府内で内部分裂でもしているって事だろうな。 
 其処でガキと『守護者』の奪いっこさ」
「SFESの介入か?」
「少なくとも手練の2人はSFESとは違うだろうぜ。 
 火星政府からも詳しい依頼内容は伝えられていなかったみたいだし… 
 …寧ろ怪しいのは火星政府内部だな。 
 …あの有名な火星の保安部だが… 
 サテライトキャノンの発射実験と称して地球を狙ってやがった」
「保安部が?」
「……俺も信じられないが…事実だからな… 
 ………いや、保安部に限らず火星研究所の連中も、 
 遅かれ早かれ地球は砕く積もりだったらしい」
「……きな臭いですな。ふむ、怪しい。 
 …確か5日前の深夜の話でしたな。 
 …………空に見えたあの光… 
 成程…少しは話が見えて来ましたか。 
 グレートブリテンさん、続けて下さい」 
腕組みしながらユニバースが何時に無くマジメに聞き入っている。
「ユニバースの考えで大体合ってる。 
 火星保安部は『守護者』のマスターであるガキに、 
 サテライトキャノンの砲手をやらせる積もりだったらしいが、 
 ガキがこれに反発。『守護者』の暴走もあって逃亡だ。 
 ……んで、其の時に解った事で… 
 火星保安部とSFESとの関連を臭わすものなんだが… 
 ………火星保安部は人外のバケモノだ。 
 少なくとも俺が見た火星保安部員は、 
 銃で脳味噌ブチ撒けられても死なない超人だったぞ」
「……セイフォート……」
「だが、ガキがサテライトキャノンでこれを撃破… 
 アレクサンドリア・モーロックもプロもバケモノも消え失せた。 
 ニュースで散々流されてた衛星の異常ってな其の時のものだな。 
 後、マスターのガキ…クロノ・ファグルには、 
 俺達と協力しないかって事を言っといた。 
 本人は嫌がってるみたいだが、まあ時間の問題だ」 
既に集会の数日前に彼の報告はある程度聞いていたが、 
グレートブリテンの口から語られたその詳細は興味深いものであった。
「それと、 
 事後承諾にはなるが、サテライトキャノンの残骸は処分した。 
 ありゃ兵器として使うには、あまりにも大雑把すぎる。 
 SFESの動きが見られなかったのは、奴等も同じ考えだったのかもしれねェな。 
 今のところ問題は火星政府の狙いと、さっき言ったバケモノのことだ…」
「ふむ、政府保安部員のバケモノを旧き神と関係があると仮定すれば、 
 マクシマスの言った事も色々と辻褄が合いますな」
「ところで、クロノとかいうガキはどうだった?」 
ガウィーが口を挟む。 
この件は元々は彼の仕事だ。気にはなっていたようだ。
「なかなか見所あるんじゃねぇか」
「変わったところはなかったか?」
「…そういや、頭に角みたいなものがくっついてたなぁ。 
 それ以外は、普通だな」
「…そうか」
「まぁ、一応は守護者のマスターだからな。 
 とりあえず唾は付けといたぜ」
そう言ってグレートブリテンは説明を終え、 
何故かしたり顔でガウィーを見下ろしながら席についた。
執筆者…is-lies、Gawie様
「ガウィーさん、どうですか?」 
次にユニバースがガウィーを指名した。 
ガウィーは銜えていたタバコを床に吐き捨て、 
机の上に投げ出していた両足をゆっくりと降ろすと、 
面倒臭そうに立ち上がった。
「サテライトキャノンと守護者の対応はそれで問題ないと思う。 
 それと例の佐竹とタカチマン達だが、 
 やはり仲間に引き込むよりも、彼等の意思の任せた方がいいな。 
 あの調子なら放っておいても敵の目を引いてくれるだろう。 
 暫くは様子を見てみる。 
 あと、ドイツが予定通りフルオーターを700機ほどお買い上げだ。 
 国防予算の前倒しの前倒し…もう少し乗せてもよかったな。 
 まぁ、マルクではなくUDで貰ったのは正解だ。 
 あの国も長くはないかもしれん…」
「ミスターガウィー! 
 それはどういう意味ですか!?」 
無責任な発言に監視役のカタリナが慌てて怒鳴る。
「…冗談だ」
宥めすかすように、少し間を開けてから、 
再びタバコに火を点け、ガウィーは話を続ける。 
「例の身分証が早速役に立った。 
 オレはドイツ人医師か…」
「そうどっしゃろ? 
 皆さんにも身分証とパスポートを渡しておきます。 
 勿論、皆架空の人物ですけど、 
 登録データも証明書も偽造ではなく紛れもないホンモノです。 
 流石は国家権力ですな。 
 いっそのこと、ドイツが連合に吸収されてしまえば、 
 この偽装を見破るのはもはや不可能ですわ」
「ミスターユニバース! 
 それはどういう意味ですか!?」 
無神経な発言に監視役のカタリナが紅潮して怒鳴る。
「…冗談ですがな」 
言ってユニバースは逃げるようにごとりんに話を振った。 
ごとりん博士が前に出て、黒板に何やら書きながら説明を始めた。 
彼の講義は2時間にもおよび、ついて行けずに居眠りする者過半数。 
要約すれば―――
・エニルオークmk-Uの開発に成功、最終調整を残すのみ 
 (量産の目処は立たず) 
・名古屋大戦の時に採取したJHNサンプルの解析終了 
 (今後はワクチンの開発が急務) 
・JHNの解析により、対ナノマシン兵器ゼプトキラーの実験に成功 
 (JHNの効果は健在であるため使用者は限られる) 
・保護したSFESのキメラ、アルベルトは行方不明 
・セイフォートに関しては保留(更に3倍の予算を要求)
流石はエーテル先駆の一柱である。 
セレクタ結成以来、兵器の研究開発を一手に任せただけの成果は十分にあった。 
だが、ユニバースは電卓を弾きながら青ざめる。 
セレクタの総予算の半数以上が博士の研究に費やされる事となった。
「アルベルトさんでしたっけ?例のキメラ。 
 確かに残念やな。今後は彼の捜索も予定に入れときましょ。 
 ご苦労さんでしたな」
「それより、タカチマン博士の研究資料はどうなっとるんじゃ?」
「あぁ、アレは少々状況が変わりましてね。 
 研究所と研究資料その他纏めて競売にかけられたみたいですわ。 
 タカチマン博士が名乗り出る可能性は低そうですし、 
 一応こちらにも入札資格はあるんですが…… 
 何分、予算が…… 
 ごとりんさんも、もう少し節約してくれると助かります…」
「ん?まだまだこれからじゃ。 
 日本皇国はもっと払いが良かったぞ。 
 ドイツからもっと、搾れるだけ搾り取れば良いじゃろう」
「ミスターごとりん! 
 それはどういう意味ですか!?」 
無遠慮な発言に監視役のカタリナが涙目になって怒鳴る。
「…冗談じゃよ」
執筆者…Gawie様
10分休憩を取った後、再び話し合いは続く。
「そろそろ本題に入りましょうかね。 
 ごとりんさん、例のモノは届きましたか?」
「あぁ、コレじゃな」 
ごとりんが机の脇に置いてあったダンボール箱を教壇に乗せる。 
ユニバースがゆっくりとその梱包を解くと、 
中から眩い光を放つ水晶玉の様な物が現われた。
「コレや、高貴なる白き輝き…」 
ユニバースの手の中で、白い霧のようなオーラを纏って輝く結晶――― 
ドイツの秘宝、別名アンネベルクの瞳、エーデルヴァイスである。
「すばらしいィ! 
 どうですかね? ごとりんさん?」
「まったくじゃ、 
 エーテル後進国のドイツに、よくこんなモノがあったな。 
 間違いなく本物じゃ」
ドイツからの借物である事も忘れ、 
まるで戦利品を愛でるようにメンバーに回される。 
最後に受取ったエーガは、エーデルヴァイスを繁々と手の中で転がした後、 
ユニバースに返しながら問う。 
「八姉妹の結晶…集めてどうするんだ?」
「まだ調査中ですが、その秘めたる力は…」
「とぼけんなよ。 
 原初の能力者なら知ってんだろ? 
 いるんだろ? 原初の能力者、この中に最低二人は…」
「……………………… 
 まぁ隠すつもりはあらへん。 
 正確には四人、いや三人やな。 
 ワシと、ガウィーさん、ごとりんさん、 
 そして、もうこの世にはいまへんけど、嘗ての同志、クリスさんや。 
 あとは、名古屋大戦の首謀者、本田宗太郎もそうやな。 
 ただ、八姉妹の結晶の事は数揃えて調べてみない事には解りませんのや」
「…どうだかな」
原初の能力者の事は他のメンバーも初耳だった。 
また隠し事かと、俄かに場が不穏な空気に包まれる。
「他に、誰かありますか?」 
ユニバースが透かさず話題を転換する。 
ライーダが何か言いたそうな顔でエーガを見ているが、エーガの方は動かない。 
そんな中、手を挙げたのはシストライテだった。
「101便の時のことなんだけど…」
101便のことも一通りは報告済みだ。 
ユニバースも深くは追求してこなかったので、有耶無耶にしていたが、 
シストライテにはまだ気になる事が二つ残っていた。 
一つは101便で一同を救った謎の協力者、ゼロのことだ。
「………ゼロか、 
 嫌な名前じゃな…… 
 考えただけでオチオチ小便も出来んわい」
「考えすぎだ、高宮零土はもういない。 
 確かに共通点も多いし、SFESとの関係も気にはなるが、 
 今は敵視する必要はないだろう」
「そうですな。 
 確かにイヤな思い出もありますが、今なら対抗手段もありますし、 
 それとは別に、 
 そのゼロさん、機会があったら一度お会いしてみたいもんですな」
とは言っているが、 
ごとりん、ガウィー、ユニバースの動揺する顔を見るのは珍しい。 
高宮零土の事は、便内で日本の小泉も言っていたように、 
この三人にも何か因縁がありそうだ。 
以前の戦争の時の事だろうが、そうなると逆にシストライテも追求はできず、 
別の話を続けた。 
もう一つ、エーガの部下を名乗った者達の事だ。
「それと、エーガ。 
 セートって人達に会ったわ」
「ああ、アイツらね。 
 俺の私的なエージェントだけど、アイツらがどうかした?」
「アンタ嘘下手だね。 
 とぼけるつもりなら言わせてもらうけど… 
 私的なエージェントならアタシだって使うわ。 
 問題はそこじゃない。 
 彼、アタシの事を『セイフォート殺しのシストライテさん』って言ったわ。 
 初対面のアタシに『私達はエーガ様の部下です』って言ったわ… 
 つまり… 
 彼等はアタシがセレクタである事と、アタシの能力を知っていた。 
 部外者に喋ったわね…?」
組織の内部情報はともかく、
能力者にとっては、その能力を他人に知られるのは、弱点を晒されるのも同じ事。 
能力によっては知られてもあまり影響のないものや、逆に知らしめておいた方が有利になるものもあるが、
基本的には自分の能力は他人に知られないようにするのが能力者の常識だ。 
実際にセレクタの中でさえ、お互いの能力を知らない者が殆ど。
唯一団員全員の能力を知っているユニバースも、
それぞれの能力にどれだけ拡張性応用性があるかまでは知りはしない。 
しかし、シストライテのセイフォート殺しの能力はセレクタにとっても対SFESの決め手になり得るものだ。 
尤も、既に101便でSFESに対してこの能力を使ってしまっているので今更遅いのだが、 
それでもこの情報漏れは非常にマズい裏切り行為である。
「なるほど… 
 それは困りましたなぁ、エーガさま〜。 
 そのセートとかいうお友達、連れてきてもらいましょか」
「あぁ、そのうちな。 
 ていうか、そのつもりだったんだ。 
 だからつい口が滑った。俺のミスだよ」 
珍しく神妙である。 
だがそれは反省しているからではない。 
エーガは腹を決めたのだ。
「ペナルティーはどうするの?」
「ん? 別にィ。 
 そういう事なら今回は不問としましょう。 
 勿論、裏切りは死を以って償ってもらいます。 
 せやけど、さっきの原初能力者の話もそうですが、 
 些細な隠し事なら誰にでもあります。 
 そうどっしゃろ? シストライテさん? 
 例えばそこのグラサン、実はバツイチなんですよ皆さん」
「……ッ 
 ユニバース…! 
 それは隠し事ではなく、関係のない話って言うんだ」
「まぁまぁガウィーさん。 
 ともかく、そんな事はどうでもええねん。 
 今ワシらに必要なのは、チームワーク! 信頼感! 
 ワシらの目的はSFESと前支配者を倒す事。 
 そのために仲間を集めたんや、その仲間同士でいがみ合っとったら、 
 SFES、前支配者には到底勝てまへん」
今更チームワークがどうこう言われるとは思わなかった。 
今回特に報告もなく黙って聞いていただけのフェイレイやビタミンN達も肯く。 
ユニバースの言葉は相変わらず胡散臭いものがあったが、 
守りを警戒するあまり、仲間内で疑心暗鬼になっていたのも確かだ。 
暫くの沈黙の後、各々から同意を示す言葉が漏れる。 
曲者揃いのセレクタが初めて結束を感じた瞬間であった。 
だが、それも束の間……
「あとは今後の方針だな」
「先生〜、俺トイレ」 
結論に入ろうとした所で、エーガがトイレと言って席を立つ。 
特に誰も気に留めない…一瞬の油断―――
執筆者…Gawie様
(…まずは北北西に、斜め45度…)
教室の後の戸を開け廊下に出ると、 
エーガは一度室内を振り返り、そして駆け出す。 
同時に教卓の上にあったエーデルヴァイスが突然宙に浮んだかと思うと、 
丁度自由落下のような加速度で斜め上に飛び上がる。 
ユニバースが慌てて手を伸ばすが届かず、 
エーデルヴァイスはそのままガラス窓を突き破って校庭の方に飛び去った。
「結晶が飛ぶ…」
「いや落ちるわ!」
即座に反応したのはビタミンNとフルーツレイドだ。 
二人は二階の教室の窓からグラウンドに飛び降り、結晶の落下地点を目指す。 
ところが、結晶は地面ギリギリの所で失速し、再びフワリと高く舞い上がる。 
一同が呆然と天を仰ぐ。 
その様子をトイレの窓から窺うエーガ。
(…直に気付かれるだろうな…)
決めたとなれば、エーガは先手必勝、即決主義だ。 
直に携帯端末で仲間に連絡を取る。 
呼び出し音が鳴るのとほぼ同時に部下のセートが電話に応じた。
《…はい》 
「セートか」 
《エーガ様、今どちらに?》 
「時間がない、聞いてくれ。 
 上陸は中止、船で港に待機だ。それとGPSをオン」 
《了解》 
「OK、確認した。 
 いいか、南の空から星が降ってくるから、 
 上手くキャッチしてくれ、頼んだぜ」 
《?…は、はい、解りました》
(さぁて…今宵は快晴、星が良く見える。 
  風なし、距離良し、方角良し、重力転回、飛んでけ…!)
空高く舞い上がったエーデルヴァイスは、 
徐々にスピードを失いながら一度宙に停止した後、 
今度は方角を変え、そのまま更に加速しながら北の空の彼方に消えていった。

 

「ミスターユニバース、どういう事ですか!?」
「飛んでいってしまいましたなぁ。 
 ふむ、サイコキネシス…いや、あの動きは別の能力やな」 
呑気に分析している場合ではない。
「俺に任せろ」 
グレートブリテンが窓から身を乗り出し、鳥に変身する。
「ちょい待ち! 
 グレートブリテンさん、シストライテさん、フェイレイさん! 
 エーガさんを追ってください! 出来れば穏便に!」
「エーガ…? アイツやっぱり…」 
直に言われた三人がエーガを追って廊下に飛び出す。
「ミスターユニバース。 
 これは貴方の監督不行届き。報告させて頂きます」 
「仕方ありませんな」 
「私も追います。 
 裏切りは死を以って…。構いませんね?」 
「お好きに…」 
カタリナは敬礼しながらユニバースを睨みつけた後、 
回れ右して、グレートブリテン達の後を追った。
執筆者…Gawie様

校舎は三階建て。 
玄関ホールから三階までの吹き抜けに螺旋階段があり、 
トイレは今いた教室から階段を挟んで向こうだ。 
フェイレイが一階の出口を塞ぐために階段を駆け下り、 
グレートブリテンとシストライテが二階のトイレに駆け込む。 
が、やはり誰もいない。 
グレートブリテンがトイレの窓から外を覗くと、 
グラウンドにはビタミンNとフルーツレイドの姿が見えた。 
エーガが教室を出てからまだ1分も経っていない。 
まだ校舎の中にいるはずだ。 
しかし、建物の両脇には非常階段が設けられているし、窓も多い。 
二階くらいの高さなら小学生の子供でも飛び降りることは可能だ。 
逃げ場はいくらでもある。
後から追うカタリナは廊下に落ちていた帚を拾い、屋上へと階段を駆け上った。 
恐らく校舎の外に逃げ出すであろう標的を見つけるにはそれが最も有利である。 
カタリナは迷わずドアを開け、勢いよく屋上に飛び出した。するとそこには
「あれ、もう見つかったのかよ」
まさか、逃げようとする相手が最も逃げづらい場所にいるとは思わなかった。 
カタリナはエーガを目の前にして思わず後退りしてしまう。
「いや、そうでもないか… 
 お前戦闘初めてだろ? 
 無理すんなよ。そんなホウキじゃ…」
「だまれ!」 
カタリナは帚を持った左手をエーガに向けて突き出し、 
帚を弓に見立て、弓矢を射るような体勢を取る。 
「何のつもりだ?」とエーガが思った瞬間。 
帚の弓から放たれた光の矢がエーガの長髪を掠め切る。 
普通の弓矢の比ではなく、目視して避けられるようなスピードではない。
「…おっかねェなぁ。 
 女の子に凄まれるのは、やっぱ結構ショック大きいよ。 
 …けど、俺にも引けない事情があるんでね。悪いけど!」
カタリナの次の矢が放たれるのと同時に、 
エーガはそれを右にかわすように跳躍し、そのままフェンスを飛び越える。 
放物線を描いて屋上から飛び降りるエーガに更に第二射の追撃ち。 
避けようがないはずだったが、 
エーガの体は木の葉のように空中でふわりと舞い、その矢をやり過ごす。 
仕留め損ねたカタリナが直にフェンスに駆け寄り、下を見ると、 
そこにあったのはユニバースが乗ってきたドイツ軍のスペースクルーザーだ。
「…しまった!」
気付いたときは既に遅く、クルーザーは爆音と噴煙を撒き散らしながら、 
あっと言う間にはるか上空に飛んでいってしまった。
執筆者…Gawie様

一方、 
教室の窓から飛び去るクルーザーを眺めていたのは、動かなかったユニバース達だ。
「見込んだとおり、 
 はしっこい奴っちゃなぁ。 
 まさか今日狙ってくるとは思いまへんでした。 
 ごとりんさん、細工は?」
「流々じゃ。 
 しかし良いのか?あのエーデルヴァイス。 
 アレは本物の超結晶アリエス。 
 世界に数十個しかないレアモノじゃ。 
 売れば相当の軍資金になるぞ?」
「もちろん返してもらいます。 
 アレ、借り物やしなぁ」
「セレクタの全構成員に通達しておこう… 
 『ドイツからエーデルヴァイスが盗まれた』と。 
 後は、プロギルド等にもそれらしい情報は流しておく。 
 これでいいんだな…?」
まるで最初からこうなる事を予定していたかのような三人の打ち合わせ。 
それを聞いたレシルとライーダは当然納得がいかない。
「何故です? 
 こんなやり方は…」
「敵を欺くには味方から、っちゅうヤツやな」
「でも、エーガさんはそんな人じゃないと思いますけど…」
「知ってますよ、ライーダさん。 
 ワシはこれでも人を見る目はあると自負してます。 
 エーガさんもワシが選んだ大切な同志や。 
 失う訳にはいきまへん。 
 問題は最初にエーガさんを唆したヤツですわ。 
 今回の作戦は、そいつの燻り出し。 
 そして、あわよくば………」
エーガを取逃がし、気まずそうな顔で戻ってきたグレートブリテン達も、 
その話を聞いて憤慨するが、 
ユニバースは『仲間を信頼する事と作戦は別問題である』と諭す。 
そうは言っても、結局は仲間をエサに使ったことには変わりはない。 
腹に一物据えたようなユニバースの態度を訝りながら、 
メンバーは黙って肯いた。
「まぁ、直には尻尾は出さんやろ。 
 それまでは、次のお仕事… 
 これまで通りSFESの動きを警戒。 
 ごとりんさんはロードス重工で…まぁお任せします。 
 ガウィーさんは引き続き流れを監視して下さい。 
 それと、タカチマン博士の方はどうでっしゃろ?」
「今週中にもう一度行ってみる」
「ワシとカタリナさんはコリントスで用事がありますから、 
 それ終わったらワシ等もご一緒しましょ。 
 レシルさん、シストさん、フェイレイさんは一応エーガさんを追跡して下さい。 
 他の方は残りの結晶を捜索。 
 クノッソスの漁師が海底に沈む巨大な結晶を見たという噂が流れとります。 
 もしかすると『碧きイノセント』かもしれまへん。早急に調査や」
集会の最中、まさかのエーガの結晶強奪。 
それを予想しつつ敢えて泳がせたユニバースの企み。 
情報交換で現状と今後の方針はハッキリしたが、 
まだ何処か重要な事が誤魔化されているようで、 
スッキリしないまま、セレクタの集会は解散となった。
執筆者…Gawie様
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